塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

権現岳〜赤岳

日程:2011/12/29-30

概要:初日、天女山から前三ツ頭まで登って幕営。翌日、三ツ頭から権現岳に登頂した後、旭岳を経て赤岳まで縦走し、文三郎尾根を下って美濃戸口へ下山。

山頂:権現岳 2715m / 旭岳 2672m / 赤岳 2899m

同行:---

山行寸描

▲三ツ頭から望む権現岳(左)。そこから右端の赤岳まで、大きくたわんだ稜線を縦走する。(2011/12/30撮影)
▲権現岳から見る阿弥陀岳と赤岳。その手前のピークが旭岳。(2011/12/30撮影)
▲道中、ずっと見守ってくれていた富士山。(2011/12/30撮影)

ウインターシーズン到来。まずは身体を寒さに慣らしかたがた、アイゼントレーニングも兼ねて通い慣れた八ヶ岳へ行くことにしました。どこへ行こうかと過去の『岳人』を引っくり返しているうちに見つけたのが「天女山から三ツ頭〜権現岳」なる記事でしたが、それだけでは物足りないので赤岳まで足を伸ばすプランとし、テント泊で2泊分の食料を持つことにしました。いつもと違ってギアがないのだからずいぶん軽いだろうと思ったのですが、パッキングして担いでみると妙に重く感じます。「?」と思いながら体重計で計測してみるとリュックサックの重さは17kg。なぜ?まあ、これもトレーニングの一環と割り切ることにしましたが、本番ではもう少し真面目に軽量化を考える必要がありそうです。

2011/12/29

△10:40 天女山ゲート → △11:00 天女山 → △13:40 前三ツ頭

小海線の甲斐大泉駅に降り立ったのは10時11分。あらかじめ予約してあった高根タクシーの車に乗って天女山へ向かいました。年末だというのにあたりには雪の気配が見られず、運転手さんも今年は異常だと言っていましたが、こう雪が少ないと幕営予定地で水を確保できるか不安になってきます。

道路は天女山の上まで続いているのですが、12月上旬からゲートが閉鎖されていてタクシーはここまで(料金1,500円)。リュックサックにくくりつけられたワカンが早くも用無し確定となってしまいましたが、気を取り直してゲートのすぐ先から登山道に入りました。広場状の天女山からは行く手に権現岳の白い姿が見えていますが、当面の問題はどこでテントを張るかということです。事前の検討では前三ツ頭と三ツ頭の間に森林限界があるのでその辺りを想定していたのですが、登れども登れども、なかなかまとまった雪が出てきません。

3時間ほどの登りで前三ツ頭に着きましたが、そこは風に雪が吹き飛ばされて露地となっていました。ただし幸いその直前の斜面にまとまった雪があったので、まあこの辺で手を打つかとテントを張ることにしました(もっと先に進むべきだったことは後述)。先行パーティーのテントは1張りあり、そこから三ツ頭寄りに少し離れた場所を整地してテントを張って、風に飛ばされないように入念に張り綱を固定します。

まずは雪をかき集めて水作り。でん六豆をぽりぽりかじりながら雪を溶かし続けて1.5リットルほどの水を確保すると、持参のロンリコ(アルコール75.5度)で軽く酒盛りとし、いい感じになったところでインスタント焼きそばを作りました。

16時すぎには夕食もすんでしまい、iPhoneで音楽を聞きながらまったり。とりわけこの曲(細野晴臣『銀河鉄道の夜』より「ジョバンニの透明な悲しみ」)を聴いていると、自分の心が透明になって空へと吸い込まれていきそうになります。

そのうち睡魔がやってきて、シュラフにもぐりこんで深い眠りにつきました。

2011/12/30

△07:10 前三ツ頭 → △07:55-08:00 三ツ頭 → △09:05 権現岳 → △09:50 旭岳 → △10:55 キレット → △13:10-20 赤岳 → △14:15-40 行者小屋 → △16:15 美濃戸 → △16:55 美濃戸口

5時起床。途中何度か目を覚ましましたが、通算12時間以上も眠っていたことになります。昨夜電波がつながっていたiPhoneでメールをチェックしようとすると「不正なSIMです」というメッセージが表示されました。透明になって昇天したのはiPhone?いや、これは寒さのせいで、リュックサックに付けてある温度計を見るとテント内の気温はマイナス8度でした。それでも水とガスのカートリッジはシュラフの中に入れてあったので、朝食の支度には支障ありません。

あたりが十分明るくなった頃にテントの外に出ましたが、穏やかだった昨日とは打って変わって強風が吹き付けています。また、テントの周囲の地面が白っぽくなっていましたが、そういえば昨夜ぱらぱらとテントを叩く音がしていましたから、少しは雪が降った模様です。テントを飛ばされないように押さえつけながら畳んで、朝一番のウォームアップにはちょうどいい斜度の道を体調を測りながらゆっくり登ると、すぐに三ツ頭に到着しました。

三ツ頭の山頂からは前方に真っ白い権現岳がすっくと立ち上がり、その右には赤岳の鋭い姿も見えており、この展望の良いピークでアイゼンを装着しました。三ツ頭から少し下ると樹林帯に入るのですが、そこはテントを張るのに格好の場所になっていて、風は樹木で遮られ、雪も豊富にあるので整地の苦労もなく、水も確実に作れそう。なんだ、それなら昨日のうちにここまで足を伸ばしておけばよかったと思いましたが後の祭りです。ともあれ先に進むと、道は急な登りから途中で左へトラバースし、その先で右上してV字状に見える岩を目指して稜線に戻ると、そのすぐ先が権現岳の山頂でした。

山頂標識は縦走路からわずかに外れたところにあるので一応そこまで足を伸ばしてから縦走路に戻り、懐かしい権現小屋を横目に見て南八ヶ岳の主脈線に達したら、右手へ折れて赤岳を目指します。

三ツ頭あたりから前後するようになった単独行のおじさんと共に、権現岳直下の長い梯子を下降しました。ここは時期によっては氷の下になってしまいロープが必要になるようですが、この時点ではまったく問題なく下れます。

強烈な西風に叩かれ続け、ところどころ吹きだまりをプチラッセルしながら北上。耐風姿勢を強いられる場面もあって、顔の露出しているところは凍傷を心配しなければならないほどです。それにしても、風の強いことを除けば良い天気!南八ヶ岳の山々がどれも全貌を見せて立派ですし、その山頂に突き上げる岩稜ルートも一つ一つ懐かしく眺めることができました。

前方に高くなる赤岳、後方に遠ざかる権現岳。いつの間にか、権現岳まで歩調を合わせていた単独行のおじさんの姿は見えなくなってしまい、かわりに前方から赤岳東面のルートを終えた直後らしいクライマーが下ってくるのとすれ違うようになりました。ソロの彼は天狗尾根?2人組は赤岳東稜かな?

シャリバテの身にはなかなかシビアな登りをこなして待望の赤岳山頂に到着したのはちょっと中途半端な時刻で、あと1時間早ければ横岳から硫黄岳まで足を伸ばしてもいいですし、逆に1時間遅ければ行者小屋の前に幕営確定ですが、今が13時すぎなら一気に美濃戸口へ下って、この日のうちに帰京してしまえるかもしれません。赤岳山頂で行動食をとりながら時間計算の結果、この日のうちの下山を決意しました。

文三郎尾根を下り行者小屋前に到着したところで装備を整理し、トイレも借りて軽量化してから、美濃戸への道をひたすら下りました。

けっこう飛ばしたつもりでも、美濃戸口に着いてみれば最終バス(16時40分)に遅れること15分。残念!朝もう少し早く出発していれば、いや、それよりもテントを三ツ頭の先に張っていれば最終バスに余裕で間に合ったはずなのですが、仕方ありません。ここまで来るとなんとしてもこの日のうちに帰京しようという気分になっていたのですが、茅野駅までのタクシー代5,100円は手痛い出費となりました。

履歴

今回の山旅では、過去に登った八ヶ岳の各ルートを見て回るという楽しみもありました。以下、今回見たルートの画像と、その登攀時の記録をご紹介します。

権現岳東稜(2007/02/11

旭岳東稜(2008/02/11

赤岳天狗尾根(2003/01/13) / 見えていないけど赤岳東稜(2009/03/01

阿弥陀岳南稜(2002/03/10

阿弥陀岳北稜(2003/03/16 / 2010/02/14) / 阿弥陀岳北西稜(2005/01/10

大同心雲稜ルート(2006/10/15) / 小同心クラック(2003/11/02 / 2004/03/14 / 2004/12/19 / 2006/10/15) / 石尊稜(2003/02/15) / 中山尾根(2004/02/28

赤岳西壁南峰リッジ(2003/12/21) / 赤岳西壁主稜(2004/03/13

「八ヶ岳か、何もかも皆懐かしい……」 © 宇宙戦艦ヤマト

新兵器

今回の山行ではもう一つ、新調したギアのテストという意味合いもありました。

(1) スポルティバのNEPAL EVO GTX。

軽く、かつ足にフィットすることは確認済みでしたが、寒さにどれだけ耐えられるかが不安要素でした。そういう意味では、今回の寒風ふきすさぶ稜線歩きは絶好のテスト機会になったのですが、問題なく足先を保温してくれて合格点です。

(2) Black Diamondのサイボーグプロ。

これは凄い!爪先のツァッケがかすかにかかっているだけの状態でも、しっかり身体を引き上げることができました。アイスクライミングを念頭に置いて購入したのですが、岩稜歩きでも十分に力を発揮してくれそうです。ただ、シューズとのフィッティングは今回はイマイチ。調整が甘かったようで、靴がわずかに遊んでしまいました。早々にアジャストし直さなくては。

(3) 賛否両論のJETBOIL。

コンパクトでもなければ軽量でもなく、アドバンテージは果たしてどこに?という感じでしたが、ポイントはやはり熱効率。これは実際に使ってみて実感できました。雪を溶かして水を作るのにはけっこう時間がかかるものですが、JETBOILだと本当にあっという間です。つまり、ガスカートリッジの消費を抑えられる点に利点があるわけで、その利点が活かされるのは長期山行時でしょう。裏返すと、1泊2日程度の山行ではJETBOILの良さが発揮されないように感じました。

なお、長細いクッカー部は調理に向かないように思っていましたが、割り箸と共に使用すれば問題なく、中を拭くのもそれほど苦労しませんでした。また、ネオプレン地のカバーはクッカーの熱さを遮断してくれて、調理時の取り回しがスムーズでした。