南秋川小坂志川湯場ノ沢

日程:2020/05/30

概要:笹平から小坂志川沿いに林道を歩いて湯場ノ沢に入渓。遡行終了後、連行峰から和田峠経由陣馬高原下に下山。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:---

山行寸描

▲トバの万六沢を分けた後に2番目に出てくるきれいな釜を持つ滝。右からのへつりが細かく面白かった。(2020/05/30撮影)
▲連瀑帯の中で一番難しかった滝。トポには「滝の登攀グレード2級」とあるがホールドが少々細かく、落ち口の上には残置ピンとスリングが設置されていた。(2020/05/30撮影)

◎本稿での地名の同定は、主に『奥多摩大菩薩高尾の谷123ルート』(山と溪谷社 1996年)の記述を参照しています。

COVID-19に伴う緊急事態宣言が続いた7週間はどこにも登りに行けず、細々とトレーニングを続けるしかない毎日でしたが、5月25日にようやく緊急事態宣言が解除されて、少なくとも県境を越えなければ山に入れるようになりました。解除後の最初の週末はまずは脚力回復のために奥多摩あたりを歩いてみようかと最初は考えたのですが、どうせ行くなら易しい沢登りにしようとトポを物色して見つけたのがこの小坂志川。南秋川の支流で市道山・醍醐丸・連行峰・万六尾根に囲まれた流域の沢で、連行峰に詰め上げる本流もよく登られているようですが、『奥多摩大菩薩高尾の谷123ルート』になんでもそろった小坂志川一押しの沢と書かれていた湯場ノ沢をチョイスしました。

土曜日の早朝の渋谷駅前というと夜通し遊んでいた若者たちが駅を目指して混雑しているというのが定番の風景ですが、飲食店の営業がまだ制限されているだけにがらんとしたもの。寂しげな表情のハチ公には申し訳ないですが、いつもこうであったらいいのにと思いました。

2020/05/30

△07:45 笹平 → △08:20-45 湯場ノ沢出合 → △11:10-25 万六尾根 → △11:55 連行峰 → △13:10 和田峠 → △13:40 陣馬高原下

武蔵五日市駅からのバスはほぼ座席数に見合う乗客を乗せて檜原街道を数馬に向かいます。途中の笹平で降車したのは私ともう1人の登山者でしたが、あちらは登山靴を履いているところを見ると沢登りではなさそう。

小坂志川沿いの林道を歩くと、すぐに「この先関係車両以外通行禁止 檜原村」と書かれた看板が出てきました。ロープを渡してあるだけのゲートは簡単に取り外せる作りですが、「通行車両は常時撮影されています」とあるところを見るとどうやら本気モードのようです。そこから歩きやすいダート道を30分もかからずに、道の右から下ってくる湯場ノ沢にかかる橋に辿り着きました。

トポには橋のたもとに崩れかけたトタンの小屋があると書かれていますが、このトポの記録は1995年。それから四半世紀を経てトタンの小屋は自然に帰ろうとしていました。このトタン小屋の残骸は左岸側ですが、沢に降りるのは右岸側からの方が簡単です。

遡行開始1分で、左手にコンクリートの浴槽跡が出てきました。「湯場」と名のついている通りここにはかつて鉱泉が営まれていたそうですが、覗き込んでみると浴槽はずいぶん狭くせいぜい2人しか入れそうにありませんし、既に温泉の湧出は止まっているようでした。

鉱泉跡の先で沢が右に曲がって最初に出てきたのは3mナメ滝。取り付けば登れそうですが、ここはフィックスロープもある右側から簡単に越えられます。さらに数分でミニゴルジュになり、その出口の小滝は左壁のへつりが面白いところでした。初心者を連れてきたら、これは楽しいアクティビティのひとつになりそうです。ちなみにこの手前にも右岸側にフィックスロープがありましたが、かえってそちらの方が危険そう。そして位置関係からするとここがトポにある「F1-5m」ですが、明らかに高さは5mもありません。25年間の経過によって地形が変わってしまったのでしょうか?

トバの万六沢を右に分けて直ちに出てくるのが4m幅広の滝。と言っても「幅広」と呼ぶほど幅が広くはありません。あえて直登しようとするなら水流の右側ですが、ここは右岸のランペを登るのが自然です。ついで出てきた3m滝はその手前に小ぶりながらきれいな釜を持っており、ここも右壁のへつりが面白いところ。この上には連続して二つの小滝が連なっており、全体としては3段滝のかたちになっていました。

続く2mほどの滝も右からへつり、さらに2段4m滝を難なく越えると沢筋はいったん開けて、そこにナカの万六沢が右から合わさってきました。トバ(手前?とば口?)、ナカ(中)と分けて、ここから先の本流はオク(奥)の万六沢ということになります。

しばらく荒れた雰囲気が続きますが、きつい傾斜のゴーロ状の沢筋を遡行し、やがて左壁がかぶさってくるようになって沢筋が再び狭まると、この沢のハイライトと言われる連瀑帯に入っていくことになります。

トポでは4m・4m・3m・3mと続くとなっていましたが、カウントの仕方次第では5段ないし6段と見ることもできるかもしれません。

いずれの滝も容易に越えられますが、2番目に出てくる滝は傾斜がきつくホールドも細かいので、多少神経を使います。案の定、この滝の上にはハーケンが打たれ、スリングが残置されていました。

続く二つ(?)の滝も容易ですが、全体にヌメって滑りやすいので慎重に。ここに限らず、この沢にはラバーソールは向かないと思われます。トポではこの後に3m滝が出てくるとありましたがそれは認識することができず、すぐにF2-多段7mナメ滝らしき滝が出てきました。

ほぼ階段状のこの滝を楽々越えても、その先にさらに滝が続きます。

高さ3m弱の2条のナメ滝は右の水流沿いを登り、次に出てくるトイ状3m滝も水流通し。この辺りはトポの記述と一致しませんが、そんなことは気にせずぐんぐん登れるのが楽しいところです。

ようやく滝場がひと段落し、短い休憩をとって行動食を口にしました。遡行開始から1時間20分しかたっておらず、標高も640m強と入渓点(380m弱)から270mしか稼いでいないのに、ここまでのこの滝の多さには驚きです。

遡行再開。トポで言うF3と思われる多段滝を難なく登り、さらに滝だかただの斜面だか区別がつかない地形の中を水流を追っていくうちに行く手に空が見えるようになり、徐々に源頭近い雰囲気になってきます。

標高800mほどで水流はガレの中に消え、ここから先、二度と水流が現れることはありませんでした。

沢形が行き詰まりになったところで右手の土の斜面に取り付くと、すぐ上を登山者が2人通過していくのが見えました。そちらを目指して右へ右へと斜上していき、藪漕ぎなしであっという間に万六尾根上の登山道(標高870m地点)に飛び出しました。そこから少し南へ尾根を登ったところに道標が立っていたのでそこまで足を運び、リュックサックを置いて沢装備を脱ぎました。

ここからは万六尾根をそのまま北の柏木野へ下るのが最も早い下山ルートですが、この日の遡行は脚力トレーニングも兼ねているので、逆に連行峰へと万六尾根を登り、和田峠へ下る計画にしています。

湯場ノ頭(927m)は気付かないうちに通り過ぎ、いったん下ってから少しの登りで連行峰。そこにはベンチが設えられており、先ほどチラっと見えた2人らしい夫婦と単独行の男性の3人が寛いでいました。

連行峰から山の神への下りは驚くほどの急坂です。これまで何度か参加したハセツネ(長谷川恒男CUP)では急登に喘ぎながらここを登っていたはずですが、毎回その時点ではヘッドランプ頼みの夜戦になっていたので道の印象が薄いのは無理もありません。しかしこうして5月末の穏やかな気候の中で歩いてみると、周囲の明るい樹林やその中にちらほら咲いているツツジが綺麗で、気持ちの良いハイキングを楽しむことができました。

和田峠の駐車場にはたくさんの車やバイクが駐車しており、営業中の茶屋の前で人々が寛いでいました。こうした風景を見るとCOVID-19の影響は微塵も感じられませんが、油断は大敵。さすがに歩いている間はマスクをすることはしませんでしたが、下界に戻れば再びマスク・手洗い励行です。

その下界での締めくくりに、陣馬高原下の山下屋さんで地酒「八王子城」ときのこ三種の陣馬蕎麦をいただきながら、再び山歩きができるようになったことの幸せをじんわりとかみしめたのでした。

この沢は、短い流程の中に小滝がぎっしり詰まった感じで楽しいところでした。さすがに短か過ぎ・易し過ぎの感はあって沢慣れた人にとっては物足りないでしょうが、シーズン始めの足慣らしや一年の締めくくりの草鞋納め、あるいは初心者の沢デビューには良い沢だと思います。小坂志川流域には他にも本流やウルシガ谷沢があるので、いずれそれらにも足を運んでみるつもりです。