横岳西壁中山尾根〜小同心クラック
日程:2025/08/08
概要:美濃戸から行者小屋を経て中山尾根を登り、稜線に達したら横岳を越えて大同心ルンゼを下降。小同心クラックを登って再び横岳に登頂し、硫黄岳から赤岳鉱泉に下ってその日のうちに下山。
◎PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:横岳 2830m / 硫黄岳 2760m
同行:kusutto氏
山行寸描
本来この日はkusutto氏と北岳バットレスを登る予定でしたが、白根御池小屋までの登りの日に前線が通過して荒れ模様となる予報。登攀予定日も上空は晴れるにしても岩場は霧に覆われる公算が大なのでこの計画は諦め、トレーニング山行と割り切って八ヶ岳へ向かうことにしました。こういう場合、簡単に継続登攀を設定できるのが八ヶ岳のいいところで、冬には阿弥陀岳北稜から赤岳主稜に回ったり[1]裏同心ルンゼから大同心[2]や小同心[3]へつないだことがありますし、無雪期なら大同心の雲稜ルートと小同心クラックの組合せ[4]も登っていますが、今回は中山尾根と小同心クラックとをつないでピッチ数を稼ぐことにしました。
2025/08/08
△03:45 美濃戸 → △05:45-55 行者小屋 → △06:50 下部岩壁取付 → △09:40-10:00 稜線 → △10:30 横岳 → △11:20-35 小同心クラック取付 → △13:00-20 横岳 → △14:20 硫黄岳 → △15:30-40 赤岳鉱泉 → △16:55 美濃戸
前夜は美濃戸口の八ヶ岳山荘の仮眠室に泊まり、午前3時に起きて山荘の1階で朝食をとってから美濃戸へ移動。驚くほど荒れている道に肝を冷やしながらどうにか赤岳山荘の駐車場に車を駐めて、まだ真っ暗な中を出発しました。

行者小屋に着く頃にはすっかり明るくなっていましたが、都心の猛暑からは想像もつかないほどひんやりした空気の中、稜線付近はガスが薄くかかっている状態です。これでは岩はなかなか乾かないだろうなぁとため息混じりに見上げながら、引き続き中山乗越を目指しました。

中山乗越で登攀装備を身に着けてから、登山道を離れて尾根をぐいぐいと登ります。毎度のごとく急登に喘ぎながら踏み跡を辿り、やがて目の前に下部岩壁が広がりました。
中山尾根


無雪期の中山尾根は昨年8月に登っており、そのときは60mシングルロープだったので下部岩壁は1ピッチで登りましたが、今回はあえて50mダブルとしているので2ピッチに分け、1ピッチ目(III+)をkusutto氏、2ピッチ目(IV)を私という分担にしました。kusutto氏は中山尾根を登るのはこれが初めてながら、危なげなく1ピッチ目をリードして私の2ピッチ目につなげてくれましたが、その間に、ただでさえ岩が濡れている上にガスが下がってきてしまい、おまけに2度にわたってヘリコプターが近づいて我々を見下ろしたのには閉口しました。お仕事ご苦労さまです、しかしコールが聞こえなくなるのであっちへ行ってもらえます?

下部岩壁を終えたところでいったんロープを解き、アプローチシューズに履き替えて樹林帯の中を登って上部岩壁へ。この頃になると時折青空が頭上に広がるようになりましたが、まだ晴れたりガスったりの繰り返しです。
ルート全体の核心部とされる上部岩壁の1ピッチ目(IV+)は私の担当で、脆い小垂壁を慎重に越えてルンゼの中に入り、左の垂壁を丁寧にホールドを拾いながら登って適当な灌木でビレイ。

続く2ピッチ目はなんということもない草付きリッジの歩きです。


3ピッチ目は再び岩登りになるものの、核心部は越えているのだからと気楽に登っていたら、最後のリッジに出る手前の小ハングに取り付こうとしたところで手にしたソフトボール大のホールドがぽろっと取れてバランスを崩しかけ、冷や汗をかきました。長年にわたりたくさんの登攀者を迎えているはずのこのルートであっても、八ヶ岳特有のぼこぼこホールドは信用しきってはいけないということです。

前回はこの後に日ノ岳山頂へ直登しましたが、今回は先を急ぐ身なのでバンドを渡ってあっさり稜線に出て、まずは中山尾根登攀を終了しました。


終了点でロープやギアをリュックサックに納め、行動食をとって一息ついたら縦走開始。横岳の山頂を越えて大同心を見下ろす位置に移動し、登山道を離れて大同心ルンゼを目指します。


最初は歩き、ついでクライムダウンを重ねて大同心基部からの横断バンドに降り着き、さらにルンゼを少し下って左に草付きを登り返して小同心の基部。うれしいことに、この頃から青空が広がるようになってきました。
小同心クラック

小同心クラックも何度も登っていますが、無雪期に登るのは2019年以来です。kusutto氏もここは2回目で、前回は偶数ピッチを担当したということだったので、今回は奇数ピッチをkusutto氏に委ねることにしました。なお我々の登り方は、2ピッチ目はルートが分岐するレッジで短く切ることにしており、そこから左のクラックを抜けて小同心の頭の手前までを3ピッチ目とカウントしています。
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中山尾根もそうですが、この小同心クラックも冬にアイゼンで登っているところをクライミングシューズで登っているのですから、技術的には楽勝と言えば楽勝(最高IV-)です。とは言うものの、きつい傾斜の中でランナウトを強いられながらのクライミングとなる上に中山尾根でのホールド欠損のこともあるので、慎重にホールドを確かめながらの登攀を続けました。しかしさすがは人気ルート、中山尾根に比べればはるかにホールドが安定している感じがします。

3ピッチ目を終えて小同心の頭に出ると一気に視界が開け、そこからしばらくはロープをコイルに巻いて横岳直下までの稜線漫歩。ここは八ヶ岳の中でもとりわけ気持ちの良いところです。


横岳山頂に抜ける最終ピッチ(III-)は私の担当で、後続のkusutto氏を肩絡みで迎えたら登攀終了です。ちょうどkusutto氏を確保しているところへ来合わせた登山者は山頂の端から小同心側を覗き込んで「こんなところを登るんですか?下が見えないじゃないですか。おそろしい〜」という感想を残して足早に去っていきましたが、奥さん、できれば「すごい」「かっこいい」などの褒め言葉がほしかったですね。もっともこのピッチはまったく易しいので、全然すごくはないのですが。

横岳山頂で窮屈なクライミングシューズから足を解放し、ロープとギアをしまったら下山するばかり。大同心ルンゼから大同心稜を下れば手っ取り早いのですが、これもトレーニングの内だと地味に遠い硫黄岳を経由して下ることにしました。しかし、7月の泊付き沢登り2連発(クワウンナイ川・葛根田川)の後に持病の肩・背中痛を再発していた自分にとっては、リュックサックの重みをずっしりと感じながらの下山行程がこの日一番の苦行になってしまいました。
脚注
- ^「阿弥陀岳北稜〜赤岳西壁主稜」(2013/12/17)。
- ^「裏同心ルンゼ〜横岳西壁大同心正面壁雲稜ルート」(2018/12/09-10)。
- ^「裏同心ルンゼ〜横岳西壁小同心クラック」(2021/12/06)。
- ^「横岳西壁小同心クラック〜大同心正面壁雲稜ルート」(2006/10/14-15)。



