世附川長尾沢↑法行沢↑クマ沢悪沢↓

日程:2023/05/01

概要:丹沢世附川水系で隣りあっている長尾沢と法行沢をパチンコ遡行の後、織戸峠から椿丸に登り、南へクマ沢に下って山神悪沢取水口を見学してから悪沢を下る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:椿丸 902m

同行:---

山行寸描

▲長尾沢の滝。登れる小滝が続いて実に楽しい。(2023/05/01撮影)
▲法行沢の滝。美しい2条滝だが直登は困難なので左から巻いた。(2023/05/01撮影)

この日は世間的にはゴールデンウイークの狭間の平日ですが、カレンダーと関係ない暮らしをしている自分にとってはただの天気が良い日。たまたま所用が入っていないこの日を今年の沢初めの日とすることにして選んだ行き先は、丹沢の世附川水系にあって易しいとされる長尾沢と法行沢です。長尾沢を遡行して法行沢を下降するとコンビニエントに周回できるのですが、沢下りが好きではないのでどうしたものかと地形図を眺めると、この二つの沢の間の尾根が緩やかに下れそう。それならとパチンコ遡行することにし、遡行終了後は織戸峠から南に椿丸を越えクマ沢に下って、以前世附山神峠越えの際にチラ見しただけに終わっていた山神悪沢取水口の施設をじっくり見学することにしました。

2023/05/01

△08:10 浅瀬入口 → △09:55-10:05 大又沢ダム → △10:30-40 長尾沢入渓点 → △12:00-10 富士見林道 → △12:45 法行沢入渓点 → △14:25-40 織戸峠 → △15:10-15 椿丸 → △16:05 クマ沢 → △16:25-35 山神悪沢取水口 → △17:35-40 芦沢橋 → △18:50 浅瀬入口

いつもの通り早朝の小田急線に乗って新松田駅で降り、西丹沢ビジターセンター行きの満員バスで浅瀬入口まで。世附川流域に入る登山者は少ないらしく、浅瀬入口バス停で降りたのは私だけでした。

浅瀬入口から落合隧道を抜けて浅瀬方面へは通い慣れた道ですが、今回は沢登りなので釣り師の動向が気になります。沢登ラーと釣り師は不倶戴天の関係ですが、釣り師の方は入漁料を払って沢に入っているので沢登ラーに上流を荒らされては頭に来るのも理解できます。バスを降りた登山者はいなくてもゲート前には釣り師のものらしき車がたくさん駐車していましたが、リバーマップを見ると幸いにも目指す長尾沢・法行沢には釣り師は入っていないようでした。

浅瀬橋を渡ったところから右に曲がって大又川沿いの道を北上し、いったん法行沢林道入口をスルーして大又沢ダムまで進んで小休止。大又ブルーとして親しまれている青緑の水面が相変わらずきれいですが、今回注目したいのは大又川の水を堰き止めているダムの上流右岸に流入している水流で、その水流の源には後ほど訪問することになります。

少し戻って法行沢林道に入り、エルドラドを歩いた1カ月前を思い出させるソーラーパネルをスルーして、30分もたたずに長尾沢出合(堰堤のパネルに書かれている沢名は「上長尾沢」)となりました。ここで沢登りの装備を身につけ、堰堤を右から越えて入渓です。

堰堤のすぐ上流はなんと言うこともないガレ沢で、これだけ見ると遡行興味が湧きませんが、少し上流に進むとすぐに感じのいい小滝が出てきます。易しいとは言ってもシーズン最初であり、ぬめりに弱いラバーソールを履いていることでもあるので、一歩一歩慎重にフリクションとバランスを確かめながらじっくりと登ります。

比較的最初の方で出てくるこの滝は左(右岸)から巻きましたが、その後はほぼすべての滝を直登することができました。

それなりに高さのある滝。水流の左側が階段状でフレンドリー。

樋状に連なる滝。5月ともなれば気温・水温共に高く、積極的に水の中に入ることができます。

さらにいくつかの小滝を楽しく越えて、やがて水が涸れかけたところに滝というより段差と呼びたくなる壁が出てきましたが、これは右から巻き上がりました。もし沢を詰めきることにこだわらないのであれば、このあたりから左の尾根に上がってもよかったかもしれません。

水が涸れた後には美しい苔の沢形が続き、最後は柔らかい土の斜面を登って富士見林道に達したところでまずは1本目の遡行の終了です。ここで行動食をとるために小休止としましたが、空模様は晴れの予報に反して暗い雲が垂れこめており、この日の計画を完遂できるかどうか不安になってしまいました。

ともあれ計画通り長尾沢と法行沢の間の尾根を下りましたが、この尾根は傾斜もなく踏み跡もしっかり付いていてすこぶる歩きやすい尾根でした。最後に地形を読みながら尾根筋を離れて窪状を下り、降り着いたところはぴったり法行沢の入渓点となる中法行沢橋でした。

ただちに橋の右から下った法行沢は、のっけから沢底の白砂がきれいな美渓です。

と言っても決して単調ではなく、釜を持った滝もあれば……。

……日本庭園を思わせるナメと苔も魅力的です。

長尾沢は登れる小滝が連なる登攀的な沢だとすれば、法行沢の方はその造形を愛でながら上流を目指す歩きの沢だと言うことができるかもしれません。このように性格の異なるどちらも魅力的な沢が隣り合っており、わずか30分余りの歩きやすい尾根下降でつなぐことができるのですから、これら二つの沢をセットで登らない手はありません。また、もちろんところどころにぬめりはあるものの全体としてはラバーソールがフィットするので、林道歩きや尾根の下降も含めてシューズ1足で通すことができるのもうれしい点です。

この滝は一見正面突破が難しそうに見え、そのためか左(右岸)の高いところに巻道がついている様子でしたが、よく見れば水流のすぐ右側にバンドがあって簡単に落ち口に乗り上がることが可能です。

例外的に、この滝の処理にはちょっと悩みました。これが真夏だったらじゃぶじゃぶと腰まで水につかって釜の奥に進み、流木も利用しての直登を試みただろうと思いますが、いくら気温・水温が高いと言ってもそこまでではないので巻きを考えなければなりません。

最初は右(左岸)か?と思って一段上がってみたのですが、意外に踏み跡が薄く、どうやらこちらではない雰囲気。おかしいなと思って左(右岸)を見上げてみると、思いがけず高いところを巻道が走っているのが見えました。なるほどあれかと下流に少し戻ると確かに踏み跡が続いており、途中の悪いところには補助ロープまで設置されていました。

先ほどの流木の滝のすぐ上流にあるこの2条の滝は、法行沢で最も高さがあり、最も美しい滝です。あまりに美しいので写真や動画を撮りまくり、おかげで予定外の時間を費やしてしまいました。

引き続き2条滝を巻き上がった先にもナメや釜が続きましたが、法行沢の楽しいところはこのあたりまででした。

やがて前方に堰堤が出てきたら、GPSを見ながら織戸峠への沢筋をとらえなければなりません。途中から水流を離れて織戸峠へ向かう涸れ沢に入りましたが、その左岸の高いところには富士見峠から織戸峠へ通じる古い道が通っているはずです。

沢筋の詰めはなるべく傾斜の緩いところを選びましたが、それでもそこそこの斜度がある上にザレて滑りやすく少々緊張しました。どうにか登り着いたところは織戸峠の少し南側になってしまい、いったん織戸峠まで降りてリュックサックを下ろし、ここで最後の小休止をとりました。

織戸峠から椿丸を目指して南に向かう尾根筋は右手(西)にブナの森が広がっており、折よく差し込むようになった日差しを受けて明るい緑が素晴らしくきれいでした。

椿丸周辺の樹木も同様に生き生きとした緑の葉を茂らせており、ミツマタの黄色を愛でた1カ月前とは雰囲気がかなり違います。

この日唯一のピークとなる椿丸から東に下り、870mピークを越えた先の南尾根に入りました。沢登ラー的思考からすると椿丸と870mピークの間に詰め上げているクマ沢日影沢を下降したくなるところですが、ここでも手っ取り早く下ることを考えて地形図を読んだ結果、この尾根を下ることにしたのでした。しかしこれは必ずしも成功とは言えず、予想していなかった伐採作業道がいくつも尾根の左側から尾根筋に向かって伸びてきており、これが作る段差を回避するために右往左往することになってしまいます。どうにか伐採作業の人たちの邪魔をすることなく尾根を下降することができはしたものの、今の時期のこの尾根の下降はお勧めできるものではありませんでした。

しかし尾根の地形自体は地形図で読んだ通りクマ沢までこれといった難所もなく下ることができ、その後のクマ沢の下降も単調な河原の歩きに終始しました。そして、悪沢入口のゴルジュを右に見て下った先にコンクリートの堰堤のようなものが現れたと思ったら、そのすぐ先が悪沢と山神沢の出合で、そこに目指す山神悪沢取水口がありました。

これが山神悪沢取水口の施設で、かつて見たときは「廃墟?」と思ったものですが実際にはちゃんと稼働しているようです。悪沢の対岸からここまで横断しているのは堰堤ではなく導水管で、世附川上流の取水口からここまで運ばれた水は、さらに地中を通ってこの日の最初の方で見た大又沢ダムに通じ、さらに丹沢湖の落合発電所までつながっています。

上の地形図で山神悪沢取水口と大又沢ダムをつなぎ落合発電所までつながっている青い破線が導水管で、このうち山神悪沢取水口自体がいつ作られたかは史料を見つけられていないのでわからないのですが、少なくとも大又沢ダムと落合発電所(ただし場所は現在と異なる)はセットで1917年(大正6年)に建造されたものだと言いますから驚きです。山神悪沢取水口も、その古色蒼然とした佇まいからするとこれらとさして変わらない時期に建造されたのではないかと思われますが、この点についての確実な史料が手に入ればこのレポートの記述を改めるつもりです。

見たかったものを見終えたら、後は悪沢を下って下山するだけ。ミニゴルジュもあれば渡渉を要する場所もありますが、こちらは沢登りスタイルなので何ら困ることがありません。

満開の藤の花や左岸に落ちる立派な滝を見上げながら適当に右へ左へと道筋を探して下降を続け、やがて世附川本流に通じるスリット堰堤にぶつかってこれを右側から越えたらフラットな河原が待っていました。

河原から見上げると世附林道の崩壊地の土砂はほとんど取り除かれているようでしたが、そのまま世附川の中を下流に進み、部分的に左岸の平坦地も歩いて最後は芦沢橋の近くで脱渓しました。

1カ月前に丹沢横断を終えたときは、もうヒルが活性化する季節なので丹沢に足を踏み入れるのは寒くなるまで打ち止めだと宣言していたのですが、それでも今回の遡行の行き先を長尾沢・法行沢に設定したのは、先行記録をあれこれ漁っているうちに世附川流域にはヒルは出ないようだというネット情報に接したからでした。実際にヒルの被害に遭うことはなかったのですが、しかし帰路に見た「ヤマビル注意!!」という恐ろしい看板を見ると、ヒルに会わなかったのは単に運が良かっただけのようです。これは今度こそ丹沢に一時のお別れを告げなければと固く心に誓いつつ歩き続けて、浅瀬入口のバス停に戻り着いたのは夕闇迫る19時少し前。最終バスの通過まで30分というタイミングでした。