塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

横岳西壁小同心右稜〜小同心クラック

日程:2014/04/13

概要:赤岳鉱泉を出発して小同心ルンゼから小同心右稜に取り付き、上部岩峰までトレース。そのまま小同心クラックに継続して、横岳から硫黄岳経由で赤岳鉱泉へ帰着。即日下山。

山頂:横岳 2830m / 硫黄岳 2760m

同行:よっこさん

山行寸描

▲下部岩壁を登るよっこさん。上の画像をクリックすると、小同心右稜の登攀の概要が見られます。(2014/04/13撮影)
▲小同心の左右岩峰。上の画像をクリックすると、小同心クラックの登攀の概要が見られます。(2014/04/13撮影)

◎「南沢小滝」からの続き。

2014/04/13

△06:00 赤岳鉱泉 → △07:40 下部岩壁取付 → △10:45-11:00 小同心左岩峰テラス → △13:15-14:00 横岳 → △14:50-55 硫黄岳 → △15:55-16:35 赤岳鉱泉 → △17:40 美濃戸

5時起床、前夜のうちにいただいていた朝食代わりのお弁当を談話室で食べて、6時に出発しました。この日は小同心右稜から小同心クラックへの継続です。このルートは2004年12月に一度登っていますが、そのときは時期が早過ぎて雪が少なくルートの印象がいまひとつだったため、機会が得られれば再度登りたいと思っていたラインです。

赤岳鉱泉を出て中山尾根方向に向かい、赤岳に向かうらしい団体を一つ追い抜いてすぐに登山道が柳川北沢右俣とクロスする場所に到達しました。昨日当たりを付けておいたとおりその沢筋に入ってみると、想像以上に雪が締まっていて苦労なく歩くことができます。そのまま上流に向かって歩き、自然に小同心ルンゼに導かれていって、やがて無名峰ルンゼを右に分けて左の沢筋に入ってすぐに左手の尾根に取り付きました。そしてアイゼンを装着してから樹林の中の尾根上に達し、ところどころ雪に足をとられながらも上昇を続けていくうちに、右手の開けたところから赤岳方面の展望が望まれるようになりました。そこには地蔵尾根から赤岳に登るパーティーの姿も見えれば、1月に登った中山尾根の下部岩壁にへばりついている2人組の姿も見えて、八ヶ岳はまだまだ雪山真っ盛りであることが感じられました。

尾根上に出てから灌木の間を縫うようなプチラッセル混じりの登高を40分ほども続けると、前方に下部岩壁が見えてきました。その手前の安定した場所でロープを結び、まずはよっこさんが岩壁の手前まで上がってしっかりした灌木を使ってのビレイ態勢に入ってから私もそこまで上がり、いよいよ登攀開始です。

1ピッチ目:ほとんど階段状の岩を登ってから左のバンドに回り込み、雪の上をサクサクと登ってしっかりした樹木にスリングを巻き付けるまで。特に問題はありません。

2ピッチ目:見たところではこれまた階段状に見えたのでよっこさんにリードを委ねたのですが、これが見ると登るとでは大違い。よっこさんが「ランナーが欲しい!」と泣きそうになりながら登っていった後に続いたのですが、1段上がった後に2mほどのIII級程度の岩があり、これを越えるとすぐにIV級テイストのやはり2m程度の岩壁。ここは左上の灌木がしっかりしたホールドを提供してくれており、右足の置き場所も大勢の先人がアイゼンの爪痕を残してくれているので迷うことはないのですが、右手の置きどころがないために草付に打ち込んだアックスを信じて身体を引き上げなければなりません。さらにここを越えても凍った草付の斜面が急傾斜で立ちはだかっており、よっこさんがボヤくのも無理はありません。もしかするとここは左に回り込むのが楽だったのかもしれませんが、見事に正面突破を果たしたよっこさんの待つビレイポイントに達してみれば、これが下部岩壁を最短で抜けるラインであることは間違いがないようでした。

3ピッチ目:易しい斜面を雪庇の左側をへつるように登って、尾根上の比較的安定した地点まで。そこからは普通の歩きで尾根上を下り気味に進んで、小広いコル状の雪の上で休憩をとりました。

行動食は、下界で買い求めてあった菓子パンとよっこさんの知り合いがその生産に関わっているという「NISEKO MONTE BAR」。後者は羊蹄山の雪解け水で育った男爵芋などをベースとするアウトドアスナックですが、適度なもっちり感があってグー。これはお勧めです。

コルからは雪の斜面をコンテで登っていって、目の前に見えているやや立った草付斜面の下の灌木に支点をとりました。もう小同心の岩峰は頭上近くに見えていて、小同心クラックを登る女性クライマーたちのコールも聞こえています。ここも1ピッチ目はよっこさんにリードをお願いしたところ、よっこさんは特に問題もなくするするとロープを伸ばしていって、斜面の途中でコールを掛けてきました。

そのままつるべで2ピッチ目は私のリード。これまた何と言うこともない草付と雪の斜面を登って、最後は傾斜が緩くなったところでロープがいっぱいになったためにハイマツの根にスリングをタイオフしました。

よっこさんを迎え入れながら下方を見ると苦労しながら登ってきた雪稜を見下ろすことができてなかなか良い気分で、これで小同心右稜の登攀は終了です。ここまでの登攀でよっこさんは相当に消耗した様子でしたが、核心部となった2ピッチ目のリードを含め見事なクライミングでした。

テラスで軽く行動食をとってから、引き続き小同心クラックの登攀にかかります。小同心クラックを登るのは積雪期・無雪期を合わせてこれが6回目で、さすがにこれだけ登っているとほとんど癒し系の世界です。

ここからは全ピッチ私のリード。十分早い時間帯なので焦らず準備をし「More steps」の合言葉を確認し合ってから岩に取り付きました。

1ピッチ目:1段上がって左へトラバースし、浅いチムニー状を直上してハンガーボルトの支点を通過してから顕著なチムニー内へ。

2ピッチ目:深い凹角から大クラックの中を快適なステミングで上がってテラスまで。

3ピッチ目:岩の出っ張りをまたぎ越して左上すると小同心の頂上部に抜けられます。この日は風がなく穏やかな気候で、おかげでコールによる意思疎通も問題なくできて快調な登攀となりました。

小同心の頭からプロムナード状の道を横岳山頂の下までコンテで進んで、最後の1ピッチも残置ピン1本で支点を作ってから私のリードで登りました。

横岳山頂には杣添尾根を登ってきたという登山者が1人いて、セカンドのよっこさんが登ってくる様子を興味深げに撮影してくれました。たとえ1人でもギャラリーがいてくれるのはうれしいもの。そして赤岳鉱泉を出てからこの最終目的地まで休憩コミで7時間余り、よく頑張りました。

しかし、登りがあれば下りもあるのは登山の必然です。横岳を縦走して地蔵尾根から行者小屋へ下る選択肢も考えましたが、ここはオーソドックスに硫黄岳経由で赤岳鉱泉へ向かうことにしました。ということは硫黄岳への登り返しが待っているということでもあります。

無風温暖な山頂でロープを畳み、ギア類もリュックサックにしまってから下山開始。うっすら霞んだ空気は日の光を遮り山上の景観をこの時間帯にしては暗く感じさせましたが、十分日が残っているうちに下界に達することができそうです。

少しばかり緊張するスノーリッジやトラバースをこなして横岳を下り、広い尾根を歩いて硫黄岳の長い登り返しには顎が上がりましたが、ここはひたすら我慢するしかありません。時折振り返って阿弥陀岳や赤岳、それに先ほど登ってきた小同心の姿に癒しを求めては、再び前を向いて足を上げることの繰り返し。

やっと到達した硫黄岳の山頂からは、爆裂火口や北八ヶ岳方面の眺めを一望にすることができました。

そしてもちろん、南八ヶ岳の主峰群の勇姿もいっぺんに見渡すことができます。

硫黄岳から赤岳鉱泉までの下降も恐ろしく長く感じられて心が折れそうになりましたが、最後にはどうにか小屋に達することができて一安心。あまりに疲れていたので休憩と称してラーメンを注文したところ、よっこさんはこのラーメンの分厚いチャーシューに息を吹き返したのか、赤岳鉱泉から美濃戸までの下山路での私はよっこさんの歩くスピードについていくのが精いっぱい。今度は私の方が涙目になりながら、黙々と雪道を下ることになったのでした。

ともあれ、これで今シーズンの八ヶ岳はもうおしまい。この冬は昨年12月の「阿弥陀岳北稜〜赤岳西壁主稜」に始まり「権現沢右俣正面ルンゼ / 左俣展望台の滝」「広河原沢3ルンゼ / 右俣クリスマスルンゼ」「横岳西壁中山尾根」「阿弥陀岳北稜」等とずいぶん八ヶ岳にお世話になりました。また来シーズンよろしくお願いします。八ヶ岳も、よっこさんも。