ニペソツ山

日程:1998/08/17

概要:十六ノ沢杉沢出合から天狗のコル、前天狗を経てニペソツ山に登頂。前天狗まで戻ってからシャクナゲ尾根を幌加温泉に下る。

山頂:ニペソツ山 2013m

同行:---

山行寸描

▲前天狗からニペソツ山頂を望む。この景色を見るためにここに来たようなもの。(1998/08/17撮影)

1998/08/17

△05:50 杉沢出合 → △07:15 天狗のコル → △08:15-40 前天狗 → △10:00-11:30 ニペソツ山 → △12:55-13:05 前天狗 → △13:55 1662m地点 → △15:00 三条沼 → △16:10 登山口 → △16:20 幌加温泉

前夜泊まった山田温泉を4時40分にカト氏の車で出発。いったん幌加温泉に荷物を預け、デイパック一つの身軽になって十六ノ沢沿いの林道を奥へ進み、終点の杉沢出合でカト氏に別れを告げました。登山口には例によって熊出没の標識があるので7年前に阿寒湖で買った小ぶりのカウベルをデイパックにぶら下げ、濡れた下草を用心してゴアテックスのパンツを穿いて歩き出しました。

道は沢を渡ってすぐに尾根を登り、小気味よいくらい快調に高度を上げること1時間で背の低い灌木帯に移ると、左手にウペペサンケ山、その右に前天狗が見えてきます。水の豊富な天狗のコルを過ぎてナナカマドのトンネルをくぐりながら前天狗の斜面を登ると、道が西側に回りこんで森林限界を超えたところで目の前に「おぉ、トムラウシ!」。沼ノ原から五色ヶ原へ続く大斜面を目で辿ると、左手にトムラウシ山が堂々とした姿を見せていました。さらに高度を上げるにつれ展望が広がり、今度は「あっ、オプタテシケ!」。8年前に必死の思いで越えた急斜面や槍の穂先のような山頂部をあらわにし、その左は十勝連峰につながっています。それにしてもこうして見ると、トムラウシ山は麓から仰ぎ見る山ではなく他の山の上から望む山、「山の中の山」という気がしてきます。

前天狗の西斜面を登り、岩場を抜けるところでふと気が付いてカウベルを外すと、すぐにナキウサギの声が響いてきました。そこでじっと耳をすましていると、目の前の斜面に茶色のナキウサギが2匹、岩の上でさかんに鳴いてはちょこまか走り回っている姿が目に入りました。さらにこの後、ナキウサギも昨日の雨に閉口し今日の太陽に羽目を外しているのではないかと思えるほど、あちこちでナキウサギの姿を見ることになりました。

前天狗の頂上を巻いて展望が開けたところで、今度は眼前にニペソツ山が唐突に出現しました。その姿は写真で見た通り鋭い岩峰を突き上げており、稜線の東側に白い雲を盛んに沸き上がらせています。この素晴らしい山岳展望を堪能しながらここで休憩をとることにし、ゴアテックスのパンツを脱いでから弁当を広げました。山田温泉で作ってもらった弁当はおにぎり2個に焼きタラコ、焼き魚、ハンバーグ、漬け物が添えられた立派なもので、ニペソツ山の景観とナキウサギの声もおかずに添えた贅沢な朝食となりました。

食事を終えたら歩行再開。道は天狗岳の右をトラバースし、大きく下ってから一気に山頂まで登り返しています。ところが山頂を目指して喘ぎながら登っているうちにトムラウシ山方面から押し寄せた雲が視界を遮り始め、ようやく山頂に着いたときには展望がすっかり失われてしまいました。こんなことなら朝食に時間をかけるのではなかった、と後悔しても後の祭りです。

雲さえ払われればと思いながら90分も山頂に居座ったのは斜里岳で粘り勝ちした経験があったからですが、結局山頂からの展望は得られませんでした。主だった眺めは前天狗から見ることができたのだからと自分を宥めて下山を開始すると、天狗岳との間の最低鞍部でこの日初めて他の登山者2人に会いましたが、彼らも杉沢出合から登ってきたようでした。

前天狗で身繕ろいをし、前天狗の最高点を踏んでから幌加温泉方面への道に入りました。下山道はいきなりロープを伝う滑りやすい急斜面の下りで、ついで沢状の地形の中を下るようになったため「調子に乗って下っていたら道に迷うぞ……」と用心し始めた矢先に左手尾根筋に標識の赤テープを見つけほっとしました。道はいったん平坦になったもののあまり歩かれた形跡がなく、ハイマツを漕ぐようなかたちで1662mピークに着いた後に再び下降を始めます。ここから先は要所に下げてある赤テープのおかげでかろうじて方向がつかめるものの、笹は伸び放題伸びて道を隠している上に道が思いがけないところで方向転換していて、初心者や背の低い人にはあまり勧められないものでした。かすかな地形の偏り、笹の密度の違い、視界をわずかにかすめる赤テープに気付かなければ迷子になることは必定で、私も2回「さて、どっちだろう?」と悩む場面にでくわしました。おまけに前日の雨のせいか道がぬかるみ、笹がないところではキノコやコケが随所に発達してマタンゴ(古い……)を連想させるくらいです。

歩きにくい道を呪いながら、やっとの思いで終点の幌加温泉に到着しました。この温泉は本来宿泊客以外は16時までしか風呂に入れないのですが、荷物を預けておいたおかげで宿の主人が私を待っていてくれており、気持ち良く温泉を独り占めさせてくれました。ありがとうございました。

これは、杉沢出合登山口でカト氏が撮ってくれた写真。本物は六切サイズの大きく鮮明なものです。(1998/08/17 カト氏撮影)