只見川塩沢川立安沢↑笠倉沢↓

日程:2024/07/02

概要:只見川支流の塩沢川沿いの林道をゲートまで進み、少し歩いたところから立安沢を遡行。笠倉山西北の鞍部を越えて笠倉沢を下降し、塩沢川に降りて林道を起点まで戻る周回ルート。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:ヅカ氏

山行寸描

▲立安沢から笠倉沢への周回コース。こじんまりした遡行だが、面白いポイントがいくつもあって楽しかった。(2024/07/02撮影)

今年最初のヅカ氏との沢登りは当初6月末に泊まり沢を予定していたのですが、梅雨の最中とあって土曜日ワンデイの日帰り沢に変更になり、これも現地に着いたところで予報とは裏腹の雨に見舞われてあえなく中止。このままでは悲しすぎるので中二日をおいた火曜日に再起を期することにし、天気予報で条件の良さそうな場所を探した結果出てきたプランは、ヅカ氏がこよなく愛する只見川流域のマイナー沢である塩沢川立安沢遡行〜笠倉沢下降の周回コースでした。

2024/07/02

△07:10 林道ゲート → △07:20 立安沢入渓 → △08:20 3段の滝 → △08:30-09:05 柱状節理の滝 → △11:05 鞍部 → △13:35 塩沢川出合 → △14:20 林道 → △14:45 林道ゲート

会津地方某所に前夜泊して、朝を迎えてみればなかなかいい天気。そこから1時間ほど車で現地へと移動すると若干雲が下がってきてしまいましたが、少なくとも雨が降る気遣いはなさそうです。

只見川沿いの道を塩沢橋で離れて支流・塩沢川の左岸の道をしばらく進むと通行止めのハードルが設置されており、その手前が数台は置ける駐車スペースになっていて、ここに車を駐めて身繕いを行いました。この地方の夏というとアブが気になるところですが、幸い気温がまだ高くないおかげか虫の心配はいらず、車の外でのんびり準備をしてから出発です。林道を少し進むとすぐに左に塩沢川の支流である立安沢が分かれるので、適当なところから塩沢川を渡って立安沢に入りました。

この沢に入ると誰もが驚くだろうと思うのが、この水の色です。コーヒー色?鉄サビ色?なんとも言えない(お世辞にも美しいとは言えない)色ですが、特にこれといった異臭を放っているわけではありませんし、実はこの沢には普通に魚が棲んでいます。

立安沢は塩沢川から分かれるあたりでは河原を持っていますが、すぐに笠倉山の西裾を巡るようになって幅が狭まり、次々に釜と小滝を繰り出してきます。こういうところではヅカ氏と私の志向の違いがはっきり出て、ヅカ氏はとにかく泳ぎたい派、私は可能な限りへつりたい派。それでもIII級くらいの見栄えがする滝に大喜びするところは共通です。

やがて出てきた大物は威風堂々とした3段滝で、下段は左(右岸)の草付の斜面を何ということもなく上がり、中段は左壁の上縁近くをトラバースしてクリア。

上段は大きさ・斜度・水量ともどこに出しても恥ずかしくない風格を備えていますが、水流の左が落ち口まで階段状になってつながっており、ロープ無用で気持ちよくこれを登り切りました。

すると3段の滝を登り終えた先に早くも見えてくるのが、この沢の主役だと思われる柱状節理の滝です。この沢の中でここにだけこうした火山性の地形が出てくるのが不思議ですが、正面から見たところ高さは20mほどで傾斜もそこそこあり、ぱっと見はどのラインが登れるんだ?という感じ。しかし、釜の手前側にリュックサックを下ろして行動食片手に滝の下まで歩いて行ってみると、滝の右壁が乾いていて傾斜も思ったほどきつくなく、斜面の途中には灌木が生えていてランナーをとることもできそうです。

ここまでずっとヅカ氏に先行してもらっていましたが、心の中で舌なめずりしている私の様子を察してくれたヅカ氏がビレイを引き受けてくれて私のリード。ヅカ氏の方は中段で水流を横断して左壁を登れるのではないかという意見でしたが、この水量だと水をかぶるのが些かつらそうであることもあり、第一感の右壁を登路に選びました。こちらは下から見たときにも「案外傾斜が寝ているな」という印象でしたが、実際に登ってみてもおそらく60度もないくらい、そしてしっかりしたガバホールドが続いていて快適そのもの(体感III+程度)です。

登り出す前の申し合わせ通りに斜面の途中の灌木でランナーをとってから、ヅカ氏に向かってロープの残りを確認するとまだ十分残っているということなのでそのままトップアウトすることにしましたが、この灌木の位置は登攀ラインに対して右に外れており、しかも意外にその周辺の足元がよくなかったので、この灌木ではランナーをとらない方が良かったかもしれません。一応リンクカムとボールナッツを腰にぶら下げてはいたのですが、適当なクラックが見つからなかった(というより真剣に探さなかった)ためにこれらはただの重石になってしまいました。とは言うものの、落ち口を目前にするあたりの傾斜が立ってくるパートで適切なフットホールドを見出すために手順足順の組み直しが必要になったり、これはと思うホールドが触ると欠けたりしましたから、高さのあるフリーソロに不安があるメンバーがいる場合はロープを出すことをためらうべきではないと思います。なお、ピトンを打ち込むリスはいくらでも得られます。

セカンドのヅカ氏がまったく危なげなく後続してくれて、これで大物滝は終了です。しかしGPSで現在地点を確認すると、それなりに高度を上げてきたつもりだったのにまだ標高は540mほどで、これは水平方向では半分ほどしか進んでおらず、標高差では4割も稼いでいない(起点の標高が400m弱、目指す笠倉山北西の鞍部の標高が780mほど)ことを意味しています。おやおや、と思いながらしばらく穏やかな沢筋を進むと、この地方の沢で時折見かけるグリーンタフ(緑色凝灰岩)にお目にかかりました。

幸い、標高差を6割も残してアトラクション終了ということはさすがになく、高さはないものの神経を使う小滝が立ちはだかったり、柔らかい岩盤が侵食されてできる緑の廊下の造形美が目を楽しませてくれた上に、倒木にびっしり生えたきれいなキクラゲがヅカ氏の家族へのお土産になりました。

標高650mの二俣では左に進むのが本流のように見えましたが、そのまま進んだのでは狙っている最低鞍部より西北に外れた高いところに出てしまいます。そこでほとんど水が流れていない右の窪みに入ったのですが、これはあまりよい選択ではなかった模様。右の窪はすぐに沢の体裁をなさなくなってしまったためにさらに右の尾根に逃げた結果、逆に鞍部の南東へ外れてしまいました。それでも尾根上の藪はさほど濃くなく、途中の開けたところからは豪雪地帯特有の雪崩によるスラブ地形(アバランチシュート)が点在する山並みを背後に眺めることができたので、鞍部への最短ルートをつかまえられなかったにしても大失敗というほどではなかったと思います(思いたい)。

笠倉山の西北の尾根上に出たところで向きを変えて鞍部に向かって下り、適当なところから右の笠倉沢を目指して下降を始めると、最初は普通の沢形だったものがやがて滑りやすいスラブになりました。他の記録を見ると下り始めの位置次第でこのスラブの規模が変わってくるようですが、ここでは左側の斜面に生える灌木の枝を頼りに急下降を続け、はっきりと沢の中に降り立つといくつか出てくるナメ斜面や滝を、あるものは巻き、あるものはフリクション頼み。さらには枝をつかんで降りたり残置スリングを使って懸垂下降したりと臨機応変の対処でこなしていきます。

ちょっと痺れたのは高さ5mほどの斜度のきついスラブ滝で、両岸は雪に磨かれた上に枯れ草が堆積しているだけなので懸垂下降の支点は得られず、覚悟を決めてクライムダウンするしかありません。こういうところが特に強いヅカ氏がお手本を見せてくれた後に私もへっぴり腰で続いたのですが……そのへっぴり具合は冒頭に掲げた動画を見ていただければと思いますし、こうしたクライムダウンがあるのでこのコースはフェルトソールには向いていないと断言できます。

数箇所に残るスノーブリッジの残骸にこの地方の雪の深さを思い、うねうねと続く樋状のゴルジュに雪解け水の侵食力を想像しながら下降を続けるのも楽しいものです。このコースは立安沢の連瀑にポイントがあるのだろうと思っていたのですが、こうして実際に上り下りしてみると、立安沢の登りと笠倉沢の下降とがセットで魅力を提供していることがよくわかります。

ラスボス的な滝を懸垂下降したらわずかの歩きで塩沢川に出合いました。ここからは穏やかな沢歩きになります(塩沢川まで下り切らずに右岸のゼンマイ道に入っている記録もあります)が、相変わらずヅカ氏は隙あらば淵で泳いで、ついでにこちらに水しぶきをかけてきます。きみは小学生か!💢

堰堤は右岸側のラダーを支点にして懸垂下降し、そこから下流に少し進んだところに右岸から入ってくる小さい枝沢を遡って林道に乗り上がって、歩きやすいこの道を20分余り歩いたところがゲートでした。

この立安沢遡行〜笠倉沢下降コースはそれなりに歩かれているのですが、「わざわざ首都圏から来る沢ではない」と書かれることがあるのは、この山域には他にいくらでもより充実してより奮闘的な沢があるからでしょう。しかしこのコースのことだけを客観的に眺めてみれば、見どころ仕どころの多い楽しい沢でした。この日は時どき青空が覗いたものの基本的には曇り模様で、これがもし快晴だったら3段滝や柱状節理の滝は一層爽快な眺めだったに違いありません。会津方面へのアクセスを苦にしない人であれば「いつか行く沢」のリストにこのコースを加えておくことをお勧めします。

我々は、遡行終了後に只見駅に立ち寄って鄙びた「驛」の風情を楽しみ、当地の名物だというマトン丼(なぜ只見名物がマトンなのかについて店員さんに聞いてみましたが、諸説あるようで決定打がありませんでした)をおいしくいただき、そして「道の駅山口温泉きらら289」で熱〜い露天風呂に入ってさっぱりしてから帰京しました。このようにプチ只見観光も含めて考えると、今回のショートトリップはすこぶる充実していたと言って良さそうです。