吾妻渓谷不動滝

日程:2001/02/11

概要:上州吾妻渓谷近くの不動滝でアイスクライミング。

山頂:---

同行:黒澤敏弘ガイド

山行寸描

▲不動滝全景。落ち口の奥の安全な場所でビレイしようとすると50mロープでは足りない。(2001/02/11撮影)
▲不動滝を登るほなみさん。この直後にまさかのフォールで笑いをとっていた。(2001/02/11撮影)

2001/02/11

△11:50-17:00 不動滝

2月7日に黒澤ガイドから、当初の予定を変更して日曜日に吾妻渓谷不動滝のアイスクライミングを企画する旨のメールが飛び込んできました。その日調査の仕事でこの近辺を通りがかった黒澤ガイドが覗いてみたところ、不動滝上半部が数年に一度というくらい見事な氷柱になっていたために急遽企画されたものです。不完全燃焼に終わった裏同心ルンゼだけで今シーズンのアイスクライミングを終わりたくなかった私もこの誘いに乗ることにしましたが、ガイドブックで下調べをしてみると「リードは上級者向きであるが立派な氷瀑」とあり、期待に胸が膨らみました。

高崎からJR吾妻線に乗って1時間強の川原湯温泉駅に降り立つとなじみの顔のS氏とA氏がおり、そこに下見に行っていた黒澤ガイド夫妻も合流して、車で5分ほどの駐車場に移動し身繕いをしました。ここから不動沢沿いのゴルジュ帯の道を雪の踏み抜きに気を使いながら詰めて行きますが、1カ所小さいながら岩雪ミックスの悪いトラバースがあり、残置スリングをつかんでひやひやしながら突破すると目の前に見事に立ち上がった不動滝が見えてきました。先行パーティーは2組で、1組はやがて上へ抜けていき、もう1組は滝の途中に支点を作って練習を繰り返しています。こちらもハーネスやアイゼンを装着しましたが、まず黒澤ガイドがダブルロープを引き途中5カ所程アイススクリューでランニングをとりながら上へ抜けるのにほぼ1時間を要しました。やがてようやく準備ができてまずS氏が登り、ついでS氏が半分くらいまで登ったところで私が取り付きました。

一度取り付いた以上は、上まで休むことなく登り続けなければなりません。覚悟を決めて前回教わったことを思い出しながらアックスを振るい、アイゼンを蹴り込みつつ登ります。下からは「かかとをもう少し下げて!」などのアドバイスが飛びましたが、氷が堅くて力の弱い左手のアックスがなかなか決まらず、傾斜が急な下部で早くもふくらはぎが張ってきて途中で力尽きるのではないかと焦りました。必死に高度を上げていくと傾斜が緩くなってきて少し楽になったと思う間もなく、今度は氷が薄く強度に自信がもてない地帯に突入します。下の方ではアックスが決まるときは「ストッ」という粘り気のある静かな音がするのにこの辺りはつらら状になっていたり「ドーン」と内部で響く音がしていて、登りながらけっこう怖いものがありました。それでも先行者のアックスの跡を信じて突っ込み、終了点に到着したときには取り付いてから30分が経過して喉がからからになっていました。なんとかノーテンションで登りきれて充実感に包まれましたが、喜んだのもつかの間、後続のA氏のためのバックロープを引っ張ってきていないことに気付き愕然。仕方なくいったん全員懸垂下降で下ってからA氏にはTRで登っていただき、この間に先行した私たちは下で作られていたコンビーフのスープで一息つきました。ところで、下りついたときに指摘されてはじめて気付きましたが、鼻筋に乾いた血がこびりついています。上からの氷の破片でいつの間にか傷ついていたようで、改めてアイスクライミングの危険性を実感しました。

A氏が下りてきた後、低いところで交替でクライミング動作のおさらいを行ってから、今度はほなみさんがギアの回収のために登りました。今シーズンはこれが最初で最後のアイスだというほなみさんの足さばきは非常にデリケートで、アイゼンを蹴り込むというより乗せにいっている感じ。しかし、前日は暖かくて快適な城ヶ崎海岸でフリークライミング三昧だったほなみさんは「疲れた!」「もうだめだ!」とうるさいことおびただしく、あげくの果てにけっこう大きくフォールしてしまい一同呆然。7千m峰のサミッターでもあるほなみさんの派手なパフォーマンス(?)にビレイしていた黒澤ガイドも「(ほなみさんが)アイスで落ちたのは何年ぶりかな」というぐらいですが、50mロープを2本つないでのTRは落ちるとロープの伸びのために予想以上の距離を落ちることになるのでした。ここからは気合を入れ直して登ったほなみさん、我々の懸垂下降のルートどりの影響で流れが悪くなっていたロープを苦労しながらも整理し、ギアを回収しつつ懸垂下降してきました。

荷物をまとめて滝を後にしたのが16時40分、帰りもゴルジュ帯の悪いトラバースが待っています。ここは先に黒澤ガイドがフィックスロープを張って、S氏・A氏の順に下り、ついで私ですが、数mの短いトラバースからロープ頼みで2mほど雪まじりの岩壁をアイゼンを履いたまま下り、幅の狭い沢を飛び越えて反対側の雪の上に着地するところで足を滑らせて沢に「あーっ!ずぶずぶ」と落ちてしまいました。せいぜいプラブーツが水に浸かるくらいだろうとたかをくくっていたのに意外に深く、腰の近くまで沈んでさすがに動揺しましたが、それでもなんとか短時間で這い上がれたために、ゴアテックス(といっても溌水性はほとんどなくなっていますが)のウェアのおかげもあって実際に肌まで水が通ったのは膝下にとどまってくれました。

駐車場にたどりついて本日のプログラムは終了。すぐに靴と靴下を履き替え、ギア類をしまって車に乗り込むと、そのまま高崎まで送っていただきました。どうやら裏同心ルンゼのリベンジを果たすことができて自分としては満足ですが、話によると5年程後にはこの辺り一帯はダム湖の底に沈んでしまうそうです。せめてこの滝だけでも立派な姿を残してくれればうれしいのですが。

懸垂下降する私。妙に着膨れてますな〜。© 2001 Cat's Forest