裏同心ルンゼ〜小同心クラック

日程:2019/12/14-15

概要:初日は裏同心ルンゼF1で練習してから赤岳鉱泉に宿泊。翌日、裏同心ルンゼを登り、引き続き小同心クラックを登ってから、大同心ルンゼ経由大同心稜を下り下山。

山頂:横岳 2830m

同行:アユミさん

山行寸描

▲裏同心ルンゼF4とF5遠望。いずれの滝もよく凍っていた。(2019/12/15撮影)
▲小同心クラックの取付付近。ルート上は渋滞中。(2019/12/15撮影)

八ヶ岳の氷が凍り出したという情報を得ての今シーズン最初のアイスクライミングは、定番の裏同心ルンゼ。昨年はその終了点から大同心正面壁雲稜ルートに継続しましたが、今年は小同心クラックに継続することにしました。パートナーは、江戸川橋のジム仲間のアユミさんです。

2019/12/14

△10:25 美濃戸口 → △11:20-25 美濃戸 → △13:20-50 赤岳鉱泉 → △14:30-16:20 裏同心ルンゼF1 → △16:55 赤岳鉱泉

新宿7時発のあずさに乗って、茅野駅からバスで美濃戸口に入り、八ヶ岳山荘に設置された新兵器(コーヒーメーカー?)に目を見張ってから、赤岳鉱泉目指しててくてく。11月上旬に小同心クラックを登ったときは台風19号の災禍で柳川にかかる橋は人だけが通れる仮設の細いものでしたが、さすがにもう車が渡れる立派な橋が架けられていました。

途中、峰の松目沢の氷瀑が発達している様子を左に見上げながら柳川北沢沿いの道を歩いているとヘリの爆音が聞こえてきましたが、頭上を通過するヘリがレスキューヘリであることに気が付いて緊張が走りました。赤岳鉱泉に近づいた頃にはヘリは飛び去ってしまいましたが、ホバリングしていた位置からすると裏同心ルンゼでの事故で、他人事とは思えませんでした(後日の情報ではやはり裏同心ルンゼのF5での事故で、強風のためにヘリでは救助できず、人力で下界まで搬送したそうです)。

発達途上のアイスキャンディーを横目に赤岳鉱泉に到着し、いったん宿泊の受付を済ませてから、裏同心ルンゼへ偵察に出掛けました。F1に着いてみると案の定、大勢のクライマーがトップロープを張って練習中でしたが、到着したのが相当遅い時刻だったせいもあって、我々が身繕いをしている間に帰り道につくパーティーもあり、リード&フォローを先後を変えて2本登ることができました。アイスアックスを使うのは3月中旬の南沢大滝以来で、自分の動きに「こんなに下手だったかなぁ?」といろいろ不満は生じましたが、まずは良い練習になりました。

赤岳鉱泉の夕食はこれまた定番のステーキ。日本酒とワインをいただいていい気持ちになった私は早々に寝床に潜り込みましたが、アユミさんは談話室で『風の谷のナウシカ』原作本に読み耽っていたそうです。

2019/12/15

△05:30 赤岳鉱泉 → △06:10 裏同心ルンゼF1 → △09:35-45 裏同心ルンゼF5の上 → △10:25 大同心基部 → △10:45-11:25 小同心クラック取付 → △13:25-45 横岳 → △14:45 大同心基部 → △15:55-16:15 赤岳鉱泉 → △17:35 美濃戸

4時半起床。前夜のうちにもらっておいた弁当を朝食とし、身繕いを整えて出発です。昨日のF1での練習で私は最弱点を登ったのにアユミさんは真ん中の立ったラインをあえて選択してまったく危なげなく登っていたので、この日は短いものの立っているF3とF5を含む奇数滝をアユミさん、傾斜はないものの長い登りになる偶数滝を私が担当とすることを申し合わせてあります。

裏同心ルンゼのF1に着いたときはまだ真っ暗でしたが、既に3パーティーほどが先行して滝に取り付いていました。ギアを装着しているうちにどんどん夜が明けてきて、アユミさんが登り始めたときにはヘッドランプを消灯することができました。

F2の下部は水っぽい状態でしたが、上部の立っているパートはしっかり堅い氷になっていました。続くF3も左半分が良い状態に凍っていて、アユミさんはサクサクと登っていきました。

その後しばらくの歩きの後、F4の入り口の門のような場所で先行した私がアユミさんを待っていたときに先行パーティーからの落氷があり、私の左腕にヒット!痛みにしばらく動けなくなってしまいましたが、これは立ち位置を考えずに落氷の集まりそうな場所に立っていた自分のミスです。幸い、ややあって腕を動かしてみたところアックスを使うことはできそうなので、後続してきたアユミさんには門の右端にビレイ場所をとってもらってF5の直前まで60mいっぱいロープを伸ばしました。

F5はアユミさんのリード。前日に事故があったところですが、見たところ右半分の氷が比較的発達しており、ここもまたアユミさんはさしたる苦労もなく抜けていきました。

昨年はF5の落ち口のすぐ上に右手の大同心側から落ちてくる氷のルンゼへつなげましたが、アユミさんがルンゼの出合を越えて上流にロープを伸ばしていたためルンゼ登攀はしないことにし、安定した場所で小休止をとってからロープを短くして大同心の下の斜面を登りました。

大同心稜の最上部に達すると、向こうに逆光の中の小同心が見えてきます。時間が押していたらここから大同心稜を下るつもりでしたが、早出のおかげでまだ10時半前。予定通り小同心クラックに向かいました。小同心クラックは11月にも登っていますが、アイゼンを履いての小同心クラックは2014年以来5年ぶりです。

ぽかぽか陽気の小同心左岩峰基部のテラスからは北アルプスの山々が横一線に並んで素晴らしい景観……なのですが、見上げる小同心クラックは1ピッチ目終了点付近に2パーティーが溜まっており、一向に動く気配がありません。我々の前にやはり裏同心ルンゼから小同心クラックへ継続してきた2人組もその様子にしばし待機していたのですが、「このままでは日が暮れますよ」とそそのかす私の言葉を聞いておもむろに登攀開始。そのリードが先行パーティーのところに行って聞いた話によれば、彼らの前の前のパーティーが遅いらしく、そのために渋滞してしまっているとのことでした。これは想定外でしたが、考えてみれば小同心クラックは冬季登攀の入門ルートなのでこうした事態は予想していなければなりませんでしたし、自分たちだって本番の岩場で失敗や試行錯誤を繰り返し人様に迷惑をかけながら腕を磨いてきたのですから、受け入れてあげなければなりません。

結局、40分ほど待ったところで我々の順番になりました。1ピッチ目は自ら志願したアユミさんのリードでピナクルの1段下のビレイ点まで。2ピッチ目は私のリードで、いったん数m上のピナクルまで上がってから先行の2人組の動きを待ち、彼らのセカンドがカンテ上を登り出したのを見て私の方は右に回り込んでチムニーの入り口に入りました。ロープの長さは十分なので、ステミングで上がるポイントを越えたところでピッチを切らずに小同心の上まで抜けることも可能でしたが、先行パーティーのセカンドとの間隔が詰まり過ぎていたために短くピッチを切り、アユミさんを迎えました。

3ピッチ目は左側の突き出た岩が邪魔なラインを登ることが多いのですが、全装備を背負って膨らんだリュックサックが引っ掛かって登りにくいため、ビレイ点の右手前から上に続くチムニーを採用。岩の構造としてはこちらの方がその手前のチムニーの延長線上にあるので、右ルートの方が本来の「クラックルート」であると言うこともできそうです。アユミさんに続いて無風快晴の小同心の上に抜けると、すぐ向こうでは横岳の山頂直下に先行パーティーが集まっており、山頂との間で盛んにコールの交換をしていました。

我々も後を追って横岳へ続くプロムナードをコンテで歩き、最後のワンピッチは三たびアユミさんのリードで横岳山頂に達しました。山頂には先行の2人組がいて、互いに記念撮影の後に彼らは地蔵尾根方面へ、我々は大同心ルンゼ方面へ下りました。鎖場を渡り、大同心を左下に見るようになったら登山道を外れて大同心方向へ。

こちらは私も何度か下っていますが、これまでの私がルンゼ最上部を左から回り込むように下っていたのに対し、先を行くアユミさんが選んだラインは大同心の付け根まで下ってから折り返して大同心ルンゼの右岸のバンドに戻るもの。なるほどこんな下降路があったとはこれまで知りませんでしたが、我々の前の前を登っていた3人組がこのラインを下っているのを横岳山頂から見ているので、実はこちらのラインがポピュラーなのかもしれません。それはともかく、この下りにかかる頃から裏同心ルンゼのF4で落氷を受けた影響が出始め、左手で岩を押さえようとすると手首に激痛が走るようになってしまいました。このため、軽やかにクライムダウンを続けるアユミさんを見送りながら手負いの私はロープを使わせてもらって、懸垂下降の連続で大同心の基部に通じるバンドまで下降しました。

大同心稜を下って赤岳鉱泉に戻り着いたときには、美濃戸口からの最終バスにはとても間に合わない時刻になっていました。せめて明るいうちに堰堤広場までは辿り着こうと足を速めて下降を続け、計算通り堰堤広場からヘッドランプを点灯して美濃戸に着いたところで、スマホを取り出してタクシーを手配し帰りの特急の予約を変更。さらに美濃戸口まで下ろうと歩き出してすぐに、うしろから来た車の親切なご夫婦が我々を拾って下さって、おかげで美濃戸口の八ヶ岳山荘で生ビールでの乾杯を交わす時間のゆとりができました。ありがとうございました。

この日、裏同心ルンゼから小同心クラックへ継続したパーティーは私が見ただけでも我々以外に2組あり、さらにその前にもいたかもしれません。それくらいこの継続登攀は一般的なプランになっているようですが、なにせ裏同心ルンゼは常に混むことで有名ですし、上述の通り小同心クラックも渋滞リスクが大ですので、とにもかくにも早立ちが肝要です。

なお、落氷を受けた左腕はさっそく月曜日に病院で診てもらいましたが、レントゲンで見る限りは骨に異常はなく、しばらくアイシングを続けて様子を見て下さいとの御託宣でした。皆さんも、くれぐれも落氷には気をつけて……。