層雲峡の氷瀑

日程:2024/02/27-29

概要:一昨年・昨年に引き続き、今年も層雲峡の氷瀑を登る。初日はブルーウルフ、2日目は錦糸の滝、3日目は尾滝。魚介三昧・ジンギスカン・味噌ラーメンのグルメツアーでもあった。

山頂:---

同行:ノダ氏

山行寸描

▲ブルーウルフ。その名の通りの色合いに驚く。(2024/02/27撮影)
▲錦糸の滝。午後からの寒気到来との競争になった。(2024/02/28撮影)

一昨年昨年と層雲峡でのアイスクライミングを楽しんできましたが、過去2回が3月に入ってからだったために氷の状態に恵まれなかった反省を生かして、今回は寒気の残る2月下旬に渡道しました。なお、今回も例によって北海道在住の友人ノダ氏にもろもろお世話になりました。

2024/02/27

△11:15 駐車場 → △12:15-16:30 ブルーウルフ → △17:00 駐車場

気合を入れて始発電車で羽田空港に向かい、7時前には機上の人。ロープ、スクリュー、クイックドローはノダ氏が用意してくれているので、2泊3日のアイスクライミングツアーの装備にしてはザックはコンパクトにまとまりました。

東京上空では富士山の手前に丹沢が見えていましたが、1時間後に旭川上空に着くとどんよりした雲の下に広がる雪原。これが同じ日本の光景とは思えません。ともあれ空港に迎えに来てくれていたノダ氏と1年ぶりの再会を祝しあってから、さっそく彼の車で層雲峡へ向かいます。

この日向かったのは、層雲峡の入り口近くにあって石狩川に右岸から入るニセイノシキオマップ川の少し上流にある氷瀑ブルーウルフです。駐車スペースに車を駐めて装備一式を担ぎ、足回りはこれもノダ氏が用意してくれた長靴。幸い雪はよく締まっていてシューズがはまることもなく、30分ほども歩いたところで左岸が迫ってくる地形になったところに入ってくる枝沢の奥に、その名の通りの青い氷が見えました。

そこから少し傾斜が出てきた枝沢を詰めていくと、徐々に氷瀑が全貌を現しました。ブルーウルフの実物を見るのはこれが初めてですが、幅も高さも南沢大滝を2~3倍にした感じで実に立派です。しかも我々の貸切!そして滝の足元対岸は傾斜地の分譲地のように雪が掘り下げられ整地されており、そこをありがたく使わせてもらってギアを身につけました。

強いクライマーなら右寄りの奮闘的なラインを目指すのでしょうが、私の場合は壁や氷と向き合えばいつでも弱点レーダー全開。サーチの結果、中央からやや左上に向かう凹角状のラインが最も容易だろうと踏んで取り付きました。オブザベーションの通り、最初の数メートルがやや立っているもののステミングもできて順調に高さを上げ、ところどころには足で立てる場所も出てきましたが、そのために惜しみなくスクリューを使いながら登ったところ、ロープ半分ほどで手持ちのスクリューが残りわずかになってしまいました。これはしまった!と思いましたが、見上げれば右岸の木に懸垂下降支点がセットしてあります。これは助かったと左上し、下からロープ長25mほどでピッチを切りました。

後続のノダ氏も山ほどのスクリューを文句も言わずに回収しながら難なく登ってきましたが、さて2ピッチ目を登ってトップアウトしようというときに「自然の呼び声」が彼を襲ったため、いったんここから二人揃って懸垂下降。ノダ氏の所用がすんだところで私がTRで先に上がり、ついでノダ氏は再びフォローの態勢で支点まで上がって、ここから落ち口までは再度私がリードで登りました。

滝の足元の雪面が右下がりになっているために上からワンピッチで懸垂下降できるかどうか確信が持てなかったので、先ほどの支点も活用して2ピッチで下降し、これでこの日のクライミングは終了です。帰り際に見上げてみると、我々が登った中央左寄りの凹角の右隣のカンテ状も傾斜は立っているものの登りやすそうで、ここはもう一度訪れてみたいと強く思いました。

ブルーウルフに通じる枝沢の前は渡渉ポイントになっており、往路では長靴の利点を生かして難なく左に右にと渡渉しましたが、復路ではフィックスロープのおかげでシューズを履き替えることなく左岸の急傾斜を横断することができました。かくして駐車場に戻り着いたのは17時。宿をとっている旭川市街へ向かう途中で日はとっぷりと暮れました。

北の幸と言えばまずは魚介類。旭川駅近くの宿から徒歩数分圏内に手頃な海鮮居酒屋を見つけ、刺身だ焼きだと次々に注文した上に日本酒も大量消費してしまいました。まだ明日も明後日もあるというのに……。

2024/02/28

△09:10 駐車場 → △09:40-13:45 錦糸の滝 → △14:20 駐車場

2日目のターゲットは錦糸の滝、この旅のメインイベントです。ホテルを6時半に出発し、旭川市内で朝食をとってから層雲峡を目指します。

車中から見ると、彼方に表大雪の山々がその姿を現していました。「荘厳」という言葉がぴったりのこの光景に思わずノダ氏にお願いして車を止めてもらい、飽かず眺めながら何枚も写真を撮りました。

駐車場から閉鎖中の遊歩道を下流に向かい、神削壁の標識の手前で橋の下をくぐって河原に降りたら、適当な場所から左岸に渡ります。

柱状節理の大岩壁であるこの神削壁は、まさに神の御技としか思えません。

やがて左に出てくるライマンの滝[1]をスルーしてさらに進むと、前方に左岸の岩壁上から豪快に落ちている氷瀑が現れました。これが錦糸の滝で、昨年も偵察しているので初対面ではないものの、登攀対象として見るとやはり迫力をまざまざと感じます。そして、今日も昨日に続いて他のパーティーの姿が見えない貸切状態です。

しかし、ここでも弱点レーダーを働かせてみると中央から緩やかに左上するラインが容易に見つかります。「見えた!」と宣言してロープを結び、雪の斜面を登って滝の前に立った時点で昨日のブルーウルフよりも簡単であることがはっきりしました。

右上ランペを少し登ったところからテイクオフ。全体に傾斜が緩い上に大きな凹凸の積み重なりが自然な登路を提供しており、氷も適度な硬さでアックスを受け止めてくれて、30m強で右岸の岩壁の支点が目に入りました。

2ピッチ目は中央に出ても岩壁沿いに登ってもOK。氷の厚みは申し分ないので素直に岩壁沿いを直上し、滝の落ち口の上の左岸にある支点までロープを伸ばします。

3ピッチ目は傾斜の落ちた雪の斜面になっており、ここはノダ氏が先行して奥に見えている最後の滝の手前までロープを伸ばし、スクリューで支点を構築して私を迎えてくれました。

最後の滝もしっかり凍っており、最も傾斜が緩い右端からのラインをとりました。この滝の落ち口あたりの氷が薄くなり水流が透けて見えていましたが、登攀には問題のないレベル。ここを越えると右岸の岩壁に支点が設えられていました。

ノダ氏がリードした3ピッチ目が25m、そこからこの残置支点までがやはり25mだったので、ここを終了点にしようかと思いいったん確保態勢に入ってノダ氏を引き上げたのですが、確保しながら上流を見ると短い氷のルンゼ状になっており、そこを抜けないと錦糸の滝を完登したことにならないような気がしてきました。そこで支点に迎えたノダ氏にそのまま先行してもらい滝の氷が尽きるところまで登ってみると、案の定そこにある太い灌木の幹には残置スリングが巻かれていました。

見るべきものをすべて見たら、後は下降するばかり。真の終了点から4ピッチ目終了点まで短く下り、そこから2ピッチ目終了点、1ピッチ目終了点とつなぎつつ懸垂下降を繰り返しました(が、どうやら2ピッチ目終了点から下まで一気に下ることもできたようです)。

登っているときは傾斜が寝ているように感じていた場所でも、こうして懸垂下降しながら見るとほとんど垂直に感じられて、よくこんなところを登ったものだなと自分で自分に感心するのですから、人間の感覚なんてつくづくアテにならないものです。

とにかく無事に滝の下に降り着きましたが、3ピッチ目を登っている頃から急速に気温を下げてきていた寒気が下界では雪煙を舞わせる寒風となって吹きつのっており、とり急ぎロープだけをザックにしまいこんだらほうほうの態で駐車場を目指し退却しました。

帰り道では雪原の向こうに大雪〜十勝の大山脈が見事なスカイラインを見せる光景に出会いました。自分が左の旭岳から中央のトムラウシまで縦走したのは1989年、トムラウシから十勝岳を越えて富良野岳まで縦走したのはその翌年。若かった頃の山旅を懐かしく思い出して、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになりました。

北の幸と言えばジンギスカンも外せません。帰路の車中から旭川の名店「旭川成吉思汗 大黒屋」に予約の電話を入れたところ、滑り込みで開店時刻の17時からの予約をとることができ、おかげで満腹になるまで羊肉を堪能した上に飲み放題の生ビールも大量消費してしまいました。まだ明日もあるというのに……。

2024/02/29

△09:00 駐車場 → △09:10-11:50 尾滝 → △11:55 駐車場

前日の打合せでは、最終日のこの日は七賢峰の滝に行こうということになっていたのですが、宿に戻ってから各種記録を見てみると、我々の手持ちの50mロープでは長さに不安があることがわかりました。また、この日は午前中でさくっと終わりたいのでピッチ数を重ねる登攀もできません。

そんなわけで昨年も足を運んだNAKA滝と尾滝を登ることにしたのですが、その前に銀河の滝と流星の滝を偵察してみました。銀河の滝はしっかり凍っており今まで見た中では最も良い状態ですが、これは既に登っているので眺めるだけ。一方「凍っていればラッキー」の流星の滝は微妙につながっている様子ではあるものの、とても取り付く気にはなれない状態です。

トンネルを抜けて昨日も駐めた駐車場に車を駐め、昨日とは道の反対側の雪のスロープを登るとすぐそこがNAKA滝です。しかし一度はアックスを刺してはみたものの、透き通ったつららの集合体であるその姿に何かイヤなものを感じて撤退を決めました。

一方の尾滝も、落ち口までかろうじてつながってはいるものの上部の氷はかなり脆そう。かと言ってここまで来て代案を探すわけにもいかず、昨年同様に氷が形をなしている下から3分の2くらいの位置にスクリューで支点を作って、トップロープでの基本練習を重ねることにしました。

こんな具合に最後はお茶を濁した形になりましたが、それでも十分にアックスを振って肩や腕にほどよい疲労を感じたところで練習を終了しました。東京に戻ればもはや季節は春ですから、今季のアイスクライミングはこれが最後になるでしょう。

北の幸と言えば〆はラーメンです。毎度のごとく今回も「よし乃」の味噌チャーシュー麺にトッピングのバターを追加して、カロリー増し増しのピリ辛ラーメンをいただきました。この後、旭川空港に送ってもらってノダ氏と別れましたが、快晴に恵まれた3日間をずっと同行いただいたノダ氏には、いくら感謝しても感謝しきれません。ついては、この恩返しはきっと来年の北海道アイスクライミングで!

脚注

  1. ^近年はこの滝を現地の案内図に沿って「岩間の滝」とする記録も多い。