クワウンナイ川

日程:2025/07/11-13

概要:天人峡からクワウンナイ川を遡行し、2日目に稜線に出てトムラウシ山を越え南沼キャンプ指定地泊。3日目にトムラウシ山頂で御来光を拝んでから、化雲岳を経て天人峡へ下山。

◎PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:トムラウシ山 2141m / 化雲岳 1954m

同行:ノダ氏 / こざるんさん / ヅカ氏 / ブミ氏

山行寸描

▲〔動画〕クワウンナイ川の遡行のあらまし。(2025/07/11-12撮影)
▲トムラウシ山頂と南沼キャンプ指定地から天人峡への下山の途中で出会った風景。(2025/07/13撮影)

沢仲間のヅカ氏のクワウンナイ川プランに私も乗っかり、在道のノダ氏のサポートを得て三人での遡行を企画したものの、雨のために文字通りプランは流れてグルメ旅と白老川のショートコース3本に終わったのが昨年の夏のこと。捲土重来、1年たってあらためてプランを再起動することになりました。今回は東京側からブミ氏が加わり、北海道側ではノダ氏の友人の岳人こざるんさんも加わっての5人パーティーです。

実は、当初の計画ではクワウンナイ川を遡行したら主稜線を越えてワセダ沢を下降し、地獄谷に幕営した後に化雲沢など適宜の沢を遡行することになっていて、過去にクワウンナイ川を遡行したことがある自分にとってはそちらの方にポイントがあったのですが、こざるんさんから直近の残雪情報が提供されてこのプランは没になってしまったため、シンプルに「クワウンナイからのトムラウシ登頂」という山行になりました。さらに言うなら、自分にとっては「19年ぶりのクワウンナイから35年ぶりのトムラウシ登頂」です。

2025/07/11

△06:30 化雲岳登山口 → △07:10 入渓点 → △13:30 カウン沢出合

東京組は前日の夕方に各自渡道し、ノダ氏に出迎えてもらって車で天人峡温泉へ移動。かつては温泉地として栄えた天人峡温泉も今は旅館「しきしま荘」1棟を残すだけの寂しい状態だそうで、我々はその手前にある駐車場で一夜を過ごしました。

朝、車中泊していたこざるんさんと初対面の挨拶を交わし、身ごしらえをして出発。地獄谷に行かないことになったためにこの日の泊まり場をカウン沢出合としているので、のんびりモードでOKです。柱状節理の岩壁に囲まれた忠別川沿いの道を下流方向へ少し移動し、かつての林道の入口で「クワウンナイ川への入渓について」5箇条を再確認したら草むす道形を進み、適当なところからクワウンナイ川に降りました。

いよいよ入渓!……ではありますが、この日の行程はあまり面白みのない河原歩きに終始します。ところどころで右に左に川を渡りながらひたすら上流を目指していると懐かしいS字状ゴルジュが現れて、前回は左(右岸)の高いところを巻きましたが、今回は水面からあまり離れない高さでのトラバースでここを突破しました。

その後はひたすら河原歩きと渡渉の繰り返し。渡る場所を選べば水位はおおむね膝上程度で済みますが、それでも水圧は強く、うっかりしていると身体を持っていかれそうになります。ロープを出したりスクラムを組むほどではありませんでしたが、それでも紅一点で身体が軽いこざるんさんがバランスを崩したときは緊張しました。上流に進むにつれて主として左岸にしっかりした岩場も出てくるので、そうしたところでは渡渉ではなくへつりを選択する方がむしろ安全です。

入渓してから6時間あまりで、この日の泊まり場となるカウン沢出合に到着しました。19年前に泊まったのは左岸の林間の広場のようなところでしたが、地形が変わったのか場所が違うのか、その広場は見つけられなかった代わりに二俣に面した小高い位置にテント4張り分の整地された場所が見つかり、ここでリュックサックを下ろすことにしました。

2025/07/12

△06:30 カウン沢出合 → △07:15 魚止ノ滝 → △08:45 滝ノ瀬十三丁の終わり → △12:25 源流のカール → △13:30-55 登山道 → △15:20-45 北沼 → △16:25-35 トムラウシ山 → △17:05 南沼キャンプ指定地

この日ものんびり5時起床、6時半出発。早朝にヒグマが活動する一方、午後になっても積乱雲が発達することは少ない北海道の山では、遅立ち遅着きがセオリーです。もっとも、夏の北海道の朝は早く3時半にはもう明るくなっていますから、さすがにこれはのんびりしすぎだったかもしれません(汗)。

昨日に比べ川幅が狭まった中をごろごろの岩を越えたり渡渉したりを繰り返して上流へ進むと、さほどの時間がかからずに魚止ノ滝に到着しました。ここからがクワウンナイ川の楽しいところです。

魚止ノ滝は水量豊富で直登は困難。今夜の泊まり場が稜線上になるため、その寒さを考えると極力衣類を濡らしたくないという思惑もあって、右からの巻き道で簡単に巻き上がりました。

魚止ノ滝の上のナメ滝を右から回り込むようにして進むと、朝日の中にキラキラと輝く10mスダレ滝が現れます。ここは左端のコンタクトラインが階段状になっており、ヌメりに気をつけながら登ります。

10mスダレ滝の上の大きな釜を前に置いたナメ滝を右から越えると、いよいよ高速道路にも譬えられる直線的なナメが現れました。この光景に初めて接するヅカ氏とブミ氏は大感激で、その高揚した様子を見るとこちらまでうれしくなってきます。お約束の横一線ポーズで記念撮影したら、各自好き勝手にナメの上を歩きました。

ひとしきりナメを楽しんだ後に5m幅広スダレ滝が現れ、この上で左に沢筋が折れた先に二俣があってそこで休憩をとりました。しかし、これで「高速道路」が終わったと思ったら大間違い。滝ノ瀬十三丁と呼ばれるクワウンナイ川のナメは、むしろここからが本番です。

このナメを歩き通すのに要した時間は30分ほど。途中で記念撮影したり、ところどころの花を撮ったりしていた時間も含むものの、それでも十分ナメを堪能したと言える長さです。ちなみに私はフェルトソール、残りの4人はラバーソールでしたが、ところによりフェルトの方に優位性があるものの、ラバーでも問題なく歩けていました。特に苔が絨毯のようになってナメを覆っているところでは、そのふかふかの苔がかえってよいフリクションを提供してくれて、その感触だけで楽しくなってきます。

さしもの滝ノ瀬十三丁も最後のナメ滝の上で終了し、そこからしばらくはゴーロ帯となります。それにしてもこの滝ノ瀬十三丁の歩きが好天に恵まれたのは幸いでした。きっとメンバーの誰かの普段の行いが良かったおかげだと思いますが、基本的に雨男である自分がその「誰か」ではないことには自信があります。

ゴーロ帯をしばらく進むと高さのあるハング滝が現れます。先頭を進んでいたヅカ氏は左岸上方に見えている段差を越せるのではないかと踏んで草付きの斜面を登っていましたが、正解は右岸。滝に向かって左側になだれおちているガレ場を登り、滝を作っている壁の下を踏み跡に従って滝から遠ざかる方向にトラバースしていくと、頭上にフィックスロープが現れます。このパートでは先頭になった私が念のためロープを出してもらってここを登り、真ん中の3人はロープをフィックスしてのプルージック登攀、最後のこざるんさんはビレイしていずれも難なくここを通過しました。このフィックスロープは下からでは見えない位置にあり、そこに至るガレ場にもこれといった目印はありませんが、19年前の自分はどうやってこのフィックスロープを見つけたのか?と不思議に思い当時の自分の記録を読み返すとハングした10m滝は左に道がついておりと書いているので、ガレ場からさらに滝に近づくと巻き道の始点があったのかもしれません。

ハング滝の先の二俣は左滝の右側の踏み跡を登り、その後次々に登場する滝はいずれも容易に巻いたり直登したりすることが可能です。しかも、滝登りが楽しいばかりでなくその周囲にはさまざまな花が群落を作るようになって、つい写真を撮ってしまうのでなかなか足が進みません。

やがて登り着いた源頭部は、前回来たときは流水がなくて泊まることをためらうような場所でしたが、この時期は雪渓からの水が流れていて澄んだ水を得ることができ、チングルマやハクサンイチゲ、エゾコザクラ、それにアオノツガザクラに囲まれてすてきな幕営地でした。しかし、この時点ではまだお昼過ぎ。テントを張るには早すぎるし、翌日トムラウシ山頂を目指すには遠すぎるので、今回の山旅ではここに泊まるという選択肢はありません。

はるばる来ぬるものかな……と来し方を振り返りつつ、登山道を目指してさらに登りを続けます。

穏やかな源頭部と登山道との間には巨岩が積み重なった地帯が続き、意外に体力と神経とをすり減らします。それでも我慢の歩きを1時間ほど続けて、ようやく飛び出した登山道は天沼の南の鞍部でした。

ここから先は一般縦走路を使った通常の登山になります。まず向かった先は北沼ですが、そこまでの標高差150mの登りは、ペンキマークが乏しいゴロゴロの大岩の上をバランスを保ちながら登らなければならない区間もあって容易ではありません。「ロックガーデン」という楽しげな呼び名からは想像しにくいその悪さに我々は「なんでこんなにペンキが少ないんだ」「(バリエーションの心得のない)登山者にはちょっと厳しくないか?」などと口々に悪態(?)をつきながら登りました。

ようやく着いた北沼は穏やかな様相で、右に見える雪渓の手前にはエゾコザクラのピンクの絨毯やチングルマの白い絨毯ができています。しかし2009年のトムラウシ山大量遭難事故の際には、この北沼の水があふれて登山道上を東(写真左)へまたぎ越す川ができており、その渡渉に時間がかかったことが惨事の要因の一つだったということをこざるんさんが教えてくれました。

この日最後の登りは、北沼からトムラウシ山頂への標高差150mです。初めてこの山頂に立ったのは1989年、旭岳からの縦走の終点としてでしたし、2回目はその翌年、ここから富良野岳までの単独縦走の起点としてでした。

トムラウシの山頂に立ったときは、さすがに久しぶりすぎて懐かしいという感情は湧きませんでしたが、そこからひと下りした南沼キャンプ指定地に降り立ったときは、なんとも言えない感慨が込み上げてきました。もっとも35年前に泊まったときとは異なり、今回は季節が3週間ほど早いためにキャンプ地全体がチングルマのお花畑に囲まれ、またキャンプ地上部に雪渓が残っていて流水が得られるので少し離れた場所にある南沼まで水汲みに行かなくてもすむのはありがたい点です。さらに、携帯トイレブースが設置されていて環境を汚染せずにすむことも、前回とははっきり違う点でした。ともあれキャンプ指定地の一角にテントを張り、沢靴を脱いだら待望の寛ぎタイム。ご近所のテント主の皆さんとの四方山話に花を咲かせながら、まったりとお酒を飲みました。

2025/08/11

△02:50 南沼キャンプ指定地 → △03:25-04:15 トムラウシ山 → △04:40-05:45 南沼キャンプ指定地 → △06:15 北沼 → △07:35-45 天沼 → △09:20-45 化雲岳 → △13:00-20 第一公園 → △15:55 化雲岳登山口

この日は下山の日ですが、まずは御来光を拝むために2時半に起床し、湯を沸かしてコーヒーを飲んでから、デイパックに貴重品と飲み物だけを入れてトムラウシ山頂へ向かいました。

山頂には一番乗りとなり、すでにピンク色に染まり始めている旭岳やまだ暗く沈み込んでいる十勝岳を眺めながら日の出を待ちました。上空は雲に覆われていますが、地平線方向はどちらも見通しが利き、まるで北海道のあらゆる山が視界に入ってくるようです。そうこうしているうちに次々に登山者が山頂に到着して、山頂は徐々に賑やかになってきました。

日の出が近づくにつれて、沼ノ原の湖面が輝くのが見えるようになりました。するとその右向こうの大きな山塊はいつか登りたい石狩岳、左奥はニセイカウシュッペから平山を経て武利岳あたりに違いありません。そんな具合に山座同定をしているうちに、ついに武利岳と石狩岳の間から赤い円盤が雲の中に浮かび上がり、目に見える速さで高度を上げると共にあたりが明るくなっていきました。

日の出直後のトムラウシ山頂。昨日に続きこの日も好天に恵まれましたが、我がメンバー5人のうち御来光を拝みにここへ上がってきたのは私だけだったので、今日ばかりは自分の行いの良さのおかげだと自負しても良さそうです。

さてテントに戻るかと南西方向を見ると、十勝連峰の右側に影トムラウシができていました。そしてこうして見るとオプタテシケ、美瑛岳を経て十勝岳へと続く縦走路はあまりにも長く遠く、いくら若かったとは言え35年前によくここを縦走したものだと、自分で自分に感心してしまいました。

テントに戻り、カップラーメンで手早く朝食をとってから朝のお勤め@携帯トイレブース。そしてテントを畳んだらお花畑の中を通り抜けてトムラウシ山頂部の西面をトラバースし、北沼で昨日歩いてきた縦走路に戻ります。

相変わらず歩きにくいロックガーデンを慎重に下り、昨日クワウンナイ川から登り着いた鞍部を越えてひと登り。この日のこの時間帯は縦走路を行き交う登山者の数が多く、中にはこざるんさんのガイド仲間に引率されたパーティー(複数)もいたりして、この山域の人気の高さを実感しました。

お花畑に囲まれ木道も設置されている天沼は、その名の通り天国のように美しいところ(天国を見たことはまだありませんが)。ここでリュックサックを下ろして休憩している登山者も少なくありません。

これまた懐かしいヒサゴ沼を見下ろしてからさらに進んで、化雲岳山頂を目の前にして振り返り見ると、いつの間にかトムラウシはずいぶん遠くなり、その左にニペソツとウペペサンケが見えていました。ウペペサンケも石狩岳と共に、いつか登りたい山の一つです。

どっちを向いても山だ!と喜ぶこざるんさん。十勝連峰の右には夕張山地の芦別岳も見えていますし、トムラウシの左のはるか彼方には日高の山々も見えているのだそうです。

化雲岳の山頂には「カウンのへそ」と呼ばれる岩塔があります。まずはこざるんさんとヅカ氏、次にブミ氏と私。交代でそのてっぺんに登って、360度の展望を楽しみました。そしてこの上から四囲を眺めると、ここは「カウンのへそ」であるだけでなく「大雪のへそ」であることがわかります。

化雲岳から天人峡へと下る道は、最初は緩やかに下って緩やかに登り返します。足元には本州の山では考えられないほどごく普通にコマクサが咲き広がっており、つい視線を落としがちになりますが、ここで来た方角を眺めれば、我々が昨日登り着いたクワウンナイ川の源頭部を大きな窪地の一角として見下ろすことができました。

小化雲岳の手前にあるなだらかなピークからのトムラウシが、この立派な山の最後の眺めです。さようなら、トムラウシ。

天人峡温泉までの下り道はだらだらと長く、強い日差しにも炙られて我慢を強いられます。途中で潤いをもたらしてくれるはずの第二公園はすっかり乾燥化が進んでいましたが、長い木道が走る第一公園はかろうじてワタスゲの草原になっており、角度が変わって爆裂火口が見えるようになってきた旭岳を眺めながら大休止をとることができました。

やっとの思いで辿り着いた滝見台でベンチにへたり込み、羽衣の滝を眺めてしばし休憩の後、涙壁と呼ばれる絶壁の中に付けられたつづら折れの道を激下り……と思っていたのですが、この道は意外に歩きやすく、予想外に早く登山口に降り立つことができました。

▲山行中に出会った花々(同行者が撮影した写真を含みます)。
▲最盛期のチングルマの群落をこの規模で見たのは、もしかするとこれが初めてだったかもしれません。他にも可憐な花々がたくさん咲いており、この時期に山行を実施したことは、こと高山植物鑑賞という観点からは正解だったと言ってもよさそうです。

下山後、「森のゆ ホテル花神楽」で入浴してすっきりさっぱりしたところで、こざるんさんとはお別れ。さらに旭川市内の宿に運んでもらったところで、ノダ氏ともお別れです。お二人には渡道前の計画段階での情報収集から入林届の提出、共同装備の手配、交通手段の提供に至るまで、あらゆる面でたいへんお世話になりました。ありがとうございました。このご恩返しにできればまた来年ご一緒したいと思いますが、そのときは今回のようなグラビア山行(笑)ではなく、お二人にとっても有意義で刺激のある山行プランを組み立てたいものです。