世附川沖ビリ沢下降~樅ノ木沢

概要:山伏峠下から山道を辿って水ノ木分岐の先から南東へ向かう尾根を経て沖ビリ沢(山伏沢)へ。沖ビリ沢を下降し、途中から金山林道を辿って樅ノ木沢橋から樅ノ木沢に入る。樅ノ木沢を遡行し、甲相国境尾根に達して登山道を山伏峠へ戻る。

日程:2020/06/20

分類:関東周辺 / 沢登り

山頂:---

同行:源さん

ハイライトシーン

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沖ビリ沢の美しいナメ。上の画像をタップすると、この日の遡行の概要が見られます。(2020/06/20撮影)
CS状7m滝。これは右(左岸)から巻いた。(2020/06/20撮影)

本稿での滝・地名の同定は、主に『東京起点沢登りルート120』(山と溪谷社・2010年)の記述を参照しています。そのためここでは下降に使用した沢を「沖ビリ沢」としていますが正しくは「山伏沢」で、本来の沖ビリ沢はその一本下流の支流であるようです。

晴れて県外登山解禁となって最初の週末、梅雨の晴れ間をつかまえて釣り師・源さんと共に丹沢湖の西にあたる世附川水系の沖ビリ沢と樅ノ木沢をつなぐことにしました。土日とも晴れならゆっくり出て樅ノ木沢の入り口あたりで焚火を囲む一泊二日のプランも楽しそうですが、さすがにそこまで都合よくはいかず、土曜日早立ちのワンデイでの遡行としました。

2020/06/20

■05:55 山伏峠下 ■06:25-40 水ノ木分岐先ベンチ ■06:50 沖ビリ沢入渓

金曜日の夜に横浜市の源さんの家に泊めてもらい、土曜日の未明に出発。昨年の台風の爪痕が残る道志みち(国道413号)を南下して山伏峠を山中湖側に出たところにある側道の隅に控えめに車を駐めました。

側道のすぐ先にはゲートがあり、ここに入ると左手に昭和28年開通と言われる旧山伏隧道の入り口(「伏山」と右から左へ書かれた額あり)、さらに先にはほとんど廃墟と化している山中湖高原ホテル跡。あたり一帯は私有地なので、そそくさと左手の鳥居をくぐり山道に入りました。

緩やかで歩きやすい山道をゆっくり登ってすぐに東海自然歩道の看板に到着しました。ここは分水嶺になっており、その東側が丹沢ということになります。ここから東海自然歩道を北東方向に進むと水ノ木分岐の道標があり、これをスルーして目の前のピークを登るとてっぺんにベンチが現れました。

ベンチに腰掛けて沢装備を装着してから、西丸方面に向かう南東尾根に入りました。この尾根は登山道ではないもののそれなりに歩かれている様子でしたが、あまり進むと沢から離れるのではないかと考えて早めに左へ急斜面を下り、沖ビリ沢に入りました。しかしこれは失敗で、少し下ったところにクライムダウン困難な4m滝が現れ、いきなり懸垂下降するハメに。そこから少し下ってみるといかにも「ここから下ってください」と言わんばかりの緩やかな尾根と沢筋が右岸から入ってきましたから、どうやら南東尾根をもっと先まで進んでからこれらを使って沖ビリ沢に下るのが正解だったようです。

そんな失敗はあったものの、すぐにナメが現れて気分が良くなってきます。最上部のナメ滝の下の窪みには小ぶりながらもヤマメが群れており、釣り師・源さんは大喜び。しかし、魚留めになっているこのポイントが例外的にヤマメの溜まり場になっていたらしく、その後この沢で源さんが何度か竿を出しても成果は得られませんでした。

それはさておき、この沢のナメはフリクションがとてもよく歩くのが楽しくなってきます。そうは言っても二カ所ほどそのまま下るのは難しい滝が出てくるのですが、そういうところには左岸に下降路を見出すことができ、トラロープも要所に設置されているので安心です。上から数えて二つ目の大きな滝ではくっきりとした地層の境界線を興味深く見ることもできました。

ちなみに、西丹沢一帯に顕著な白い岩(風化した真砂も多い)は花崗岩ではなく石英閃緑岩。丹沢は大陸由来の堆積物(→砂岩・泥岩)や海底火山の噴出物(→凝灰岩)などが何重にも層をなしたところにマグマが上昇してこれらを押し上げドーム状に固まった後に侵食作用を受けて現在の地形になっており、石英閃緑岩はこのマグマに由来する深成岩です。

そんな具合に沖ビリ沢の下降を楽しんで、あっという間に金山沢に合流し左岸の金山林道に上がりました。平坦で歩きやすい林道を20分ほど下流に向かうと樅ノ木沢橋で、ここから第二ラウンドの樅ノ木沢遡行になります。

■08:50 樅ノ木沢橋 ■11:20 ミニ両門ノ滝 ■12:30-35 甲相国境尾根 ■13:30 水ノ木分岐先ベンチ ■14:00 山伏峠下

樅ノ木沢橋の右岸側から樅ノ木沢に入るとすぐ先に幅広い階段状の滝があり、これを右端から越えると左岸側にかっこうの幕営適地が現れました。もしこのあたりがまだヒル害を蒙っていないのであれば、焚火を囲んで一泊したくなるようなところです。十分に気温が下がった季節に、西沢遡行を目的にしてここに泊まるのもよいプランかもしれません。

その西沢を左に分けたところにある石積み堰堤は右(左岸)から簡単に巻き上がり、ここからしばらくの間はトポに言うところのなにもない単調な河原歩きとなりますが、釣り師・源さんにとっては随所に竿出しポイントがあって退屈する暇はなかったようです。ただ、この沢もそれなりに人が入っているようで魚たちは警戒心が強く、努力がなかなか成果に結びつきません。それでもとあるポイントで一匹釣り上げることに成功したのですが……。

合わせた拍子に木の枝に引っかかってしまったヤマメ。そのままにするのはあまりに不憫なので源さんは転がっていた流木を使って枝を叩き、どうにか彼女(?)を下界に連れ戻すことができました。ちょっとつらい目に遭わせてしまい申し訳ない。これからも達者で暮らして下さい。

河原歩きを続けてゆくと、やがて両岸が狭まってきました。そこにいた先行の釣り師に挨拶をしてからゴルジュ状の奥を覗いてみると、細長い釜の向こうに階段状の4m滝、その奥にCS状7m滝が見えています。まずは腰まで水に浸かって4m滝に近づき、これは難なく突破。続いて7m滝を見上げラインを探ってみましたが、てらてらと光って斜度のきついこの滝はちょっと手に負えない感じです。

よって左岸巻き。大きく高巻けばより安全だろうと思いますが、我々は灌木と笹の混じる斜面の中段にある踏み跡を辿りました。足下がザレて不安定のためロープを出してトラバースにかかり、どうにか40mぴったりで懸垂下降に使える孤立した灌木に到着。後続を迎えてここから沢床までの下降は15mほどでした。

さらにしばらく進むとミニ両門ノ滝。奥秩父南面の釜ノ沢の両門ノ滝になぞらえてこのように呼ばれているようで、確かに本家(右の写真)と比べれば見劣りはしますが、それにしても「ミニ」と言うのは失礼にあたると思えるほど見栄えのする滝でした。

ここは左滝を登りますが、源さんが登っているトイ状のラインよりも正面から突破した方が簡単です。そしてミニ両門ノ滝の先に二俣があるのですが、このあたりはやはり昨年の台風のせいなのか沢の中が荒れていて、これを避けるために沢筋の右端を辿ったところ二俣を見逃してしまったようです。

ヌメリの強い横向き6m滝が出てきて、これを倒木頼みに越えたところ、目の前に広がったのはこの光景。

これは右俣の先にある三俣です。これらの水を集めているので右俣の方が左俣よりも水量が多く、ナメも続いているのでこちらに進むのが自然と言えば自然なのですが、沢の名を冠した樅ノ木沢ノ頭は左俣側にあるので、ここはやむなく右岸側の斜面を下って引き返しました。

あらためて先ほど見逃した二俣に戻り、左俣への遡行を継続。右俣のような開放感はないものの、こちらも滝の数を数えるのも無意味と思えるほど小ぶりのナメ滝が連続し、しかもそれらの多くがフリクション良好で気分良く登れました。

やがて奥ノ二俣に到達し、ここでどちらを選ぶかを検討しましたが、樅ノ木沢ノ頭に近づこうとするなら左沢であるものの、右沢の方が等高線の詰まり方がマイルドだという理由で右沢を選びました。こちらにも斜度のきつい5m滝と7m滝が連なっていましたが、あれを登るのは剣呑、それならもう右の尾根に乗り上がろうと沢筋に見切りをつけて手頃なルンゼを上がりました。

沢筋を離れてから30分ほどのアルバイトで無事に甲相国境尾根に到着。ここは2017年の丹沢全山周回の際に日没後の真っ暗な中をヘッドランプ頼みで歩いたところですが、今日はお昼過ぎに着いてしまいました。ここでギア類を外し、あとは歩きやすいもののアップダウンがこたえる登山道を起点目指して歩くだけ。事前の予報では午後から天気が崩れることになっていましたが、どうにか下山まで雨に降られることはありませんでした。


沖ビリ沢は登りにせよ下りにせよ危険が少なく、木漏れ日の中のナメ歩きが堪能できて最高に気持ちがよい沢でした。アプローチはほぼ自家用車前提となってしまいますが、初心者を連れてくるにはよいところかもしれません。

一方、樅ノ木沢は途中の河原歩きが少々だれるものの、中ほどの狭隘部の連瀑から上流はやはりナメ滝の連続が面白く、高巻きポイントの通過さえ慎重にこなせば誰にでも楽しめる沢だと思います。

しかし、人間にとっては遊びのフィールドでも獣たちにとっては生と死の場。沖ビリ沢に入ってすぐに全身骨格、金山沢にぶつかってからも頭蓋骨、そして樅ノ木沢のゴルジュ連瀑手前では今年生まれたばかりと思われる子鹿の滑落死体(皮も肉も真新しい状態)を見かけました。源さんも私も登山中の事故とはこれまで無縁ではありませんでしたから、これらが人ごととは思われず、それぞれに成仏を祈りながら今後の自分たちの無事故を誓ったのでした。