ジョウゴ沢 / 南沢小滝
日程:2020/02/29-03/01
概要:初日は赤岳鉱泉からジョウゴ沢に入り、ナイアガラの滝を登ってから本流大滝を登り、赤岳鉱泉に戻る。2日目は中山乗越経由で日ノ岳稜を目指したものの雪の状態が悪く断念し、南沢小滝で少し登ってから美濃戸口へ下山。
山頂:---
同行:ガーコさん
山行寸描
◎「赤岳西壁ショルダー右リッジ」からの続き。
昨秋小同心クラックでご一緒したジム仲間のガーコさんと、今度は冬のアルパイン。狙いは中山尾根の左隣にひっそり佇む日ノ岳稜でしたが……。
2020/02/29
△09:40 赤岳鉱泉 → △09:50 ジョウゴ沢出合 → △09:55-11:10 F1 → △12:15-13:15 ナイアガラの滝 → △13:20-14:10 本流大滝 → △15:00 赤岳鉱泉
前日ショルダー右リッジを登ってから赤岳鉱泉に泊まった私と、前夜八ヶ岳山荘の仮眠室泊まりのガーコさんとは、事前の打合せ通りに赤岳鉱泉で9時に合流です。
昨日の快晴とは打って変わって、今日は夜明け時からどんよりとした雲が低いところまで降りてきています。この日の計画はジョウゴ沢を遡行して硫黄岳登頂ですが、稜線まで出るかどうかはその場の判断ということにして、とりあえず身支度をして登山道に入りました。
ジョウゴ沢に私が初めて入ったのは20年近くも前のこと。そのときが私のアイス事始め(その翌日に小同心ルンゼで落氷に当たって負傷!)でしたが、そのときに初めてアックスを打ち込んだF1でガーコさんにも練習してもらうにしました。当然のごとくほとんど雪に埋もれたF1ではありますが、一応1-2mほどは氷が出ているので、ここでスクリューの回収やセットの仕方をおさらいしてから、自分でスクリューをきめながらのリードを実践してもらいました。これが短いながらもガーコさんのアイス初リードです。そうこうしているうちに雲が切れて青空が顔を覗かせ、我々のモチベーションも上がってきました。
F1での練習を終えたところで再び遡行開始。F2は右側が雪の階段状になっていましたが、上の方は氷も出ているために念のためロープを出しました。
F2からしばらくは広い谷筋を淡々と詰めていくことになりますが、行く手に見えるダイナミックな地形は自分たちが山の懐に入っていることを実感させてくれる、私の好きな景観です。
短いながら豪快なゴルジュを抜けると前方にそびえるのが乙女の滝ですが、すっかり痩せ細ってしまっており登るのは難しそう。もとより今回の目標ではないので、その複雑怪奇な形状をむしろ楽しんでから先に進みます。
風の力によるものか、この辺りの沢筋の狭隘部にはクラゲの足のような面白い形の氷ができていました。そこをさくさくと登って本流の左側の支流に入ると、前方に出てくるのがナイアガラの滝です。
2016年3月にかっきーと遊びに来たときと同様、滝の下部は雪に埋もれ氷も薄め。リュックサックを置き全体を見渡して、最も氷がしっかりしていそうな右端にトップロープを張りました。
2、3本登っている間に風が出てきて空は再び白い雲に覆われ始め、向こうに見えていた阿弥陀岳の姿も隠されてしまいました。どうやらこれから荒れ模様になってきそうだと気付き、ナイアガラの滝を切り上げて本流大滝に向かうことにしました。以前来たときにはナイアガラの滝の上からトラバースして大滝の上流に出てしまったのですが、今回はそのときの教訓を生かしてナイアガラの滝の下からただちに本流に戻るようにしたところ、ばっちり目の前に大滝が現れました。
大滝の方もどうやら下部は雪に埋もれているらしく「大滝」と呼ぶには少々貫禄が不足していますが、ともあれここはアルパインアイスを意識してリュックサックを背負ったまま登ることにしました。見上げた感じでは「スクリューもいらないのでは?」と思われましたが、さすがにそこまで甘くはありません。傾斜と氷質の変化を感じながら要所にスクリューを使って滝を登り、落ち口の左岸側の残置支点でガーコさんをビレイ。後続のガーコさんも落ち着いた登りでスクリューを回収しながら登ってきてくれましたが、落ち口あたりは強烈な寒風が渦を巻いており、その先の稜線方面は灰色のガスに隠されて見通すことができません。よって硫黄岳に登ることは断念し、ここから引き返すことにしました。
懸垂下降で大滝の下に戻り、H. R. ギーガーがデザインしたようなおどろおどろしい形状の氷の下で記念撮影をしてから、沢筋を下りました。
ガーコさんはこれまで南沢大滝・小滝などのゲレンデ的なアイスクライミングは経験があっても、こうして沢筋を詰めながら氷瀑を登り稜線を目指すアルパインアイスはこれが初めて。結果としては途中で引き返すことになりましたが、これを機に「こちらの世界」へ足を踏み入れてくれたらうれしい。
この日の赤岳鉱泉は夕食が3回戦になるほどの混雑で、個室の押入れまでも寝床に転用していました。15時にチェックインした我々の夕食は19時からとなり、それまでの間、ガーコさんはビール、私はワインでまったり。しかし、いい気持ちになりながら談話室の窓から暮れなずむ空を見上げると、激しくはないもののはっきりとした雪が降り続いていました。
2020/03/01
△05:10 赤岳鉱泉 → △05:45 中山乗越 → △06:40-07:00 中山尾根下部岩壁手前 → △07:25 中山乗越 → △07:35 行者小屋 → △08:25-10:35 南沢小滝 → △11:15-30 美濃戸 → △12:15 美濃戸口
4時に起床し、荷物を持って談話室に移動して持参したパン類で朝食。朝まで雪が続いていたらこの日の目標である日ノ岳稜は諦めようと申し合わせていましたが、どうやら空には星が見えているようです。新雪が積もって条件は悪そうですが、とりあえず予定通り日ノ岳稜を目指すことにしました。
赤岳鉱泉を出たときはまだ暗くヘッドランプが必要でしたが、中山乗越に着いたときには空は明るくなり、大同心や小同心もはっきり見えていました。うっすら残る踏み跡を辿って中山尾根を下部岩壁に向けて登っていくと、後ろから日本人と外国人の男性2人組が抜かしていきましたが、彼らがラッセルをこなしてくれたおかげで歩きやすくなりました(ありがとうございました)。
日ノ岳稜は中山尾根と石尊稜の間の不遇な尾根で、一般的なアプローチは石尊稜の取付を左に見送って沢筋をさらに進み、鉾岳ルンゼまたは日ノ岳ルンゼから稜に乗り上がるものですが、新雪直後は雪崩のリスクがあるために、このルートを紹介した『岳人 2014年1月号』の記事は年末までか、雪が締まる3月下旬以降の登攀をお勧めする
としています。よって我々もルンゼに入ることは避け、中山尾根を下部岩壁の手前まで登って日ノ岳稜が見えたら沢筋へ下降する作戦をとったのですが、中山尾根下部岩壁手前の樹林帯を抜けて展望が開けたところから期待通りに日ノ岳稜を見下ろすことができたものの、そこに至る斜面は予想以上に急で、しかも新雪がたっぷり乗って不安定。日ノ岳ルンゼにはデブリが出ており、これはちょっとリスキーだなと思いながらもなんとか下降路を見出せないかと膝上ラッセルを繰り返しながら尾根上を歩き回っていたところ……。
先ほどから日ノ岳ルンゼの大滝からはひっきりなしにチリ雪崩が落ちていたのですが、とうとうはっきりまとまった形で雪崩が落ちてきました(上の映像は雪崩の後半部分を撮影したもので、撮り始めの時点では既に落ちてくる雪の量がずいぶん減っています)。
これはダメだ。今回は日ノ岳稜を諦めることにしました。ここからそのまま尾根を詰めて中山尾根に転進することも考えられますが、我々を抜かしていった2人組が下部岩壁の基部でまだ支度中で時間がかかりそうなこともあり、ここは潔く下降することにしました(が、後で「やはり中山尾根を登ればよかった」と後悔しました)。
中山乗越に戻り、行者小屋をスルーして南沢沿いの雪道をとっとと下山……とは言ってもこのまま下界へ戻るわけにはいきません。そこで、ジョウゴ沢を登るためにスクリューを3本持参していたので帰りがけの駄賃として南沢小滝に立ち寄りました。先客は男女4人組だけで、小滝の左端の短いラインにトップロープを張り各自3本ずつ2時間ほど。
春山のような陽気の中を美濃戸口まで歩き、最後は「yatsugatake J&N」で風呂に入って生ビールで乾杯して山行の締括りとしました。
今回は、思わぬ新雪のためにガーコさんの冬季マルチピッチデビューはならなかったものの、アイスクライミング初リードやアルパインアイスの入り口を体験できてそれなりに得るものがあった……と言ってくれればうれしいのですが、果たしてどうだったでしょうか?ともあれ、自分にとっては日ノ岳稜という新しい宿題が残った山行となりました。この宿題は、できるだけ早い時期に片付けるつもりです。