赤岳東稜

日程:2009/02/28-03/01

概要:清里スキー場から真教寺尾根に上がり、2316峰の一角に幕営。翌日、2500m付近からトラバースして東稜に達し、第一岩峰は右から、第二岩峰は左から巻いて竜頭峰へ。そこから真教寺尾根を下降して、往路を下山。

山頂:---

同行:Niizawa氏

山行寸描

▲第一岩峰。上の画像をクリックすると、赤岳東稜の登攀の概要が見られます。(2009/03/01撮影)
▲第二岩峰。直登もできるようだが我々は左から巻いた。(2009/03/01撮影)
▲稜線近くからの眺め。背後に寝そべっているのは真教寺尾根上の牛首山。(2009/03/01撮影)

冬の恒例行事といえば、私の場合は八ヶ岳登山。南八ヶ岳東面のルートは赤岳天狗尾根権現岳東稜旭岳東稜と登ってきて、残る著名ルートが東稜三兄弟の末っ子(?)であるこの赤岳東稜だったのですが、ちょうど岳友Niizawa氏とは雪山は久しく登っていなかったので、声を掛けてご一緒することにしました(以下の記録本文中の写真は、最後の1枚を除きNiizawa氏の撮影によるものです。)。

2009/02/28

△09:10 清里スキー場リフト上 → △11:05 牛首山 → △11:30 扇山 → △11:50 幕営ポイント

始発電車で調布駅に降り立ってNiizawa氏と合流。Niizawa氏とは昨夏の前川大滝沢以来なので、ほぼ7カ月ぶりということになります。Niizawa号は中央自動車道をひとっ走り、私が夢の続きを見ている間に清里スキー場に到着しました。このスキー場のリフト(片道800円也)で標高1900mまで楽をしようという作戦です。

リフトで上がったところから階段を経て赤岳へ続く真教寺尾根の山道に入り、賽の河原と呼ばれる広場の手前でスノーシューを装着して気分良く高度を上げていきました。ちなみに私がスノーシューを使うのは「ミズナラ大王」以来これが2度目です。

2時間ほども登って着いた牛首山からは、権現岳・旭岳の東稜兄弟が仲良く並んで見えました。こうして遠くから見ると「あんな壁を登れるものだろうか?」という疑問が湧いてくるくらい急な壁に見えますが、立っていると思ったら案外寝ていて、寝ていると思うと意外に立っているのが岩壁登攀の常というものです。

牛首山から少し進むと扇山、そしてさらにその先わずかで2316峰の一角に到着し、ここを整地してテントを張ることにしました。Niizawa氏持参のライズ3は大サイズで居住性抜群。ゆったりスペースに荷物を落ち着かせてから、ルート確認のために真教寺尾根を登りに出掛けました。2316峰の赤岳寄りからは正面に赤岳東面を見上げることができ、その重量感のある姿にはちょっと感動です。真教寺尾根がこれで、途中から小尾根を1本越えて大門沢を渡って……とルートを目で追うと、なるほど顕著な岩峰を黒く露出させた尾根筋が真教寺尾根の最上部に向かって左上しているのがわかりました。これが目指す赤岳東稜に違いありません。

Niizawa氏がスノーシューなのに対し私は試みにつぼ足で歩いたので差が開いてしまいましたが、それでもそれほど雪にはまり込むことなく高度を上げることができました。真教寺尾根の尾根筋は徐々に傾斜が強くなって、やがて標高2500mくらいのところでいったん傾斜が緩み、その先で再び傾斜を強めます。標高2520mに達したところで、どうやらここまで来ると行き過ぎだろうと見当をつけて、ちょっと戻った緩傾斜の場所の雪面に足で印を残してからテントに戻りました。

夕食は軽くアルコールを入れて、その後Niizawa氏は韓国製の「辛ラーメン」(名前の通り激辛とのこと)、私は麻婆春雨にトッポギの組み合わせ。早くも18時くらいには就寝しましたが、夜半は風が強く降雪もあったようです。さすがに少々寒い思いはしましたが、それでもぐっすり眠ることができてNiizawa氏を呆れさせました。

2009/03/01

△06:05 幕営ポイント → △07:10 トラバースポイント → △07:40 東稜上 → △08:10 第一岩峰手前 → △10:00 第二岩峰手前 → △12:30-35 竜頭峰 → △12:50 真教寺尾根分岐 → △15:05-16:05 幕営ポイント → △16:25 扇山 → △16:35 牛首山 → △17:15-30 清里スキー場リフト上 → △17:50 清里スキー場リフト下

前日の気温がかなり高かったので今日はなるべく早立ちをしようと申し合わせていたのですが、朝方の冷え込みにメゲた私がぐずって、出発は外が明るくなり始めた6時すぎとなりました。ちょうど我々が出発しようとしたときに下から4人パーティーが通過し、また我々より赤岳寄りに幕営していた3人パーティーも出発準備中でしたが、この2パーティーはいずれも真教寺尾根からの赤岳登頂を目指していた様子です。途中から我々が先頭に立って昨日つけたトレイルを辿りながら尾根筋を登りましたが、冷え込みのおかげで足が潜ることはほとんどなく、やがて2500mのトラバースポイントに達したところで尾根を離れ右に進路をとりました。ここからは樹林帯の中を等高線に沿ってトラバースし、小尾根を越え、デブリの跡が見られる大門沢は雪崩を警戒して間隔を空けて渡りました。そのまま東稜に上がると下からのトレイルが着いていて、これを辿ると雪の斜面を切り出したテント跡があり、そのすぐ上が第一岩峰でした。

テント跡の主は第一岩峰の上を登攀中で、どうやら岩峰の左正面をダイレクトに登ったようです。我々はガイドブックの記述に従って易しいと思える岩峰右側を回り込むラインに入りましたが、実際にはこのラインはあまり易しいものではありませんでした。雪の状態が悪く、表面は厚さ数センチほどクラストして、その下がふかふかの柔雪。いくら掻き下ろしても足元が決まらず、なかなか前進させてくれません。それでもなんとか1ピッチ分くらいは進むことができたのですが、その先は右下に急傾斜で落ち込んでいる恐ろしいトラバースが待っていて、この状態では進めそうにありません。ここまでロープを出し渋っていたNiizawa氏に頼み込んでロープを出してもらい、試みにちょっと足を出してみたもののすぐに断念。二股になった灌木の間から雪を掻き分けながら岩峰上へ抜けるラインを選択し、Niizawa氏に先行してもらいました。

第一岩峰の上は雪に覆われていて、そこから先は第二岩峰まで続くきれいなカーブを描いた雪稜です。先行パーティーが第二岩峰左下でラインどりに苦労している様子なのを見やりながら、コンテで前進を続けました。すぐ左には真教寺尾根がほとんど手の届きそうな距離に並行して上へ伸びており、我々が第二岩峰手前で先行パーティーのフォローが動き出すのを待っていたとき、昨日言葉を交わしていた3人パーティーが姿を現してこちらに気付き「おーい!」と手を振ってくれました。

第二岩峰の出だしは、岩峰左下の灌木(上の写真で人の姿が見える場所)にビレイポイントを作り、岩峰左側の斜面を進みます。その後の立ったルンゼが核心部になると思われたのでNiizawa氏に「次のピッチの方が厳しいと思うけど、どうする?」と確認しましたが、Nizawa氏はあえて2ピッチ目を選択。その意気やよし。そんなわけで私がリードすることになった最初のピッチは、まず緩い雪面を灌木にランナーをとりながら左上し、自然に導かれるルンゼを直上。先行パーティーが次のピッチを登攀中だったので、その少し下の細い灌木2本を使って支点を作りNiizawa氏を迎えました。

ここまでは雪もそこそこ着いていましたが、Niizawa氏リードの2ピッチ目は草付がほとんど露出しており、そこにバイルをドスン!と打ち込んでは身体を引き上げていきました。少々ふくらはぎが張る感覚を覚える頃に傾斜は緩くなり、再び雪に覆われた斜面を登って灌木でビレイ。3ピッチ目は岩稜に沿った凹状の軟雪壁を苦労しながら登っていくと、すぐにハイマツが繁茂した岩稜上に出ました。すると少し上に安定した場所があり、先行パーティーのたくましい女性2人(我々と違って全装備担いでの登攀でした)ピッチを切っていたので私もそこまでと前進しましたが、あと3mというところで45mロープがいっぱいになってしまいました。お互いの位置関係からコールがまるで届かないのでこれには少々焦りましたが、Niizawa氏がロープの状態からこちらの意図を汲み取ってコンテで動いてくれて事なきを得ました。

最後の10mほどをロープを引きずって登ると、そこが台座上に靴のオブジェ(元は銅像だったのでしょうか?)が置かれた竜頭峰。すぐ右手には赤岳山頂も見えており、反対側には権現岳の向こうに南アルプス。遠く雲海の向こうには富士山も見えており、素晴らしい高度感と山岳展望を満喫しました。とは言うものの冷たい風が吹き付けている稜線に長居することはできず、また時間も押してきているので赤岳山頂はパスしてただちに下山を開始しました。縦走路をキレット方面に進んだところで休んでいた先行パーティーと挨拶を交わし、ここからはこのパーティーと相前後して真教寺尾根を下ることになりました。

真教寺尾根の下りはこれが本当に一般縦走路か?と疑わしくなるほどの急傾斜で、しかも気温が上がってきているため雪が腐りかけている状態の急雪壁を後ろ向きになって延々下るのですが、もともと急雪壁の下降は私の三大天敵の一つ(あとの二つは環形動物と卵かけごはん)。赤岳東稜の登攀よりもこちらの下りの方が気疲れしました。それでも慰めは、すぐ隣に先ほどまでそこにいた東岳東稜が並んでおり、我々の足跡もはっきりと眺められること。そういえば第二岩峰2ピッチ目のビレイ中に、私が「ロープいっぱい!」などとコールしたらちょうど真教寺尾根を下ってきたおじさんが「おっ!何だ?」と驚いてこちらを見ていたのを思い出しました。

最後の急斜面を後ろ向きに下って少し安定した場所で、3人パーティー、女性2人パーティー、そして我々の3パーティー7人が一堂に会したのですが、「きつい下りだった!」と意見が一致しました。それでもどうにか無事にテントに戻り、安全地帯に帰還ということでNiizawa氏とがっちり握手。荷物をまとめて下山を開始し、17時までにスキー場に着けばリフトで下れるかも?という淡い期待を抱いて飛ばしましたが、残念ながら15分ほどの差で間に合わずリフトの運転は終了していました。仕方なくスキー場のコース上を下りましたが、幸いヘッドランプの世話にならずに行動を終了することができました。

赤岳東稜は技術的に難しいところはほとんどなく、ルートファインディングもさほど気を使いませんが、雪の状態によって神経の使いどころが変わってきそうです。今回は核心部となるルンゼの雪が少なく、草付が露出していたことでかえって登りやすくなっていましたが、ここが第一岩峰の右巻き道のようにカリフカの雪に覆われていたら、突破は簡単ではなかったかもしれません。