富士山
日程:2024/09/02-03
概要:トレーニング山行として富士山へ。初日は富士スバルライン五合目から吉田口頂上まで登り佐藤小屋に下って宿泊、2日目は佐藤小屋から吉田口頂上に登って富士スバルライン五合目に下山。
⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:吉田口頂上 3710m
同行:---
山行寸描
ここ十数年ほど、ほぼ毎年6月から7月にかけてトレーニングのために富士山に登っていますが、今年はいつの間にかはや9月。率直に言って面白みに欠ける山ではありますが、恒例行事を途絶えさせるのもアレなので、雨模様の隙をついて行ってきました。
2024/09/02
△09:40 富士スバルライン五合目 → △14:25-50 吉田口頂上 → △17:15 佐藤小屋
迷走と停滞を重ねた台風10号のために数日前からやきもきした末に、最終的にGOを決めたのは前日の昼。当日は朝一番の新宿発高速バスに乗って、富士スバルライン五合目を目指しました。
富士急ハイランドあたりから見る富士山は、雲のベールをまとってはいるものの青空の下に山体を見せていて登山には問題なさそう。五合目に着いたら簡単に身繕いをして出発ですが、その前に通行料2,000円と協力金1,000円(任意)をあらかじめ支払い済みであることを窓口で示してリストバンドをもらわなければなりません。今年から始まったこの仕組みは1日あたりの登山者数を4,000人に限定することを目的としたもののようで、あらかじめ通行予約をしておけばスムーズですが、予約なしでも当日受付分を1,000名分は確保してあるのだそう。通行予約で払ってしまうと基本的に返金されないのでどのタイミングで申し込むかが悩ましいところですが、4,000人を超えた日というのは実際には数えるほどしかないようですから、ネット上で開示されている申込状況をチェックしながらぎりぎりまで待つのが吉です。
それにしてもこの雲の暴れぶりはどうしたこと!この中に飛び込んで行くことになるのか……。
……というわけで、途中まではそれなりに展望のあったこの山も吉田口山頂に着いてみれば予想通りのガスの中。風も強くて体感温度が一気に下がります。せめてものことに久須志神社で御守りをいただいたら、早々に下山にかかりました。ちなみに山頂にいたのはほとんど外国人で、東洋系はほぼ中国語、西洋系は英語以外の言語が目立ちました。富士山はもはや日本人の山ではありません。
高度を下げると視界が回復しましたが、このダイナミックな景観は「雲が踊る」という感じ。山頂方向から黒っぽい雲が山腹をなだれ落ちてくるさまはかつて御中道巡りをしたときにも見たもので、そのときのそれは悪天候の始まりのサインでしたが、今日はそのまま穏やかに下ることができました。
毎度お世話になっている佐藤小屋ですが、今年は山小屋予約サイト「やまたん」で予約をしており、しかも台風のために何度か宿泊日を変更していたので小屋の側が自分の予約を確認できないトラブルあり。しかし「やまたん」から送られてきていたメールを見せて一件落着し、落ち着いて美味しい夕食をいただくことができました。
彼方のカナトコ雲の中には稲光がぴかぴか、そして予報は朝から雨になることを示していましたが、午前3時に出発すれば降り出す前に登頂できるだろうと踏んで、スマホから通行予約を終えたらさっさと就寝しました。
2024/09/03
△03:05 佐藤小屋 → △07:20-30 吉田口頂上 → △09:40 富士スバルライン五合目
午前2時半起床。あらかじめもらってあった弁当は菓子パン二つとエナジードリンクのゼリーでしたが、やはりお米(おにぎりなど)でないと食べた気にならないなぁ。
ともあれ3時に出発。起床したときには空に星がまたたいていましたが、どうやら徐々に雲が広がっているらしく、歩き始めてふと見上げると星の光はなくなり、その代わりに吉田口登山道の山小屋群のライトが山頂に向かって連なっていました。六合目には小さなプレハブの事務所があって、そこから出てきた元お姉さんにスマホの画面を見せてこの日の分のリストバンドをもらいましたが、見れば事務所の中では若者がごそごそと動き始めたところで、私への対応を終えた元お姉さんはその若者に「もう起きたら?3時だよ!」と喝を入れていました。ご苦労さまです。
東の方には雲が広がっていたために御来光を拝むことはできませんでしたが、雲の中からお日様が顔を覗かせるとあたりが急に明るくなって気分が盛り上がります。あちこちの小屋のテラスでも宿泊客が喜んで写真を撮っていましたが、それから2時間後に山頂に着いてみれば安定のガスの中。昨日と負けず劣らずの寒さで、かじかんだ手では飴を袋から取り出すのも一苦労でした。
おや、昨日は閉まっていた扇屋さんが開いている。これ幸いと注文したお汁粉は極薄の上に800円となかなかいい商売でしたが、それでも温かさが身体に行き渡って生き返る思いでした。ついでに聞いてみたところ、扇屋さんは午後2時くらいになると閉店してしまうのだそう。
山頂が晴れていればお鉢巡りをしようと思っていましたが、ガスと風の中で1時間も彷徨する気にはなれず、さらにやがて雨が降ってくるという予報も気になって、お汁粉を食べ終わったらそそくさと下山にかかりました。ところがじっと足元ばかり見ながら下っていたら、ふいに周囲から歓声が湧き上がりました。何かと思って顔を上げると、急にガスが切れて眼前に現れた雲上の展望に登山客たちが驚きと喜びの声を上げていたのでした。しかも水平方向だけでなく山頂の方にも青空が広がっており、これならしばらく雨が降る気遣いはなさそう。こんなことならもう少し山頂に滞在していればよかったと思いましたが、後の祭りです。まぁ仕方ない、これでも脚力トレーニングとしてはそれなりの成果があったと考えていいでしょう。
七合目から下は再び雲の中になり、湿った空気の中をウマと競走するように歩いて富士スバルライン五合目に着いたのは9時40分。雨具やストックをリュックサックの中にしまって、下山の途中で予約を14時発から10時発に変更してあった新宿行きの高速バスに乗りました。
ここで唐突ですが、富士山では日本の高山においてポピュラーなハイマツとライチョウが見られない理由をご存知ですか?それは富士山が比較的若い山であることと独立峰であることが関係しています。ハイマツほかの高山植物は、氷河期にユーラシア大陸からやってきて氷河期の終わりと共に標高の高い場所に取り残されていった植物ですが、富士山は最終氷期(7万年前〜1万年前)が終わった後も噴火を繰り返した上に、独立峰で周囲の高い山々から植物が侵入しにくく、このため高山植物が少なくなっています。ライチョウも同様に他の生息域から飛来することが難しく、仮に飛来したとしても餌となる高山植物が少ないので定着できません。なお、富士山の森林限界付近でハイマツに代わる特徴的な高山植物は、低木化したカラマツです。
……という話を帰りのバスの中でのアナウンスで知りました。富士山に登り始めて既に四半世紀が過ぎているのに、この山について知らないことはまだまだあるものだなといたく感銘を受けました。
それにしても、富士山に登るのに2日で6,000円はあまりにも財布に厳しい。1回10,000円でもいいのではないかという意見も取り沙汰されたことを思えばこれでもまだましなのかもしれませんが、そういう極論を言う人は富士山を「一生に一度登ればいい山」だと考えているのではないでしょうか。しかし、富士山をより大きな目標に向けてのトレーニングの場として活用してきた岳人にとっては、この金銭的負担は決して楽ではありません。たとえば年間に3回登ればモトがとれるような年パスの発行など、何か工夫はないものでしょうか。
……などとぼやきながらこのレポートをまとめ終えた後の9月4日に「3,000円を返金する」という連絡が入りました。なんで?と思いつつ「山梨県富士山吉田ルートお問合せ専用ダイヤル」に問合せを行い、さらに「富士登山オフィシャルサイト」に掲載されている解説も検討した結果、最終的には以下の結論に至りました(わかりやすくするため話を通行料に限ります)。
- 通行料を支払う必要がある登下山道の通行とは、次の図の赤線部分の道を使用することを意味する。
- 今回のケースは上記の登下山道を「2回通行している」とカウントされる(確かにその通り!)ので、やはり9月2日分と9月3日分の2回分の支払いが必要である。
- でも返金の連絡が入ったのなら、それはそのまま受け取ってくださってけっこうです。
最後の結論はずいぶんおおらかだなと苦笑しましたが、私のわかりにくい説明に対して丁寧に対応してくださった担当の方も今回の山行のように2日続けて登頂する登山者というのは初耳だったらしく「ずいぶんレアなケース」だと言われてしまいました。しかし私の経験からすると、佐藤小屋に泊まる登山者は少なからずそうした登り方をしているので、ここは解釈を確定しておくべきポイントです。
結局のところ返金された理由は解明できませんでした[1]が、返金されるお金は本来支払わなければならないはずのものなので、何かの機会に山梨県にお金を落とすための原資にしようと思います。(2024/09/05追記)
脚注
- ^一つの可能性は「富士登山オフィシャルサイト」が告知(2024/09/03掲載 / 2024/09/05閲覧)している以下の返金対応の余波です。
大雨の影響により、富士スバルラインは9月3日(火)17時15分から9月4日(水)7時30分の間、全線通行止めとなりました。これにより、9月3日(火)、9月4日(水)に登山ができなかった方は、返金させていただきます。予約者側での返金申請・手続きは不要です。クレジットカード会社等を通じての返金処理となります。なお、9月3日(火)、9月4日(水)に現地にて認証(五合目ゲート通過)する方は、返金対象外となりますので、ご承知おきください。
本文中に記したように私は9月3日の認証を五合目ゲートではなく六合目で行い、その際には私が提示した9月3日分のeチケットIDを係の方が(富士スバルライン五合目で行われるQRコード読取りではなく)受付簿に手書きで記していたので、データ連携の不備から私の認証履歴がないために「9月3日は登山していない」と認識されたのかもしれません。