只見川白石沢スラブ
日程:2023/11/05
概要:奥只見湖をボートで渡り、片貝沢支流の白石沢の湾に上陸。短い沢登りの後に巨大なアバランチシュートである白石沢スラブに到達。上部のコルまで登って絶景を堪能してから往路を戻る。
⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:---
同行:アユミさん / ナナミさん / ヅカ氏
山行寸描
日本離れした開放的な景観を誇る奥只見湖上流の白石沢スラブは、近年沢登ラーの注目を集めて続々と記録が公表されているエリア。記録上の初出は2013年10月の童人トマの風によるものらしいですが、元々『別冊太陽 日本の秘境』にも載った対岸の片貝ノ池・貝ノ嵓スラブを目指したメンバーが偶然見つけて3週間後に北側の岩穴沢からアプローチし、発表[1]したものだそうです。私も流行に乗ってジム友アユミさんと昨年計画したのですが、そのときは天候が合わず中止となり、今年改めて計画した日程は10月29日。しかしこの週末も日本海側は雨に見舞われたために摺上川叶道沢に転進し、あらためてこの日(11月5日)に白石沢スラブを目指すことになりました。メンバーは叶道沢でも同行したヅカ氏と、アユミさんの山岳会仲間であるナナミさんを加えた4名です。
2023/11/05
△08:45 白石沢出合 → △09:40 白石沢スラブ下部 → △10:20-11:00 白石沢スラブ上部 → △12:00 白石沢スラブ下部 → △13:45 白石沢出合
白石沢スラブへのアプローチは、上記の通り背後の岩穴沢から沢登りで迫る方法もありますが、奥只見湖畔の宿「六方[2]」が出してくれるボートでの送迎(片道12,000円)を使えば楽々アクセスできます。我々もこの方法を採用することとし、朝8時出発・14時半迎えという設定で送迎を予約しました。このため車を出してくれるヅカ氏が午前2時台からぐるぐると各メンバーの在所を回って全員をピックアップし、関越道に乗って現地を目指しました。ちなみに私は前日まで2泊3日の丹沢山行の直後とあって少々お疲れモード……。
ちょっとした連絡の行き違いがあって出発が遅れましたが、無事に乗船できた「六方」のボートは乗客定員4名の小型なもの。船尾に座った「六方」の御主人の操縦で穏やかな湖面を爆走し、途中の十二山神社(尾瀬三郎藤原房利に由来する虚空蔵菩薩が祀られているそう)の前でいったん停船して皆で安全を祈願してから、さらに湖の奥へと進みました。
只見川の本流ラインに対しぐっと左に回り込むと支流の片貝沢で、白石沢はさらにその支流という位置付けになります。ボートが白石沢の形作る湾の中に入り込むと、早くも正面にスラブの白い岩肌が見えてきました。しかし目指す白石沢スラブの本体は前方の沢を左奥へと詰めて行った先にあるので、この位置からはまだ見えていません。
湾の一番奥まったところに接岸。以前はずっと手前の砂地で乗下船していたそうですが、首都圏が一気に涼しくなって電力需要が控えめになったために奥只見湖の水位が上がっているのだそうです。
上陸地点からしばらくは普通の沢登りで、左へ弧を描くように進んでいくとやがて正面に白いスラブが見えてきます。これまで2回延期した甲斐あってこの日は青空が広がっており、その青の下の岩の白さが際立っています。
途中に出てくる巨大なチョックストーンはクラック登りで突破している記録もあり、ヅカ氏も左(右岸)の岩壁を登って巻けないかと試行錯誤しましたが、結局は右(左岸)から踏み跡に即して高巻きでかわしました。
白石沢の最後の二俣を右に進み、どん詰まりの場所で左に滑りやすい岩壁を上がると、そこから白石沢スラブが始まります。そこでは想像以上の広さ、想像以上の形の面白さ、そして想像以上に良好なフリクションが我々を迎えてくれました。ナナミさんはここでフェルトソールの沢靴からアプローチシューズに履き替え、残る3人はラバーソールの沢靴のままで登っていきます。
最初はおっかなびっくり、やがて慣れると大胆にすたすたと登っていくメンバーたち。スラブの形状を広い目で見渡して最も緩やかと思われるところを歩いていけば、手をつく場面はほとんどありません。このスラブはアバランチシュートであるだけに雪が岩を磨く方向がわかる線状の構造やごく浅い流水溝のような形状が岩の上に刻み込まれており、それらを辿りながら左上のコルを目指します。そこには4人組の先行パーティーが既に陣取っており、ドローンを飛ばして撮影に余念がないようでした。
我々も思い思いのラインで登りながら互いにポーズをとって写真を撮り合うなどスラブライフ(?)を楽しみましたが、スラブの途中には傾斜が一時的に緩んでテラス状になったところもあり、そうしたところで横になってみると背中がひんやりと冷えていい気持ち。それくらいこの日の気温は高いということなのですが、このスラブの保冷力は岩が白くて日光を反射するから?
ただしスラブの表面の凸凹は剥離しやすい一面も持っており、その残骸が散らばっているところもあるので足の置き場には気を使います。スリップは致命的となりかねず、落石を起こせばなかなか止まりません。
スラブの始まりの場所から左上方向に見えていたコルに到達し、ここでコーヒーブレイク。アユミさんが持ってきてくれたジェットボイルを使ってお湯を沸かし、コーヒーやお汁粉などが振舞われました。ここから空を見渡すと多少雲が広がってきていましたが、それでも文句なしの登山日和です。
コルの向こう側を眺めると、眼下にちらっと見えている奥只見湖のはるか向こうに大きいトゲトゲの山は荒沢岳、そしてその右奥の立派な山は越後駒ヶ岳です。
振り返ればスラブ全景。おそらく日本一のスケールだろうと言われることが多いですが、このスラブが着目されるようになったのがたかだか10年前のことであることを考えると、日本中探せばまだこれに匹敵するスラブが隠れているのかもしれません。それにしても、この凄い景観には我々全員が圧倒されるものを感じました。さすがに紅葉シーズンはもう終わっていて、向こうの赤茶色は紅葉ではなく枯葉ですが、色彩のコントラストという点では紅葉と遜色ない鮮やかさです。そしてこの景観の中を、先行パーティーの皆さんはシューズのフリクションに対する絶大な自信に裏打ちされて自由自在に歩き回っていました。
我々もそろそろ下ろうと腰を上げましたが、コルからの出だしは少し怯みそうになる傾斜です。そこで、こういうこともあろうかとヅカ氏が持参した8mm30mロープに私が運んできた同じ長さの補助ロープを連結し、コルに生えている灌木の幹を使って1ピッチだけ懸垂下降しました。この灌木には捨て縄が残されていましたから、我々と同様の下り方をしたパーティーは他にもいるようです。
下り始めたとは言っても迎えの乗船時刻まではまだまだゆとりがあるので、スラブの中腹で再びレスト。遺体のように腹ばいになったり、リュックサックを枕に寝そべったり、少しばかりお散歩したりと思い思いに寛ぎました。
帰去来兮かえりなんいざ。スラブ下部の立体的な岩のパートを下っていくと、そこは白石沢の最後の二俣のうち左俣の方でした。
先に下っていった先行パーティーの方に「六方」への伝言をお願いして、迎えの時刻を14時半から14時へと30分早めてあったのですが、それでもまだ時間にゆとりがあるので沢の中の適当な場所で焚火休憩とし、マシュマロを焼いてここでものんびり過ごしました。
焚火跡を完全に消して原状回復してから乗船地まで下っていくと「六方」の御主人が待ってくれていました。「六方」は今年これが最後の営業だそうですから、岩穴沢側から来るパーティーはまだいる可能性があるにせよ、バックウォーターアプローチは我々が最後のパーティーということになります。「六方」さん、ありがとうございました。
脚注
- ^童人トマの風「只見 袖沢南沢岩穴沢左俣〜白石沢スラブ」(2023/11/06閲覧)
- ^屋号の由来は、4代前の御主人が歌舞伎の六方のまねを得意としていたことによるものらしい。