日原川大雲取谷

日程:2011/09/17-18

概要:東日原から日原林道を2時間歩いて富田新道入口から入渓し、六間谷出合で幕営。翌日、大ダワ林道に上がり大ダワ経由で雲取山に登頂し、鴨沢へ下山。

山頂:雲取山 2017m

同行:---

山行寸描

▲大雲取谷(左)と長沢谷(右)の分岐。上の画像をクリックすると、大雲取谷の遡行の概要が見られます。(2011/09/17撮影)
▲8m滝。左壁が階段状で簡単。(2011/09/17撮影)
▲六間谷出合の幕営地。奥に見えているのは後からやってきた2人組のタープ。(2011/09/18撮影)

敬老の日の三連休は中央アルプスの沢へ行く予定だったのですが、木曽地方の天気が最後まで読めずぎりぎりのところで延期を決定。とは言うもののどこにも行かないというのももったいないので、比較的安定した天気が期待できそうな奥多摩に転進することにしました。行き先は「いずれ暇ができたら足を踏み入れてみよう」と前々からマークしていた大雲取谷。記録を読んでみると、ソロで行く場合ロープを出す場面はなさそうなので、ハーネスやギアは省略しヘルメットと沢靴のみの軽装としました。

2011/09/17

△09:10 東日原 → △11:15-40 富田新道吊り橋 → △12:30 長沢谷・大雲取谷分岐 → △14:35 小雲取谷出合 → △15:45 六間谷出合

早起きはしたもののいまひとつモチベーションが上がらないものを感じながら「せっかくの連休なんだから」と無理矢理に家を出た自分。東日原までバスに乗って、そこから林道歩きの途中で雨が降ったりやんだりの天気にますます気分はブルーとなりましたが、それでも足は勝手に前に進みます。

東日原から2時間ほどで富田新道を左に分ける地点に到着しましたが、そこの看板には、大ダワ林道が崩落により通行止めであること、そこで6月12日に転落死亡事故が起きていることが記されていました。合掌。

「熊出没注意」の看板にびびりつつ日原林道を離れて富田新道を下ると、唐松谷出合にかかる吊り橋に出ました。この吊り橋の上流側の急斜面を下ったところが入渓点です。

どうどうと音をたてる水勢を慎重に右左とかわしながらゴルジュ内を進むと、沢筋が右に折れるところに最初の微妙な小滝が出てきます。極力水流の弱そうなところを選んで渡り、右からへつり上がるように小滝を越えてさらに前進すると、今度は前方にとても登れそうにない小魚留ノ滝が現れました。ここは少し手前のガレを上がって高巻くのがセオリーですが、十分な高さまで上がってからトラバースにかかるべきところをガレの途中から左へ入るラインに引きこまれてすぐに行き詰まり、そこから数m上へ軌道修正してどうにか本線に乗ることができました。なお今回の山行で一番緊張したのは、このトラバースでした。

小魚留ノ滝のすぐ上で大雲取谷と長沢谷の分岐となり、左の大雲取谷に入ります。しばらく進むと崩壊地があって荒れた様相となりますが、難なく通過できました。さらに5分ほど進むと第二の崩壊地。ここは大きな岩塊が積み上っていて若干のルートファインディングが必要ですが、それでも難しいところはありません。

その先で、大雲取谷の中で最初の滝らしい滝が現れました。巨大なチョックストーンのようなものに塞がれた滝は遠目にはどこを登るのか?という感じですが、近づいてみると左壁が適度な難度の課題を提供してくれていました。さらにその先には2条滝があり、これは左に回り込むと階段状の易しい登路が見えてきます。

ミニミニゴルジュ状の箇所は右壁に長いスリングが残置してありましたが、スリングに手を触れなくてもホールドは手足とも豊富で簡単に抜けることが可能です。そして見事に整地された幕営適地を2カ所通過すると、左岸が広範囲に崩落して倒木が沢を塞いでいる箇所に到着しました。先に見た大ダワ林道の崩落地とはどうやらここのことのようです。

二つ目の2条滝も左から。そこへアプローチするには手前の釜に下半身を沈めなければならずちょっと勇気がいりましたが、水温は案外低くなく風も温かいので、濡れることはそれほど苦になりませんでした。ただしこれが晩秋になってくると、この沢の遡行はつらいものになりそうです。

大雲取谷に入ってから約2時間で小雲取谷出合。ここまでの間は時折雨がぱらつくあいにくの天気でしたが、もともとここは樹林帯の中の暗い沢なのでそう気になるわけでもありません。小雲取谷を左に分けて右へ進むと、本によっては「S字峡」と呼んでいる小さいゴルジュに入ります。右からへつった(ところ足を滑らせてドボンした)り、出口の滝でファイト一発の落ち口またぎをかましたりしながら、ひたすら前進を続けました。

S字峡を出ると小さなナメ床に癒されて、その先にまたまた登攀的な小滝。しかしこれも、左から近づけばガバホールドを使って大胆に足を上へ出すことができました。この沢の滝は、長めのアプローチを持つタイプは右からへつり、いきなり滝に取り付く場合は左から近づけばうまくいくようです。

最後で最大の8m滝も、上記の法則に従って左から近づけば滝の高さの半分くらいのところまでスロープ状になっていて、その上も手掛かり足掛かりに困らない易しい滝でした。これを越えてしまえばもう滝らしい滝はありませんが、さすがにそろそろテントを張る場所を見つけないと暗くなってしまいそうです。

8m滝から20分くらいで六間谷出合となり、左岸の木に打ち付けてある15cm以下の魚は放流にご協力くださいという看板の上の小台地が幕営によさそう。ここでこの日の遡行を終了することにし、小台地に乗り上ってテントを張りました。周囲を探索してみると、そこから下流側へちょっと戻ったもう1段高い場所にも、また逆に上流側の右岸、つまり六間谷と大雲取谷にはさまれた地点にも広くて平らな場所があって快適そうでしたが、一人旅なのでこの狭い台地でも十分です。テントの中で、ハーネスの替わりに詰めてきたハイボール缶で一人乾杯。ゆっくりマカロニミートソースの夕食をとってから横になったところ、私から2時間遅れで2人組がこの地点に到着しました。彼らの姿は小魚留ノ滝を巻き終えたときに滝の下にいるのを見掛けていたのですが、それにしてはずいぶん時間がかかっていますから、もしかしたら途中で竿を出していたのでしょうか?ともあれ、この狭い台地に上がってきた2人に対岸の広場の存在を教えると、この小台地に再び静寂が戻ってきました。

2011/09/18

△06:55 六間谷出合 → △07:05 大ダワ林道 → △07:55-08:05 大ダワ → △08:40-55 雲取山 → △09:45-50 ブナ坂 → △11:50 鴨沢

夜中に外の明るさに気が付いて目が覚めましたが、どうやら月明かりがこの樹林の中にも届いていたようです。翌日の好天を期待しながら二度寝して、次に目が覚めたのはまだ4時すぎでしたが、既に10時間も寝ているのでもうシュラフの中にもぐりこんでいる気にはなれず、テントの外に出ました。

実は昨夜も焚火にトライしてはいたのですが、一昨日から昨日にかけて降り続いた雨で薪はすっかり湿ってしまっており、燃えついてくれませんでした。そこで焚火の形に組むだけ組んで風に当てておいたところ、期待通り温かく乾いた風が上流から下流に向かって吹き続けてくれたおかげで薪の状態はずっと良くなっており、少々の苦労と工夫で無事に火がついてくれました。焚火が安定したところで、マルタイラーメンの朝食をとりましたが、対岸のタープの下で寝ている昨夜の2人組は一向に起き上がる気配がなく、食事を終えてテントを畳み、パッキングを済ませ、火の始末をしてから後ろの斜面を登り始めたところでようやく彼らが身じろぎする様子が窺えました。

さて、この辺りでは大雲取谷に近いところを大ダワ林道が通っているはずなので、テントを張った場所の裏手の緩い斜面をそのまま登ろうと思っていたのですが、ふと見るとうっすらとした踏み跡が右上しています。たぶんこれは……と思いながら踏み跡を辿ると、わずか数分で大ダワ林道に合流しました。

大ダワ林道はところどころに荒れたところもあるものの、おおむねよく整備された歩きやすい道でした。ただ、下から支沢が切れ込むたびに道も上流側へ蛇行するので距離は長く、少々うんざりしてしまいます。それでも明るい木漏れ日を慈しむようにゆっくり高度を上げていくとやがて人の声が聞こえてきて、三峰から雲取山への稜線上の鞍部である大ダワに到着しました。

大ダワから雲取山までは一投足。途中、廃墟と化した雲取ヒュッテの姿に涙を誘われ、ついで雲取山荘の繁栄ぶりに目を見張りながら、のんびりと登山道を進みます。

ついに待望の雲取山頂に到着。素晴らしい快晴と展望に、昨日の雨中の沢登りのモトがとれたような気分です。思い起こせば初めて雲取山の頂に立ったのは今から25年前で、それまでの「ハイキング」から「登山」へと舵を切った年の山行でしたが、そのときに眺めた富士山や大菩薩嶺、南アルプス、そしてもちろん奥秩父主脈の山々が、そのときと変わらぬ姿でこの日も出迎えてくれています。ただ一つだけ景観の中に変わったものがあるとすれば、それは針のように鋭い東京スカイツリーのシルエットでした。

今年の奥多摩は地震や台風の影響で林道がかなりダメージを受けている様子です。八丁橋を渡ったところには次の看板が出ていました。

  • 地震による影響で、落石の危険があるため、小川谷林道〜日原鍾乳洞は、車両も歩行者も当分の間通行できません。長沢背稜酉谷から小川谷林道への下山ができないので、ご注意ください。【天祖山登山口】
  • 崩落・落石の危険があるため通行止め期間を延長します。期間 平成23年7月29日〜平成23年9月30日 通行止めとします。【日原林道入口】

さらに上述のとおり、富田新道の入口にも次の掲示あり。

  • 雲取谷(大ダワ林道)登山道崩落のため通行止。雲取山へは唐松谷・富田新道をご利用ください。
  • 現在通行止めの大ダワ林道崩落現場で、6月12日転落死亡事故が発生しました。迂回路はないので、他の登山道を通行してください。

あれ?今、日原林道の通行止めを告げる看板の画像を見ていて初めて気付きましたが、通行止め看板の上には「歩行者の皆様へ」と書いてありました。しまった、自分はそこを強行突破したことになるのか。