多摩川入川谷

日程:2022/07/03

概要:JR古里駅を起点に入川谷に入り、いくつもの滝を越え、あるいは巻いて、標高900mあたりで作業道に乗り上がり、鳩ノ巣駅へ下山。

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山頂:---

同行:モモヨさん / ノリコさん

山行寸描

▲入川谷の遡行。緑の苔の廊下の中に滝が連続して楽しい沢だった。(2022/07/03撮影)

本稿での地名の同定は、主に『東京起点 沢登りルート100』(山と溪谷社 2020年)の記述を参照しています。

末娘エリーの友達のモモヨさんとは以前岩根山荘でアイスの練習を一緒にした仲ですが、近年沢登りにも手を広げているようなので「泊まり沢に行ってみませんか?」と誘ったのが5月下旬。当初の計画では奥秩父のナメラ沢をあえて沢中1泊で遡行するつもりだったのですが、天気予報を見て直前に計画を変更し、奥多摩の入川谷へワンデイで入ることにしました。都合が合えばと誘っていたエリーは仕事の都合で残念ながら参加できず、その代わりモモヨさんの友達で沢登り経験豊富なノリコさんが参加してくれることになりました。

2022/06/25

△08:45 古里駅 → △09:35-50 入渓点 → △11:00-15 布滝 → △11:50 外道滝 → △12:40 銚子滝 → △13:40 速滝 → △15:20-25 ワサビ田跡 → △17:10-25 作業道 → △19:00 鳩ノ巣駅

モモヨさんとノリコさんとの待ち合わせはJR古里駅に8時34分で、これは千葉県在住のノリコさんの始発電車に合わせたもの。モモヨさんとは前日に江戸川橋でジム練習を一緒にしていたのでほぼ16時間ぶりですが、ノリコさんとは初対面です。

駅前のセブンイレブンで諸々を調達してから青梅街道を西へ向かうと、その途中に何やらおどろおどろしい飾り付けのパン屋さんがありました。調べてみると「山のぱ〜ん屋 森のダンス」という高級食パンのお店でしたが、その店構えもさることながら道路をはさんだ向かい側に林立するマネキン人形の集団がますますおどろおどろしい。なぜこんなことに?

入川が多摩川に合流するところで街道を離れて入川沿いの道を山の中に入り、採石場を経て林道を奥へと進むと広場が現れます。ここが入渓点で、沢装備を身につけて入渓するとただちに現れるのが「トバの倉骨」と呼ばれる小ゴルジュ。のっけからいい雰囲気です。

トポには最初の深い釜のある3m滝は泳いで取り付くしかないと書かれていますがこれは嘘で、右(左岸)のかぶった岩をトラバースするのが楽しいところです。ホールドは少々甘いと感じますが、よく探ればガバがあり、仮に落ちても暑い季節なら泳いで戻ればOKなので、ここは皆でへつりの腕を競いたいところ。

トバの倉骨を過ぎるとしばらくの間は単調な区間が続き、ここは右岸の踏み跡も使ってさっさと通過します。途中にいくつかある堰堤も容易に巻けますが、そのうちの一つの上流側は地形図では水が溜まっているように表示されているのに、実際にはただの涸れた河原になっていました。

やがて左岸から合わさるのが布滝沢で、その奥には布滝が見えているので小休止かたがた立ち寄ってみました。15mのすらっと立った綺麗なこの滝は滝行に最適で、これはお約束でしょう!と3人とも滝に打たれつつこの後の遡行の平穏を祈りました。

布滝沢出合を過ぎるとすぐにオキの倉骨になりますが、こちらは技術的に問題になる箇所はなく、苔むして美しい谷筋を楽しく遡行できます。そしてオキの倉骨の出口にある石積み堰堤を越えて沢が平らになったところには、ソロキャンパーらしき人物が優雅に寛いでいる姿がありました。実はこの沢は釣り師も入るという事前の情報があったのでトラブルを警戒していたのですが、彼は釣りとは無縁の穏やかな時間を過ごすためにそこにいたらしく、興味津々の我がチームの女子2人が話しかけると穏やかに応対してくれました。

遡行継続。かつてこの山中にあった峰集落に通じる道が沢を横断するところには今でも渡れそうにしっかりした木橋が掛かっており、これを過ぎて少し行くと綺麗な樋状の3m滝が流れています。記録によってはあえてこの3m滝を登っているパーティーもありますが、水圧が強そうなので我々はさっさと左側をスルーしました。

やがて目の前に現れたのがこの沢で最初に出会う顕著な滝である外道滝5mです。なぜそんなひどい名前を付けられたのかは定かではありませんが、それはともかくこの滝は、頑張れば登れそうではあるもののかなり立っていてテクニカルに見え、自重して高巻くことにしました。

高巻きは右岸のトラロープを使って高さを上げ、そこからさらにトラロープ沿いに水平移動して落ち口へ向かいます。トラロープをどこまで信用していいかわからなかったので、ここでは私がロープを引きましたが、モモヨさんはこの手の高さのある高巻きは初めての経験だったそう。それにしては危なげない登りとトラバースを見せてくれました。

沢筋に戻り、姥岩沢を分けてさらに進むと次に現れたのは銚子滝10m。これは右下から左上するクラック状のバンドを使って高さを稼ぐことができますが、最後に水流に打たれながらバンドを渡りきるかその手前で右側の手掛かりが乏しそうなフェースを登るかを選択させられそう。先ほどの外道滝なら落ちても深さのある釜が受け止めてくれますが、ここは落ちるとただではすみそうにないのでこれまた自重しました。

銚子滝も右岸から高巻き、沢筋に降りるところは普通に歩いても下れそうでしたが、せっかくの機会だからと懸垂下降の練習。そして遡行を再開するとあっという間に前方に2段になった滝が見えてきました。奥に見えているのがこの沢で最大の速滝20mで、その手前にあるのは前衛滝10mです。

前衛滝の手前は深く掘り下げられたホール状の空間になっていて、そこに踏み込むと滝のパワーと正面から対峙することになります。登るとしたら右壁からですが、落ち口近くはかぶっており、その左の滝身に近いところにありそうな細かいホールドを拾えれば可能性はあるかもしれません。しかし、モモヨさんは度肝を抜かれて「見てるだけで十分でござるって感じ」、ノリコさんは近づきもしませんでした(笑)。

高巻きはこれも右岸で、前衛滝の手前に入ってくる柳ガマ沢を少し登り二俣に分かれる手前で右へトラバースを開始すると、少し進んだ先にトラロープが出てきます。ルートはこのトラロープが下がっているリッジを直上ですが、その前に速滝を拝むことにしてリッジの上流側の斜面を緩やかに下りました。

この速滝もすとんと水を落としていて立派ですが、見上げているうちに右から斜上バンドを使って落ち口近くに達し、水流を渡って左から落ち口に抜けるラインが見えてきます。ただし、本気トライをするにはそれなりの装備と信頼できるビレイヤーが必要ですが、今日の我々にはそこまでの覚悟はありません。

先ほどのトラロープの位置まで戻ってリッジを登り、途中で右(上流側)に移動すると真ん中に凹角が入ったスラブ壁が出てきました。この凹角内には腐りかけたトラロープが残置されていますが、傾斜が寝ている上にフリクションも良いので、私のすり減りかけたフェルトソールでも問題なく登ることができ、後の2人をスラブ壁の上に迎えました。そこから傾斜が落ちた斜面をさらに上流側に進むと岩壁が先を遮りますが、その岩壁に沿って下っていけば30mロープ1本での懸垂下降2ピッチで速滝の落ち口に出られます。ここも慣れている者なら岩壁のホールドを利用してクライムダウン可能ですが、部分的にザレているところもあるのでとっとと懸垂下降した方が簡便です。

速滝の上もまだ水量は豊富で、苔の緑に癒されながら遡行を続けると大きなワサビ田跡に出ました。こんなところに石垣を組んでワサビを栽培した人々の労苦を偲ぶと共に、山中に縦横に歩き回った杣人の自由さに頭が下がる思いがします。

……というこちらの感慨には無関係に、小滝はまだまだ続きます。ここまで積極的にロープを出してきているので計画に対しかなり時間オーバーとなっており、さらに時折雷鳴までも聞こえる不穏な空模様ですが、こうなったら行き着くところまで遡行を続けるしかありません。

7m滝は右端の凹部を慎重に登ってクリア。

2段10m滝は左(右岸)を直登。この先にさらに大きな滝が行く手を阻んでいてモモヨさんは「マジか!」と思ったそうですが、実はそこは二俣になっていて我々が目指すのは左俣。そちらに入ってわずかで8m滝が現れましたが、これは登りません。

トポの指定は8m滝の右岸側を高巻きですが、ここからさほど遠くないところを作業道が横断していることがわかっているので、8m滝の少し手前にあるガレ沢から斜面の直上にかかりました。しかしこの判断は失敗で、植林帯の中とはいえかなりの斜度があるザレた斜面の登りはそこそこ難しく、ここでも時間を使ってしまいました。

それでも最後は傾斜の緩やかな尾根に辿り着き、そこから尾根通しにしばしの登りで作業道が横断している鞍部に到達できました。ここでようやく沢装備を解除し、軽く行動食をとったら下山開始です。尾根をまたぎ終えた後の作業道は、部分的に桟道が腐っているところもあるものの概ね歩きやすく、やがて853m標高点で川苔山からの登山道に合流しました。

引き続きほぼ水平に進む登山道は途中で車道に合流し、わずかの車道歩きから再び登山道に戻りましたが、車道を離れる場所には大根ノ山ノ神の祠が建っていました。ここは今回の遡行の途中で見かけた木橋からの道が峰集落を経て登ってくる場所で、峰集落はここから徒歩10分くらいと至近です。

物の本[1]によれば、峰集落は14-15世紀頃に秩父に住んでいた武士団が移住してできた集落で、かつて柳田國男も学生の頃に滞在し、1972年に最後の住人が下山してその歴史を閉じたところだそう。そうした知識を事前に持ち時間にゆとりがあれば、片道10分の追加の歩きも厭わず訪問したところですが、残念ながらこのときは峰集落についての知識も持ち合わせてはいませんでしたし、早めに下らなければヘッドランプのお世話になりそうでしたから、我々は祠に手を合わせただけで先を急ぎました。

幸い、急いだ甲斐あって鳩ノ巣駅に降り立つまでお日様はもってくれて、無事下山の連絡を入れた後に我々は駅前の自動販売機等で買い求めたビール(ノリコさん)とコーラやジュース(残り2人)とで乾杯したのでした。


遡行する前はこの入川谷はさしてスケールのない小さな沢だと思っていましたが、前半(トバの倉骨と布滝の間)こそ多少単調なものの、中盤以降は息を継ぐ暇もないほど滝が続き、緑の苔も美しくて飽きさせません。今回、我々は初めての組合せだったこともあり積極的にロープを出しましたが、足の揃ったパーティーならロープを出す場面はなく、また我々が巻いた外道滝・銚子滝・速滝の直登にトライしても面白いと思います。もちろんそれがなくてもなかなかの味わいの沢で、手近でワンデイという向きにはお勧めです。

なお、モモヨさんもノリコさんも盛りだくさんで楽しかったと言ってくれて、この沢を選んだ私としては面目を施したかたちですが、次こそはこの3人にエリーも入れて、皆で泊まり沢に繰り出して焚火を囲みたいものです。

脚注

  1. ^牛島盛光「柳田国男と奥多摩の峰集落」『文化財の保護』第33号(東京都教育委員会 2001年3月)p.57-71

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