地蔵平〜屏風岩山
日程:2024/12/30
概要:浅瀬入口を起点に大又林道を歩いて地蔵平に達し、屏風岩山西尾根を登って屏風岩山に登頂した後、二本杉峠を経て細川橋へ下る。
⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:屏風岩山 1051m
同行:エリー
山行寸描
先日エリーと比企三山を一緒に登ったときの会話の中で、年末は神奈川県の実家に帰るというエリーと一年の締めくくりを丹沢にしたい私との都合と希望が合致し、大晦日を翌日に控えたこの日、共に西丹沢に向かうことになりました。行き先としたのは私のチョイスで地蔵平ですが、そこまでの間に点在するいくつかの見どころをサプライズにしておきたかったのでエリーには詳しい行き先は伝えず、必要装備だけを知らせた状態で当日の朝を迎えました。
2024/12/30
△09:20 浅瀬入口 → △10:15 浅瀬橋 → △11:10-15 大又沢ダム → △11:50-13:00 地蔵平 → △14:10 屏風岩山 → △15:05 二本杉峠 → △15:45 細川橋
早起きをして小田急線ではるばる神奈川県を横断し、新松田駅に到着したのは7時前。これは7時15分発の始発バスに乗りたいがためでしたが、迂闊なことにこの日は年末ダイヤで始発便は運行しておらず、この日最初の西丹沢VC行きのバスは8時25分発になっていました。
駅前の休憩所で時間調整をしてからバスに乗り、この日の山行の起点となる浅瀬入口でバスを降りたのは我々二人だけ。空には雲が広がって寒々しい雰囲気である上に、私のチョンボのせいで予定より1時間遅れのスタートになってしまいましたが、それでも当初の計画通り浅瀬入口から浅瀬橋まで歩いて大又沢沿いの道に入り、地蔵平をめざすことにしました。
このコースはあちこちに歴史的モニュメントが点在していて、そうしたものに出会う都度、私からエリーに対して「西丹沢史講義」が行われます。まず最初に出てくるのは、1978年の三保ダム完成に伴い丹沢湖の底に沈むことになった世附集落を偲ぶ石碑です。「今でもその時期になると湖の底から百万遍念仏の声が聞こえてくるらしいよ」などとホラーのような冗談を交わしましたが、実際には山北町に移転した能安寺で毎年2月に開催されているという「世附の百万遍念仏」を、私も一度は拝見してみたいと思っています。
やがて着くのは浅瀬橋で、ここで道は左の世附川沿いの道と右の大又沢沿いの道に分かれ、前者は水ノ木に、後者は地蔵平に通じています。ここでは、かつての林業集落や森林軌道の歴史[1]を講釈しました。
大又沢ダムに着いたところでひと休み。このとき、それまで曇りがちだった空から日の光がタイミングよく差し込んできて、きれいな大又ブルーを見ることができました。
今回の山行でエリーの反応が最も大きかったのが、このトトロです。私自身も3年半ぶりの対面でしたが、記憶の中のそれよりもはるかに大きく堂々としたトトロの姿にはすっかり感心してしまいました。
道の左の林の中にひっそりと建つ山の神に挨拶をしたら、いよいよ地蔵平の集落跡に入ります。まず最初に出てくるのは二つの遭難碑で、左は1920年の豪雨災害の慰霊碑、右は1923年の関東大震災の慰霊碑です。
遭難碑の後ろにはかつてそこに建物が並んでいたであろう石組みがあり、その上を歩き回るとレールの跡や五右衛門風呂らしき釜、子供のサンダルに各種のビンや缶が散らばっています。それらを見ながら、今度は林業集落としての地蔵平の興亡とこれを貫く三ヶ瀬古道の歴史[2]についての講義を行いました。
一通りの遺物探索を終えたら、やはり地蔵堂に挨拶しなければなりません。見ればお堂の中には胡蝶蘭などずいぶん派手な造花が飾られていて華やかな雰囲気でしたが、エリーはお地蔵様の足元にひっそりとトトロが佇んでいることを見逃しませんでした。
トトロに次ぐサプライズは、おでんです。地蔵平の気持ちの良い芝の上でランチ休憩とし、私がリュックサックの中からおでんのパックを取り出すと、これを見たエリーの喜ぶまいことか(もしかするとトトロより反応が大きかったかも)。朝方の新松田駅前で「冬はおでんか鍋がいいですね」といった話をしていたエリーも、まさか本当におでんが出現するとは予想していなかったようでした。
空に黒雲が広がってますます寒々しくなっていたこの時間帯ではありましたが、温かいおでんと熱いコーヒーにエリー持参のおやつが加わって豊かなランチタイムとなりました。これで今回の山行の目的である地蔵平訪問は終了したことになりますが、ここから往路を戻るのはつまらないし、かと言って三ヶ瀬古道を使って二本杉峠に出るのはリスキー過ぎるので、バリエーションルートながら記録が多く容易と思われる屏風岩山西尾根を登って屏風岩山に登頂し、そこから南下して二本杉峠に降りることにしました。
尾根の末端にある石垣跡を越えて西尾根に取り付くと、最初は植林帯の中の急登が続きます。地蔵平まではハイキングルックだった我々も、ここではヘルメットをかぶりチェーンスパイクを装着して、正統派のバリエーション登りのスタイルに変身しています。
植林帯を抜けると急に北側の視界が開けて、右寄りに畦ヶ丸、その左隣に城ヶ尾山、さらに菰釣山から甲相国境の山々が並んでいるさまを見ることができました。
そうした展望もさることながら西尾根自体もなかなかの美尾根で、明るく開けた尾根上にはブナの巨木も点在していていかにも丹沢の尾根という感じ。地形図を見ると直線的ではありませんが、複雑な起伏もなく基本的にはひたすら高い方を目指すだけで道に迷う要素が少ないのもいいところです。
地蔵平から1時間あまりで屏風岩山に登頂。あまり西丹沢に縁がないエリーにとっては初めてのピークなので少しゆっくりしたいところでしたが、この日の打上げにと予約してあるカツ丼屋さんのことを考えると長居はできません。証拠写真だけ撮ったら、ただちに二本杉峠に向けて下山を開始しました。
屏風岩山からの下り道はおおむね明瞭で傾斜も緩やかでしたが、三ヶ瀬古道が分岐するいわゆる旧二本杉峠への急下降とそこから二本杉峠までの際どいトラバースは少々緊張するところ。しかしそこはこれまで何度も私と沢登りを共にしているエリーのこと、危なげない歩きでこれらを次々にクリアしていきます。
ベンチが設置されている二本杉峠に着けばもう安全。ここからは二人ともカツ丼のことだけで頭の中をいっぱいにしながら、下界に向けて速足で下り続けました。
無事に予定していたバスに乗って新松田駅前に戻り、そこから徒歩数分で到着したのは先月の檜洞丸山行の後に訪れた「とんかつ零」です。
ここを打上げの場としたのは私の檜洞丸の記事を読んだエリーからのたっての頼みに基づくものでしたが、彼女の期待はこのカツ丼のボリュームによって十分に満たされたようです(もっとも十分すぎてカツ2切れをお持ち帰りにしてはいましたが)。ともあれ、朝の浅瀬入口を歩き出してからこのカツ丼を平らげるところまでを含めて、2024年の締めくくりにふさわしい山行とすることができました。この日同行してくれたエリーと共に、この1年間の各種山行にお付き合いいただいたすべての皆さんに、この場をもって御礼を申し上げます。来年もまたよろしくお願いします。