裏同心ルンゼ

日程:2024/12/16-17

概要:初日は美濃戸口から赤岳鉱泉を経由して裏同心ルンゼF1で練習の後、赤岳鉱泉泊。翌日、裏同心ルンゼを詰めて大同心稜を下り美濃戸口へ下山。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:クス氏

山行寸描

▲裏同心ルンゼF5。よく太ってフレンドリーな姿をしているが、これを越えた先で寒風に叩かれた。(2024/12/17撮影)

今年の1月に岩根山荘での講習会に参加してアイスクライミングに目覚め、2月にひょんなことから私とのつながりができたクス氏を誘って、彼のアイス2シーズン目の皮切りとして選んだ行き先は、勝手がよくわかっている裏同心ルンゼ。ここには10日前にも偵察的に入っていますが、その後さらに氷が太って登りやすくなっているという情報を得てのセレクトです。プランとしては赤岳鉱泉泊の1泊2日とし、初日は裏同心ルンゼのF1にトップロープを張って練習、そして2日目に裏同心ルンゼを抜けて大同心稜を下降する計画としました。

2024/12/16

△08:45 美濃戸口 → △11:40-12:10 赤岳鉱泉 → △12:40-14:40 裏同心ルンゼF1 → △15:05 赤岳鉱泉

6時半に高尾山口駅前でクス氏と待ち合わせ、雲一つない空の下、中央自動車道を快調に進んで甲府盆地を囲む雄大な山々の景色に見とれながら八ヶ岳の懐へと入って行きました。

クス号のスペック上、美濃戸まで入るのはリスキーだろうと判断して久しぶりの美濃戸口からのスタート。ここまでは快晴だったのですが、前回ここに来たときと同様に八ヶ岳の上にはそこだけ雪雲がかぶさっていて、赤岳鉱泉に着いたときには空は冷たく白いガスに覆われていました。

裏同心沢に入ってみると10日前とは打って変わって豊富な積雪に沢筋が埋められており、そこに歩きやすい踏み跡がつけられていました。これ幸いと奥に進むとF1には2人パーティーと単独の合計3人の先行者がいましたが、いずれも上へ抜ける様子なので彼らが滝の上に姿を消すのを待ってトップロープを張り、アックスの使い方やスクリューの取り回しの練習をしました。特にスクリューの回収は重要で、これが円滑にできなければ明日の計画は変更を余儀なくされてしまうのですが、クス氏はこれがアイス2シーズン目の初っ端とは思えないほどスムーズに課題をこなしてくれました。よしよし、これなら安心だ。

……というわけで、赤岳鉱泉にチェックインしたら夕食までの間にワインで前祝い。そしてディナーは赤岳鉱泉名物のステーキで、すっかり満腹になって早々に就寝しました。

2024/12/17

△07:10 赤岳鉱泉 → △10:15 裏同心ルンゼF5の上 → △11:35-12:05 赤岳鉱泉 → △13:50 美濃戸口

10時間以上も眠ってからの朝食の後、外が明るくなるのを待って7時すぎに出発しました。今日も空はどんよりと曇っていますが、気温はむしろ高く、寒さに悩まされることはなさそうです。

F1に着いてみると赤岳鉱泉を我々よりほんのわずかに早く出発していた3人パーティーが準備中でしたが、よく見ると引率しているのはJAGUのTガイドでした。そのことに気づいて声を掛けたのはクス氏の方で、彼が岩根山荘の講習会で指導を受けたのもTガイドだったそう。ともあれ、Tガイドに続いてクライアント2人が右寄りの凹角を登り切ったことを見極めてから、我々は左寄りの緩傾斜を使ってF1を抜けました(以下、全ピッチ私がリードです)。

F2ではTガイドが上段の手前でピッチを切っていたので少し待機時間が生じましたが、お湯を飲んで身体を温めているうちにクライアントも登り始め、しかもいとも簡単にあの滝を越えていく様子を下から見て少々驚いてしまいました。それと言うのも10日前にこのF2を登ったときは上段の氷が薄くてセキネくんですら慎重に登っていたからなのですが……。

そこに着いてみるとF2上段の滝の形状はすっかり変わってしまっており、上の写真右寄りの水っぽい氷の凹角を使えばアックスが刺さりやすい上にステミングで容易に身体を上げていくことができて、まるで拍子抜けでした。

F3も氷がしっかりしており、そこに先人が作ったアックス痕やスタンスが散りばめられていてこれまた容易です。

F3の上から振り返ると水平方向には青空が広がっており、かたや前方を見るとほとんど雪に埋もれたF4の向こうはガスのために視界が悪く、これらのことからやはり雪雲が八ヶ岳の上だけを覆っていることがわかります。それにしても不思議なのは、先行していたはずのガイドパーティーの姿が前方に見えないこと。おそらくF2の上で分かれる左(右岸)の支流にあるという直瀑に向かったのかと思いますが、いずれにせよここから先は我々がこの日最初の(もしかすると最後の)本流登攀者ということになりました。

前回はF3の上から下降したために対面することができなかったF5に、今回は挨拶することができました。氷は申し分なく発達していて、その中央から左上方向に先人の痕跡があり、私もその跡を忠実に辿ってF5の上(右岸)のハンガーボルトに確保支点を作りました。

ここまで順調にフォローしてきていたクス氏もF5の落ち口を越えるところでは苦労するかな?と思いながらタイトにビレイしていたのですが、予想に反してクス氏はここをすんなりとクリアしてしまいました。斜度がきつい氷瀑ではえてして落ち口の乗っ越しが緊張するものですが、そういう様子を微塵も見せなかったクス氏には脱帽です。さて、いつものとおりであればF5の右上に続く枝ルンゼをおまけのアイスとして登るところですが、見上げたところほとんど雪に埋もれてしまっているのでこれはパスし、クス氏にはそのままルンゼの少し先まで進んでもらって、安定した場所に着いたところでロープを解くことにしました。

ルンゼを離れて大同心の基部を大同心稜に向かって登るあたりから、はっきりと強くなった寒風が我々を叩き始めました。これこれ、やっぱり冬山はこうでなくては。もっとも耐風姿勢をとるほどのことはなく、慎重に足場を選んで高さを上げていき、やっと大同心稜の踏み跡に辿り着いてほっとしたとき、それまでガスに包まれて姿を見せてくれていなかった大同心がご褒美のように一瞬だけ、氷の鎧をまとった全貌を現してくれました。

赤岳鉱泉に戻り、初めてのアルパインアイスをそつなくこなしたクス氏に握手を求めたところで無事に登攀終了です。装備一式をリュックサックに納めた我々は、帰路の途中で山の神に守護いただいたことのお礼を申し上げつつ、八ヶ岳山荘の山賊焼定食が待つ美濃戸口を目指しました。