塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

尾白川本谷

日程:2013/09/21-22

概要:日向山登山口から尾白林道を詰めて入渓。黄蓮谷を左に分けて本谷を遡行し、CS滝の上の岩小屋で1泊。翌日、鋸岳から甲斐駒ヶ岳へ連なる尾根上に抜けて甲斐駒ヶ岳山頂を踏み、黒戸尾根を一気に下山。

山頂:甲斐駒ヶ岳 2967m

同行:トモコさん

山行寸描

▲本谷に入って最初の滝。上の画像をクリックすると、尾白川本谷の遡行の概要が見られます。(2013/09/21撮影)
▲CS滝。セットされているスリングをアブミの代わりにして右の岩の上へ乗り込む。(2013/09/21撮影)
▲30m大滝全景。直登は厳しく、上部樋状の手前を右に入ったところにあるルンゼを使って越えた。(2013/09/22撮影)

ここ数年、夏から秋にかけて中央アルプスの沢に一緒に行っている大阪在住の山仲間トモコさんと、今年の沢は甲斐駒ヶ岳の尾白川本谷。今年に限ってはゴールデンウィークにもご一緒しているので2度目の山行ですが、彼女と登ると何がいいかと言えば山メシが豪勢になることです。

2013/09/21

△07:25 日向山登山口 → △08:55 尾白川入渓点 → △10:45 噴水滝 → △11:45-11:55 二俣 → △13:30 2012年1月到達点 → △14:25-45 CS滝 → △14:55 岩小屋

私は東京から夜行バスで、トモコさんの方は大阪からマイカーでそれぞれ午前4時頃に竹宇駒ヶ岳神社近くの駐車場に到着し、しばし仮眠の後に6時頃に起床して身繕い。当初の計画ではここから日向山登山口まで登山道を歩いて尾白川沿いの林道に入ることにしていたのですが、コンビニパンで朝食をとっているところへタクシーが登山者を積んでやってきたのを見て、トモコさんと私は顔を見合わせて思わずニヤリ。お客を送り出したばかりの運転手さんに話し掛けて、我々の出発準備が調う7時に迎えに来てもらうことにしました。

そんなわけで大幅にラクをして日向山登山口に着き、そこからはひたすら林道歩きが続きます。

途中、東屋の奥に錦滝を見たり入口が崩れかけたトンネルを潜ったりしながらおおむね歩きやすい道を最後まで詰めて、林道のどん詰まりからはフィックスロープもセットされた急降下をこなして尾白川に降り立ちました。沢装備を身に着けてここから入渓です。

河原を歩き始めて15分ほどで、右岸に滑り台のようなランペを持つ女夫滝に着きました。ラバーソールのトモコさんはここをすたすたと登っていきましたが、フェルトソールの私はおっかなびっくり、それでも上部に設置されたフィックスロープのお世話になりつつ突破しましたが、見ればフィックスロープは途中で芯がむき出しになっており、不用意に体重をかければいつ切れてもおかしくない状態でした。くわばらくわばら……。

続くスラブ滝を左から越えて鞍掛沢出合に着いてみると焚火の煙が上がっており、出合にある格好の幕営適地にテントが張られていて男性2人が寛いでいましたが、それがかっきーの友人たちであること、さらに我々の1時間半前をかっきー・いず姫コンビが遡行していることを後で知りました。毎度のことながら、山の世界は本当に狭い!

それはさておき、鞍掛沢出合の先に登場するワイヤーが掛かった梯子滝を、トモコさんは右岸から巻き上がりましたが、私は水の中にいったん腰まで入って左寄りから突破しました。その先にはバンドのある滝があって、これは右から巻き。続く釜を持った多段の遠見滝も右から小さく巻いて、その先の滝を左からフィックスロープを頼りに巻き上りましたが、ここはルートファインディングに少し苦労しました。巻きながら高度を上げると沢筋には大きな深い釜を持った滝が出てくるのですが、これを落ち口と同じ高さでトラバースしようとすると行き詰まるので、さらに1段上がったところにある細い土のバンドを渡り、適当なところから樹木を頼りに高度を下げて、最後は大釜の滝の上流右岸にある支沢を使って沢筋に戻ります。

その先にも噴水滝を初めとしていくつものスラブ滝やエメラルドグリーンの釜、明るいナメ床等が連なり気分良く遡行を続けているうちに、黄蓮谷と尾白川本谷を分ける二俣に到着しました。この二俣までは10年前に遡行したことがありますが、ここから黄蓮谷を左に見送る尾白川本谷に無雪期に入るのは初めてです。わざわざ「無雪期に入るのは初めて」と断ったのは昨年1月に途中まで遡行したことがあるからですが、沢に入ってみればやはり氷雪期と無雪期とでは様相が大違い。出合からすぐに現れる釜を持った滝は前回はピオレトラクションで登ったのに、今回は右壁をロープを使うこともなくすたすたと上がれます。その先、しばらくナメやナメ小滝が続き、前方に坊主岩の怪異な岩峰を見上げながら進むうちに、沢の様相は河原状になってきました。

二つ目の大きめなナメ滝も右から易しく越えて、沢筋が巨岩で埋まるようになってくると、それまでのように沢の中を真っすぐ進むというわけにはいかなくなってきました。左から北坊主ノ沢が岩壁を滑り落ちてくるのを見上げながらところどころの巨岩を右から巻いていくと、見覚えのある場所に到着しました。ここが昨年1月の遡行時の目的地です。

上左は今回の写真、上右は昨年1月のときのもの。後者の右上に黄色い残置テントも写っています。合掌。

ここを右から大きく巻いて、その先も行く手を阻まれれば右から巻き。1カ所は巨岩の下を潜り抜けるところもあってなかなか行程がはかどりませんでしたが、右岸に掛かる巨大なハングやスラブで構成された滑滝沢のすぐ先に、この日の行程における核心部となるCS滝が現れました。

沢を塞ぐような巨大なチョックストーンの下に水が噴き出しているこの場所は、右岸の岩壁にハーケンが連打されてそれぞれにスリングが残置してあり、これは一見してアブミの代わりなのだなと見当がつきました。リュックサックを下し空身になって、まずは私から。リュックサックを引き上げるためにランナーをとるわけにもいかず、微妙なバランスでスリングに立ち込みながら右上していき、最後は落ち口へ大きく足を伸ばしてなんとかクリア。リュックサックを引き上げ、ついでトモコさんをビレイして小滝上に上がってもらうと、後は巨大チョックストーンの下のトンネル(III+程度)を通り抜けるだけです。

チョックストーンを抜けたところには、この巨大な岩に別の岩が寄りかかるようにして屋根を作った小さな岩小屋があり、3、4人程度なら何とか泊まれそう。今日の行程はここまでとしました。期待に違わずトモコさんのリュックサックからは次々に食材が登場し、これをトモコさんは手際良く調理していきます。

そこそこの薪も集められて焚火を楽しむことができましたが、2人とも前夜はあまり眠っていないのでまだ明るい18時前にはシュラフに入りました。焚火で温められた空気が上流からの穏やかな風に乗ってうまい具合に岩小屋の中を通過してくれたので、夜は温かく、すやすやと眠ることができました。

2013/09/22

△06:45 岩小屋 → △07:40-08:00 30m大滝 → △09:55 稜線 → △12:10-35 甲斐駒ヶ岳 → △14:10-30 七丈小屋 → △18:15 尾白川渓谷駐車場

5時に起床。今日は甲斐駒ヶ岳山頂を越えて七合目までのつもりなのでゆったり朝食をとり、身繕いを済ませてから遡行を再開しました。

まずは棘がちくちくと痛い植物に覆われた岩小屋右手の草付を登り、そこからすぐに沢筋に戻りましたが、ここは樹林帯の中まで上がって大きく巻いた方が良かったのかもしれません。泊まり場の少し上にある岩の積み重なりの突破は案外難しく、ラバーソールのトモコさんが空身で登ってはリュックサックと私をロープで引き上げるという奮闘を2ピッチ重ねることになりました。朝一番のこの奮闘に「そんなの聞いてないよ」とボヤキながら難所を突破すると、右岸のスラブに奥ノ滑滝沢が水を落とし、その対岸の小平地には焚火の跡がありました。大人数の部隊なら、我々が泊まった岩小屋ではなくここまで上がって泊まった方が良さそうに思える場所です。そしてその先すぐに二俣が現れて、本流筋である左俣の奥に大きな滝が見えてきました。これが最後のポイントとなる30m大滝です。

大滝の下半分はスラビーながらもフリーで難なく登れて、大滝の途中から右に入ったところから今度はV字に抉れたルンゼを使って大滝の上に抜けることになります。見上げると残置ピンとスリングがセットしてあり、見た目には傾斜もさしたるものとは思えないのですが、リードで登ったトモコさんはここでもCS滝と同様にスリングに足を掛けてのA1登攀。そんなに厳しいのか?と思いながら後続してみると、確かに脆いルンゼの中は見た目とは裏腹に傾斜も急で難しく、私もスリングに足を入れての格好悪いクライミングとなってしまいました。ともあれ、これでこの沢の核心部はすべて終了です。

大滝を過ぎた二俣を右に入り、出だしを右から踏み跡に従って巻き上って、後はひたすら本流筋を詰めていくと徐々に水が涸れ、やがて脆い土と岩のミックスした源頭部から樹林の中に入って踏み跡を詰めれば、最後にわずかの藪漕ぎで稜線に飛び出しました。黄蓮谷右俣に比べると少々大味であることは否めませんが、それでも終わってみればこの尾白川本谷はなかなかに面白い沢でした。

詰め上がったところは六合石室のある辺りですが、石室は稜線の北側に少し下がったところにあるので見えてはいません。正面には仙丈ヶ岳の大きな姿があり、その右手奥には中央アルプス、御嶽山、さらに右にはぐっと近くに三ッ頭、その向こうに鋸岳が見えています。ここでシューズを履き替え、沢装備一式をリュックサックにしまいましたが、濡れた沢靴は重く、おまけに持参していたロープは9mm40m(実際には30mで十分)だったのでリュックサックが背中にずっしりとのしかかってくる感覚に溜め息をついてしまいました。

秋近しを思わせる草紅葉も多少の慰めにはなりましたが、足はなかなかはかどりません。軽やかな足取りで甲斐駒ヶ岳山頂を目指すトモコさんの背中が少しずつ遠ざかるのを恨めしげに見上げながら、我慢の歩きが続きます。

易しい鎖場を越えたところで、かつて雷に襲われて岩陰に身を隠し雷雲の通過を待ったことを思い出しました、そのときの岩陰がどこであったか、今となってはさっぱり思い出せません。やがて、かつて黄蓮谷を遡行したときに詰め上げた白ザレのコルを通過し、登山者で大賑わいの甲斐駒ヶ岳山頂を目の前にしたところで、左手の黒戸尾根側のハイマツの急斜面を怒濤の藪漕ぎで抜けようとしている沢登ラーのパーティーの姿が目に入りました。最後にルートミスしたんだな、あの藪漕ぎはつらそうだな、と同情しながら、しかしこちらもへろへろ一歩手前でやっと山頂に到着しました。ああ、きつかった。

先に着いていたトモコさんは涼しい顔で私を迎え、お湯を湧かしてくれて粉末の抹茶ラテで一息。しばしほっこりしてから、先日歩いたばかりの早川尾根とその先の鳳凰三山を右に見つつ黒戸尾根への下降に入りました。

黒戸尾根上部の山道は、赤石沢奥壁の荘厳な岩の伽藍を眺めながらの下降です。かつて登った奥壁中央稜の最終ピッチを覗き込んだり、八合目御来迎場から摩利支天まで通じる八丈バンドを見下ろしたりしながら下るうちに、先ほど山頂でも言葉を交わした藪漕ぎパーティー(女性1人+男性2人)と前後するようになりました。我々もそうでしたが、彼らもこの日七丈小屋で泊まるか一気に下山するかを悩んでいた模様です。そのままテントサイトを過ぎて七丈小屋に着いたところで、ちょうど外に顔を出していた小屋の主人=田部さんに「素泊まりはいくらでしたでしょうか?」と尋ねたところ「3,500円」との回答です。おっ、十分リーズナブルなお値段なのでは?と思いつついったん小屋の入口あたりにリュックサックを置いてトモコさんと意見交換し、その値段なら素泊まりにしよう!と話がまとまって手続のために小屋の中に入ったところ、タッチの差で後から来た2人組の登山者に寝具なし素泊まりスペースをとられてしまっていました。そうなると残っているのは寝具付素泊まり4,500円ということになってしまいます。どうしよう?しかし、今からなら下れるんじゃないの、という他の宿泊客の無情なアドバイスに田部さんまでも「そうですよ、2人で9,000円出すくらいなら下った方がいいですよ」とおよそ商売っ気のないツッコミを入れてきました。そこまで言われたら仕方ない、下ることにするか……。このやりとりの一部始終を外にいた藪漕ぎパーティーに伝えたところ、彼らも覚悟を決めたようでした。

黒戸尾根の長い下りは何度も経験していますが今回も期待通り(?)いやと言うほど長く、なんとか明るいうちに竹宇駒ヶ岳神社まで下り着けるかなと思っていたもののわずかに届かず最後の20分ほどヘッドランプのお世話になって、どうにか駐車場に帰還できました。先に下っていた藪漕ぎパーティーの皆さんも、トモコさんも、本当にお疲れさまでした。