横岳西壁小同心クラック

日程:2019/11/03

概要:早朝に美濃戸口を発ち、赤岳鉱泉を経てただちに大同心稜を登り、小同心クラックを登攀。大同心ルンゼ〜大同心稜を下降してそのまま下山。

山頂:横岳 2830m / 硫黄岳 2760m

同行:ガーコさん

山行寸描

▲大同心稜から見上げた小同心。山肌の雪が、冬の訪れを予感させる。(2019/11/03撮影)
▲小同心の頭でポーズ。最終的に横岳山頂へ抜けるこのルートは、何度登っても楽しい。(2019/11/03撮影)

この三連休は都合の合う仲間が見つからず、私自身も11月4日の夜に予定が入っていることもあって、土日の2日を使い奥秩父の易しい沢でのんびり草鞋納めをしようかと思っていたのですが、直前になってひょんなことからジム仲間のガーコさんと話が弾み、アルパインルートをご一緒することになりました。ガーコさんとはこれが初めてのパートナリングなので、選んだ行先はアルパイン入門編の小同心クラック。このルートを登るのはガーコさんは初めて、私にとっては5年ぶり8回目です。

2019/11/03

△04:35 美濃戸口 → △05:20 美濃戸 → △07:05-20 赤岳鉱泉 → △08:40 大同心基部 → △09:05-25 小同心クラック取付 → △11:10-45 横岳 → △12:40 硫黄岳 → △13:40-55 赤岳鉱泉 → △14:50 美濃戸 → △15:25 美濃戸口

前夜のうちに美濃戸口に入って八ヶ岳山荘の仮眠室に宿泊し、まだ暗い午前4時半に出発しました。この日は午後から天気が崩れる予報になっており、少しでも早く行動を開始する必要があったのでした。

美濃戸口から林道を下ってすぐの柳川に掛かる橋は10月12日に上陸した台風19号による豪雨のせいで流されてしまっており、現在は人だけが通れる仮設の橋が掛かっている状態でした。冬までには掛け直してほしいと願っている怠惰なアイスクライマーは多いはずですが、私はいつも美濃戸口から歩いているので無問題。

骨組みができ上がっているアイスキャンデーの向こうにゴリラの背のような大同心を見上げ、赤岳鉱泉でトイレ休憩をとってから、大同心稜の登りにかかります。稜の下部は順調な登りでしたが、森林限界が近づき樹木が疎らになるあたりから道筋に覆いかぶさる風倒木が目立つようになって、台風の猛威をここでも実感しました。

背後には中央アルプスから北アルプスまでの大展望。目の前には大同心と小同心。ヘルメットをかぶり、ハーネスを履いて、ここからクライミングモードに切り替わります。

小同心クラックの取付までは、大同心の基部を右に回り込んでから大同心ルンゼを下降した後に草付の登りとなりますが、あらかじめ懸念していた通り斜面には雪がついていました。一見柔らかそうな雪は、実際にはアプローチシューズでは蹴り込むことができないほど硬く凍っており、これを慎重にかわしながら取付を目指しました。無事に小同心クラックの取付まで達したところでギアを取り出し、ロープを結んで登攀開始。奇数ピッチが私、偶数ピッチがガーコさんの担当です。

1ピッチ目:出だしを少し上がってから左へトラバースし、かぶった凹角を直上。岩にスリングを巻いて最初のランナーをとり、さらに途中のハンガーボルトでもう一つ。25m余りロープが出たところで、ガーコさんを見下ろせる位置にあるハンガーボルト二つの支点でピッチを切りました。

2ピッチ目:ガーコさんは確実な動きで頭上の凹角へ抜けていき、ややあってビレイ解除のコールあり。このピッチは支点のあるテラスへ抜ける手前にあるチムニーがアクセントになっていて、ガーコさんは最初チムニーの奥に入りこんでしまいリュックサックがつかえて仕切り直したそうですが、ここはなるべく手前側から両壁に足を張って大胆に身体を引き上げるのがポイントです。

3ピッチ目:岩のでっぱりを窮屈に越える左ラインと浅い凹角を登る右ラインの2通りがありますが、今回はオーソドックスに左ラインを選択しました。出だしのでっぱりを右壁に張り付くように身体を上げてかわし、後は易しいランペ状を辿って、待望の陽光の中に飛び出します。そのままロープを伸ばし、小同心の頭に立ってハンガーボルトで支点を構築しました。

暖かい日の光に喜びながら小同心の頭に上がってきたガーコさん。ここまで来れば横岳の山頂は目と鼻の先で、向こうからこちらを見下ろしている登山者の姿もちらほら見えていました。

横岳山頂直下まではロープを巻いて短くしてクライミングシューズのままコンテで歩きましたが、ここにも硬い雪が張り付いていて若干緊張しました。しかし雪がついていたのは最初の10mほどだけで、後は稜線漫歩と言ってもよいのどかな歩きになります。

すぐ横の鎖場を登山者が登っているのを横目で見ながらラストピッチの準備……なのですが、私のチョンボで2本のロープを絡ませてしまい、こんがらがったロープをほどくのにずいぶん時間を使ってしまいました。ぽかぽかの快晴だからよかったものの、これが真冬の風雪の中だったらヤバいところだったと反省。どうにかロープを捌き終えて、横岳の山頂に向かう最後の1ピッチはガーコさんのリードです。青空に向かってガーコさんはするするとロープを伸ばしていき、その姿はすぐに岩壁の向こう側に消えました。

後続してみると、そこにはギャラリーのおばさま方がお待ちかねでした。ガーコさんと握手を交わして、これで登攀終了です。見事な展望に恵まれた横岳山頂で行動食をとりながら、しばしまったり。幸福なひととき。

眼下には先ほどまでそこにいた小同心の頭も見えています。ルートは貸切で、岩も冷たくなく、条件に恵まれた登攀でした。

居合わせた登山者に記念写真を撮ってもらったら、下山にかかります。いつもなら大同心ルンゼの源頭部を下降するのですが、斜面に雪がついているために安全を期して、今回は硫黄岳経由で赤岳鉱泉へ下ることにしました。

徐々に遠ざかる小同心や大同心の姿を名残惜しく眺めてから、赤岩の頭から一気呵成に赤岳鉱泉へ。天気も最後までもってくれて助かりました。

美濃戸口の最終バスの時刻をちゃんと調べていなかったのでとにかく早く下山しようと足を速め、赤岳鉱泉から美濃戸口までを90分で歩き通しましたが、そうした中にも途中の紅葉を愛でる心のゆとりは忘れていません。そして美濃戸口に着いてみると、最終バス(16時20分発)まで1時間近くの時間があり、しからばと八ヶ岳山荘にリュックサックを下ろして生ビールで乾杯しました。ガーコさん、お疲れさま!「超」がつくくらいの楽しい登攀でした。