小川山お殿様岩「大貧民ルート」

日程:2022/05/23

概要:小川山お殿様岩のマルチピッチ「大貧民ルート」を登る。私がハーネスを忘れたために最初の3ピッチはオールフォロー、その後の歩きセクションとトンネルをリード。終了後は灯台下暗しエリアで軽くボルダリング。

山頂:---

同行:セキネくん

山行寸描

▲駐車場から見たお殿様岩。それぞれに個性のあるピッチを重ねてあのてっぺんに登る。(2022/05/23撮影)
▲お殿様岩のてっぺんからのパノラマ。文句なしのコンディションだったのだが……。(2022/05/23撮影)

セキネくんの休日と自分の仕事の都合が合うこの月曜日、天気も上々とあって小川山のマルチピッチを目指すことになりました。向かうルートは駐車場から見えているお殿様岩の「大貧民ルート」(5.7)とあみだ岩の「あみだくじルート」(5.10a)で、後者はセキネくんにとっては既登ですが、私のグレードに見合った易しいルートを二つ繋げようというコンセプトになっています。セキネくんとは当日の朝に韮崎駅で落ち合うことにし、前夜のうちにパッキングを済ませて始発電車に乗ったのですが……。

2022/05/23

△09:45 駐車場 → △10:05-25 取付 → △12:00 終了点 → △13:10-20 駐車場 → △13:30-14:50 灯台下暗しエリア → △15:00 駐車場

甲府に着いたら空が真っ暗で雨が降り出しており、電車が動かない。見れば線路の向こうで竜巻が渦を巻いている。これは!と思ってスマホを取り出し写真を撮ろうとしたもののいくらスワイプしてもカメラが立ち上がらない。なぜ?とよく見ると、iPhoneがいつの間にかAndroidにすり替えられていた。

……という夢から覚めたら、私の乗った電車はまさに甲府駅を出ようとしているところでした。韮崎駅で無事にセキネくんの車に拾ってもらい、小川山に向かう車中でこの悪夢の話をしたのですが、それが何を暗示しているのかさっぱりわかりません。ともあれ廻り目平に着いてみるとさすがに平日とあって駐車場はがら空きで、さっそくリュックサックを背負いセキネくんに先導してもらって林間の道を登りました。親指岩の「クレイジージャム」を見上げてからしばらく道はわかりにくくなりましたが、やがてお殿様岩のたもとに着いて名クラシック「イムジン河」を眺め、その左の凹角に通じるフィックスロープを辿って安定したところでさぁ登攀準備だとリュックサックを開けたところ……ハーネスがない!どうやらハーネスを自宅に置いてきてしまったようです。

これまで小さな忘れ物はたびたびしてきましたが、さすがにハーネスを忘れたのは初めてです。夢のお告げはこれであったかとここで気付いても後の祭り。暗い顔でしばし思案しましたが、確保を要するピッチはセキネくんにリードしてもらい、私はスリングで作った簡易チェストハーネスでフォローすることに相談がまとまりました。

1ピッチ目はふくらんだ岩のクラックを登るピッチですが、自分の体感ではここが一番難しく感じました。セキネくんは慎重にカムを決めて足の位置を丹念に修正しながらクラックを突破しましたが、その後に出てくる左傾したスラブも嫌らしく、セキネくんは「全然簡単じゃありません」と感想を漏らしながら抜けていきました。

2ピッチ目は立体的な岩の壁を右上するピッチ。ここもプロテクションはカムですが、ホールドはガバなので簡単です。

その先に小さなクラックが出てきて、右に落ちると大きく振られることになるので後続の立場からすると振られ止めが欲しくなるところですが、ホールドはそれなりにあるので身体を左側面にすり付けるようにしてバランスをとりながら登ると、セキネくんはバンドの先の立ち木でビレイしていました。

3ピッチ目はバンドをさらに奥へと進んで、そのどんづまりにある枯れ木にランナーをとってから左上のスラブを登るピッチ。2ピッチ目で枯れ木まで進んでそこでビレイする記録もありますが、枯れ木の位置が微妙に不安定なのでどちらがよいかは意見が分かれるところかと思います。

この緩傾斜のスラブはフリクション良好で難しさは感じませんでしたが、10mの間プロテクションなしで登らなければならないのでリードは墜落が許されません。セキネくんは枯れ木から数m戻ったところから取り付くとすぐにガバホールドをとれたと言っていましたが、私は枯れ木の位置から上に見えているダイクを目指して薄い段差をつなぐラインにしました。

スラブを登り切った先は安定した台地になっており、すぐそこにお殿様岩のてっぺんの岩塔が見えています。ここまで3ピッチをセキネくんにリードしてもらっていましたが、ここから先は「フォール」というシチュエーションが想定されないので私が先行することになりました。

岩塔の手前には恐ろしげなギャップがありますが、片足を行く手の岩に乗せてアンダーをとり気合いもろとも乗り移ればOK。このギャップの手前側斜面にはクラックルートの終了点らしきものがありました。

歩きを1ピッチと数えればこのトンネルは5ピッチ目。上部の穴から光が差して明るい雰囲気ですが、ここは太っている人だと通れないといういわく付きで、とにかく障害物はすべて外そうとヘルメットを脱ぎ、ギアや背負ってきたサブザックも置いて潜り込みました。このトンネルは確かに狭い!のですが、フットホールドは豊富で、奥に向かって身体を斜めに倒すように差し込んでいくとどうにか穴の真下に進むことができ、そこからはバンザイの姿勢でボディフリクションを効かせながらじわじわと身体を引き上げ、どうにか通過することができました。

残置したギア類を引き上げ、セキネくんのギアも引っ張り上げてから、セキネくん自身のトライ。決して太くはないものの私よりは体格のよいセキネくんがここを抜けられるか2人とも不安でしたが、無事、安産に終わりました。

トンネルを抜けたところは平らな屋根上のようになっていますが、最高点はそこにちょこんと乗っている丸みを帯びた岩塔です。その左の岩壁も使ってまずセキネくんがてっぺんに登り、ロープで確保してもらって私も後続してお殿様岩の最高点に達しましたが、設置されているそこは2人並んで座るのも窮屈なほど狭いので、私はただちにロワーダウンしました。

このお殿様岩のてっぺんにはラペルリングが設置されており、ひとしきりロープを捌いてからセキネくんも懸垂下降でこの岩塔を降り、引き続き下降の準備にかかります。懸垂下降に使える終了点は先ほど抜けてきたトンネルの出口近くにもあり(「予期せぬプレゼント」)こちらを使っても良かったようですが、我々は「ニンジャ」の終了点を使用しました。もちろん先にセキネくんに降りてもらい、彼のハーネスを引き上げて後続です。

60mロープ1本で下まで届いてクライミング終了、見上げればそこにはシュテファン・グロヴァッツが1987年に拓いた著名ルート。そして冒頭に記したように、本来であればこの後あみだ岩に移動して「あみだくじルート」を登るはずでしたが、私のハーネス忘れのために登攀はここで終了することになりました。セキネくんが「あみだくじルート」を既に登っていることが救いですが、それにしても本当に申し訳ない。

そんなわけで、岩沿いに下って「大貧民ルート」の取付に戻り残置していたリュックサックを回収したらただちに駐車場を目指しました。帰りは途中の斜面を適当に下っていくとくじら岩の近くに出たので、行きもそちらからアプローチした方が近かったかもしれません。

車に戻ったところで持参した行動食で軽い昼食としましたが、さすがにそのまま帰るのももったいないので、金峰山荘でマットをレンタルして駐車場から至近の灯台下暗しエリアに足を運びました。まず向かったのは先日さとし&よっこ夫妻と触った狸岩で、セキネくんの戦績は「素晴らしい4級」(4級)をOS(私からはスタートホールド以外の情報提供は一切なし)、「狸寝入り」(2級)は身長が高いセキネくんには出だしが狭すぎ「自分には二段です」と封印。続いて近くにある灯台下暗し岩を触り、ここでもセキネくんは無名4級をRP。私は申し訳程度にリップ近くのガバをつかんで岩の上に登りましたが、これは体感10級です。

そうこうするうちに15時近くになったのでお開きとし、小川山を後にしました。なお、甲府駅での別れ際の精算の際に、マットのレンタル代を私持ちとしたことは言うまでもありません。