塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

笛吹川東沢釜ノ沢東俣

日程:2006/08/19-20

概要:笛吹川東沢釜ノ沢東俣を遡行。初日は両門ノ滝の手前でテント泊、2日目に急登を続け稜線に出て戸渡尾根を下山。

山頂:木賊山 2469m

同行:デチ / オグ

山行寸描

▲魚止メ滝。上の画像をクリックすると、釜ノ沢東俣の遡行の概要が見られます。(2006/08/19撮影)
▲両門ノ滝。まるで円形闘技場のように見事な造形と左右の岩の色の違いに驚く。(2006/08/20撮影)
▲木賊沢(右)との二俣。登路は中央の樹林の中。(2006/08/20撮影)

元職場仲間のデチとオグを「焚火の沢」へ連れて行くことになり、どこにしようかとあれこれ考えましたが、自分も前から行こうと思っていた奥秩父南面の釜ノ沢がメジャールートだけに安全でもあるだろうと考えてここをチョイスしました。

2006/08/19

△09:50 西沢渓谷入口 → △10:30-45 東沢入渓点 → △15:00-10 釜ノ沢出合 → △15:15 魚止ノ滝 → △16:30 幕営地

新宿をあずさ73号で発って9時前に塩山駅着。3人でタクシーを使って西沢渓谷入口に降り立ちました。ここからしばらくはよく整備された遊歩道で、軽装の観光客や登山者も大勢歩いています。戸渡尾根からの下山口の前を通過するところで「明日はここに降りてくることになります」「ふーん」「へー」などとのどかな会話を交わしましたが、翌日、身も心もぼろぼろになってここに降り立つことになるとは、この時点では2人とも知る由はありません。西沢山荘前を通り、自動車のかたちの田部重治文学碑を眺めて二俣にかかる吊り橋を渡ったところには「東沢渓谷は入山禁止!」との黄色い看板が立っていましたが、沢登ラーは適用除外だろうと勝手に解釈して踏み跡に従って林の中に分け入り、すぐに東沢の河原に降りました。

沢登りの格好に換装して遡行開始。鶏冠谷入口を右に見送って奥へ進むとすぐに左岸にピンクのテープが現れて、明瞭な巻き道に導かれました。この道は、ところどころ高度を上げたり逆に沢へ下りたりしながらも、迷うようなところはなく順調に先に進めます。事前の情報ではホラノ貝沢にかかっているとされていた朽ちかけた木橋は既に完全に落ちてしまって、丸太が斜面に散乱している状態でしたが、ここも問題なく河原に下ることができ、そこから神秘的なホラノ貝ゴルジュの入口を覗き込むことができました。

再び高巻きにかかると暑さと湿気の高さで不快指数がうなぎ上りになっていきましたが、崩壊地を過ぎてしばらく行くと高巻き道は終わり、明るい沢歩きが続くようになりました。しばらく進むと沢の中に見事なグリーンのプールがあり、リュックサックを置いてしばし遊泳タイム。デチとオグの2人が立ち泳ぎで浮かぶ様子はシンクロナイズドスイミングのようです。

ここから釜ノ沢出合までもそこそこ長いのですが、飽きるということはありません。右岸に乙女ノ沢の垂直な壁を見上げて「あそこはアイスクライミングでよく登られているんだよ」「ほえー」、左岸からの東のナメ沢ではちょっと奥まで上がって大スラブを見上げ「これはクライミングシューズの課題」「なるほどー」、ついでに下部のスラブで滑り台を味わってみました。左岸からつるつるの斜面が沢の中へ落ちている場所を微妙なフリクションで通過し、西のナメ沢を見送った先の真っ白な小ナメでウォータースライダーなども楽しみながら、のんびりと進みます。やがて釜ノ沢の出合に到着してみるとここにも幕営適地はありましたが、まだ時刻も早いので小休止をとっただけで先に進むことにしました。

釜ノ沢に入ってすぐに、目の前に立派なスラブ滝が現れました。これが魚止ノ滝で、まずは正面に回ってルートを確認……といってもこれは一目瞭然で、左の壁にある顕著なフレークをつかんで乗り上がれば容易です。そこまでの間にも二つ浅い窪みがフットホールドを提供してくれているので、まずは私が手本を示しました。続くデチはリュックサックの重さに引かれて思うように身体を伸ばせず、二度悲鳴を上げながらずるずる落ちてしまいましたが最後は無事に登り切り、オグも問題なく一撃です。

魚止ノ滝の上、もう一つきれいな白いナメ滝をぺたぺた歩いて越すと、そこからが千畳のナメの始まりです。こじんまりしたナメの上を水がひたひたと流れていて、適当なラインを選んで水の中を歩いて行くのがなかなかいい感じ。5分ほどで出てくる水勢の強い8mスラブ状滝は水流すぐ左のフレーク頼りに直登し、その上はちょっと足掛かりが乏しそうなので左から巻き気味に登りました。さらに気分の良いナメを歩くと大きな釜を持つ6m曲がり滝となり、これは右(左岸)から高巻きました。

そろそろ今日の泊まり場を決めなければなりません。先行の女性2人パーティーがきれいに整地された場所でテントを張っているのをうらやましく眺めながら先に進み、けっこう進んだところで、沢が左に曲がるところの台地上にどうにか二張りとれそうなスペースを見つけました。念のためリュックサックを置いてその先も偵察しましたが、そこから数分の両門ノ滝までの間にこれ以上の適地は見当たらず、ここを今宵の宿と定めました。

台地上にテントを設営し、木の間にロープを渡して濡れものを干し、薪を集めて焚火の準備。夕食はデチのチョイスでペンネとポトフ。火もそこそこ燃え上がり、オグが持参したお酒もどんどん進んで楽しい夜となりましたが、ふと見るとデチがあられもなくお尻を焚火に向けて横になっています。ウォータースライダーがいけなかったのかお腹を冷やしてしまったということでしたが、適当なところでテントに戻って、暗闇の中で「芸能人しりとり」などでさらにしばらく遊んでいるうちに夜は更けていきました。

2006/08/20

△07:10 幕営地 → △07:15 両門ノ滝 → △11:40-12:00 ポンプ小屋 → △12:10-50 甲武信小屋 → △16:40-50 戸渡尾根登山道入口 → △17:15 西沢渓谷入口

2人はシュラフで暖かく眠れたようですが、ラガーシャツ1枚にシュラフカバーだけの私はちょっと寒い思いをしました。4時に起床して火を熾し、朝食をゆったりいただき朝のお勤めも済ませて、昨日の女性2人パーティーを見送ってから我々もおもむろに出発しました。

すぐに着いた両門ノ滝は実に見事で、円形闘技場のような空間に左右から滝がかかり、東俣(右)は赤茶色、西俣(左)は緑白と岩の色が異なっているのも不思議です。どこを登るのだろうか?と眺めてみると、踏み跡は東俣の右手から上がっており、そちらにちょっと登ったところに立つ灌木で支点を作って私が水流際にロープを引っ張りました。途中1カ所残置ピンにランナーをとり、ほぼ30mいっぱいで安定したところでロープを固定してオグにゴボウで登ってもらってから、デチを上から引き上げるかたちとしました。

その先わずかで、二つの滝が合わさる場所に出ました。右が迷い沢、左がヤゲンの滝15mで、ルートは迷い沢の左の緩やかなカンテを登ります。カンテの途中には残置スリングもありましたが、木につかまりながら登れば確保は不要。むしろその先に出てくる6m滝の方が面白く、左壁をIII級程度の登りとなりました。

快適そうな広い幕営適地を抜けたら広河原となりました。このゴーロ歩きは「嫌気がさすほど長い」と聞いてはいましたが、本当に長かった……といっても時間にすれば1時間程度なのですが、単調なゴーロに倒木も時折行く手を塞いで、遡行者に意地悪をしているとしか思えません。なんとかここを耐えて登り、ようやく4段40mナメ滝に到着しました。1段目は四角い板状の岩が組み合わさったような複雑な形をしていて、取り付いてみると肝心のところでホールドが乏しくIII+はありそう。2人には左から巻くよう指示して先に進みました。その上にはワンポイント、股関節の柔軟性とフェルトのフリクションにモノを言わせて両足突っ張りで身体を引き上げる箇所があり、ここでデチは見事にフォール。気を取り直してなんとか上がってきましたが、そのままばったり倒れ込んでしまいました。その上もフリクション頼みで水流左寄りをじわじわと上がりましたが、安全を期するならはっきり左手の水がないところを登れば容易です。

4段滝の上で水師沢を左に分け、帯状にまだら模様がついた岩床を歩いてさらに遡行を続けました。ここからガイドブックでは「ナメ小滝が続く」とあるのですが、どうも全体に沢が荒れ気味でゴーロ石や倒木が目立ちます。沢が大きく左に曲がるところでは斜面の大崩壊とともに巨大な倒木が沢を埋め尽くしていて左(右岸)を巻きましたが、踏み跡が落ち着いていないところを見るとこの倒木はそれほど古くなさそうです。

さらに傾斜のある滝を各自適当にラインをとり、木賊沢を右に分けて樹林帯の中の道、再び沢に戻ってナメ滝をひたすら登ります。この頃になるといい加減登りに飽きてきた上に、天気も悪く今にも雨に降られそうな様子で、早いところ小屋に着かないかとばかり考えるようになりました。デチとオグの2人も息が上がり、すっかり無口になってしまっています。

長い長いハードワークの末にようやくポンプ小屋に到着し、ここから甲武信小屋までは登り10分でした。小屋に飼われている子犬に癒され、おでんで身体を温めてほっと一息。天気がよければ甲武信ヶ岳の山頂を踏むつもりでしたが、あいにくのガス模様なのでとっとと下ることにしました。といっても戸渡尾根を下るためにはまずは木賊山への登りがあって、これもつらいところ。途中の開けたところで登ってきた釜ノ沢の谷筋の深さを見下ろすことができるのが唯一の慰めです。

そして極め付けは、単調で長い戸渡尾根の下りです。ここは以前ヌク沢を遡行したときにも下っていますが、そのヌク沢を渡って軌道跡に辿り着くまでが本当に長く、案の定、最後の方ではデチは半泣きになってしまいました。

前日「明日はここに降りてくることになります」「ふーん」「へー」と確認し合った登山口に、へろへろになってなんとか到着しました。しばらくぐったりしてから最後の余力で西沢渓谷入口まで歩くと、幸いにも売店がまだ開いていてお蕎麦やカレーでエネルギーを補給することができましたが、バスはもうなくなっていたのでタクシーを呼んで塩山駅近くの温泉(公衆浴場?)に運んでもらい、駅前の食堂で軽く打ち上げました。なお、帰りの列車の中で3人とも爆睡したことは言うまでもありません。

ともあれ2人ともお疲れさまでした。山登りをほとんどしたことがない2人が今日1日で1000m登って1300m下ったのですから、それはきついはずです。実を言えば、かくいう私にも十分きつかったのですから……。