天狗山ダイレクト
日程:2024/05/12
概要:川上村のナナーズから見上げられる天狗山のマルチピッチルート「天狗山ダイレクト」(トポでは12ピッチ・最高ピッチグレードV-)を登る。
⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:天狗山 1882m
同行:ミホさん / クス氏
山行寸描
◎「男山ダイレクト」からの続き。
2024/05/12
△07:25 馬越峠 → △07:55-08:00 分岐 → △08:15-40 取付 → △13:55-14:00 天狗山 → △14:15 分岐 → △14:45 馬越峠
天狗山ダイレクトは男山ダイレクトよりワンランク難しいので、男山で二人が苦労するようなら廻り目平に転進することも考えていたのですが、昨日の様子なら大丈夫だろうと判断してこの日は予定通り天狗山を目指すことにしました。なお天狗山ダイレクトには2020年に登っています(したがって昨日同様に以下の記述も簡素なものにとどめます)が、そのときは難しいピッチをすべて相方のセキネくんがリードしていたので、今回はそれらも含めてオールリードする点に自分にとっての動機がありました。
登山口がある馬越峠に着いてみると昨日とは大違いのどんよりした空模様で、しかも冷たい風が強く吹いておりまるで晩秋のような風情。昨日は長袖Tシャツ1枚で歩けましたが、今日はソフトシェルの下にダウンのベストを着込んでちょうどいいくらいの寒さでした。
登山口からしばらく急登をこなし、さらに尾根上を西へ緩やかに登っていくと、南側が開けた場所から目指す天狗山ダイレクトの岩稜の全貌が目に入ります。よく見るとその末端に動く者の姿があり、どうやら既に先行パーティーが天狗山ダイレクトに取り付いている模様。早い!
さらに尾根上を進んで、岩場の下りに補助ロープが設置されているところから左(南)にロープをくぐって10分あまりも下ると、踏み跡が右に分かれた先にケルンがあって、そちらに進めばすぐに天狗山ダイレクトの取付です。ところが……。
そこにはこれから登ろうとする2パーティーの姿がありました。うち1パーティーは既にリードが1ピッチ目を登り終えるところでしたが、先ほど尾根上から先行パーティーの姿を見てからここまでに20分ほどはたっていますからあのパーティーではないはず。だとすると我々の前に少なくとも3パーティーはいることになります。今日の天狗山ダイレクトは大人気だなと思いながらここで身支度をして、2パーティー目のフォローが登り始めたら我々もロープを結び、彼らの後を追いました。
階段上の1ピッチ目に続く2ピッチ目は顕著な岩塔の左に回り込み、少々脆い壁を登って岩塔の上に立つやや難しいピッチです(上の写真は先行パーティー)。ここでは岩塔手前のリッジ上で木の幹にスリングを回し、さらに岩塔上部のフレークにカムを二つセットして万全を期して登りましたが、以前登ったときに感じたほどには脆さがなかったので、もしかすると多くの人を迎える中で不安定なホールドが自然に除去されていったのかも?それでもピッチグレードとしてはIV+と見るのが妥当な線だと思いました。また、前回はここをリードしたセキネくんがその先のリッジの適当なところまでロープを伸ばしましたが、今回は後続のミホさんとクス氏が登るところを上からサポートしたかったため、岩塔の上に立つしっかりした松の木を使って短くピッチを切りました。
3ピッチ目は簡単なリッジを奥の壁まで。ここで後続の二人パーティーが追いついてきたので、壁の前で先を譲りました。話を聞くと二人も昨日男山ダイレクトを登っており、山頂から我々の姿を見ていたのだそうです。そんな彼らも昨日とは大違いの寒さをぼやいていましたが、足回りはアプローチシューズのままで、ロープも短めのシングルでコンテを多用している様子だったので、あるいはガイドパーティーだったのかもしれません。
速い二人組が目の前の壁を登り切ったところで私も離陸。この4ピッチ目は前回もリードしているので迷うこともなく、出だしの数メートルを慎重にこなして途中の小灌木にスリングをタイオフ、さらにその上のクラックにはカムも決めてここを越えました。
4ピッチ目を終えたところから先にもしばらく岩稜が続いているので、ここまでと同様にビレイしてもらってロープを引き始めましたが、これは失敗でした。
ここから次の岩壁までの間(便宜上「5ピッチ目」とします)は、すぐに林間の安定した歩きになる上にそこそこ長いので、少なくとも岩稜部分が終わって林の中に入ったらロープをコイルにするなどしてから一緒に歩く方が時間短縮になったはずです。しかしこの頃から吹きつのる風がコミュニケーションを難しくする中で「どうせ大した距離ではないのだから」と割り切ってずるずるとロープを引き続けたところ、踏み跡はかぶった岩の右を抜けて「門」と呼ばれるチムニーのある壁の前に通じていました。
前回フォローながら嫌らしいものを感じたこのチムニーの右側のフェースは、リード(6ピッチ目)してみるとスタンスが外傾していたりホールドの向きが良くなかったりとますます難しく感じましたが、それでもじわじわと高さを上げてから左足を伸ばしてチムニーをまたぐことができてしまえば、態勢が安定してぐっと登りやすくなります。
自分にとっては核心部になるだろうと思っていたこのピッチを終えたらすぐ目の前にIII級程度の壁(7ピッチ目)が立っていますが、こちらは右寄りから取り付いたところホールドも灌木もぐらぐらしていて少し肝を冷やしました。
8ピッチ目は易しい岩稜歩きで、ここもロープをずるずる引くのではなく巻いて短くしてから歩くべきでした。そんな具合にのんびり時間を使っているにもかかわらず、前方の三段岩壁まであとわずかという場所に着いてみると、そこには4ピッチ目の壁の前で先を譲った速い二人組が風を避けながら待機していました。聞けば彼らはここで1時間も先行パーティーが抜けるのを待っているのだそうで、確かに岩壁の上の方には先行パーティーの姿がありました。しかし2ピッチ目での登り方を見た限りではそこにいる二人組はむしろ速そうだったので、それよりもさらに前にいるパーティーが時間をくったのではないか?などと思いながら、こちらも速い二人組の後ろで寒風を避けつつ順番が来るのを待ちました。
どうやら上が空いた様子に速い二人組が動き出し、そのセカンドが三段岩壁の1段目を登っていったら我々も位置について、ただちに目の前の立った壁に取り付きました。ここ(9ピッチ目)は出だしの傾斜のきつさが「V-」というグレードの根拠だろうと思いますが、ホールドははっきりしている上に出だしと数メートル上がったところにハンガーボルトも設置されているので、一部脆いホールドがある点を除けば不安なく登ることができました。
とは言うもののさすがにミホさんはここで苦戦してラインを外しかけてしまいましたが、強引に釣り上げるまでの必要はなくなんとか突破。かたやクス氏の方は、危なげなくすいすいと登ってきました。
三段岩壁を2段登ったところのテラスの左端にある太い松の木でピッチを切り、3段目(10ピッチ目)は目の前にある立ったスラブを登ってから右上へ切り返してリッジ上まで。開拓者によって「V-」とグレーディングされていますが、スラブを一歩上がったところにハンガーボルトがあり、スラブ上の細かいスタンスとハンガーボルトの上1メートルほどのはっきりしたホールド、それに右壁の凹凸をうまく組み合わせればV級までを感じることはありません。
ここでもミホさんは少々奮闘になりましたが、がんばって登ってくれました。そしてこの最後の核心部を越えた先にはご褒美のようにごく易しく短い壁(11ピッチ目)が待っており、その上に三人が揃ったところでロープを解き、シューズを履き替えました。
本当なら山頂まで行ってから大休止としたいところですが、それでは凍えるような風に吹かれるのは必定なので、シューズを履き替えたところで腰を落ち着けて行動食を口にしてから踏み跡を辿って山頂を目指しました。
ところが、山頂に着いてみるとどういうわけか風は止み、むしろぽかぽかと暖かいくらい。これはどういうことだ?といささか憮然としつつも山頂からの展望を堪能し、とりわけ昨日登った男山が徒歩2時間の距離で立派に聳えているのを眺めました。
山頂からは登山道を使って起点となった馬越峠へ戻ります。ところどころ急坂ではあるもののよく整備された道は歩きやすく、1時間もかからずに下山することができましたが、その途中ではもう一度この日登った天狗山ダイレクトの全景を眺めることができました。
馬越峠を発って帰路についたのは15時頃と決して早くありませんでしたが、どうせこの時刻になったら帰りの高速で渋滞につかまるのは必至なのだから、と割り切って近くにある大深山遺跡を見学することにしました。ここは説明によれば縄文中期の代表的な遺跡なのだそうで、芝が敷き詰められた広場のような場所は各種遺構が出土したところであり、竪穴式住居も復元展示されていました。試みにその中に入ってみると意外に広く、かつ天井も高くて「これはテントより居住性がいいぞ」などと語らい合いました。
また、高速に乗る前に食事をしようと車を走らせながら開いていそうな店をネットで探した末に、あらかじめ電話をして入った北杜市高根町の「魚竹鮨」さんが大ヒット。この日は母の日だからなのか、テイクアウト対応のために店では揚げ物しか出せないということでしたが、それでもかまわないと入店していただいた天丼はネタといい揚げ具合といい文句なしで、我々の中ではリピート決定(次は海鮮丼で!)となりました。
ともあれ、この2日間はミホクスコンビのアルパインデビューとなったわけですが、少なくとも男山ダイレクトに関しては、クス氏が3ピッチともリードするのであれば次は二人だけで登れそう。ただしクス氏は支点構築と後続確保の手順に一層習熟する必要があるでしょうし、ミホさんの方はもっともっと基本的なクライミング能力を(ビレイ技術と共に)高める必要あり。なので、これを機にぜひクライミングジム通いを生活習慣に組み入れてください。それでも実は、男山ダイレクトはともかく天狗山ダイレクトではミホさんが行き詰まる場面がありうるかなと思っていたのですが、部分的に手間取る場面はあっても最後まで心の糸を切らさずに登り切ったのは立派です。お疲れさまでした。