南秋川矢沢熊倉沢〔右俣右沢↑左沢↓左俣西沢↑東沢↓〕

日程:2020/11/22

概要:南郷バス停から熊倉林道を詰めて熊倉沢へ。右俣右沢を登って浅間峠に達してから左沢を下降し、ただちに左俣西沢を登って熊倉山に着いたら東沢を下降。起点に戻る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:熊倉山 966m

同行:---

山行寸描

▲熊倉沢右俣の陸軍滝18m。ちょうど朝日が当たり、名残の紅葉と虹が美しかったが、これは登れないので左から巻き上がった。(2020/11/22撮影)

◎本稿での地名の同定は主に『東京起点 沢登りルート100』(山と溪谷社 2020年)の記述を参照しています。

今年最後に行った沢登りは9月の釜川右俣ヤド沢。もともとの予定ではその後にも上越や東北の沢の計画があったのですが、病気→手術のためにそれきりになってしまいました。これはどこかで草鞋納めをやっておかねばと選んだのが初夏の頃に通った南秋川流域の小坂志川の隣にある矢沢の支流・熊倉沢です。『東京起点 沢登りルート100』の記述によれば浅間峠から熊倉山にかけての笹尾根を水源とする熊倉沢は、熊倉林道終点付近で右俣と左俣に分かれる。どちらも2本の手ごろな沢をもち、遡行時間も短く、初心者、初級者向きの沢として知られるとのこと。これなら日の短いこの時期でも十分に楽しめそうだと考え、右俣右沢を登って左沢を下降し、次に左俣西沢を登って東沢を下降するパチンコ遡行を行うことにしました。

2020/11/22

△06:55 南郷 → △07:35-08:00 熊倉沢右俣入渓点 → △09:40-50 浅間峠 → △09:55 栗坂峠 → △11:55 熊倉沢右俣入渓点 → △12:00 熊倉沢左俣入渓点 → △14:10-20 熊倉山 → △16:40 熊倉沢左俣入渓点 → △17:10 南郷

始発電車に乗って武蔵五日市駅に到着し、6時22分発数馬行きのバスで南郷バス停下車。さすがにこの時間帯ではバスの乗客はわずかでした。

矢沢林道に入るとすぐに通行止めの標識が置かれ(その手前に数台分の駐車スペースあり)、さらに進んで落合橋から熊倉林道に入るとところどころで崩落したり土砂で埋められたりしていました。徒歩で通過する分には支障はありませんが、熊倉林道はここ数日の好天にもかかわらず妙にジメジメしていたので、こんなことなら最初から沢靴に履き替えておけばよかったと思いながら先を急ぎました。

熊倉沢左俣の入り口を横目に見ながら熊倉林道を奥へと進み、終点の広場で沢装備に換装。コンクリートブロックを上を辿ってからすぐに入渓です。最初に出てくる3x4m滝で久しぶりのフェルトソールのフリクションの感覚を確かめた後、右沢と左沢の二俣に達すると目の前に立派な滝が落ちているのが目に入りました。

これが熊倉沢の中で最も立派な陸軍滝18m。そのインパクトのある名前の通り見栄えがしますが、ちょうど朝日が横から当たって水しぶきの中に虹ができていました。見上げたところでは落ち口までの直登は無理で、登れても左寄りを下から三分の一程度まで上がったら左へ斜めに逃げるくらいしかできそうにありません。ここはおとなしく滝の手前(左)の枯れ葉と土の斜面を上がりましたが、斜度がそこそこあるので滑落注意。がんばって滝の高さ分だけ登れば、左沢側から上がってきている仕事道に乗り上がり、陸軍滝の上流に降り立つことができました。そこでトヤド沢を右に分け、ここから右沢の遡行が始まります。

トポにある通り、立派な炭焼窯が二つ見られました。その堅牢な作りには感心するばかりで、中を覗いてみるとまだ使えそうなほどにきれいな空間が維持されていました。

やがて現れたのが、前衛に階段状の小滝を持つCS滝です。その写真を撮っているときに、バタバタと左の斜面を駆け下りてきたものがあり、見ればそれはカラフルで尾羽の長いキジ。こちらが呆気にとられているうちに、そのまま右斜面に乗り上がって一瞬のうちに飛び去ってしまいました。

改めてこの滝を観察したところ、トポにも書かれている通り確かにこれは少し難しそう。左壁の細かいフットホールドをつないで身体を上げCSの上に足を飛ばせばクリアできることは見て取れたのですが、最初の一歩が外傾している上に滑りやすくちょっとシビア。ここは残置されていたハーケンに捨て縄を掛けてA0としました。スリングは回収し損ねたので、今後ここを登られる方は、必要ないと思ったら回収して下さい。

その後もいくつか小滝が出てきますが、どれも難なく登れて楽しいところ。日が当たり、気温も徐々に上がってきて気持ちよく遡行を続けました。

直進する沢筋に対して右(左岸)から10m滝が入る場所に出ました。浅間峠に詰め上がるにはここを右。10m滝は階段状で難しくはありませんが、黒光りしてやや滑りやすいので確保がほしくなるかもしれません。途中に比較的新しい軟鉄ハーケンが打たれていたのでこれでランナーをとることが可能ですが、できればハーケンはクロモリを使い、残置せず回収してほしかったかな。しかし自分もCS滝でスリングを残置したので他人のことは言えません。

最後は藪漕ぎなく浅間峠に到着。ここは過去何度かのハセツネCUPで通過し、冬にはスノーハイクでビバークしたこともある馴染みの深いところです。広場のベンチに腰を落ち着け、まずは一休み。行動食をとって左沢の下降に備えました。

浅間峠から熊倉山方向へ10分ほど歩いたところにある栗坂峠から、東沢に続く広い斜面を下ります。傾斜はところどころ急ですが、落ち葉の下の柔らかい土に沢靴をめりこませるようにしてずるずると下り、やがて沢筋に入りました。

「へっぴり腰で恐る恐るクライムダウンするより懸垂下降した方が早い」主義の私は、使えるところでは積極的にロープを使います。

ロープを出したのは、トポにある5m滝とこの3段滝の上段の2カ所。いずれも30mロープで十分事足りました。

右沢と左沢の二俣に戻り、まずは右俣の遡行終了です。仕事道の跡も使って林道終点の広場に帰りつき、ただちに左俣の入り口に回りました。

熊倉林道から上流に向かって左に下り、すぐに木橋がひとつ(この木橋はトポでは省略されています)。続く二つ目の木橋は無残な姿で河原に落ちていましたが、問題なく対岸に渡れます。

しばらく右岸の道を歩いて沢に戻ったところにおそらく三つ目の木橋があったのだろうと思いますが、これも跡形もなし。そこから入渓しました。左(右岸)に支沢が滝を落としているのを見送ると、すぐそこが西沢(右)と東沢(左)との二俣になっています。

東沢の入り口の滝には大きな岩が落ちており、その右側を難なく登って先に進もうとするとヘルメットにごつんと当たるものあり。なんだ?と思って見上げたところ、これが四つ目の木橋でした。

トイ状の滝やら2段滝やらが出てきて、この辺りはとても楽しい。この沢、いいんじゃないの?とこのときは思っていたのですが……。

次に出てきたのは釜の奥にあるCS滝で、水につからないと近づけない上にCS越えの際に思い切り水をかぶりそう。さすがにこの季節にそれはツライと左(右岸)巻きを選択したのですが、するとそちらに立派な仕事道が続いています。見下ろす限り、先ほどのCS滝の上流にはさほどの魅力を感じる滝がなさそうなので、そのままこの仕事道をずんずん上流へ向かいました。これは、沢登りと言えるのだろうか?

ここでも炭焼窯跡が現れ、そして仕事道はさらに木橋を掛けて上流へ向かいます。毒をくらわば皿まで、沢筋が伏流と化していることもあり引き続き仕事道を辿ることにしました。

またしても出てくる炭焼窯跡、さらに原型をかろうじてとどめる石組み。かつて杣人たちがこの山に深く分け入って暮らしを成り立たせていたことを示す遺構です。

やがて水流がそこはかとなく復活し、小滝が二つほど出てきますが、いずれも問題なく通過。

この4mCS滝は少々手強く、左壁にホールドを求めて登ります。ボルダリングマットとスポッターが欲しくなりますが、残念ながらそういうわけにもいきません。

奥二俣の左の岩溝には8m滝。つるんとした岩の斜面を詰めて突き当たりの岩壁を登りますが、しっかりしたホールドが豊富にあり、アルパイングレードでIII+程度です。ただ、とにかく落ち葉があらゆるホールドを覆い隠しているので、一歩乗り上がるたびにバサバサと掃除をしなければ次の手を出せず難儀しました。

最後の3mCS滝はトポには難しいので高巻くと書かれていますが、実際にはしっかりした木の根が絶好のホールドを提供してくれており、これを使えば容易に直登可能でした。

西沢の滝はこれで終わり、後は沢筋を詰めて最後に左の尾根からやや急な斜面を登って熊倉山の山頂に出ました。

日だまりの広場となっている熊倉山の山頂で、ベンチに座ってしばしほっこり。葉が落ちて見通しが良くなっている木の間越しに見える御前山や大岳山を眺めながら行動食をとりました。

下降は、熊倉山から三国山方向へわずかに下った鞍部から。倒木に多少悩まされながら高度を下げ、最初に出てきた滝は水流左から簡単にクライムダウン。

この5m滝は右岸の立ち木を使って懸垂下降で下りました。振り返ってみると登り甲斐のありそうな立派な滝です。

この滝は右岸のルンゼを降りられそうに見えましたが、安全を期して懸垂下降。下ってみると部分的に傾斜が急だったり岩が露出しているところがあったので、これは正解でした。ロープを使った滝はこれら2カ所だけで、後は落ち葉に足をとられないように注意しながらクライムダウンしたり巻いたり。なお、トポにある中央の大岩で二分されている8m滝は認識できませんでした。

土砂に押し流された大木が水流に覆いかぶさっている場所を左から通過して小滝を降りれば、そこが西沢と東沢の出合です。

熊倉林道に戻り、沢靴を履き替えることなくバス停へ向かいました。林道に出たときには十分明るかったのですが、秋の日は釣瓶落としとはよく言ったもので、バス停に着くまでのわずか30分の間に一気に暗くなってしまいました。

熊倉沢は、純粋に沢登りとして見ると遡行感度はイマイチ(登れる顕著な滝が少ない・ただの歩行に終始する区間が長い)だったのですが、トレーニングとして割り切ればこれはこれで価値ある沢でした。

また左俣に関しては沢としては面白みに欠ける西沢と滝場が終わると単調な河原歩きに終始する東沢のどちらを登りにとるか迷った末に、途中の伏流が長いものの上流まで滝がある西沢を登りに使うことにしたのですが、東沢の滝にも見るべきものがあることがわかりましたので、次に行くなら右俣左沢遡行→尾根道を縦走→熊倉山から中間尾根下降→左俣東沢を滝の上まで遡行→同ルート下降とするのも悪くなさそうです。いや、東沢をそのまま詰めて熊倉山から生藤山・和田峠経由陣馬高原下に下り、山下屋さんで打ち上げればさらに充実しそうだな。