摺上川叶道沢地神沢↓クロノ沢↑

日程:2023/10/29

概要:阿武隈川水系摺上川の叶道沢(観音堂沢)に宮城県七ヶ宿町からアプローチ。上流の枝沢である地神沢を下ってクロノ沢を遡行し起点に戻る、いいとこどりの周回コース。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:アユミさん / ヅカ氏

山行寸描

▲叶道沢のナメ。下りも登りも穏やかなナメ歩きに終始した。(2023/10/29撮影)

この週末も御多分に漏れず不安定な天気に翻弄され、当初予定していた山域には行けなくなって代替案を探したところヅカ氏から提案があったのが、東北三大ナメ沢の一つとされる叶道沢です。叶道沢の名前は聞いたことがなく、そもそも東北三大ナメ沢がどこなのかも知らない(大行沢?桃洞沢?しかし前川大滝沢もナメがすごいけどなぁ)という状態ではありましたが、他にアテもないので叶道沢に向かうことになりました。同行してもらうのは提案者のヅカ氏と私のジム仲間で山行にも何度か一緒に行っているアユミさんです。

2023/10/29

△07:05 641m駐車スペース → △08:10 地神沢入渓 → △09:50 クロノ沢出合 → △10:00-45 ユノムラ沢出合 → △10:55 クロノ沢出合 → △12:10 林道(脱渓) → △12:55 641m駐車スペース

叶道沢(古い地形図では観音堂沢)は阿武隈川水系の摺上川の支流なので、川下から川上へと遡行しようとすれば起点は福島県側になるのですが、その下流域は私有地であるために何かと手順が必要です。そこで近年の記録を見ると、これを避ける意味もあってか宮城県の七ヶ宿町側から林道を使って叶道沢の上流域(峠田岳南斜面の国有林)を横断し、地神沢とクロノ沢を遡下降する周回プランがポピュラーです。よって我々も同じパターンで七ヶ宿町からアプローチすることにしました。

予報によればこの日は昼頃から雨、さらに9-10時頃にも若干の雨マーク。したがって当初は十分暖かくなる8時スタートで計画を組んでいましたが、この予報を踏まえて出発を1時間早めることにしました。幸い、多少車の底を擦るダート区間もありますが地形図上に「641」と書かれた場所まで進むことができて、そこで沢装備を身につけて林道を歩き出しました。道はほとんど水平ですがところによりひどくぬかるんでいるので沢靴がフィット、そして時折開ける右手の景色を見ると時期が早いのか色づきがよくないのか、いずれにせよ紅葉としては控えめな色合いです。

出発地点から等高線に沿って1時間ほど進んだところで地神沢が林道の下をくぐる場所に到達し、ここから柔らかい斜面を踏んで川下側に下りました。最初のうちはなんということもない樹林帯源流域の様相ですが、季節柄ところどころにキノコが生えていてキノコハンターのヅカ氏は喜色満面。アユミさんもヅカ氏からビニール袋をもらってキノコ採集に参戦しました。

林道から10分ほど下ったあたりからナメが出始めて、しばらくはナメとガレとが交互に現れるものの徐々にナメの幅が広がっていきます。

キノコ採りのためにペースは上がりませんが、どうやら天気予報はいい方向に外れてくれたようで、雨が降ってくる気配はありません。それなら無理に先を急ぐ必要はなく、おおらかな気持ちで山の恵みをありがたくいただけばよいということになります。

明るい森の中の明るいナメ。これで紅葉が進んでくれていたら言うことはないのですが、晴れてくれただけでも御の字なのに、その上さらに贅沢を言うとバチが当たるかもしれません。

特徴的な形状の段差は左から簡単に巻き下ることができます。それにしても何をどうすればこんな形の岩ができるのか?

この沢のナメは基本的にフリクション良好なのですが、そうは言ってもところどころ傾斜が急でつるりとした箇所ではスリップが気になります。ヅカ氏はラバーソール、アユミさんと私はフェルトを履いてきていますが、どちらをとっても大差ない程度に摩擦が得られ、そして不意に滑ったりします。

確かに評判通りの見事なナメなのですが、以前遡行した大行沢のナメの方が立派だったという印象を拭えません。しかしそのことをヅカ氏に話してみると、彼の方は逆の評価をしていました。どこから評価の違いが出てくるのかは不明ですが、自分がいま一つこの沢のナメの見事さを実感できないでいる理由の一つは、沢の左右が落ち葉で覆われているために沢幅が狭まっていたことだったかもしれません。大雨が降って落ち葉が洗い流された直後にこの沢を歩いていたら、きっと印象はがらっと違っていたことでしょう。

道草をしながらの下降1 時間半あまりでクロノ沢出合に着いてみると、焚火の跡もある実に過ごしやすそうな平坦池になっていました。今日は地神沢を下り終えたらクロノ沢を遡行して林道に帰還する周回コースですが、ここからさらに下流へとナメやナメ滝が続いているので、もう一本下流のユノムラ沢出合まで下ってそこで大休止をしてからクロノ沢出合に戻ってくる計画になっています。

ユノムラ沢出合のすぐ下流には立派な滝と釜とがあり、その先にはナメが続いていました。もし叶道沢を下流から遡ってここまでの間に存在するナメや釜や滝を堪能できていたら、これもまた叶道沢の印象を大きく変えただろうと思います(検索してみるとそのようにして遡行している記録もあり、そこには確かに幅の広いナメやナメ滝の写真も掲載されていました)。

我々はと言えばユノムラ沢の左岸の一段高いところ(釣り師が残置したらしいブルーシートが木の幹に巻かれていました)で焚火休憩と洒落込みましたが、あいにくあたりに落ちている木の枝はほとんどが湿っていて、焚火奉行のヅカ氏は四苦八苦していました。しかしどうせごく短時間しかいないので、あまり盛大に火が育ってしまってはかえって後始末に困ります。

行動食をとりながらのコーヒータイムを終えたら、クロノ沢出合まで戻ります。下りではへっぴり腰で滑り降りたナメ滝も、登りなら無問題。

下ってきた地神沢は茶色いナメでしたが、帰りに使うこのクロノ沢はその名の通り(?)黒が目立ちます。幅はさして広くありませんが、その代わりところどころにミニ釜を擁していて、そこには高い確率で魚が隠れていました。今は禁漁期なのでもちろん魚をとることはできませんが、カメラを水の中に差し入れて彼らの姿を撮影することができました。

クロノ沢も平らなナメがどこまでも続く感じの沢で、途中に一つだけ斜度のあるナメ滝が現れましたが、左(右岸)にフィックスされたトラロープを使って難なく越えることができます。

標高530mあたりの二俣でナメは終わります。ここはクロノ沢の本流らしき姿をしている右俣に進みましたが、地形図で見る限り等高線の詰まり具合は左俣も右俣と遜色ないくらいに緩やかで、林道までの間にこれといった障害物はなさそうなので、起点に戻ることを考えれば左俣に入った方が合理的だったかもしれません。

ともあれ無事に林道に乗り上がり、そこから朝方に歩いてきた道を45分歩くとそこにヅカ氏の車が待ってくれていました。

山行終了後は、何はともあれ風呂。行きがけの駄賃に滑津大滝を展望台から覗き込んでから、清潔で気持ちの良い施設「wood & Spa や・すまっしぇ」でのんびり時間をかけて入浴しました。

入浴を終え服を着替えてさっぱりしたら「道の駅 七ヶ宿」でお買い物と食事。遠隔地での沢登りでは宿泊場所など地域のお世話になることが多いので、帰りがけには地元になるべくお金を落とすということをヅカ氏は心がけており、私も相乗りして土産に柿とずんだカントリーマアムを買い求めてから、見掛けに似ずしっかりスパイシーな七ヶ宿湖ダムを食しました。

最後に立ち寄ったのは、道の駅に併設されている「水と歴史の館」です。たまたまこの日は入館料が無料だということもあって足を運んだのですが、広いスペースを十分に使い豊富な史料を展示しつつこの地域の歴史を解説していて、予想を遥かに越える充実度に驚きました。このあたりは古くは縄文時代から日本海側と太平洋側との交易路が通っていたようで、今はダム湖の底に沈んだ縄文遺跡から出土した土器類の立派さにまず目を奪われ、ついで(迂闊なことに展示を見るまで知らなかったのですが)江戸時代に羽州街道の宿場町として米沢藩を除く出羽各藩の参勤交代を支えた歴史が各種史料・古道具類・ジオラマなどで示されていました。この街道筋の宿場町は明治期になって南に萬世大路ができ、さらに鉄道が物流の中心的な役割を担うようになって衰退し、木炭需要もなくなってくると出稼ぎに頼らざるを得なくなって過疎化が進んだそう。やがて平成3年完成の七ヶ宿ダムが歴史ある集落を湖底に沈めて地域の景観と人の流れを一変させたことも貴重な写真を用いて解説されており、見応えがありました。叶道沢を遡行した後には、この施設に立ち寄ることを強く推奨したいと思います。