秋田駒ヶ岳

日程:2024/04/07

概要:アルパこまくさから八合目小屋へ登り、そこから最高峰・男女岳へ。復路は阿弥陀池避難小屋に立ち寄ってから、八合目小屋経由アルパこまくさへわかんを履いて下る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角(横幅768px以上)の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:秋田駒ヶ岳(男女岳) 1637m

同行:トモミさん

山行寸描

▲八合目小屋付近から見た山頂周辺。複雑な地形のために初見では道筋を見出しにくい。(2024/04/07撮影)
▲男女岳山頂に到着。山頂周辺の衛生峰群のほか、眼下には田沢湖、遠くには雲に隠れた岩手山が見える。(2024/04/07撮影)

この冬は、氷瀑はいくつか登ったもののまともな雪山は登っていなかったので、山友トモミさんに付き合ってもらってのワンデイ登山。本当は木曽駒ヶ岳の予定でしたが、数日前時点での天気予報では信州の天気がイマイチだったので、天気が良さそうな東北地方の山の中から駒ヶ岳つながりで秋田駒になりました。

前日は移動日。新幹線「こまち」で着いた田沢湖駅前の食堂できりたんぽ稲庭うどんを食し、バスで乳頭温泉郷に移動して「妙乃湯」でほっこり。この日の宿となるロッジアイリスに15時前に到着したら、夕食までの時間を使ってロッジ前の雪の広場でビーコンの練習をしました。各自、自分のビーコンを適当なところに隠して相手に見つけさせるわけですが、私が探す番でどうしてもトモミさんのビーコンをつかまえられない!「助けて〜」「苦しい〜」などとプレッシャーをかけるトモミさんに負け、ついにギブアップして掘り出してもらったらSENDモードになっていません。そのときは一瞬大笑いになったのですが、実際に使うときは相互確認を怠らないようにしようとすぐに真顔になりました。

2024/04/07

△06:05 ロッジアイリス → △06:25 アルパこまくさ → △09:00-20 八合目小屋 → △10:30-40 秋田駒ヶ岳(男女岳) → △10:55-11:00 阿弥陀池避難小屋 → △11:40-12:10 八合目小屋 → △13:35 アルパこまくさ

午前5時起床。昨夜の夕食は質・量共に豪華版(しかもコスパが素晴らしい)でしたが、早立ちのために朝食は持参したカップ麺などでそそくさとすませて、6時にロッジを出ました。

起点となるアルパこまくさへと車道を歩くと、背後には田沢湖がひっそりと姿を見せていますが、行手の秋田駒ヶ岳は山頂を雲の中に隠しています。しかし天気予報では登頂予定時刻には晴れるはず。展望に恵まれることを期待しながら、アルパこまくさの近くから雪道に踏み込みました。

しばらくの間は、どんよりした雲の下で林間の切り通しをひたすら歩きます。気温は高めで、まだ早朝だというのに長袖Tシャツ1枚でも足りるほど。しかし幸い足元の雪は締まっているので、つぼ足で歩いても踏み抜くことはほとんどありません。やがて予報通りに雲が切れ、日が差し込むようになりました。

ついに雲の中から姿を現した秋田駒ヶ岳の全貌に接して、ますます気分が盛り上がってきました。10年前に葛根田川〜大石沢を遡行して乳頭山の近くに出たときにもこの姿を遠望してはいますが、登山の対象としてじかに秋田駒ヶ岳を見るのはこれが初めてです。

無雪期にはここまでバスが通っているという八合目小屋に着いて、2階に入って小休止。不要な荷物をここにデポし、さすがにここからは防風防寒着を1枚着込んだ上で山頂を目指します。

それにしても、小屋の前から見る地形は複雑怪奇です。雪の上に残された踏み跡がなかったらルートに迷いそうですが、過去に二度ここを訪れているトモミさんは自信満々で道筋を指し示してくれました。

八合目小屋からおおまかな尾根状の地形を登っていくと、この日初めて人と出会いました。後日拝見したYAMAPの記録によれば我々より1時間以上も早く登頂していた彼女は、すたすたと降りてきて風のようにすれ違っていきましたが、その後ろ姿を見送ったあとは我々以外に誰もいない静かな山登りとなりました。

尾根の一番高いところに立つと、前方に最高峰・男女岳おなめだけが南面を現しました。その左にちらっと見えているピークは男岳おだけ、眼下の平地は浄土平で、浄土平の奥に2棟の建物が並んでいるのが阿弥陀池避難小屋です。これらのネーミングからわかるようにこの山は信仰登山の対象だったそうで、祠は男岳の方にありますから、麓から見てより立派に映る男岳(1623m)の方が主峰だと認識されていたようです。また、男岳と女岳めだけがある上に男女岳というのも不思議な名前ですが、実は男女岳(女目岳)の読み「オナメ」とは妾のことで、男岳が近くに妾を置いていることに怒った女岳がときどき噴火したと言われているらしく、その最後の噴火は1970年から翌年にかけてのことです。

無雪期の登山道は阿弥陀池避難小屋から男女岳のピークを往復するようにつけられていますが、この時期は浄土平に降りたら適当なところからダイレクトに山頂を目指します。男女岳の斜面はきわめて傾斜が緩く、しかもこの日は雪が柔らかいためにキックステップを使うまでもなく普通に歩けてしまいます。当然ピッケルもアイゼンも不要で、ストックを使ってすたすたと高度を上げていくことができました。

やがて植生や登山道が露出し始めたら山頂は間近。背後には阿弥陀池の向こうに女岳を見通すこともできるようになりました。

男女岳山頂に到着。時折ガスが風に乗って押し寄せてくるために360度の展望というわけにはいきませんでしたが、それでも周辺の地形を面白く眺め、田沢湖も見下ろすことができて大満足です。あの田沢湖も火山が作った湖で、100数十万年前の爆発によるカルデラだと考えられており、その水深423mは日本第1位、世界では17番目だそうです。

過去に二度秋田駒ヶ岳に来ているトモミさんも、男女岳に登るのはこれが初めてなのでご満悦。お互いに収穫のある山行でした。お疲れさま。

下りはこれもトモミさんがまだ立ち寄ったことがないという阿弥陀池避難小屋方向へ。雪の下り斜面にかかとをしっかり効かせてぐんぐん下れば、やがて木の階段と石畳の道が迎えてくれます。

トモミさんは興味津々といった様子で阿弥陀池避難小屋の周囲を探索していましたが、私の方は雪に埋もれた阿弥陀池とその向こうの鞍部をじっくり観察しました。トモミさんが教えてくれるところによれば、あの鞍部を越えたところにあるのが「ムーミン谷」と通称される高山植物帯で、初夏にはチングルマの群落がそれはそれは素晴らしく、さらにそこから登る岩礫の尾根ではコマクサを見ることもできるのだそうです。

下山は浄土平を横切って、谷筋の左岸の斜面をトラバース。この頃になるとスキーやスノーシューを履いた登山者が次々に登ってくるようになりました。

八合目小屋に戻ってひと息ついたら、わかんを装着して下ります。トモミさんはわかんの扱いに慣れているそうですが、私の方は最後にいつ使ったか思い出せないほど久しぶり。しかしここでわかんを着けたのは正解で、朝方はしっかりつぼ足を支えてくれた雪も午後になると緩んでしまっており、わかんがなかったら難儀したことでしょう。

そして下るにつれて雲がとれ、アルパこまくさに降り着く頃には素晴らしい青空の下に秋田駒ヶ岳が堂々とした姿をすべて見せてくれていました。

山行の起終点となったアルパこまくさの「アルパ」はアルペンとスパの合成語だそうで、その名の示す通り「自然ふれあい温泉館」「秋田駒ヶ岳情報センター」「秋田駒ヶ岳火山防災ステーション」の複合施設です。我々もアルパこまくさで山行を終えたら温泉につかって癒しのひとときを過ごしたのですが、私にとってはそれよりも秋田駒ヶ岳の成り立ちや防災情報などを展示している点がポイント高く、時間の許す限り各種展示や防災ビデオを視聴しました。特に大型のジオラマとカルデラの図はよくできていて、恥ずかしながらこれらを見てやっと、地形図からでは読み取りにくかった秋田駒ヶ岳の姿かたちを具体的に理解できたという次第です。

ともあれ、秋田駒ヶ岳は自分の登山歴の中でかなり古くから一度は登りたい山の一つに上がっていた山だけにうれしい登頂になりました。今回は行き先変更後のプランニングや各種手配、さらに現地での道案内に至るまで、トモミさんにおんぶにだっこでした(トモミさん、ありがとう!)が、この山は上述のとおりチングルマやコマクサなどの高山植物で名高い山でもあるので、今回の経験を生かしていずれかの年の初夏に再訪したいものです。