塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

南秋川小坂志川ウルシガ谷沢〔右俣↑左俣↓〕

日程:2020/07/11

概要:笹平から小坂志川沿いに林道を歩いてウルシガ谷沢に入渓。右俣を遡行し林道に出てそのまま下山するつもりだったが、林道で道に迷い同沢左俣を下降することになった。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:---

山行寸描

▲右俣と左俣の分岐から右俣出合の三連滝を見上げる。見えているのは1段目2条12m滝。(2020/07/11撮影)
▲引き続き2段目8m滝。晩秋なら涸滝に近い状態になるが、この日は文字通りのシャワークライミングになった。(2020/07/11撮影)

◎本稿での地名の同定は主に『東京起点 沢登りルート120』(山と溪谷社 2010年)の記述を参照しています。

この週末は1泊2日で会越の沢に行く予定でしたが、水曜日の朝の時点でこれは泳ぎのある沢に行く天気ではないと判断して計画延期(その後に四万川の水難事故の報道があって驚く)。仕方なく週末はボルダリングジムでまったり過ごそうかと思っていたところ、金曜日の午後に予報を見たら土曜日の奥多摩はどうにか足を運べそうな天気だったので、手軽に行ける南秋川の小坂志川流域の中からウルシガ谷沢をチョイスしました。

早朝の渋谷ハチ公広場前のスクランブル交差点は、5月末に湯場ノ沢に向かったときに比べればはっきりと人出が戻っており、若者に加えて外国人の姿も少なくなかったように見えました。しかし東京都の新型コロナウイルス感染者数はここ数日でぐっと増え、前々日から224人・243人と2日続けて大台に乗っていたのですが……。

2020/07/11

△07:45 笹平 → △08:45-55 入渓点 → △09:10 右俣出合 → △10:00 林道 → △11:00 左俣に入る → △11:45-50 右俣出合 → △12:05 入渓点 → △13:10 笹平

武蔵五日市駅から数馬に向かうバスも臨時便が出る賑わいでしたが、笹平で降りたのは私ともう1人。その単独行の男性がさっさと歩み去ったところで、私はバスの待合の中で沢靴に履き替えてから出発しました。

湯場ノ沢を過ぎた先で小坂志川林道が二手に分かれるところでウルシガ谷沢沿いの左手に入りましたが、道はひどい荒れよう。歩行する分には支障はありませんが、少々気を使います。

やがて林道がウルシガ谷沢の本流を離れることになる二俣に着いたところでリュックサックを下ろし、ヘルメットやハーネスを装着してから入渓しました。過去の記録をネットで漁ると沢の入り口に工事入渓禁止との注意書きが下がっていたという記録(2015年のもの)がありましたが、今ではそういうこともなくロープが1本渡してあるだけです。

入渓してすぐに小ゴルジュに入りましたが、これはなんと言うこともなく通過できました。ただ、あたりの陰鬱さはゴルジュのせいばかりではなく、天気が悪化している印のようです。

ゴルジュを抜けて左に曲がった先に大きな丸い岩が鎮座しており、その上流側が右俣の分岐。ウルシガ谷沢は右俣を遡行してから左俣を下降して元に戻ってくるという登り方がよくなされており、右俣・左俣という言葉からはここに立派な二俣があるのかと勘違いしがちですが、実際は「左俣」がいわば本流で、その右壁から「右俣」が滝になって落ちてきているというかたちです。この沢は右俣の出だしにある三連滝(12m+8m+4m)がほぼ唯一のポイントなので、ここは腕を撫して取り組みたいところですが、この頃からはっきり雨が降り始めてしまい、モチベーションは下降気味。それでもここを登らなければなんのためにこの沢に入ったのかわからないので、まずは右壁の1段高いところに上がってオブザベーションを行いました。

まず1段目の2条滝は左側のルンゼが水流が少なくて登りやすく、適当なところまで上がってから真ん中のカンテを乗り越して右の水流側に移ればよさそうだということは一目瞭然です。高さがあり少々滑りやすいので慎重に取り付きましたが、やや細かいながらもしっかりしたホールドが続き、ここは難なくクリア。

続く2段目(上の写真は落ち口から見下ろしたもの)は樋状ですが、このところの雨で山が水を吸っているせいで水量豊富。久しぶりに雨具のフードでヘルメットを覆い、頭から水をかぶりながらの真っ向勝負です。それでも下半分は比較的傾斜が寝ていますが、上半分は傾斜がぐっと立って威圧的な上に、落ち口が狭く苦労しそう。しかし、水圧に耐えながらも落ち着いてホールドを探すと水の中と左壁によい手掛かり・足掛かりが続いており、最後は右足をぐっと上げて水流の中の凹角にフットジャムのように差し込むと安定して身体を引き上げることができました。技術的な難易度はIII級程度ですが、水圧との戦いのおかげでそこそこの奮闘になりました。

3段目は右壁から容易に登ることができて、これで入渓からまだ30分しかたっていないのに核心部の3段滝は終了です。この上でいったん沢筋の傾斜が緩くなり、その後に小滝が連続します。

見栄えのする5m滝は右から簡単に。続く3m+4m滝はあっさり通過。

倒木がかかった5m滝は落ち口を塞ぐ流木群を嫌って左壁から小さく巻き、最後に小さい釜を持つ2m強の小滝は水流の左側を苦もなく越えて、これで右俣の滝はほぼ終了です。

やがて出てきた1:1の二俣は左に進み、ちょっとしたナメ滝に癒されながら高度を上げていくと、早くも源頭近くの雰囲気になってきました。

ほどなく沢形は消えて、沢の名(漆ヶ谷)とは無関係の山椒の香りがぷんぷん漂う中を、ずるずると滑りやすい斜面を踏みしめながら短く藪を漕いだら、唐突に林道に抜け出ました。入渓点からここまで、写真を撮りながら登って1時間と5分。なんとコンビニエントな沢であることか。

当初の計画ではこの林道を使ってウルシガヤの頭を回り込んだところにあるルンゼから左俣へと下降していくつもりだったのですが、雨上がりの明るい林道に出てしまうともうあの暗い谷筋に降りる気がせず、このまま林道を使って下ってしまおうと考えて歩き出しました。林道はほぼ水平ですが、右手の稜線が低くなっているところでは市道山と醍醐丸をつなぐ尾根通しの登山道の標識も見えていて、もしこの日時間にゆとりがあれば登山道に上がって陣馬高原下を目指したと思うのですが、あいにく夕方に都内で所用があるために最短で下界に降りられる(と思い込んでいた)林道を辿り続けました。

ところが、この林道は手元の地図に載っておらず、それなのにところどころに分岐があってそのたびに悩むことになってしまいます。しばらくは根拠薄弱な勘に頼ってこちらだろうと思われる方向に道を進んだのですが、市道山から西南西に伸びている尾根からさらに南に派生する尾根を乗り越すところで間違えてしまいました。下山後に調べたところではこの尾根を乗り越してさらに北西にほぼ水平に続く道に入るのが正解だったようなのですが、林道がいつまでたっても高度を下げないことに業を煮やした私は尾根から南へ、さらに切り返して北東へ向かったあたりから迷走を始めます。

それでもしばらくは道の形もしっかりしていたのですが、途中で大きく崩れたところでカモシカとにらめっこをしたあたりから不安が募りだし、その不安は道がついに沢筋へと消えていったところで確信に変わりました。道を間違えたのです。

ウルシガ谷沢左俣は上流で四つに分かれており、上記の林道ができた今ではウルシガヤの頭に最も近い沢筋(地形図の緑の線=当初の予定ルート)を下るのが手っ取り早いのですが、どうやら私は林道を使って大回りをしてウルシガヤの頭から一番遠い谷筋(『奥多摩大菩薩高尾の谷123ルート』(山と溪谷社 1996年)や『東京周辺の沢』(白水社 2000年)といった古いトポが採用している下降路)に下りてしまったようです。こうなってはこのまま左俣を下るしかありません。がっくりきましたが、日が差し始めて明るくなってきたことが救いと言えば救いです。

上流から数えると最初に出てくる顕著な滝は左俣最大の10m滝で、ここは落ち口近くにあるしっかりした木を使って懸垂下降。30mロープがぴったりの長さでした。

続いて5m滝は右側から土の斜面を容易に巻き下りられます。

3m滝も右から下りますが、こちらは岩壁を慎重にクライムダウン。この後にナメ状のちょっとした段差が出てきますが、そこは普通に歩いて下れます。

最後の3m滝は右から巻き降りるラインもありそうでしたが、安全第一で左側から懸垂下降しました。

やっと右俣出合の三連滝の下に戻ってきました。右俣の遡行を終えてからここまで1時間50分。やれやれ。

小坂志川本流沿いの林道まで出たところで行動食をとりながら沢靴以外の装備を解除し、林道歩き45分。笹平のバス停に戻り着く前に南秋川の清流で沢靴を洗うことができたのが、もう一つの救いかも。

この沢は右俣出だしの三連滝が面白く、特にこの日のように水量が多い日にはお勧めできますが、いかんせん短いので左俣下降と組み合わせるのがよさそう。左俣を下降しない場合は、林道下降などというヨコシマな心を出さず素直に登山道を使って市道山を目指すか、逆に和田峠に向かう方が良いようです。