日原川小雲取谷

日程:2020/06/05-06

概要:日原鍾乳洞バス停から日原林道を歩いて大ダワ林道に入り、二軒小屋尾根を乗り越した先から大雲取谷に入渓。しばらく遡行して小雲取谷に入り、標高1380mの適地で幕営。翌日、遡行を続けて小雲取山に上がり、雲取山を往復してから鴨沢へ下山。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:雲取山 2017m

同行:---

山行寸描

▲小雲取谷の2段7m滝。上の画像をクリックすると、小雲取谷の遡行の概要が見られます。(2020/06/05撮影)
▲みずみずしい苔が美しい小滝。日本庭園の趣き。(2020/06/06撮影)

◎本稿での地名の同定は主に『東京起点 沢登りルート120』(山と溪谷社 2010年)の記述を参照しています。

COVID-19の影響で県外登山は引き続き自粛中。それなら東京都の最高峰に沢から登ろうと考えましたが、大雲取谷は以前遡行したことがあるので、今回はその途中から分かれる小雲取谷を選びました。小雲取谷は軽装軽量ならワンデイでも行ける沢ですが、歩荷訓練を兼ねてあえて幕営装備を背負いました(焚火がしたかっただけという説あり)。

2020/06/05

△08:45 鍾乳洞バス停 → △10:45 大ダワ林道入り口 → △11:05-25 二軒小屋尾根 → △11:35 大雲取谷入渓 → △12:35 小雲取谷出合 → △13:35 2段7m滝 → △14:00 1380m幕営適地

週末は東日原までしか行ってくれない西東京バスも、平日はなぜか終点の鍾乳洞まで行ってくれます。ここまで私以外にも数人の乗客が乗ってきましたが、彼らはどこへ行くのだろう?この辺りは昨年10月の台風19号により甚大な被害を受けていて、日原鍾乳洞は休業中ですし、八丁橋からの天祖山の登山道も閉鎖中。そればかりか、ここまで来る手前の川乗橋から川苔山に通じる川乗林道も、中日原から鷹ノ巣山に上がる稲村岩尾根も、いずれも通行禁止の状態です。

バス停から30分弱歩いて八丁橋を過ぎたところから日原林道に入ると頑丈なゲートが設置されていました。そこには日原川流域の登山道の状況を示す看板がありましたが、これを見ると惨憺たる状態です。小雲取谷遡行の過去の記録を見ると日原林道を車で終点近くまで入っているものが見られましたが、現状ではそれは無理。八丁橋の手前にもロープが渡してあり、緊急車両通行のためにそこには車を駐めてはならないと明記されていましたので、この方面へのアプローチに車を使うことは困難だろうと思います。

おおむね歩きやすいものの、途中崩落していて少なくとも車の通行は不可能だろうと思わせる日原林道を日にあぶられながら歩き、大ダワ林道入り口から長沢谷に下りました。降り立ったところには橋が架かっており、そのままアプローチシューズで対岸に渡ります。大ダワ林道は歩く人が少ないためか落ち葉に覆われてわかりにくくなっていましたが、かすかな踏み跡を辿って二軒小屋尾根まで上がり、ここでリュックサックを置いて一休み。ここでシューズを沢靴に履き替え、沢装備を装着しました。以前大雲取谷を遡行したときはロープもハーネスもギアも持たなかったのですが、今回はコロナ明けの脚力・担荷力トレーニングという目的があるため、使わないと思っていてもあえてこれらを持参しています。

二軒小屋尾根をまたぎ越して上流側に進み、桟道のような箇所を過ぎた先に出てきた緩やかな斜面を下ったら大雲取谷に入渓です。

最初に出てきたつるりとした側壁を持つ滝を正面突破して30分ほど進むと、左岸が崩壊した場所に出ました。この崩壊のために大ダワ林道は閉鎖されてしまったのですが、もう二度とこの道が復活することはないのでしょうか?

さらに2条滝。以前遡行したときと同じく、左側から腰まで水につかって回り込み、左壁から水流の中に足を伸ばして通過しました。ここを過ぎればこれと言った滝はなく、やがて遡行開始から1時間で小雲取谷に出合います。

流木ががっちりスクラムを組んで通せんぼをしているような出合ですが、その右端から簡単に小雲取谷に入ることができました。ここから先は自分にとっては未知の領域です。

ゴルジュ状に両岸が立った小雲取谷の中には次々に登れる小滝が現れて飽きさせませんでしたが、途中で出てきたかぶり気味のこの滝だけはその水勢におののいて右(左岸)から巻き上がりました。

さらに易しい2段滝に続いてすっきり立った2条3mの滝は左から水流の中にフットホールドを求めて越え、いよいよ出てきたのが小雲取谷のハイライトとなる2段7mの滝です。

最初はセオリー通り右壁からのアプローチを模索したのですが、観察してみるとこの水量なら左から近づいて水流の中を右上する方が確実だと見えてきました。

もくろみ通り、水流の中にはしっかりした足掛かりが続いており、そのまま落ち口の右端へと抜けることができました。

この2段7m滝を越えた先の標高1340mで左岸から枝沢が出合う地点に幕営適地があるという情報があったのでそのつもりだったところ、実際のその場所は沢床からの高さが足りず、背後の斜面も崩れかけていてとても泊まれそうにありません。仕方なく遡行を続けて階段状の滝を二つ越えると沢筋が開けて、標高1380mほどの右岸に幕営適地が現れました。

よしよしここで幕営だとリュックサックを下ろし、手早くテントを張ったら薪集め。焚火の煙で羽虫が近寄ってこなくなったことを喜びながら、持参したウイスキーでまずは中締めとしました。

2020/06/06

△05:45 1380m幕営適地 → △07:55 富田新道 → △08:10-35 小雲取山 → △08:50-09:00 雲取山 → △09:20-35 小雲取山 → △10:35 ブナ坂 → △13:15 鴨沢

午前4時起床。天気予報ではこの日の午後に雨が降り出すとのことだったので、さっさと山頂を踏んで下山したいところです。

昨夜のうちに薪がほぼきれいに灰になってくれたことに満足しつつ朝食を済ませ、テントを畳んで出発です。しばらくやや荒れ気味の沢筋を上流へと向かうと、標高1440mあたりで右岸から枝沢が入ってきますが、その出合にも幕営適地あり。小雲取谷の中でテントを張れそうなところは、昨夜の場所とこことの2カ所くらいでした。

倒木に覆い隠された残念な姿のトイ状ナメ滝を過ぎて20分ほども進むと、みずみずしい苔に覆われた小滝が出てきました。これは美しい!

トポによれば小雲取谷は苔と原生林が売り物ということになっているのに倒木や地崩れで荒れた様相で少々がっかりしていたのですが、短いながらもこの滝がワンポイントの癒し滝になっていて、思わず声を上げて喜んでしまいました。

その後はひたすら沢筋の中を高度を上げ、最後に水流が消えてから左手に笹の斜面を登ると野陣尾根上の富田新道に登り着くことができました。そこからひと頑張りで小雲取山の標識が立つ広場に達し、ここで沢装備をすべて解きました。

リュックサックや沢靴などは小雲取山にデポし、サブザックに水と行動食と貴重品を入れて雲取山への平坦な道を歩きます。稜線上はガスがかかっていましたが、これもまた風情あり。

デポ地点からわずか15分で雲取山頂に到着。今回の山行の目的地です。ここは東京都最高峰であると共に埼玉県・山梨県との県境をなしていますから、もしかすると山頂を歩き回っているうちにこれら他県に足を踏み入れてしまったかもしれませんが、他の登山者との間にソーシャルディスタンスは確保されていたのでご容赦ください。

山頂で行動食を口にしたら、後は下山するだけです。カラマツの新緑やツツジのピンク、それに七ツ石山の南面では見事なブナ林に癒されながら、奥多摩湖畔の鴨沢を目指して淡々と下り続けました。

なお、石尾根縦走路上はともかく、ブナ坂から鴨沢までの下り道は完全に山梨県。東京都内で完結させようと思えば、せめて七ツ石山を越えて千本ツツジから赤指尾根を下らなければならなかったのですが、その発想は湧きませんでした。我ながら詰めが甘い……。

小雲取谷は前半に小滝を連ねて遡行感度がそこそこ良く、楽しい沢でした。

ただし、ある程度予想してはいましたが昨年の台風でかなり荒れているのにはやはり驚きました。ネット上の数年前の記録のいくつかでは確かに「苔むす沢」という表現が似合う渓相の写真が見られるのに、今回遡行してみるとその多くが剥がされてしまっている感じで、トポに書かれている滝も埋もれているものがあったりして残念な気持ちになりました。それでも、みずみずしい苔の美しさを堪能できた瞬間もあって行ってよかったと思いましたし、雲取山の山頂周辺もカラマツの新緑やピンクのツツジが鮮やかで、これまた来た甲斐ありです。

とはいえ、あえてテント泊にする動機がなければ、この小雲取谷は軽量化して一気に抜けてしまった方が気楽でいいかもしれません。

なお、土曜日の午後から雨になるという予報だったので金曜日をお休みにして金土の1泊2日としましたが、案の定土曜日の15時半頃から奥多摩地方はJR青梅線がストップするほどの大雨で、奥多摩駅周辺でのんびり温泉に入っていたら帰宅できなくなるところでした。

シカ

アプローチの日原林道の途中で、道路の下の方でガサガサと大型獣が走り回る音がしたので身を乗り出して覗き込んでみたところ、そこにいたのはカモシカの親子。母親らしい成獣が軽やかに斜面を横断する後ろをまだちびっこの黒っぽい幼獣が一所懸命追いすがって走る様子は微笑ましいものでした。これまでカモシカの姿は何度も見ていますが、生まれたばかりの子供を見たのはたぶんこれが初めてだと思います。

一方、小雲取谷の中では随所でニホンジカが発する警戒音を聞きましたし、実際にその姿も数頭見掛けました。ご多分に漏れず奥多摩でも鹿の食害は問題になっているようで、小雲取山に掲示されていた「ニホンジカ捕獲の実施について」と題する注意書きには上の写真の赤い地域を中心に鉄砲とわなによる捕獲が実施されているので注意するようにと記されていました(実施期間は昨年7月1日から今年の3月31日まで)が、赤い地域の中には今日登り着いた野陣尾根も含まれていました。

それにしても同じ「シカ」の名前をもらいながら、かたや特別天然記念物、かたや駆除対象(鹿島神宮春日大社では神様の使いなのに)。ニホンジカに同情しないわけではありませんが、丹沢の東半分が私の天敵であるヒルの巣窟に成り果てたのもこいつらのせい。よってニホンジカに対しては、来世はカモシカに生まれ変われよと言ってやることくらいしかできません。

雲取山周辺の小屋事情

三峰側の雲取山荘には今回立ち寄っていませんが、山荘のウェブサイトによればコロナの影響で燃料・資材・食料等の運搬が出来ず次の荷揚げ(7月予定)まで山荘を閉鎖するとのこと。そして山頂の避難小屋は緊急の場合を除き使用自粛。石尾根上にあった奥多摩小屋は施設老朽化のために昨年3月31日をもって閉鎖されており、七ツ石小屋も今年の4月5日からコロナのために休業中です。

雲取山荘が営業していないことは登山中には把握しておらず、このレポートを書いているときに調べて初めて知ったのですが、そこで気になってきたのが鴨沢への下りの途中ですれ違った何人かの登山者のことです。正午の時点で下から三分の一の地点にも達していなかった彼らが雲取山を目指しているのだとしたら、山頂到着は16時頃になるはず。予約なしで雲取山荘に泊まるつもりだったとするとどうなってしまうのか。それに上述の大雨のこともあり、心配は募るばかりです。七ツ石山ピストンでただちに下山してくれていればよいのですが……。