森吉山

日程:2024/08/17

概要:森吉山自然公園野外活動基地をベースとして、ヒバクラ登山口から森吉山山頂までをピストン。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:森吉山 1454m

同行:---

山行寸描

▲ヒバクラ岳の木道から見た森吉山。たおやかな姿はいかにも東北の山という感じ。(2024/08/17撮影)

◎「桃洞沢〜中ノ又沢〜赤水沢下降」からの続き。

2024/08/17

△04:50 親子キャンプ場 → △05:50 ヒバクラ登山口 → △07:25 ヒバクラ分岐 → △07:55 山人平 → △08:20-40 森吉山→ △09:00 山人平 → △09:30 ヒバクラ分岐 → △10:40 ヒバクラ登山口 → △11:25 親子キャンプ場

桃洞沢を遡行して旅の目的は果たしたものの、せっかく森吉山の麓まで来ていて森吉山に登らないという手はなかろうと考え、午前中でキャンプ場から山頂までをピストンしようというのがこの日の山行です。

昨日と同じく3時半に起床し、朝食を終えてから軽装で出発。ヒバクラ登山口までは1時間ほどの緩やかな車道の登りで、歩いている間に穏やかな曙光が徐々に昼の明るさに変わっていくのを面白く眺めながら歩きました。そうして着いたヒバクラ登山口は「えっ、ここ?」と思うような草ぼうぼうの風体でしたが、それは入口だけで少し進むと林間の歩きやすい登山道になりました。ぬかるみを懸念して沢靴で歩いているものの、そうした心配もほぼ問題ないレベルです。

ヒバクラ岳への登りの途中には「クロベ巨木林」と「ブナ林台地」があり、特に後者の明るい雰囲気は好ましいものでした。これらの木々が森吉山の豊かな生態系を支えているのだろうと思いますが、そのおかげで登山道のど真ん中にまだ新しいクマの糞が放置されていたのには少々緊張しました。

水場を過ぎ、急な階段を登って高度をぐんと上げると左手にヒバクラ岳の山頂が姿を現しました。見ればてっぺん近くにごつごつした岩を覗かせていることから、ヒバクラの「クラ」とは「嵓」なのだろうと推測できますが、近くに寄ろうにも登山道は山頂の右側面を巻いて付けられており、無雪期に登ろうとすれば厳しい藪漕ぎになるそうです。

しかし、ヒバクラ岳の良さはその側面の高層湿原にありました。小さいながら池塘を備えたかわいらしい草地にはさまざまな花が名残の花を咲かせており、その中を通る木道を歩いていてもつい足が止まりがちになってしまいます。そんなふうにして歩くにつれて、さほど遠くない距離にある森吉山の姿が徐々に大きくなってきました。

もともと森吉山は花の名山として知られ、その最盛期は6月下旬から7月上旬ですが、このタイミングではタチギボウシやハクサンボウフウ、キンコウカ、アキノキリンソウなどを見ることができました。

ヒバクラ岳を右から回り込んで森吉山側に出たところにも広い湿原があり、ここでは初夏にはニッコウキスゲが一斉に黄色い花をつけるそうです。そしてここはヒバクラ分岐と呼ばれてヒバクラ岳から東南東に続く尾根上の登山道が分かれていますが、その登山道を伸ばした先に昨日ちらっと接触した裏安ノ滝歩道があって桃洞沢と中ノ又沢の分水嶺をなしているという位置関係になります。

ヒバクラ分岐を右に折れると下り傾斜の草原が現れました。彼方の空や山々の眺めと相俟って「天空の湿原」という感じがすてきです。

いったん林間の鞍部に下って登り返したところが山人平。標識があるあたりは乾燥した裸地に近い様子でしたが、ふと見るとヒゲグルマがあったので、ここも初夏にはチングルマが群生するようです。そして少し進むとヒバクラ岳以上の規模の湿地帯が現れました。

開けた湿原の端に控えめに付けられた木道から、森吉山のたおやかな姿を間近に見上げて至福の時。森吉山(向岳)は森吉火山の中央火口丘であり、先ほど通過してきたヒバクラ岳はカルデラ縁に形成された溶岩円頂丘です。また、あの山頂の手前の黒っぽい森はオオシラビソ。森吉山の森林の垂直分布は下から上へブナ→ダケカンバ→オオシラビソです。

そしてこちらの湿原には、紫のタチギボウシと共に濃い黄色のミズギクが群生していました。

誰もいない森吉山の山頂に到着。西の方に目を凝らすと日本海が見えていました。江戸時代の北前船は森吉山を海上から眺めて道しるべとしたそうですが、こちらから見ると海岸線に沿って風力発電の巨大風車らしきものが林立している様子がわかります。

「森吉山」の標柱の向こう側を見下ろすと眼下に森吉神社避難小屋が見え、右に目を転じていくと前岳から一ノ腰、さらに1155ピークからカンバ森を経てヒバクラ岳へつながるカルデラ縁を見ることができますが、ヒバクラ岳のさらに右に遠くあるはずの八幡平や岩手山、秋田駒ヶ岳は雲に隠れてそれと認識することができませんでした。

その代わりこの山頂でも紫や白のツリガネニンジンが咲いていて、目を楽しませてくれました。ありがとう。

しばらく穏やかな風に吹かれてから山頂を後にしました。帰路は往路を忠実に辿り返し、途中いくつかの湿原で再び花々を愛でましたが、もう足を停めることはしませんでした。そしてこの山行で出会った他の登山者は、帰路のヒバクラ分岐ですれ違った単独行の男性ただ一人だけ。それくらい静かな山行でした。

これで足掛け3日間に及んだ森吉山訪問は終了です。キャンプ場に戻って張りっぱなしにして乾かしていたテントを撤収し、濡れタオルで身体を拭って上から下まで着替えてさっぱりしてから野外活動センターへ移動して退去の手続を行ったら、乗合タクシーが来るまでの間にセンターの方から主として桃洞沢周辺の地理や歴史(たとえば「裏安ノ滝歩道」のことなど)を教わって、とても有意義な時間を過ごしました。ありがとうございました。