南秋川小坂志川本流

日程:2024/08/03

概要:笹平から小坂志川沿いに林道を歩いて小坂志川本流に入渓。遡行終了後、連行峰から和田峠経由陣馬高原下に下山。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:---

山行寸描

▲小坂志川本流の遡行。途中で嫌になり、一刻も早く登山道へ抜けたくなった。(2024/08/03撮影)

◎本稿での地名の同定は、主に『奥多摩大菩薩高尾の谷123ルート』(山と溪谷社 1996年)の記述を参照しています。

この週末は8年ぶりに北岳バットレスの予定でしたが、中部山岳の天気が思わしくなく、直前で中止にしてしまいました。 しかし東京はかんかん照りなのに家の中でじっとしている気にもなれず、せめて高尾山から陣馬山まで走って山下屋さんで一人残念会をやるか?と考えたのですが、この気候ならトレランではなく沢登りだろうと考え直して、2020年に遡行して好印象だった小坂志川に足を運びました。ところが……。

2024/08/03

△07:45 笹平 → △08:30-50 入渓点 → △10:45 二俣 → △12:10-20 登山道 → △13:30 和田峠 → △14:10 陣馬高原下

公共交通機関でのアプローチは、早朝の電車で吉祥寺・立川経由で武蔵五日市に着き、数馬行きのバスで笹平まで。

笹平バス停で降りたのは私以外にもう1人いましたが、こちらは普通の登山ルックなので小坂志川流域で沢登りをするのは私だけのようです。小坂志林道を歩くこと45分、途中では市道山への登山道や懐かしい湯場ノ沢ウルシガ谷沢を分けて小坂志川を奥へ進みました。2020年にこのあたりの沢を集中的に遡行したのはCOVID-19に伴い県境越えを自粛していたからで、そのときにはこの林道を歩くことはもうあるまいと思っていたのですが、4年もたてば舌の根も乾くというものです。さて、この林道は比較的よく整備されており本来は明るくて気分のいいものなのですが、歩き出してすぐにうるさい羽虫がまとわりつき始めたのには閉口しました。沢に入りさえすればこいつらから逃れられるか?と期待しながら防虫スプレーで当座をしのぎ、入渓点の橋で沢靴に履き替えて早々に沢に入ったものの、この後ずっと羽虫の波状攻撃に悩まされることになりました。

最初の滝は落ち口に向けて左壁を登ってもいいのですが、今回は左から回り込むようにしてスルー。ロープがフィックスしてあったのは釣り師向けでしょうか。

沢は両岸が狭まってゴルジュ状になったり、広がってナメになったりを繰り返しながら穏やかに続きます。しかし遡行している私の方は、しつこい羽虫の群に加えていたるところに待ち構えている蜘蛛の巣の処理に手を焼き、内心穏やかではありません。本当のことを言うと遡行を始めて30分でこの沢に入ったことを後悔しだしたのですが、さすがに引き返すのは業腹なのでさっさと抜けてしまうしかありません。

それでも新しい発見というのはあるもので、標高600mくらいの右岸に前回は気が付いていなかった炭焼き窯跡を見つけました。

なかなかしっかりした造りながら引退して相当の年数がたっていると思われる炭焼き窯の周囲はタープ泊におあつらえむきの平坦地になっており、まだ新しそうな薪の燃えさしのようなものがかたまっていたので、時折はこのあたりに泊まる人がいるのかもしれません。そういう目で見直してみると、日帰り遡行の対象として認識されているこの沢をあえて焚火沢として活用するなら泊まり場としてここは最適です。

炭焼き窯の少し先で開ける二俣を右に入ると、さほど間をおかずにこの沢で最大の6mトイ状滝が現れます。ここは水流に正対し、主として右側にホールドを求めれば容易に登れます。

ただちに現れる6m多段滝は、右側から近づいてすたすたと登れます。このところ日照りが続いているせいか、前回遡行したときと比べると水量が少ない印象です。

滝らしい滝の最後はこの3m滝。水流の右脇を登りますが、少々ホールドが細かく面白いクライミングになります。もし初心者帯同でこの沢を遡行していたら、先ほどの6mトイ状滝とこの3m滝ではロープを出すことになるでしょう。

3m滝を過ぎた後の沢筋は両岸が狭まってぐんぐん高度を上げていき、標高860mあたりで水涸れになったあたりから蜘蛛の巣地獄を脱することができました。そしてそのすぐ上の二俣を右に入った後、最後までまっすぐ進めば連行峰へ詰め上げることになるのですが、前回そこで「三歩登って二歩下がる」という苦労をしたので、今回は適当なところで左の尾根に逃げ、連行峰の南東の鞍部に乗り上がりました。登山者が時折行き交う中でこの日初めての小休止をとり、ヘルメットやハーネスをしまって「やれやれひどい目に会った。しかし、これで羽虫からも逃れられるだろう」と思ったのですが、そうは問屋が卸さず、和田峠に着くまで何度も虫除けスプレーを噴霧することになりました。

ライダーで賑わう和田峠に着けばさしもの羽虫たちも諦めてくれたらしく、その後は陣馬高原下までの歩き慣れた車道を心穏やかに下ります。山の神あたりからあらかじめLINEで連絡を入れてあったので、山下屋さんでは私の専用枡を用意して待っていてくれました。

この山行で最初から最後まで私の神経を逆撫でし続けた羽虫は、たぶんブヨ(ブユ)だろうと思います。そこでWikipediaを見てみると、ブヨの天敵はトンボだということですが、リュックサックに付けていた「おにやんま君」は効果を発揮してくれませんでした。

ただし、これでもかと噴霧しまくった「ムヒの虫よけムシペールα」には一定の効果があったようで、おかげさまで半袖であったにもかかわらず刺されたのは両腕に1カ所ずつだけですみました。また黒や紺などの暗い色の衣服や雨合羽には寄ってくるが、黄色やオレンジなどの明るい色の衣服や雨合羽には比較的寄ってこないのだそうで、言われてみれば今回私が履いていたズボンの色は黒。もし次に奥多摩方面の沢へ入ることがあれば、ズボンの色を明るいものにしようと思います。

山下屋さんでいただいたのは以下の品々です。先般テレビで取り上げられた効果でこのところ午前中から昼過ぎにかけては連日大変な賑わいだそうですが、私が着いたときには客足も落ち着いていて、御主人とよもやま話をしながらのんびりいただくことができました。ただ一つ想定外だったのは、店でフロアを担当している御主人の娘さんが勧め上手で、そのために地酒「八王子城」を1杯追加注文してへべれけになってしまったことです。

それにしても、当初のプランであった北岳バットレスが流れてしまったのは返す返すも残念です。いや、私も沢登りは好きなんですよ。好きではあるのですが、しかし自分は専業沢登ラーというわけではなく、どちらかと言えばアルパイン志向。3,000〜4,000mの高所でのクライミングこそ、自分の心が最も解放される山行スタイルです。しかるに今年はそうした山行がほとんどできていないので、精神衛生上よろしくないですね……。