塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

三ツ峠屏風岩中央カンテ / 逆V字ハング

日程:2023/04/10

概要:三ツ峠屏風岩で腕慣らしに「中央カンテ」を登った後、アブミルート「逆V字ハング」を2ピッチ目まで2回登って人工登攀の感覚を取り戻す。

山頂:---

同行:セキネくん

山行寸描

▲中央上方の楔状の切れ込みが「逆V字ハング」。右隣のルーフは「四段ハング」。(2023/04/10撮影)

2023/04/10

△08:35 三ツ峠裏登山口 → △10:00 三ツ峠山荘 → △10:10-16:45 屏風岩中央フェース → △16:55 三ツ峠山荘 → △17:55 三ツ峠裏登山口

セキネくんと語らいあって、この日は久しぶりに三ツ峠で人工登攀の練習をすることにしました。裏登山口手前のゲートまでセキネ号で上がり、そこから三ツ峠山荘までゆっくりペースで登ります。

この日は快晴で温暖な絶好の登山日和ですが、車も通れる道のところどころに霜柱が残っており、それが溶け出してぬかるみを作っていました。

三ツ峠山荘のテラスからは完璧な円錐形の富士山を正面に眺めることができました。その裾野の町並みもはっきりと見えており、そこに暮らす人々を富士山が従えているようにも、守っているようにも思えます。

あらかじめの計画通り、まずは定番の中央カンテでウォームアップとマルチピッチシステムのおさらい。ロープを結び、セキネくんから離陸しました。

1ピッチ目は出だしの階段状を越え、第一バンドを過ぎて左上ランペの突き当たりまで。そこからの立ったクラックがルート全体の核心部(IV+)で、ここは私の担当です。何度登っても難しいと感じるこのクラックは自分にとって苦手意識のあるパートですが、慎重にカムを決めながらクリアしました。

3ピッチ目は再びセキネくんのリード。コーナークラックを登って途中から左のカンテに乗り移り、そこからは適当に直上して終了点です。

懸垂下降は2ピッチ(50mダブルロープ使用)。セキネくんが取付まで降りるのを待っている間に岩場全体を見渡すと、右フェースで(おそらく)ソロの男性が練習している以外は誰もいないがら空き状態でした。

昼食休憩の後に「逆V字ハング」の下に移動し、ルートを見上げながら人工登攀のギアを身につけていると、ぼろぼろと落石が落ちてきて我々や通りがかりの登山者を驚かせました。どうやら気温が上がると共に上部の氷が溶けて緩んだ土くれや石を落としたようでしたが、これはかなわん!とかぶった岩の下に退避してから、あらためて準備を進めました。

1ピッチ目(20m / A1):セキネくんのリード。これまでこの岩場の人工登攀マルチは「直登カンテ」と「四段ハング」を登っていますが、この「逆V字ハング」は初めてなのでまずは空荷でのトライです。このピッチは、出だしはかぶっているもののすぐに傾斜が垂直未満になり、残置ピンの間隔が遠くない上にフリー化によるハンガーボルトもあって快適に登れます。最後に第一バンドに乗り上がるところがふくらんだフェースのフリーとなり、ちょっと嫌な感じ。

2ピッチ目(25m / A1):私のリード。核心部であるハング越えのピッチです。比較的傾斜の緩いフェースをハング下まで登ってからあらためて見上げると、ハングとは言ってもボルトは切れ込み部分のややかぶった垂壁に打たれており、四段ハングのようなどっかぶりというわけではありません。古いボルトは切れ込みの右側のフェースに打たれており、左側にはこれまたフリー化(1984年)時に打たれたと思われるハンガーボルトが二つ。したがってアブミルートとしては右側のボルトだけを使うのが正統派なのでしょうが、安全第一でハンガーボルトも前進用に使用してしまいました。

フィフィレストを交えながら時間をかけてハングを抜け、最後はやはり数手のフリーで狭いテラスに乗ってこのピッチを終了しました。このピッチを登りきるのに自分は30分ほどかかりましたが、後続のセキネくんはその半分の時間で登ってきてビレイしている私は目を白黒。「セカンドは何も考えなくていいので」と謙遜していましたが、それにしても速い。

ルートはさらにもう1ピッチ上に続いていますが、見上げてみるとボロボロの壁で食指が動きません。このためここから下降することにしました。

逆V字の張り出しから下は第一バンドまでがすとんと切れ落ちた空中懸垂で、第一バンドから下は普通に壁を蹴りながらの安定した下降になります。幸いこの日は穏やかな天気なので空中懸垂も快調に下れましたが、これが風の強い日だったら揺すぶられて少々肝を冷やしたかもしれませんし、そもそも2ピッチ目の終了点に残置されているスリングが老朽化していたので、このスリングにぶら下がるのはあまり気持ちの良いものではありませんでした。

50mロープダブルでの懸垂下降で一気に登山道まで降り着き、ごく短時間休憩をとってから今度はリュックサックを背負い、先後を入れ替えて再び「逆V字ハング」を登りました。核心部となるハングではセキネくんもあえてフィフィレストを入れていましたが、私の方もセカンドの利点を生かしてハンガーボルトにはアブミを掛けずに古いボルトだけをつないで登りました。このハングの部分ではリュックサックを背負ったことによるディスアドバンテージは特に感じなかったのですが、その手前の垂壁で1箇所ボルトが遠いところがあり、1回目のリード時にはアブミの最上段に乗り込んでここをクリアできていたのに、2回目はセカンドでも届かせることに困難を覚えました。リュックサックの重さで後ろに引かれていることと疲労の蓄積とが重なった結果だろうとは思いますが、なるほどこういうところに影響が出るのかとうなずきながらあっさりチョンボ棒で解決しました。

これでこの日のトレーニングは終了です。お疲れさまでした。

充実した登攀のおかげでいつの間にかそこそこ遅い時刻になっており、屏風岩を後にしたときには陽光が斜めになって夕方の景観を作っていました。

帰路の車の中での話題の中心は映画『BLUE GIANT』でした。先月中旬に観ていたく感激した私が強く推奨したこともありセキネくんもつい先日地元の映画館で観たところ、映画開始早々から涙腺が緩くなってしまったそうですが、泣くポイントが「えっ、そこ?」。彼の感受性の豊かさ(?)には呆れるばかりでした。そして石和温泉駅へ送ってもらうまでのBGMは当然ジャズ特集になりましたが、その最初にセレクトされたのはJohn Coltraneの名作だが性格の悪さも示すという「Giant Steps」でした。