層雲峡の氷瀑

日程:2023/03/11-12

概要:昨年に引き続き、今年も層雲峡の氷瀑を登る。まずは昨年からの宿題だった銀河の滝を片付けられたが、それ以外は時期的に遅かったこともあって偵察が主体となり、わずかに尾滝を途中まで登るにとどまった。

山頂:---

同行:ノダ氏

山行寸描

▲銀河の滝。とりあえず昨年の宿題は片付けることができた。(2023/03/11撮影)
▲小函の景観。錦糸の滝はボロボロ、ライマンの滝も水が滴っているように見えた。(2023/03/12撮影)

層雲峡の氷瀑群に初めて触れたのは昨年の3月。そのときは時期が遅すぎたため層雲峡入門編の銀河の滝も途中までしか登れませんでしたが、今年こそはと1月に渡道の予定を組んでおいたところ、なんと北海道側の相方となるノダ氏がパートナーのルーリー共々コロナでダウン。結局今年も、3月中旬という遅い時期に北海道に渡ることになってしまいました。

花粉舞い散る東京を離れ、雨(!)に煙る旭川空港に降り立ったのは金曜日の夕方少し前。わざわざ空港まで迎えに来てくれたノダ氏と1年ぶりの再会を喜び合い、しかる後に旭川駅前のホテルにチェックインしてから近所の居酒屋で前夜祭を祝いました。お酒は旭川の銘酒「国士無双」、肴は北の海の幸です。

2023/03/11

△06:10-14:30 層雲峡の氷瀑

暗い内にホテルを出て層雲峡へ1時間余りのドライブ。層雲峡のホテルに宿をとればこの時間は節約できるのですが、ちょうど層雲峡温泉氷瀑まつりの期間中(3月12日まで)とあってホテル代が高いためにこの選択肢はパスしたのでした。なお、氷の状態についてノダ氏があらかじめ層雲峡観光ホテルに問い合わせたのですが、その回答は今週気温があがり造形物も徐々に溶け始めております。氷の造形物も数カ所立ち入り禁止にしているところがありますというものでした。うーん、これは昨年の気温敗退の再現か?

しかし、銀河の滝の下に立ってみると少なくとも昨年よりは氷がしっかりしていそうです。やれやれ、どうやら間に合ったようだと胸を撫で下ろして身支度を整えました。

銀河の滝に登るためには目の前の石狩川を渡渉しなければなりません。前日の雨で川が増水していたら困るなと思っていたのですが、幸いさほど増水してはおらず、ノダ氏が持ってきてくれた長靴の威力も抜群で難なく渡ることができました。

滝の下までひと登りして安定した場所で靴を履き替え、ロープを結んで登攀開始。滝の右(左岸)はやはり岩が露出しており、左にはデブリもあるので登るなら早く、しかもスピーティーに登るに越したことはありません。

まずは私のリードで1ピッチ目。傾斜はさほどないものの、朝一番のクライミングとあってそれなりに緊張します。アックスやアイゼンの利きは悪くなく、慎重にスクリューを使いながら無事に段差の上に抜けてロープ長40mほどで右岸の確保支点(ハンガーボルトに懸垂下降用のスリングとカラビナをセットしたもの。以下同じ)に到達し、自前のカラビナとスリングで確保態勢を整えてノダ氏を迎えました。

2ピッチ目はノダ氏のリードで50mロープほぼいっぱいで灌木に設置された支点まで。後続してみると氷の区間はほとんどなく、ダガーポジションですいすいと登ることができました。

3ピッチ目は私のリード。この灌木の位置から滝の落ち口までの距離感がいまいち掴みきれないのですが、さすがにワンピッチでは届かないだろうと左壁沿いの雪の凹角を進みます。途中で振り返ってみると背後の駐車場に観光客を乗せたバスがやってきており、ギャラリーの目を意識しながらロープを伸ばすことになりました。

ロープをほぼいっぱい伸ばしたところにある確保支点でピッチを切り、最後の4ピッチ目も私のリード。行く手には薄い氷の膨らみがあってその下を水が流れているのも見えており、事前のオブザベーションではその手前で左岸側に回り込むのが簡便に思えたのですが、近づいて身体を伸ばし覗き込んでみるとトラバース部分の氷の厚みに確信が持てません。しからばと直上して薄い氷の膨らみの上を渡ることにしました。

しばらく壁沿いに直上し、氷のランペを微妙なバランスで右へ回り込むとそこには立体的な低い壁。アックスをしっかり受け止めてくれるだけの厚みはあるので、最後のスクリューをセットしたら思い切ってアックスに体重をかけて身体を引き上げれば、そこから先には雪の斜面が落ち口まで数メートル続いているだけでした。

滝の落ち口の左岸側の壁に最後の確保支点が用意されており、そこでセルフビレイをとって自分の登攀は終了です。そこから奥を見ると1段上がったところがコル状になっているように見えましたが、ここは沢筋なので向こう側が下っているわけではもちろんなく、そこから緩やかな斜面が赤岳下に向かって続いているはず。ちなみに後で地図を見て驚いたのですが、銀河の滝の隣に落ちている流星の滝を上流に辿ると行き着く先はなんと白雲岳です(もっとも、そこに到達する前にヒグマの餌食になりそうですが)。

ノダ氏を迎え入れたら直ちに下降開始。懸垂支点は左岸側にもあるそうですが、登る途中で使って状態がわかっている右岸側を下っていくことにしました(ノダ氏が最終ピッチに取り付く前にグローブを落としてしまったために下降の途中で回収しなければならなかった、という事情は内緒です)。

下り始めこそ斜め懸垂になりましたが、後は問題なく懸垂下降を繰り返してリュックサックをデポした場所に戻り着き、これで昨年からの宿題を一つ片付けることができました。この時点でまだ11時前ですから、あと一つ二つは滝に触れるはずです。

前日の検討でこのあたりでは最も易しそうな尾滝を目指すことにし、銀河トンネルと続くシェルターを抜けたところにある駐車場に車を移動させて再び登攀装備を着用しました。目指す滝はシェルターの山側にあり、そこまでは雪の踏み跡を使ってあっという間に到着です。

最も手近なところにあるNAKA滝(なぜローマ字?)はバーティカルな好課題ですが、日当たり良好でグサグサな感じ。ここはスルー。

そして狙っていた尾滝は確かに登りやすそうな形状をしていますが、落ち口のところが溶けて切れていました。これはダメだ。

せっかくだからとさらに少し奥にあるパラグーフォールまで足を伸ばし、その見栄えのする姿を目に焼き付けてから往路を戻ることにしました。

さて、どうするか。トポを眺めてそれぞれ長さのあるシングルピッチのブルーウルフと七賢峰ノ滝の二つに目が止まり、アプローチが比較的短い七賢峰の滝を覗いてみることにしました。車を層雲峡発電所の近くの駐車スペースに移し、車道をしばらく下流側に歩いてシェルターの手前から河原に降り、またしても渡渉です。

渡渉した先の雪原では踏み抜きに悩まされ、その先もアプローチのルートミスで消耗しながら七賢峰ノ滝に近づいていくと、やがて沢筋の奥に綺麗なブルーの滝が見えてきました。

しかしこれは予想外に大きく、そして垂直に立っています。参照したトポによれば滝の高さは35mで傾斜が緩く初中級者向きとのことだったのですが、どこをとってもこの表現には合致しません。これはトポに騙されたか……と思いつつ近づいてみると、どうやら滝の下地の雪が減ってバーティカル部が長く露出しているようです。それでもしばらくじっと眺めているうちに、どうやら数本並んでいる柱状の氷の右端から取り付けばある程度傾斜を緩和しつつ登れそうだと見当がついてきたのですが、今度はそこに向かって安全に降りられる道筋が見当たりません。まだ14時すぎと早い時刻ではありますが、この日は偵察にとどめて今夜のうちに情報収集し、その上で可能性ありと判断できれば明日再挑戦することにして、元来た道を戻りました。

旭川市内に戻り、軽く一眠りしてから夕食に繰り出しました。昨日は海の幸が中心だったので今日はジンギスカンにしようとあちこち回ったのですが、驚いたことにどの店も予約でいっぱい。ジンギスカンがこれほど人気料理だとは知りませんでした。

それならとただの焼肉に路線変更し、飲み放題のレモンサワーと共にあれやこれやの肉を焼いてタンパク質補給。ホテルに戻ったらWBCの日本対チェコ戦をテレビ観戦しましたが、いつの間にか眠りについていました。

2023/03/12

△06:55-11:20 層雲峡の氷瀑

この日、まずは冷え込んでいる時間帯にNAKA滝を登ってから七賢峰ノ滝に回ろうというプランを持ってホテルをチェックアウトし、再び層雲峡に向かいました。

朝靄がかかっているのかオレンジ色の太陽がぼんやりとした光を届けている中、車の中でノダ氏の方から行き先を錦糸の滝にしないかと提案があり、それもよかろうと計画変更。前日NAKA滝や尾滝へ向かったときに駐めた場所に車を置き、装備一式を背負って車道沿いの道を下流方向へ歩きました。

ルートはやがて車道を離れて、今は閉鎖されている遊歩道跡へと入っていきます。途中の青い看板には主だったビューポイントへの距離が表示されており、その中に目指す錦糸の滝も含まれていることを確認してからさらに先へ進みました。

すぱっと削り取られたような右岸の柱状節理の崖はその名も神削壁で、このあたりからが切り立った両岸に挟まれたゴルジュである小函ということになります。ここから左下を見ると渡渉して対岸に乗っている足跡が見られましたが、遊歩道から川の水面まではそこそこ高さのある護岸になっていてロープを使わないと降りられそうになく、しかも帰りのためにそのロープをフィックスしなければなりません。これは大変だ……とこのときは思ったのですが、そうする必要はないことが後ほど判明します。

私もノダ氏も初見であるために、いまいちどこがどこなのか判然としないままに歩き続けましたが、左岸のダイナミックな景観は大地の力を感じさせて見飽きることがありません。途中にはこの遊歩道が閉鎖される原因となった崩壊地もありますが、雪に覆われた今はさして困難を感じることなく乗り越えることができました。

ところが下流に向かってどんどん歩いた先に上の写真(下流側から上流側を振り返った構図)のように地名表示板が並んでいる場所に出て、我々は目指す錦糸の滝を通り過ぎていたことがわかりました。なるほど、先ほどの立派な滝がそれだったのか……というわけでここから道を引き返します。

あらためて見上げるこれが姫岩。なんとも豪快です。

これが錦糸の滝ですが、高い気温のために足元がすっかり溶けてしまっており、取り付くのは無理そう。

錦糸の滝の少し上流側の高い位置に落ちているのがライマンの滝。登って登れないことはなさそうでしたが、日当たりがよいせいで水氷主体になっている感じです。

ところでこれらの滝に取り付くためには石狩川に降りて対岸に渡る必要がありますが、トポには懸垂下降が必要だと書いてあるものもあり、そのことがこれらの滝を目指すことをためらわせる要因になっていました。ところが神削岩が始まる場所の近くが橋になっており、この下をくぐれば懸垂下降なしに河原に出られることが判明しました。なるほど、遊歩道の上から見えていた渡渉の足跡はここを通過していたのか。

かくして普通の観光客として小函遊覧はできましたが、これでは何のために北海道に来たのかわかりません。駐車場所に戻ったところでこれからライマンの滝を登るというご夫婦と情報交換を行った後、人が多く入っているらしいブルーウルフや手持ちのロープの長さに不安がある七賢峰の滝は諦めるにしても、せめてNAKA滝でバーティカルに触れてお茶を濁そうかと考えをまとめて昨日歩いた道に入りました。ところが……。

NAKA滝そのものには日が当たっていないのに、落ち口の上の斜面に当たる日の暖かさで雪や氷が溶けて本来の「滝」の姿を取り戻していました(雨垂れのような音に注目)。

仕方ない、せめて尾滝に触って帰ろうと足を進め、尾滝の下から3分の2ほどの肩状のところまで登ってトップロープを張り、あとは交代で練習を重ねました。ここでの練習時にやっとわかったのですが、ノダ氏が持参しているアックスはBDの古いバイパーで非常に重く、お世辞にもバーティカル向きとは言いにくい道具でした。実際、この2日間が1年ぶりのアイスクライミングだというノダ氏がこのアックスを振っている様子をビレイしながら見ていると、ノダ氏は明らかにその重量を持て余している感じです。そこで私のノミックを貸して基本的なダイアゴナルを伝授すると登り方ががらっと変わったのですが、これを見ながら来年は自分用のノミックに加えてノダ氏のためにクォークも持参しようと心に誓ったのでした。

この日のクライミングはこれで終了です。お疲れさまでした……というほど疲れてはいませんが、それでもこの気候の中で1本登れただけでもラッキーでした。

かくして今年の層雲峡も収穫乏しく終わってしまいましたが、気候の問題もさることながら、自分の予習不足を痛感しました。もっと事前にしっかり下調べをして登りたい滝と登るための必要装備・技術を洗い出し、パーティーとして向き合える状態かどうかを評価してから計画的に滝を目指すべきだったようです。昨年の記録に「来シーズンに向けた偵察程度に終わった」と書きましたが、同じことを今回のレポートでも書かなければならないのは少々残念です。

とはいえ、帰路に立ち寄った「よし乃」のみそチャーシューメンは相変わらず美味で、高砂酒造では「国士無双」を買い求め、秀岳荘で北海道の山の本を眺め、最後に旭川空港で締めの乾杯といった具合にアフタークライミングを盛りだくさんに楽しんで、それなりに満足して羽田へ向かうことができました。

ノダさん、来年もまたよろしくお願いします。それまでにお互いにスキルとギアと予備知識のアップデートに努めましょう!そしてその前に、夏の沢登りでもご一緒できればモアベターです。