横岳西壁小同心クラック〜大同心正面壁雲稜ルート

日程:2006/10/14-15

概要:谷川岳の幽ノ沢で2本登るはずが、予想外の雨模様のために急遽八ヶ岳へ転進。ワンデイで小同心クラック〜大同心正面壁雲稜ルートを継続。

山頂:横岳 2,830m

同行:現場監督氏

山行寸描

▲小同心クラック1ピッチ目。上の画像をクリックすると、小同心クラックの登攀の概要が見られます。(2006/10/15撮影)
▲横岳山頂の素晴らしい眺め。これだけの展望にはそうそうお目にかかれない。(2006/10/15撮影)
▲大同心正面壁雲稜ルート3ピッチ目。上の画像をクリックすると、雲稜ルートの登攀の概要が見られます。(2006/10/15撮影)

今年は「乾いた岩」を登る機会がわずか。7月は長梅雨でつぶれてしまい、8月は北海道行きを中心に沢ばかり。9月もおやぢれんじゃあ隊員の都合がなかなか合わないとあって悶々としていたのですが、どうにかシーズン末期の10月中旬に現場監督氏との都合が合い、幽ノ沢へ向かうことにしました。天気予報も上越地方の好天を告げていて絶好のクライミング日和と思えたのですが、現場監督氏の車で関越を下りてみるとフロントガラスを濡らす霧雨にいやな予感。それでも明日は晴れるだろうと信じて土合の立体駐車場に入りました。ちなみにこの時期(紅葉シーズン)、土日祝日は天神平へのロープウェイ駅から先には車を入れることができません。

2006/10/14

△06:30 立体駐車場 → △07:20-35 一ノ倉沢出合 → △07:50 幽ノ沢出合 → △08:10 幽ノ沢遡行中止 → △08:45 幽ノ沢出合 → △09:25-10:50 マチガ沢出合 → △11:10-25 一ノ倉沢出合 → △12:05 立体駐車場

4時頃、他のクライマー達がぼそぼそ話し合う声で目が覚めました。そのうちの1人がむっくり起き上がった私に「雨が降ってますよ」と教えてくれました。あぁ、また雨男の本領を発揮してしまったか……。現場監督氏も私も半ば諦め顔で再びシュラフに潜り込み、朝を待ちました。明るくなったところで外に出てみると、確かに空はどんより曇り、地面も濡れてはいますが、はっきりと雨粒が落ちているわけでもありません。とりあえず当初の予定通り一ノ倉沢出合にテントを設営することにして、手早く朝食を済ませると出発しました。

しっとりした樹林の醸し出す雰囲気に癒されながら車道を歩いて一ノ倉沢出合に到着したところ、紅葉はさほど鮮やかではありませんが、既に観光客が何人かカメラを構えていました。見上げれば衝立岩から上はガスの中に隠れていますが、テールリッジはかろうじて全体を見通すことができます。そして驚いたことに、テールリッジの手前から沢の上部に向かってしっかりと雪渓が残っていました。今年は残雪が多いというのはいたるところで聞いており、今回一ノ倉沢ではなく幽ノ沢に向かうことにしたのもACMLで流れていた雪の情報を念頭に置いてのことではあったのですが、それにしてもここまでとは。ともあれテントを張って余分な荷物を中に押し込むと、クライミング装備のみアタックザックに背負って幽ノ沢に向かいました。

ガレの堆積のような幽ノ沢出合からは、それでもそこそこ奥が見えました。沢筋に入っていくとやがてきれいなナメ滝が現れるようになって、これが沢登りなら楽しいところなのでしょうが、今回は沢靴ではないのでフリクションに不安を抱えることになりあまりありがたくありません。ややあって、右岸から顕著なつるつる岩が落ちている場所に到達し、1カ所打たれた残置ピンにかかるスリングを頼みに現場監督氏がぎりぎりのフリクションでナメ滝の上に出てみましたが、そこから先もびしょ濡れのナメが続いていて、スラビーで残置ピンが乏しいことで有名な幽ノ沢に入るにはどうやら今日は不都合なコンディションであるようです。ここでこの日の登攀を諦め、元来た道を戻ることにしました。

一日を無為に過ごすのもつまらないので、そのままテントの前を通過してマチガ沢出合に直行……の前にちょうど一ノ倉沢の奥から戻って来た2人連れに話を聞いてみたところ、テールリッジもびしょ濡れ、その手前にはシュルントが口を開けていてやはり楽しい状況ではないそうで、彼らも条件の悪さに中退してきたのだそうです。

さて、マチガ沢出合左岸にある顕著な岩は昔からちょっとしたトレーニングで使われているようで、我々もここでTRで遊びながら天気の動向を見極めることにしました。岩の右手から登ってしっかりした残置支点にロープをセットし、まずは正面のハング越えのラインに現場監督氏先攻でチャレンジ。下から見るとかぶり具合がいまひとつわからないのですが、現場監督氏が1回ハングドッグするくらいだから一筋縄ではいかないのでしょう。それでも大胆に右足を上げてヒールで支え、左手のプッシュで身体をねじるような豪快なムーブで遂にハング越えに成功しました。あんなの自分にはできないよ、と思いながら私も登ってみましたが、確かにかぶり具合は半端ではありません。こちらもロープにぶら下がりながらふと下を見ると、観光客の皆さんが興味津々でこちらを見上げていて、中にはムービーカメラを回している人までいます。これは期待に応えねば!と再度ムーブを起こし、右手右足でいったん突っ張ってからおもむろに腕力で引きつけて左足を強引に上げる正対系の男らしい(?)ムーブで何とか解決しました。

さらにもう1本、左側のやや易しめのラインを交互に登りましたが、どうやら天候の回復は望めない様子です。我々が遊んでいる間にももう1組一ノ倉沢から戻って来たパーティーがあり、彼らも撤収するとのことなので現場監督氏と協議の結果、一ノ倉沢出合に戻ってテントを畳み、より天気の良さそうな八ヶ岳へ転進することにしました。ちょうど幽ノ沢中央ルンゼ対策でアブミを持って来ているので、ターゲットは前々から一度クライミングシューズで試登してみようと考えていた大同心正面壁雲稜ルートとし、時間にゆとりがあれば小同心クラックへ継続することとしました。

碓氷峠を越えて群馬県から長野県へ移動すると八ヶ岳近辺はよく晴れていて、どうやら転進は正解だった模様です。ただ、あいにく八ヶ岳のトポを持ってきていなかったので茅野駅近くの書店に入って『チャレンジ!アルパインクライミング』の雲稜ルートのページを私が開き、現場監督氏が手持ちのメモ用紙に要点をそそくさと書き写しました。さすがにそのまま立ち去ってはお店に申し訳ないので適当に目についた新書一冊(『ブッダは、なぜ子を捨てたか』山折哲雄 著)を購入してから、車を美濃戸の「やまのこ村」まで進めてテントを駐車場に張りました。テント代は1人500円、駐車料金が1日半で1,500円。テントの外で調理をしながらワインと焼酎を酌み交わし、早めに就寝しました。私は冬用のシュラフで暖かく熟睡しましたが、現場監督氏は少し寒い思いをしたようです。

2006/10/15

△05:20 美濃戸「やまのこ村」 → △06:40-50 赤岳鉱泉 → △07:40-08:50 大同心基部 → △09:15-25 小同心基部 → △10:15 小同心の頭 → △10:30-45 横岳 → △11:10 大同心基部 → △11:30-35 雲稜ルート取付 → △13:30-35 大同心の肩 → △14:20-35 大同心の頭 → △15:00 大同心基部 → △15:45 赤岳鉱泉 → △16:40 美濃戸「やまのこ村」

午前4時に起床すると空には満天の星。朝食を済ませ、手早くテントを片付けます。昨夜、受付の際に朝5時出発を告げていたので「やまのこ村」の御主人が早めに鍵を開けて屋内の手洗を使わせてくれました。赤岳鉱泉までは通い慣れた道で、出発の時点で既にうっすらと稜線のシルエットが見えていましたが、歩いているうちにどんどん明るくなってきました。途中、北沢にかかる橋を渡るところでふと気付くとうっすら白く霜が橋を覆っており、もうここでは氷点下の世界に入っているということを実感しました。

カラフルな登山者たちで賑わう赤岳鉱泉の前で小休止してから、登山道を横岳方面へほんのわずかで大同心沢に入り、そして大同心稜に取り付いてぐんぐん高度を上げました。こちらは西面なので気温が低くおかげで登りがはかどりましたが、大同心の圧倒的な姿を見上げられるようになった頃に上の方からコールが響いてきました。この時期に大同心に取り付く人なんていないだろうと思っていたのに先行パーティーがいるようで、樹林帯を抜けて改めて見上げると既に大同心正面壁の中央(おそらく3ピッチ目)に3人パーティー、さらに大同心基部でも2人パーティーが準備中でした。

我々も安定した位置で準備をしながら、その間に2人パーティーが雲稜ルートの取付に移動するのを見送りました。実はこのときまで我々はどこが取付なのか十分に把握していなかったのですが、彼らは迷う様子もなく基部を30mほど左下に移動してビレイ態勢に入り、おかげで我々もスタート時に迷うことはなくなりました。これはありがたいと最初は思ったのですが、1ピッチ目の登りを見て、このパーティーの登り方が異常に慎重であることに気が付きました。リードの方は比較的スムーズに登っていくのですが、セカンドはけっこう苦戦……というか、はっきり言ってアブミの操作にまったく慣れていない感じ。相変わらず日陰で寒い中、こちらは所在なく膝を抱えて風を避けつつ2人パーティーが登っていくのを見守りましたが、この調子ではどれだけ時間がかかるかわかりません。現場監督氏は「途中で抜かさせてもらおう」と物騒なことを言っていましたが、支点や岩の安定度がわからないまま下手に接近して落石をくらってもつまらないので、勝手をよく知っている小同心クラックを先に登ってから大同心ルンゼを下降し、時間差を設けて改めてこちらに取り付くことにしようと提案しました。

そんなわけで大同心ルンゼを少々下降してから小同心の基部まであまり良くない草付の斜面を登り、私の先行で登攀を開始しました(以下グレードは自分が感じたもの)。

1ピッチ目(30m / III+):私のリード。出だしのフェースはホールド豊富ですが、のっけからつかんだドアノブが動いて焦りました。左上してチムニー状を直上し、二つ目の支点でビレイ。

2ピッチ目(20m / III+):現場監督氏のリード。支点から右に回り込んで登り、顕著なチムニーを両足突っ張りで上がります。そのまま上まで行っても届くかもしれませんが、念のためラインが分かれるところで短くピッチを切りました。このピッチをビレイしている間に後続パーティーが取付に着いており、見ればそれは我々が大同心基部に着いたときに雲稜ルートを途中まで登っていた3人パーティーでした。彼らが大同心の頭から懸垂下降で肩まで下っているのは先ほどから視界の端に入れていたのですが、それにしても速い!

3ピッチ目(25m / III+):私のリード。左のクラックをチョイス。出だしの2mだけ右の垂直のフェースをホールドを信じて身体を引き上げれば後は容易です。そのまま小同心の頭へ出ると、横岳の山頂には鈴なりの登山者が見えました。

横岳直下までコンテで歩いて、最後も形ばかりのビレイで現場監督氏に先行してもらい横岳山頂に到着すると、快晴の空の下に文字通り360度の展望でした。西には北アルプス〜乗鞍岳〜御嶽山〜中央アルプス、南には南アルプスと阿弥陀岳・赤岳、その左に富士山の台形、南東に奥秩父の山々があって金峰山の五丈岩もはっきり見えています。北東に遠いのは日光の山々でしょうか?そして浅間山の穏やかな山容、北にはもちろん硫黄岳と、その向こうに蓼科山。幸い我々が横岳山頂に達したときには登山者はほとんどいなくなっており、静かな山頂での大展望をしみじみと味わうことができました。やっぱり山はこうでなくては。

ロープを巻いて硫黄岳方面へ進み途中から左に折れて入った大同心ルンゼの下降は、途中悪いところもなく順調に高度を下げられました。ちょうど大同心の肩から斜めに下るバンドが大同心ルンゼに合するところで、先ほどの慎重な2人パーティーが肩で休憩しているのを見掛けたので声を掛けてみたところ、ところどころ腐ったスリングもあるものの支点はハンガーボルトでよく整備されていると言って、両腕で「○」サインを出してくれました。

日が当たり始めてすっかり気温が上がった大同心基部に戻って羽織っていたヤッケを脱ぎ、軽く行動食を口に入れてから雲稜ルートの取付へ移動。大同心正面壁沿いにつけられた草付の踏み跡をしばし辿ると壁からもっこりと膨らんだ柱状の箇所があって、そのすぐ手前のリングボルト&ハンガーボルトで現場監督氏がビレイ態勢に入ってくれました。

1ピッチ目(25m / IV,A1):私のリード。もっこり柱の右接点に手をかけながら3m登ると安定したレッジになっていて、ちょうどそこに乗り上がったときにくだんの3人パーティーが大同心ルンゼを下って大同心基部へやってきました。彼らの位置からはドームに取り付いている2人パーティーが見えるようで、3人のリーダーらしい年配の男性が「アブミ使って登ってるよ。それじゃ冬と一緒じゃないか」などと論評しています。それでは彼らは全部フリーで抜けたのか、こちらもアブミを出すつもりなのに……と焦りましたが、やがて彼らは大同心稜を下っていってくれて、恥ずかしながらホッとしました。ルートはレッジから傾斜のきついフェースを豊富なホールドに助けられて左上気味に登り、かすかなハングを3手アブミをつないでから、左上へ少々のランナウトでレッジに到着しました。そこは抜けかけたリングボルトなどで支点を作れるようになっていて、ここが支点なのかな?ロープの出も短いしちょっと態勢が安定しないけどな……とボヤきながら支点工作を行いましたが、ふと見ると右上にさらに安定した支点が見えて作業中止。改めてビレイしてもらってそこまで登ってみると、安定したテラスにハンガーボルトでしっかり支点が作ってありました。後続の現場監督氏はずいぶん早く登ってきてくれて、その彼に「フリーで行けと言われれば行けそうだけど、ちょっと落ちたときの保証がないよね」と感想を述べたところ、彼はにやにやしながら「セカンドなので(フリーで)行かせていただきました」。

2ピッチ目(25m / IV):現場監督氏のリード。10mほど登ったところに高さ2mのオープンブックがあって、そこにも支点が作られています。ルートはそこから左か?上か?現場監督氏は直上ラインを採用し、そこから少々のランナウトを耐えながら上がっていきました。後続の私もオープンブックまで上がりましたが、ここは右ページの上縁に格好のホールドがあってぐいと身体を引き上げられ、後は角度はあるものの豊富なホールドに導かれて上がっていくことになります。現場監督氏のビレイポイントの手前で左下から上がってくるボルトラインが見えたので、ここを人工登攀のピッチにするならオープンブックからさらに左に回り込むのかもしれません。

3ピッチ目(25m / III):私のリード。出だしの草付を左に回り込みましたが、岩が脆くぐらぐら動いて心臓に良くありません。本当は支点から岩を直上すべきだったのかもしれませんが後の祭りで、じわじわと針路を修正してごつごつした岩の右上ラインに入ると後は簡単になりましたが、そうは言ってもときどきホールドが動くので体重をかけるときは慎重に確かめながら。実に「日本的なアルパイン」を感じるピッチで、これはこれで面白いピッチでした。25m登ったところで安定した支点に着き現場監督氏を迎えましたが、ここも実はもう5m上にさらにしっかりした支点がありました。

4ピッチ目(25m / IV):現場監督氏のリード。先ほどの支点から5m上のより安定した支点を越え、左から右上へと凹角を登っていきます。ここもいたって簡単ですが、調子に乗ると不安定な態勢に追い込まれてホールドを探る羽目に陥ります。

5ピッチ目(15m / III):私のリード。トポではドーム下のバンドまで5Pを要するはずだったのに、どうやら早くもトラバースバンドまで到達してしまったようです。ドームをどちらのリードで登るか、それによってこのバンドをどちらがリードするかの再確認が行われましたが、大同心南稜での敗退のトラウマ(あのときの現場監督氏の悔しがり方はたいそうなものでした)を解消するためにもここは現場監督氏にドームを攻略してもらうべく、バンドの方は順番に沿って私がリードすることとしました。高度感のある狭いバンドの途中には邪魔な出っ張りがありましたが、これを両手で抱え込みのけぞるように通過するとそのすぐ先が大同心の肩でした。

6ピッチ目(25m / IV+,A1):現場監督氏のリード。リッジ左手の岩の上に立ち上がってみると、前回敗退したときに残置したオレンジのスリングが残っていたそうで、現場監督氏は懐かしげに回収しました。たぶんこのスリングはこの2年近くの間に多くの登攀者のお世話をしたに違いなく、傷んでぼろぼろになっていました。改めて垂壁を見上げた現場監督氏は立ったフェースを慎重に登っていき、上のピトンにランナーをとったところでビレイしている私も一安心。さらにロープを伸ばしてもう一つランナーをとって、その上がちょっとホールドが甘いようです。1ピッチ目からここまでアブミを使わずに登ってきている現場監督氏は最後も何とかフリーで抜けたいので、アルパインなのに「テンション!」などと言いながらハングドッグを繰り返しプチフォール(?)までしていましたが、遂に諦めアブミを取り出して抜けていきました。しばらくしてからコールがあってセカンドの出番ですが、1ピッチ目で既にアブミを使っていてフリーにこだわりがない私はさっさとアブミで核心部の薄かぶりを抜けました。アブミの2手目は細いスリング、3手目はさらに細〜いスリングで「これにアブミで体重かけるのはいやだな」と思ったらそのすぐ左にピトン2本固め打ちがあったのでそちらを使用し、いったん安定した態勢でアブミを畳んでからの最後の5mはまるでジムの壁のようにホールド豊富な垂壁をぐいぐいと登って最終支点に到着しました。

支点から懸垂下降で肩へ戻ることも考えましたが、やはりここは大同心の頭に立っておきたいのでほんの少しロープを伸ばすとすぐそこが広く安定した大同心のてっぺんで、先行していた慎重な2人組が迎えてくれて、後から上がってきた現場監督氏を含めてお互いに写真を撮りあいました。見回せば既に日が斜めになっており、横岳の壁に陰影をつけ始めています。

硫黄岳を経由して下るという2人組を見送った後、ロープをザックにしまった我々は大同心ルンゼから大同心稜を下降しました。

赤岳鉱泉では休憩をとることもなくとっとと下山を開始しましたが、テン場のすぐ下から振り返ると大同心と小同心が仲良く並んでいるのがよく見えて、登攀ラインを目でなぞることができました。本来はどちらも積雪期のルートであり、アイゼンを履き、防寒着と手袋に着膨れて寒風に叩かれながら登るべきところを我々はぽかぽかの日差しの下でクライミングシューズ(正確に言うと私はエアシンダーコーン(アプローチシューズ))で登ったので偉そうなことは言えませんが、勝手のわかっている小同心が1時間、初見の大同心が2時間45分とライト&スピーディーな継続登攀を実践できて、自分としては満足のいく一日でした。

赤岳鉱泉の近くでのそのそと食事をしているカモシカに見送られたり、北沢でこの寒いのにパンツ一丁になって悲鳴をあげながら水浴びしている若者たちに大笑いしながら順調に登山道を下りましたが、赤岳鉱泉から至近の場所で抜かさせてくれた登山者の熊除けの鈴の音が、我々がほぼ全速力で登山道を下っているというのにいつまでたっても後方から追ってきます。別に競走したいわけではないものの「ロックオンされたみたいだな」と現場監督氏と話しながらさらにスピードを上げ、登山道が橋を渡って車道になったところでようやく鈴の音から解放されました。それで気を抜いた、というわけではないでしょうが、夕方近くの斜光が木々の黄葉を美しく煌めかせる中、落ち着いた気分で日本の秋を堪能しつつ歩みを続けているうちに、最後の最後に現場監督氏が道ですっ転んで左肘を擦りむくというケチがついてしまいました。最初は笑っていた私も傷が案外深いのを知って心配になりましたが、帰着した「やまのこ村」の御主人に現場監督氏がケガを見せたところ、御主人は「岩のぼってんだろ!」とバカにしながらも丁寧に消毒してくれたそうです。やれやれ……。

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