釜川右俣ヤド沢

概要:苗場山の北面、清津川水系の釜川右俣ヤド沢を遡行。大場林道のゲートから取水堰堤に下り、二俣を右俣に入って三ツ釜大滝からヤド沢へ。林道の上流部にぶつかったところで遡行を終了し、起点に戻る。

日程:2020/09/06

分類:上信越 / 沢登り

山頂:---

同行:ヅカ氏 / ブミ氏

ハイライトシーン

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三ツ釜大滝、ウォータースライダーの後はヤド沢でドヤ顔。上の画像をタップすると、釜川右俣ヤド沢の遡行の概要が見られます。(2020/09/06撮影)
美滝15m。その名に似ず上半分は奮闘系になった。(2020/09/06撮影)
30m滝。水流に沿った直登はできず、左の細いルンゼを登った。(2020/09/06撮影)

本稿での滝・地名の同定は、主に『東北・上信越・日本アルプス 沢登り銘渓62選』(山と溪谷社・2016年)の記述を参照しています。

9月最初の週末は、7月に白水沢でご一緒したヅカ氏 / ブミ氏の二人と共に一泊二日で清津川水系の釜川右俣を計画していたのですが、九州に近づいている台風10号の影響で土曜日の天気が不安定。そこで同じ釜川右俣ながら途中から左岸に入るヤド沢へ抜ける日帰り行程に計画を短縮しました。

前夜泊した某所で迎えた夜明けは雲一つなく、望外の沢日和に恵まれそう。手早く食事をすませ、入渓点を目指しました。

2020/09/06

■06:35 大場ゲート ■06:50 取水堰堤 ■07:45 二俣 ■10:20-50 三ツ釜大滝上 ■13:00 30m滝上 ■15:40-50 小松原登山口 ■15:55 下屋敷 ■16:10 小松原登山口 ■17:45 大場ゲート

苗場山の北側から小松原登山口に通じる釜川沿いの大場林道をがたがたと走って、ゲートの手前に車を駐めて身繕い。ゲート前の駐車スペースには先客が四台いて、我々が着いたときには沢登りの格好をした二人組が出発しようとしていたところですが、普通に小松原湿原から苗場山を目指す登山者もいることを考えると、沢はそれほど混んでないものと思われました。

ゲートの手前から左に続く道に入ると10台以上駐められそうな広い駐車スペースがあり、その先からは草を分ける踏み跡程度の道になりましたが、10分ほども踏み跡を下ると大きな取水堰堤の近くに降り立ちました。ここからわずかの遡行で長い渕が出てきますが、これは右(左岸)から簡単に巻き。ここを過ぎると巨岩帯となり、右へ左へとルートをとりながら岩を乗り越していくことになります。苦行のような巨岩帯はしかしそれほど長くは続かず、入渓してから1時間もたたないうちに二俣に到着しました。

二俣を右に入るとただちに渕と小滝があり、右寄りを胸までつかって小滝に近づくと左岸側の滑りやすそうな岩のスロープにフィックスロープが見えましたが、ここは対岸に泳ぎ渡ってホールド豊富な黄色い壁を登った方が簡単そう。泳ぎ沢が大好物のヅカ氏がロープを引いてくれて最初に突破し、後続の二人は楽々で後続しました。

その後に出てくる二つの小滝はいずれも右から巻き。二つ目は渕の奥のCS滝になっていて、渕の手前からやや大きく巻くために沢筋に戻るところでは短く懸垂下降しました。

美しい釜と樋状の滝が続く地形を楽しく過ぎると両岸が狭まり、最初の小滝は右岸からちょっとした岩登り。続く5m滝は右岸をへつって狭い凹角を登りますが、遠目に立っているように見える凹角は近づいてみるとホールド豊富でまったく簡単です。

長いトロは深さがあり、泳いで左岸に小さく上がり岩を回り込んで小滝を突破。さらに細長い釜の先に両岸がぐっと狭まったところが出てきて、ここをヅカ氏とブミ氏は両足突っ張りやブリッジポーズで華麗に越えていきましたが、実は右壁に渡ってしまえば難なくへつることが可能で、これを見たヅカ氏から「それでは写真映えがしない」と叱られてしまいました。スミマセン。

すぐその先、視界を隠すかのような大きな丸岩の横をすり抜けると前方に左岸のスラブ壁が見えてきて、カーブを回り込むと行く手に釜川右俣名物の三ツ釜大滝が姿を現しました。これは立派!写真で見て想像していた姿とは異なり、実物はその何倍も雄大に見えます。この三ツ釜は釜川右俣の本流にあたる千倉沢と支流のヤド沢との分岐点になっており、我々はこの滝の上からヤド沢に入る計画です。

一段目の滝は右寄りのリッジを登りますが、間近に見上げると傾斜は比較的緩く、細かいホールドが豊富でフリクションも良好。確保の必要性は感じませんが、ただし高さがあるので沢慣れていないメンバーがいる場合はロープを出した方が無難です。リッジを登り切ると灌木の中に入り、そのままヤド沢左岸に通じる踏み跡が続いていましたが我々は三ツ釜を堪能するために一段目の落ち口に出て右岸に渡ると、二段目の滝の左端をじわじわと上がりました。二段目の滝の上に出て千倉沢の細い流れを跨ぎ越したところに格好のテラスがあり、ここで大休止。このテラスはヤド沢からの水流が作った大きなポットホールに面しており、最初のうちはヅカ氏もブミ氏もおとなしく(?)ポットホールに横から飛び込んで喜んでいたのですが……。

水と戯れることに貪欲なヅカ氏がこの程度で満足するはずはなく、ヤド沢からポットホールになだれ落ちる壁に目をつけてウォータースライダーを始めました。ヅカ氏、ブミ氏、そしてついには高所恐怖の気味のある私までも。滑降開始ポイントから見下ろすポットホールまでの滝の斜面は長く急傾斜で足がすくみますが、覚悟を決めて滑り出せば水面まではあっという間です。お互いに動画を撮りながらウォータースライダーを敢行し終えたところで、私の滑降を撮ってくれていたヅカ氏が「……動画が撮れていない」。新品のカメラの操作方法に習熟していなかったことが原因だそうですが、これを聞いた私は内心まんざらでもない気分で再び滝の上へ向かいました。

遡行再開。ヤド沢に入ってすぐに出てきた幅広の10m滝は二段になっており、上段が壁のように立っていますが左端に弱点あり。滝の上のナメがそのまま斜度を持った先に水を落とす立った20m滝は、最上部を右から巻きました。その上流にただちに出てくるつるっとした20m滝は右端にルートが見えますがヌメりが感じられたので、フェルトソールの私がロープを引いてリード。下から三分の二ほどは難なく登れ、最上段もカムをセットした上で一歩乗り上がってみるとそのまま登れそうに見えたものの、ここは無理せず右の急な踏み跡から巻きました。

しばしのナメ床の先に出てきたのは美滝15mで、階段状の凹凸が白波を立てながら水を落としてくるその姿は確かに優美です。ここは滝の右側にあるランペを途中まで上がってそこから右の樹林帯に入るのが安全だろうと思われましたが、先に樹林帯に入ったヅカ氏から「巻きが意外に悪い」との声が上がり、滝の右端を登ることになりました。不安定な態勢でロープを出して、出だしにピトンを打って登り出したヅカ氏は水をかぶりながら滑りやすい段差に慎重に足を置き、途中でもう一枚ピトンを打ってから上へ抜けていきました。

セカンドの私がピトンを回収しましたが、ハンマーでピトンを叩いている間にも水圧に押し付けられてちょっと大変。結局ここが、この日最も奮闘的な場所になりました。

ここまで次から次へと滝が出てきてだんだんお腹いっぱいになってきたところに、間髪入れず30m滝が現れました。捻れたような複雑な形状の滝本体はとても登れそうにありませんが、その手前左(右岸)に草をぼうぼうに生やしたリッジがあり、このリッジの左の細いルンゼが簡単そう。ここはリッジ通しに登る記録やリッジからルンゼに移る記録がありますが、ルンゼの真下から離陸してもホールドには困りません。出だしの3mほどを登ってしまえば斜度は落ちてルンゼの中を快適に登れるので「これは楽勝だ」と思ったのですが、落ち口手前の5mほどはホールドが乏しい上に岩がヌメっており慎重になりました。この滝ではロープは40mが好適、そしてフェルトソールが有効です。

30m滝の上に出るとそこは癒し系の沢……と思ったのですが、やがて沢の両岸が狭くなってきて、渕の奥の8m滝は右巻き。続く5m滝は二段になっていて、下段を右壁から簡単に上がると目の前には狭い樋状に強い水流が容赦なく落ちてきていましたが、待ってましたとばかりにヅカ氏は正面突破を挑み、右から近づき水流の中に足を入れて一段上がると左壁を使って見事に上へ抜けました。

最後の大物、50m大滝は直登できないので右手前から大巻きですが、その前にヅカ氏は水垢離を実践。確かにこれは修行の効果が期待できそうですが、もはや還暦を過ぎて煩悩らしきものもない私は見物にとどめました。しかしそれが悪かったのか、この大滝の巻きは滑りやすい急登を灌木の助けを借りての腕力頼みで登る悪路で、根性を試されてしまいました。

それでも通称「フィナーレ滝」と呼ばれる四段滝を各自好きなラインで登れば、さしものヤド沢も主だった滝場は終了です。ここから先は平瀬となり、河原状の少々面白みのない歩きが続きます。

四段滝を越えて10分ほど(標高1,230m)で右岸に支沢が合わさってきますが、その出合にはすばらしい幕場が設えられていました。整地済・薪完備のこの極上物件を見れば、誰しもここに泊まりたいと思うはず。しかし残念ながら我々には泊まり装備の用意がありません。ここは後ろ髪を引かれながらスルー。

どうせこのまま河原歩きが続くのなら少し先で左岸に入ってくる短いルンゼを詰めて林道へショートカットしようかと考えたのですが、実際にルンゼの入り口に立ってみるとこのルートは水が涸れてボサに覆われた溝に過ぎず、よほど先を急ぐ身でなければこの中に入ろうという気にはなりません。それにそこからは上流に良さげな釜とナメが見えたので、ショートカットはせず当初の予定通りヤド沢をさらに詰めることにしました。

ナメやら釜やらに一時的には癒されるものの、基本的にはゴーロが続く沢筋を淡々と歩き続けて、四段滝から1時間余りで沢床にコンクリートの構造物が現れました。ここで右岸に上がり、草むらの中の踏み跡を10mほども歩けば待望の林道です。ここで、この日の遡行は終了となりました。

林道を少し下流方向に歩いたところに三角屋根のトイレがあり、ここが小松原登山口です。沢装備を脱ぎ、せっかくだからとザックを置いて木道を10分ほど入ってみると、こじんまりとした下屋敷(下の代)湿原が広がっていました。ここは苗場山の北面に広がる小松原湿原の一部で、標高を上げたところには中屋敷・上屋敷と呼ばれる湿原が広がっていますが、そちらは次の機会の楽しみとしてここで踵を返し、ザックを回収してから林道をゲートまで下りました。


天気に恵まれたおかげでもありますが、この釜川右俣ヤド沢は日帰りの沢にもかかわらず盛り沢山な楽しみを提供してくれて楽しい沢でした。入渓してからわずか3時間ほどで到着する三ツ釜大滝はその造形自体が圧巻ですが、時間にゆとりがあれば釜に飛び込んだり滑り込んだりと遊び方は自由。さらにヤド沢に入ってからは文字通り息も継がせぬほどに滝が連続し、四段滝までの間まったくダレることがありません。四段滝の上流にはイワナが生息しているそうなので、上記の幕場を活用して一泊二日の計画にするのも良さそうです。その場合は二日目に最後の二俣(標高1,285m)を右ではなく左に入れば小松原湿原の最上部に建つ小松原小屋にダイレクトに出られて、下山の道すがら湿原歩きを存分に楽しむことができます。

もっとも、自分としては次に釜川右俣に入るならヤド沢ではなく千倉沢(右俣本流)を詰めたいところ。ただしそのときにも、今回と同じように三ツ釜大滝を堪能することになるだろうと思います。