天狗山ダイレクト

概要:川上村のナナーズから見上げられる天狗山のマルチピッチルート「天狗山ダイレクト」(トポでは12ピッチ・最高ピッチグレードV級-)を登る。

日程:2020/11/09

分類:関東周辺 / マルチピッチ

山頂:---

同行:セキネくん

丹沢甲州高尾山に続くリハビリ第三弾は、セキネくんに組んでもらっていよいよ岩登りです。どこか易しいマルチピッチはないか?とネット上を探索したところ、佐藤勇介ガイドが2019年に開拓した「天狗山ダイレクト」がアンテナに引っかかりました。短いアプローチにフレンドリーなグレード、しかし10ピッチ以上を連ねて山頂に達するラインは自分の志向にぴったり。しかも、このルートは今年(2020年)の夏に最後の三段岩壁にボルトが打たれてよりすっきりしたラインになったばかりです。

これを称して佐藤ガイドは「天狗山ダイレクト・ダイレクト」としていましたが、要するに「天狗山ダイレクト」の最終ピッチを改良したものなので、ここでは単に「天狗山ダイレクト」と記すことにします。

2020/11/09

■10:50 馬越峠 ■11:30 分岐 ■11:50-12:05 取付 ■14:35-55 天狗山 ■15:05 分岐 ■15:30 馬越峠

いつもに比べてゆっくり目の9時20分に韮崎駅前でセキネくんと合流し、廻り目平への通い慣れた道を進みます。やがて川上村に入り、ナナーズが近づいてくると左手に目指す天狗山の姿が見えてきました。

毎度の如く目立つ三角形の地滑り跡の右隣にある黒っぽい岩山が目指す天狗山。ちなみに三角地滑りの左にある男山にも4ピッチの「男山ダイレクト」が拓かれていますが、アプローチがちょっと大変そう。

かたや天狗山の方は車で標高を上げて、川上村から南相木村へと山越えする馬越峠が登山口になっています。駐車スペースは数台分あり、ここから登山道を山頂まで普通に登れば往復でも2時間かかりません。

落ち葉に覆われた登山道を気分良く登ってゆくと前方に山頂を見通せるところがあり、その山頂から左下に目指すリッジ(上の写真の奥側の黒っぽいリッジ)が緩やかに落ちているのが見えました。もっともこの時点ではどれが「天狗山ダイレクト」のリッジなのか判然としてはいなかったのですが、頂上直下にある三段岩壁の姿ははっきりしています。

登山道を登っていっていったん下るところに登山者を補助する太い固定ロープがあり、これを下りきったところが取付へ向かう分岐です。ここからは川上村方向に明瞭な踏み跡が続いており、その急傾斜にスリップを懸念しながら慎重に下りました。

踏み跡に加え赤テープもあって迷う気遣いのない道を下り続け、やがて目印のケルンが出てきたら右手へトラバースにかかります。浅い沢状の地形を渡ってトラバースを続ければケルンから2分で取付に達するはずでしたが、先を行く私がちょっと下り過ぎたようで、いつの間にか取付の下を通過してしまいました。しかしセキネくんが目印となる「反り返ったボルダー」を見つけてくれて軌道修正。「天狗山ダイレクト」の取付はそのボルダーの右上に見えていました。

いかにもリッジの末端という感じの「天狗山ダイレクト」の取付。岩壁の前は平らに安定しており、装備の装着などを安全に行うことができます。

1ピッチ目(III=体感グレード。以下同じ):私のリード。ちょっと立った階段状ですが、少々岩が脆いのと土や枯れ葉によるスリップに気を使います。目の前の岩壁を登ったらそのまま緩いリッジを突き当たりまで。

2ピッチ目(Ⅳ+):セキネくんのリード。正面のリッジ状に取り付いて数m上がったらフレークに手をかけてハングの下を左のフェースに回り込み、短い垂壁を登ってリッジの上へ。この垂壁の部分の岩が脆くフォローでも気を使うくらいなので、佐藤ガイドのトポによる「IV」というグレーディングは過小のように感じました。

ここもリッジ上にロープを伸ばして適当なところまで。

3ピッチ目(IV):私のリード。どこを登るのか?と少し戸惑ってしまいましたが、出だしの一歩を木登りにして左寄りの岩に取り付くとホールドが続いてクラックに導かれ、すぐに傾斜も緩みます。あとは易しいリッジをピッチが切れるところまでロープを伸ばしました。

4ピッチ目はコンテ。少し長い歩きになるので私はいったんアプローチシューズに履き替えました。ロープも引きずるのではなく、いったん身体に巻いてショートロープにしてもよかったかもしれません。

5ピッチ目(IV+):セキネくんのリード。かぶった岩峰を右に巻いてチムニーの右のフェースからチムニーの上へ抜けるピッチ。

このチムニーが通称「門」。ランナー二箇所はいずれも残置ピン(黄丸)使用。

6ピッチ目(III):私のリード。大まかな階段状のフェースを登り、そのままリッジを適当なところまで辿ります。

7ピッチ目(II):易しい岩稜歩き。山頂が近づいてきました。

その前に三段岩壁が突然のように立ちはだかります。ここまで緩やかなリッジ通しだったので、この岩壁の登場は劇的な印象を与えます。

8ピッチ目(V-):セキネくんのリード。一段目の垂壁にはハンガーボルト(黄丸)が二本打たれており、立ってはいるもののホールドもかっちりしていてムーブを組み立てる必要はありません。ただしここぞという岩がガタついていたりするので、ホールド選びはくれぐれも慎重に。

引き続き二段目は左から回り込めば階段状に近く、易しい。

三段目はハング左側面のスラブを登ってから右上しますが、スラブの中程にもハンガーボルトがあり、ホールドも細かいもののそこそこあって気持ちよく登れます。セキネくんは三段目まで一気にロープを伸ばしていましたがこれは欲張りすぎで、ロープが摩擦で激重になってしまったそう。そのためフォローの私が登るときには常にロープが弛みがちになってしまいましたが、いつもなら少しでもロープが緩むと「ロープアップ!」と叫ぶ私も今回ばかりは「これは心理面でのリハビリのためにセキネくんがわざとロープを弛ませてくれているのに違いない」と善意(?)に解釈して登り続けました。

9ピッチ目(III-):私のリード……といってもランナーをとるまでもなく樹林帯に入り、そこで登攀終了となりました。

ロープを畳み、明瞭な踏み跡を辿って山頂へ。ふかふかの土が足に優しい。

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天狗山の山頂からは、南アルプスや八ヶ岳、北には浅間山、東には御座山など。ここで登攀用具一式を外してから行動食を口にしましたが、吹き付ける風の冷たさに秋深しを感じました。この山頂から見える山々が純白に姿を変える日も、そう先のことではなさそうです。

山頂からはよく整備された登山道を淡々と下るだけ。30分余りの歩きで起点の馬越峠に降り立ちました。


この「天狗山ダイレクト」は冒頭に記した美徳を備えたルートで、小川山的なマルチピッチというよりアルパインの要素が強く、それだけに楽しく登れました。といっても核心部はセキネくんが全部引き受けてくれたので、自分は大名山行と言うかクライミング・ジョイと言うか、とにかく楽をさせてもらったのですが、三段岩壁の三段目くらいは私に残してもらってもよかったかな。ともあれ、よいリハビリになりました。

登山口の説明板によれば天狗山はチャートの岩峰だということだったのですが、リッジ上の岩はチャートっぽくなく、フリクションも概ね良好でした。しっかりしたランナーを必要とするところは上記のピッチの切り方では2・3・5・8ピッチ目ですが、2ピッチ目は残置ピンと灌木、5ピッチ目は残置ピン、8ピッチ目はハンガーボルトが使え、3ピッチ目ではクラックにカム(キャメロット#0.5を使用)が有効でした。一方、確保支点は作りつけのものは皆無で、すべて灌木にスリングを巻いてビレイすることになります。したがって、装備としてはパーティーひと組につき50mのシングルロープにリンクカム一式、灌木の幹に回すために長めのスリングとカラビナの組合せをランナー用も含め数本、そしてアルパインヌンチャク三本があれば足りるでしょう。