入川金山沢大荒川谷

日程:2022/06/25-26

概要:トラウトオン!入川から森林軌道跡を歩いて赤沢谷出合で入川に入渓。しばし遡行の後に金山沢に入り、小荒川谷を分け大荒川谷になってしばらく進んだところで幕営。翌日、大荒川谷を詰めて稜線に上がり、雁坂峠を経て黒岩尾根から豆焼橋へ下る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:雁坂嶺 2289m

同行:ヅカ氏 / ブミ氏

山行寸描

▲大荒川谷上流蓮瀑帯の15m滝。上の画像をクリックすると、入川金山沢大荒川谷の遡行の概要が見られます。(2022/06/26撮影)

◎本稿での地名の同定は主に『東京起点 沢登りルート120』(山と溪谷社 2010年)の記述を参照しています。

ヅカ氏・ブミ氏との今年最初の沢登りはもともと先週末に予定されていましたが、事情により1週間順延して今週末になりました。そしてこの時点での天気予報を眺めた結果、当初予定していた会越方面は諦め、代わりにヅカ氏も私も前から「いつか行く」リストに入れてあった入川金山沢大荒川谷を目指すことになりました。

2022/06/25

△07:20 トラウトオン!入川 → △08:25-35 赤沢谷出合 → △11:10-20 金山沢出合 → △13:00 ゴンザの滝 → △13:50-55 小荒川谷出合 → △14:45 幕営地点

早朝、まず国道140号の豆焼橋に立ち寄って奥秩父トンネルの入口の左にある黒岩尾根登山道入口にヅカ氏のキックボードをデポ。その後トラウトオン!入川(入川渓流観光釣場)に移動して、駐車場で身繕いを行いました。ちなみに駐車料金は1日500円で、7時過ぎでは施設はまだ開いていませんが、駐車料金を納めるポストに封筒が備え付けてあります。

入川に沿って奥地へと進む道はかつての森林軌道跡で、以前真ノ沢を目指したときにも歩いています。部分的に崩れているところもあるものの歩行には支障なく、1時間ほどの歩きで赤沢谷出合に到着しました。

赤沢谷出合には自転車が6台もデポしてあり、これを見て我々は「釣り師とカチあったら嫌だな」と顔を見合わせたのですが、結論を先に書くと釣り師の姿を見ることはありませんでした。

さて、荒川谷を遡行するだけならそのまま柳小屋に向かう道を進んで金山沢出合の対岸から下降すればいいのですが、泳ぎが大好きなヅカ氏は金山沢出合の手前にあるというゴルジュ(『奥秩父・両神の谷100ルート』(山と溪谷社)の記述による)に興味津々。よって赤沢谷出合から入渓ということになりました。しかし、実際に遡行してみると中小屋沢出合まではこれということもない平瀬が続き、さらにその先もほとんど腰までの水深で泳ぎの場面は皆無と言っていい状態です。

中小屋沢出合から金山沢出合までの間にはいくつか狭隘部や段差がありはするものの、それ以上に目立つのは大量のガレの堆積で、ヅカ氏が期待する泳ぎ系ゴルジュとはほど遠い状態です。これは一体どういうこと?と思っているうちに金山沢出合に着いてみると、そちらからガレが押し出してきているのが一目瞭然。どうやら赤沢谷出合から金山沢出合までの間は、遡行価値を失ってしまったようです。

金山沢に入ってからも荒れた状態が続きましたが、それでもところどころに面白みのある小滝が登場します。

この小滝は左側から近づいて膨らんだ岩の凹凸に左足で立ち込み右足を右壁に飛ばしてつっぱりの体勢を作って越えるものですが、私のすり減ったフェルトソールでは立ち込みができず何度試しても滑り落ちてしまいます。見かねたヅカ氏がお助け紐を出してくれて何とか抜けられましたが、いや、お恥ずかしい。

その代わりと言ってはなんですが、こちらの傾斜が強くカチホールドをつなげる小滝は私が空身でリードし、タワシも駆使して突破。自分にとっても久しぶりに会心のクライミングになりました。

ゴンザの滝はセオリー通り右から巻き上がり(この巻道で今回の遡行中唯一の赤テープを見ました)、上流側で懸垂下降して沢筋に回帰しました。

小荒川谷出合手前のゴルジュは両岸が切り立っており、その出口には庇のような岩から水を落とす小滝があります。どうするのかと見ていたら、ヅカ氏は左から近づいて滝の裏側を抜けて右側に渡り、そちらからつっぱりで抜けていきました。続くブミ氏も同様の方法でさっさと抜けたのですが、最後の私は滝裏を抜けたところでまともに水をかぶる位置に入ってしまい四苦八苦。自分の不器用さを呪いながらリトライを繰り返してやっとここを抜けましたが、すっかり身体が冷えてしまいました。

小荒川谷出合に着いたところで、遡行開始時からのガレの供給源がこの沢であることがはっきりしました。どうやらそれほど昔のことではない時期に小荒川谷の上流で山抜けがあったようで、まるで採石場のようなひどい有様です。トポにはこの付近がビバークに良いと書かれていますが、とてもこの近所に泊まる気にはなれず、幕営適地を探して遡行を続けることにしました。

小荒川谷出合の上流にもアトラクションあり。本当は左(右岸)からあっさり巻いてしまうこともできるのですが、あえて右からへつって滝に近づき、ジャンプして対岸に渡りカンテ状から滝の中に入ります。身体を冷やしてしまっている上にこの辺りは水も冷たかったのですが、こうなったら冷やしついでだと自分も後に続きました。文字通り、年寄りの冷や水……。

やっと待望の幕営適地に到着し、ピンチシートを張り焚火を熾してほっと一息。お互いに持ち寄った酒と食材とで充実した夕べを過ごすことができました。

2022/06/26

△06:20 幕営地点 → △08:15-20 中ノ二俣 → △09:30-40 三俣 → △11:10-20 稜線 → △11:55 雁坂嶺 → △12:20 雁坂峠 → △12:40-50 雁坂小屋 → △15:10-15 あせみ峠 → △16:15 豆焼橋

シュラフカバーだけでは少々寒かった一夜が明けて、2日目のスタート。昨夕も時折ぽつぽつと雨が降っていましたが、この日は全面にうっすら曇り空という感じです。

幕営地点からも見えていたこの10m滝がこの日最初のアルバイトで、一見したところ手強そうですが、実は水流のすぐ右の凹角内が階段状になっており、ロープを使うまでもなく簡単に落ち口に抜けることができました。そしてここからこの沢のハイライトとなる中規模滝の連続となるのですが、『東京起点 沢登りルート120』と『奥秩父・両神の谷100ルート』とであまりに記述が異なるので、滝の同定にはこだわらないことにします。

2段になった滝の下段は容易ですが、上段は壁が立っている上に外傾したホールドが苔で滑りやすく慎重さが必要。よって、先に登ったヅカ氏は後続のために上からロープを投げてくれました。

この横向きの2条滝は、滝の前を飛沫を浴びながら通り抜けて一番奥まで進めば、自然に上へ抜けられる登路が現れます。

これは二つのトポに共に「15m」と書かれている滝。一見して右壁が登れることがわかりますが、それなりに高さがあるのでここは私の出番となります。ラインは水流右側の壁と左岸の膨らみとの間の凹角を登り、10mほど登ったところから左に方向を変えて落ち口を目指すもので、そのコースが変わるところにはヅカ氏から借りたカムをセットしてランナー兼振られ止めとしました。ホールドは少々滑りやすいものの最初から最後までおおむね信頼できるガバが続き、高度感に慣れてさえいれば実に快適に登れます。そして気持ちよく落ち口に出たところでロープ(30m)の残りの長さを確認したところ「もうない」とのことだったので、手近の岩にリスを探しハーケン2枚で支点を作り、セカンドのブミ氏はタイブロック登攀、ラストのヅカ氏は肩絡みで確保して登ってもらいました。

中ノ二俣を越えて苔むしたナメ滝をいくつか通過した後にラスボス的に出てくる15m滝は、右からでも左からでも容易に登れます。そしてこの上にも綺麗なナメ滝が続きますが、この頃から倒木が少々うるさくなってきました。

地形図上は顕著な三俣も、右俣が涸れているので水流は二俣のよう。ここは左へ入ります。

しばらくガレと倒木で荒れた沢筋を登り、適当なところでヅカ氏の判断により左(右岸)の斜面に逃げました。この判断は正解で、斜面上は苔と土がふかふかで歩きやすく、獣道も走っていて順調に高度を上げることができました。そのまま藪漕ぎもなく最後は疎林の中を抜けて登山道に登りつき、ここで遡行終了の握手を交わしました。

稜線に出たときには冷たいガスが周囲を覆っていましたが、雁坂峠を目指して歩いている途中で右手の景色が広がり、彼方にてっぺんを雲に隠した富士山の姿が現れました。後ろを振り返ると甲武信ヶ岳方面の山の連なりも見えて、奥秩父主脈のど真ん中にいるという事実に気持ちの高まりを覚えました。

この山行で踏む唯一の名のあるピーク=雁坂嶺でこの日初めて登山者とすれ違い、さらに雁坂峠を目指して先を急ぎます。それにしてもこの稜線上には立ち枯れた木が目立つのですが、昔からこんな樹相だったかな?

眺めの良いことで知られる雁坂峠は残念ながらガスの中で、ここでは家族連れが少し寒そうに食事をとっていました。そこにあった看板の説明によれば、この雁坂峠は三伏峠・針ノ木峠と共に日本三大峠のひとつとされ、日本書紀でも言及されているのだとか。そしてここから南に向かえば甲斐の国ですが、我々は北の埼玉県側へ下ります。

すてきなロケーションに建つ雁坂小屋には2004年に泊まったことがありますが、趣のある佇まいはその頃から変わっていないような気がします。小屋自体もすてきですし、テントサイトも周囲の立体的な地形を活かしていてすてき。そこにテントが並んだら山城のように見えるかもしれません。

ともあれ、ここからヅカ氏は快足を飛ばして一足先に豆焼橋に降り、キックボードで国道を下って車に戻って豆焼橋へ戻ってきてくれることになり、ブミ氏と私は足が速くないのでのんびりその後を追うことにしました。ヅカ氏の脚力を知っている私は「我々が豆焼橋に着いたときには冷えたシャンペンが用意されているんですよね」と無茶なおねだりをしたのですが……。

ヅカ氏の出発を見送り、靴を履き替えたり上衣をTシャツ1枚に着替えたりとのんびり身繕いをしてから、我々も黒岩尾根の山道へと入りました。この道はかなり長い間、尾根の南斜面をほぼ水平にトラバースしていますが、足に優しく歩きやすい道のところどころには手書きの解説板が設置されていて、この道が大切に整備されていることがわかります。

馬酔木あせびの目立つあせみ峠で最後の一本を立て、ジグザグに高度を下げてやがて林道の終点に到着しました。ここから豆焼橋までは一投足といったところで、その豆焼橋を目の前にして林道を上がってくるヅカ氏の出迎えを受けましたが、なんとヅカ氏はコースタイム3時間40分の黒岩尾根登山道を1時間半で駆け下っていたのでした。そして、彼の手にはシャンペンの代わりにアクエリアスが。

小荒川谷出合から上流(つまり金山沢が大荒川谷と名前を変えてから)の連瀑帯の遡行は楽しいもので、この機会にこの沢を遡行できたことは幸運でした。ただ、赤沢谷出合から金山沢出合までの間は遡行価値を失っており、金山沢に入ってからも小荒川谷出合までの随所に見られたガレの堆積は自然の猛威を実感させるものでした。たとえば台風や大雨などによってこうしたガレが洗い流されるのか、それともさらに荒れてしまうのかは不明ですが、少なくとも現時点でのこの沢の遡行興味は「大荒川谷」の区間に集約されていると考えてよさそうです。