飯士山〔負欠スラブ〕

日程:2024/09/30

概要:飯士山の北西登山口から尾根コースに入り、途中で登山道を離れて負欠スラブを登り、負欠岩に達する。負欠岩にも登った後、飯士山の山頂まで上がってから尾根コースを下って起点に戻る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:飯士山 1111m

同行:アユミさん / フジミさん

山行寸描

▲負欠スラブを登る。左上に見えている岩塔は負欠岩。(2024/09/30撮影)

この週末は立山方面へ遠征の予定でしたが、毎度のごとくお天気不調につきプランを短縮して、前々から日帰り山行候補地として認識していた負欠おいかけスラブを目指すことにしました。負欠スラブは越後湯沢の東にある低山・飯士いいじ山の西面の中腹に広がるスラブで、全体に斜度は緩くフリクションも利き、その左の尾根上に突起となっている負欠岩とセットでの易しいアルパインルートとして登られることが多いことをネット上の記録で見ており、機会があれば登ってみたいと思っていたものです。ご一緒するのはジム仲間・沢仲間のアユミさんと、山岳医療というキーワードでアユミさんと接点があるフジミさん。フジミさんはその著書を読んではいましたが、実際にお目にかかるのは初めてです。

2024/09/30

△09:15 駐車スペース → △09:50-10:00 負欠スラブ入口 → △13:30-14:45 負欠岩 → △15:30-40 飯士山 → △16:30 負欠スラブ入口 → △16:55 駐車スペース

群馬県内では空はどんより曇って道路も濡れていたのに、関越トンネルを抜けて新潟県側に出るととたんに青空が広がって一同びっくり。これはクライミング日和だぞとこのときは無邪気に喜んだのですが……。

ありがたいことに麓からずっと舗装路が続いてしゃれた廃屋のある駐車スペースに達することができ、ここで身繕いをしたら車道を少し戻ったところにある五十嵐口登山口から山道に入ります。ちなみに飯士山への登山道は複数あって、山頂の南東にある岩原スキー場などからの道は比較的登りやすいようですが、こちらの登山道は筋金入りの急勾配であることを後で思い知らされることになります。

登山道はわずかの登りで負欠岩コースと尾根コースに分かれます。我々が向かう負欠スラブは尾根コースの途中から取り付くことになるのでここは後者を採りましたが、この分岐までは杉の植林帯であったのに対し、ここから先は明るいブナ林の中の道になりました。

炭焼窯跡を横目に見ながら沢筋をいくつか渡った先に「負欠スラブ」と書かれた木の看板が出てきて、これは見逃しようがありません。まずはここでヘルメットをかぶりハーネスを身につけたものの、あたりに漂う強い獣臭には閉口しました。どうやらこれはクマが潜んでいるということではなく、動物の屍体が近くの藪の中にあって臭いを発しているようです。

看板から少し奥に進むと、目の前に想像していたよりも大きな負欠スラブが広がりました。ただ、あいにく中央部は染み出しでびしょ濡れ。登るなら左端か右端から取り付いてこの濡れたパートを迂回するしかなさそうで、左右を見比べたところでは右端から登る方が灌木で早めのランナーをとることができそうです。

そんなわけでスラブの右側でロープを結びいよいよ離陸ですが、私は3週間前の尿前川本沢での負傷の影響がまだ残っているので、今回はレディお二人にリードをすべて委ねることにしています。それにしても出だしの岩に赤ペンキで薄く書かれているバッテンは何を意味するのだろう。こっちから登るなということ?しかし、これに気づいたときにはリードのアユミさんはすでにテイクオフしており、灌木をつなぎながらスラブの右端を登っています。アユミくん、頑張ってくれたまえ。

1ピッチ目(25m):アユミさんのリード。地形的に先行きの見通しがあまりきかないので、短めにピッチを切って適当な灌木で支点構築。乾いたところはフリクション良好ですが、使いたいと思う凸凹に苔が貼り付いていたりするので一歩一歩慎重に。

2ピッチ目(25m):アユミさんのリード。目の前の岩を向こう側に回り込み、弱点を選んで一段上へ上がって再び灌木ビレイ。この段階から早くも目指す負欠岩が存在感を発揮しだします。

3ピッチ目(50m):アユミさんのリード。ここも出だしはほぼ水平にトラバースし、向こうに見えているブッシュでランナーをとったら直上です。ようやく乾いた岩に恵まれるようになってきました。

下を見ると湿ったスラブが広がり、とてもあの中を登る気にはなれません。一方、中間支点の位置から上は乾いた階段状のスラブになっていて、これならランナウトも気になりません。

4ピッチ目(45m):リードを交代してフジミさんのリード。引き続き、残置ピンに頼らず(そもそも残置ピンは皆無)自分の観察力を信じてのクライミングが続きますが、すでに負欠岩が左に見える位置まで高度が上がっているので、ここからは左トラバースを意識しながらロープを伸ばすことになります。

5ピッチ目(40m):フジミさんのリード。ずいぶんヤブヤブしてきました。

ところが、このピッチでは途中の岩にRCCボルトとリングボルトが打たれていました。さらにその先、フジミさんが確保支点を作った小岩にもリングボルトあり(それでもフジミさんは灌木を使ってビレイしています)。このスラブをゲレンデにしている地元の山岳会が設置したのかな?たぶんスラブの真ん中を登ってくれば要所にこうしてボルトが打たれているのでしょうが、我々は右側から大きく弧を描くようなラインどりだったので、かえって残置ピンファインディングに堕することがなかったというわけです。

6ピッチ目(40m):フジミさんのリード。負欠岩がぐんぐん近づいてきます。

このピッチの途中にもリングボルトが残されていました。スリングでつながった2個のリングボルトのうち片方は抜けてぶら下がっている状態ですが、これはおそらく先ほどのリングボルト+RCCボルトの位置から1ピッチ分の距離にあることを示しているのでしょう。そしてここからならさらに1ピッチで負欠岩まで到達できるのかもしれません。しかし我々のピッチの切り方はこうした残置ピンを無視したものになっているため、このピッチで負欠岩に到達することはできませんでした。

7ピッチ目(25m):フジミさんのリード。途中でランナーをとることができず、完全にランナウトしてしまいましたが、フジミさんは落ち着いてそう簡単ではないこのセクションをこなした上で、負欠岩の直下にある灌木に確保支点を作成しました。

オールフォローですっかり楽をさせてもらいましたが、それでも楽しかった(しかし久々のクライミングシューズが爪先に痛かった!)負欠スラブの登攀はこれで終了です。アユミさん・フジミさん、ナイスリードでした。ところで気になるのは負欠岩のスラブに面した側の足元に立つ石碑ですが、確保なしにこれを見に行くのは避けたい感じ。そしてすでにロープは畳んだ後なので、些か心残りではあるものの石碑チェックは諦めました。

負欠岩の左側には登山道が走っており、フィックスロープをつかみながら負欠岩の山頂側に回り込むと安定したテラスがありました。ここで行動食をとってから負欠岩を登ることにしましたが、山頂側から見て右の垂直のフェースにも左のかぶったラインにもハンガーボルトが打たれており、手練れのフリークライマーがこの岩をクライミングの対象としていることは一目瞭然です。しかし私もフジミさんもそんな極道ルートにはさらさら興味がなく、アユミさんに懇願して最も簡単なリッジ上のラインにトップロープを張ってもらいました。

アユミさんが難なくリードで登った後、私・フジミさんの順にTRで登り、最後はアユミさんがアプローチシューズで登って自前のスリングを回収。要所にガバがありフリクションもいいので確かに易しく、リードしたアユミさんからは5.6くらいではないかという御託宣がありました。

負欠岩クライミングを終えたら飯士山の山頂を目指すばかりなのですが、右手に広がる負欠スラブの上部が気になってしかたありません。多くの記録では負欠スラブの登攀のゴールを負欠岩としているので我々も最初からそのつもりで登り続け、そして登り終えたのですが、実際には負欠岩の高さよりもはるかに高いところまでスラブが続いていてこれを登らないのはいかにももったいないし、後で調べてみたら実際にスラブをずっと登り続けている記録も存在します。もし次にここに来る機会が得られるなら負欠岩をスルーして登れるところまでこのスラブを登り、厳しくなったらすぐ左の登山道に逃げるという作戦を考えようと思いますが、その場合には念のためボルトキットを持参する必要があるかもしれません。

負欠岩から山頂に向かう登山道は「これが本当に一般登山道か?」と思うほどの急な尾根道になっており、しかも「今は本当に9月末なのか?」と疑いたくなるほどの気温の高さで汗だくになってしまいました。そんな具合にひどく消耗しながらもどうにか到達したピークは飯士山の西のピーク(西ノ峰)で、不動明王らしき石仏の向こう側には魚沼の平地の眺めが広がっていました。

西ノ峰にリュックサックをデポしていったん鞍部に下り、登り返すとわずかで飯士山の山頂です。ここには山頂標識や方位盤があり、また各方面からの登山道が上がってきていました。

飯士山の山頂の眺めのなかなかのもので、ことに谷川岳から西へ伸びる国境稜線の山々が見事です。なかなか収まらない気温の高さには辟易するものの、飛び交うトンボの姿に秋の気配を感じてから、山頂を後にしました。

西ノ峰から下った尾根コースは、先ほど登った負欠岩コース(上部)に負けず劣らずの急斜面で、フィックスロープの助けを借りながらぐんぐん高度を下げていきました。しかし、やがて傾斜が緩んで右に回り込むようになったら「負欠スラブ」の標識がそこにあり、後は穏やかな登山道歩きを続けて起点に帰り着くことができました。

駐車スペースに降り着いたところで初めて気がついたのですが、ここから負欠岩がはっきりと見えていました。さらに下界に降りても飯士山と負欠スラブの姿はよく見えており、その特徴的な姿を見れば西ノ峰の石仏や負欠岩の石碑など、宗教的なモニュメントがそこに設置されるのも納得です。

汗だくになった身体を鄙びた「山の湯」での入浴でさっぱりさせ、谷川岳PAのもつ煮定食でカロリー補給をして、これでこの日のミッションは終了です。そして幸いなことに登りの高速道路は渋滞もなく、おかげで思ったよりも早い時刻に帰宅することができました。アユミさん・フジミさん、お疲れさまでした。また次の機会もよろしくお願いします。

帰宅した翌日に鏡を見てびっくり。身体の前面の数箇所にダニに喰われた跡が散らばっており、痒みに加えてその夜から発熱も生じてしまいました。迂闊と言えば迂闊ですが、藪漕ぎ必至のこのルートでは、首周りをバンダナ等で固め、手首もしっかり閉めてダニ害を防がなければならなかったようです。