南沢小滝 / ジョウゴ沢

日程:2023/12/29-30

概要:赤岳山荘を起点として日帰り2本。初日は南沢大滝を目指したが、シャワーを浴びそうだったので南沢小滝でこじんまりと練習。翌日、ジョウゴ沢に入りナイアガラの滝を登ってから本流大滝を登り、硫黄岳に登頂して下山。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:硫黄岳 2760m

同行:KS氏

山行寸描

▲ジョウゴ沢支流のナイアガラの滝。右端の短いながらも立った部分を登った。(2023/12/30撮影)
▲ジョウゴ沢本流大滝。先行パーティーはあえて中央から登っていたが、我々は素直に右端の氷柱を登った。(2023/12/30撮影)

2023年最後の山行は最初は八ヶ岳東面の権現沢あたりに入る計画だったのですが、相方のKS氏が直前の山行で腰を傷めたため、日帰り2本に変更することになりました。そこで選んだ行き先は、ぼちぼち登っている記録が上がっている南沢大滝とアルパインっぽく稜線まで抜けられるジョウゴ沢です。

2023/12/29

△09:10 美濃戸 → △10:25-11:50 南沢大滝 → △12:00-15:00 南沢小滝 → △16:40 美濃戸

八王子を午前7時に出発して中央道をスムーズに進み、美濃戸の赤岳山荘の駐車場に到着。既にかなりの台数が駐車しているらしく、山荘の若女将さんの誘導でいつもの駐車スペースではなく道路右側のトイレの前に車を駐めて、まずは南沢大滝に向けて出発です。

一般登山道から大滝方面への分岐のあたりでも、雪はうっすら地面を覆っているだけ。しかしその雪の少なさのおかげで大滝の下部に氷のナメが続いており、大滝本体も立派に育っている様子です。しかも意外にも誰も取り付いておらず、これは我々の貸切だと喜んだのですが……。

南沢大滝は初めてだというKS氏に「先に登ればオンサイトですよ」とそそのかして最初のリードを委ねた(もちろん後で自分もリードするつもり)のですが、中段まで進んだKS氏からはNGサイン。見れば滝の左の未発達のところからは雨のように飛沫が降り注いでおり、予定した登攀ラインもシャワークライミングになってしまいそうです。濡れることはともかく、サングラスやバイザーが水滴に覆われてはクライミングどころではなくなってしまうため、大滝登攀はここで中止。右岸の残置支点までクライムダウンしたKS氏が懸垂下降した後を追って私もザックを置いた場所へ下り、南沢小滝へと転進しました。

南沢小滝には先方パーティーが2組いましたが、幸い右端のラインが空いていたのでまず私のリード、KS氏のフォローで上に上がってトップロープを張り、9日前と同じように練習を重ねました。

15時になって美濃戸へと引き上げようとしたのですが、一般登山道まで戻ったところでストックを南沢大滝の下に置き忘れてきた私が一人で戻ってみると、先ほどまで南沢小滝で一緒に登っていた2組が大滝を登っているではありませんか。どうやら気温が下がったことによって水の滴りがなくなり、登攀に支障のない状態になっていたようです。やられた……と思いましたが後の祭り、仕方なく先に下ったKS氏の後を追って下山しました。

今宵の泊まりは赤岳山荘です。夕食は文句なしの豪華版ですし、コップ一杯400円の真澄を注いでもらうときに「ヒョウメンチョウリョク!」と謎の呪文を唱えると若女将さんが期待に応えてくれるサービスあり。お腹いっぱいになって部屋に戻ってからもKS氏持参の赤ワインでさらにひとしきり飲み語り合ってから、消灯時刻の21時ちょうどに就寝しました。

2023/12/30

△05:50 美濃戸 → △07:35-08:05 赤岳鉱泉 → △10:00-10-30 ナイアガラの滝→ △10:50-11:30 本流大滝 → △13:05-10 硫黄岳 → △14:30-35 赤岳鉱泉 → △15:55 美濃戸

5時に起床し、前夜のうちに受け取っていたお弁当(おにぎり二つと小さな副菜)をささっと食べて6時前に出発。昨日は南沢でしたが、今日は北沢を進みます。

この日は素晴らしい快晴の青空の下に横岳の岩峰群が連なって絶好のアルパイン日和ですが、それにしてもおそろしく寒く、グローブを脱いでいるとすぐに指先が痛くなるほどです。ここでグローブをテムレスからモンベルのアルパイングローブに交換し、ヘルメットをかぶってジョウゴ沢を目指しました。

F1の手前でギアを身につけて、まずここは右から巻き気味に。

見栄えのするF2は階段状でフリーソロでも問題ないレベルですが、高さがあるので一応ロープを結んで私がリード。

F2の上でいったんロープを畳んでから先に進みます。珍しく露出しているF3も含めて氷床が続いていていい感じではないかと思ったものの、それにしてもやはり雪が少ない。

F3を越えて左にカーブすると氷すらも少なくなり、歩きにくくなってしまいます。先ほどF2を先に登っていたパーティーはこのあたりで散開して何か探し物をしながら進んでいる風情でしたが、その一人を追い越すときに「雪が少ないですねー」と声を掛けたところ、彼の方も同感だと苦笑していました。

ゴルジュにかかる小滝も痩せて貧相ですが、登るには支障ない形状なので各自フリーでさくさくと越えていくと、奥へと伸びるナメ氷の廊下がとても綺麗。ただしうっかりスリップすると容易には止まらないので気を抜くことは禁物です。

久しぶりに対面したナイアガラの滝は日に照らされて、サングラスを忘れてきた私の目には眩しくて直視しがたいほど。日当たりの良さのせいか、先ほどの赤岳鉱泉の寒さが嘘のように温暖です。それでもどうやらしっかり凍っているバーチカルな右側面を登路と決めて、KS氏のリード、私のフォローでここを越えました。この滝は昨年の12月にも来ているのですが、滝そのものよりも強烈な寒風に負けて敗退していたので、これで1年前の借りを返したかたちです。

2016年に初めてナイアガラの滝を越えたときは、この沢筋を上流に進んだために本流大滝の上に出てしまったのですが、今回は滝の落ち口のすぐ上から右に続いているバンドを渡り、若干脆い斜面を慎重に下ってジョウゴ沢本流に回帰することができました。

我々が大滝の下に着いたときには先行パーティーが取り付いてトップロープを張っていましたが、トップロープのセットが終わったところで「私たちはそのまま抜けますので」とお願いして先に行かせていただけることになり(ありがとうございます)、私のリードでこの滝を越えました。この大滝は2020年にも登っていますが、今回の方がよりデリケートな形状と氷質(特に氷柱の足元部分)で、それだけに楽しいクライミングになりました。

大滝の抜け口の左岸にあるハンガーボルトは先行パーティーがトップロープを張るために使っているので、私は抜け口近くの氷が厚いところにスクリュー2本で支点を構築してKS氏を迎えたのですが、実は抜け口の少し先の大岩にもボルトが打たれていて、そこを使えば安定してビレイができたようです。おかげで完全にビレイを解除するために一手間増えてしまいましたが、ともあれ大滝を越えてロープをしまい、アイゼンも脱いで前方に見えている横岳・硫黄岳間の稜線を目指しました。

ジョウゴ沢を登る(上の写真の右下の切れ込みが大滝の上)につれて背後の景観はダイナミックになってきましたが、アイゼンを外した時点ではすぐそこにあるように見えていた稜線は意外に遠く、徐々に息が上がり足は上がらなくなってきます。本当は右寄りに進めばより低い位置で登山道に出られたはずですが、つい左寄りに進んでしまいなかなか稜線が近づいてくれないことに心理的にも消耗してしまいました。

やっと登山道のケルンが見えてきた!しかし、実は稜線直下は火山の噴火口を連想させる岩壁の連なりとなっており、うまく弱点を見つけてこれを乗り越える必要があります。途中で二手に分かれたKS氏と私は、KS氏が山頂直下のケルン、私がその一つ横岳寄りのケルンのあたりにそれぞれ乗り上がりました。

そんな苦労も、硫黄岳山頂からのこのパノラマを見れば吹き飛んでしまいました。風は吹いていても春山のようにぽかぽかと暖かい硫黄岳からは、西の彼方に北アルプスの山々の全貌を眺めることができて、いつまでもここでこうして眺めていたい誘惑にかられます。

赤岩ノ頭から硫黄岳を、と言うよりジョウゴ沢を振り返って、自分たちが登ったラインを目で追いながら小休止。もっと右に進めばよかったなぁと笑い合ってから、2023年最後の山を下りました。