角木場の氷柱

日程:2024/03/25

概要:美濃戸口から徒歩わずかの角木場の氷柱で、今度こそ今季のアイスクライミング納め。

山頂:---

同行:セキネくん

山行寸描

▲角木場の氷柱。雨の中での練習になったが、無事に登れただけでもよしとするしかない。(2024/03/25撮影)

山友セキネくんとはこの冬にアルパインルートを登る計画を年明けから持っていたのですが、家庭の事情や悪天候といった不可抗力によって計画が延期されること二度三度。春分の日を過ぎてやっと巡ってきたこのタイミングも、当初は横岳西面のマイナーながら手応えのありそうなルートを狙ってプランを練っていたのに2日前の天気予報で降雪直後の気温上昇が見込まれたことから計画を断念することになり、せめてゲレンデアイスでも登ろうと南沢大滝を目標にして登山届を出し直しました。待ち合わせはいつものように、私の方は前日のうちに美濃戸口の八ヶ岳山荘に入って仮眠室で夜を過ごし、当日の早朝に車でやってくるセキネくんと合流する手はずです。

公共交通機関を乗り継いで八ヶ岳山荘に着いたのは日曜日の15時前で、ちょうど山から降りてきた登山者たちが山行の余韻に浸りながら会話をしたり食事をとったりしていましたが、やがて皆いなくなって残されたのは私だけとなり、これも吉例になっている山賊焼定食でカロリーを補充したら早々に2階の仮眠室に上がりました。

2024/03/25

△08:20 美濃戸口 → △08:40-11:15 角木場の氷柱 → △11:35 美濃戸口

ゆっくり6時に起床して外を見てみると、まさかの雨。確かにこの日の天気も良くはない予報だったのですが、雨が降り出すのは午後からだったはずなのに……。

1階に降りて寛いでいるうちに山荘のスタッフも顔を出してテレビをつけてくれましたが、まぁ見事にどこもかしこも終日雨マークです。これが雪ならまだしもですが、山荘のスタッフが測って教えてくれた外気温は摂氏3度でとても暖かく、雨になるのもむべなるかな。セキネくんは現在の車のタイヤに履くチェーンを持っていないので美濃戸口から南沢大滝まで歩く予定だったのですが、2時間以上も雨に降られながら歩くのはさすがにツライので、どうしたものかと思案しながらセキネくんの到着を待ちました。

予定していた8時の少し前に到着したセキネくんも「雨、降ってますね」と暗い顔ですが、協議の結果、つい最近Facebook上に写真が上がっていた角木場かどきばの氷柱に転進することにしました。そこは今いる八ヶ岳山荘から徒歩でアプローチでき、いつでも撤退できるロケーションにあるからですが、実は二人とも角木場の氷柱には行ったことがありません。その場で付け焼き刃の情報収集を行って、どうやらトップロープを張るのが核心部らしいということだけはわかったものの、後は行ってみての判断にしようというところまで決めたら、山荘の中でハーネスを履き必要最小限のギアだけを持って外に出ました。

幸い雨は小降りでさほど気にならない程度になっており、轍の中を水が流れる恐ろしい光景の中をしばらく進むと、道がカーブして下り始める手前によく目立つピンクテープが付いており、比較的最近のものと思われる踏み跡も雪の上に残されていたのでここから左に下りました。

ピンクテープを追って上流方向にしばらく下るとフィックスロープが現れ、これを辿ってさらに下るとスムーズに河原に降り立つことができました。まずは河原を歩いて氷柱の位置を確認してから、登り返してトップロープを張ろうという作戦です。

降り立ったところから左に続く踏み跡に従って下流方向に進むと、ほんのわずかで目指す氷柱が現れました。八ヶ岳ではよく見る、崖からの染み出しが凍ってできるタイプの氷柱で、雨と高温の中でもかろうじて形を残しており、その上にはトップロープの支点へ導くフィックスロープが横に張られているのを目視することもできました。

そこで先ほど下ってきたラインを登り返し、そこそこ高い位置で分岐している踏み跡からこちらにも設置されているピンクテープとフィックスロープを頼りに横→下→横と進むと、少々際どいバンドの先にトップロープを張れる場所がありました。以前ここで死亡事故も起きているそうですが、確かに油断していては命に関わることは間違いなく、近づくにしても作業をするにしてもフィックスロープにランヤードをセットすることを怠ってはならない感じです。

当初の計画ではトップロープは想定していなかったので我々が持参したロープは60mのダブル2本。しっかりした木の幹に自前のスリングとカラビナで支点を作り、ロープを垂らして懸垂下降で先ほど氷柱を見上げた場所に降り立ちましたが、試みにロープを引いてみるとロープが岩との摩擦で動いてくれません。どうやら上から垂らしただけではダメで、氷柱の上にあるハングの上に残置されているスリングとカラビナで整流する必要があったようです。このあたりは初見参の悲しさですが、セキネくんが再び支点まで登り返してうまい具合にロープの流れを整理してくれて、どうにかTRで登れるようになりました。

あとは気の向くままに登って降りてを繰り返すだけ。バーチカルとはいってもアックスを受け入れやすい硬さと形状のおかげでさして苦労なく登ることができるコンディションで、1本ずつ交代で2本登った後にセキネくんは4本連続で登り、私が3本目を登った後にも2本連続で登って合計8本。今季は大きなアイスクライミングを行う機会に恵まれなかったセキネくんも、思う存分登れてアイス納めとする踏ん切りがついたようです。

まだ午前11時と早い時刻ですが、先ほどから再び雨が本降りになってきていることもあって心残りはなく、ロープを引き抜いてザックにしまったら元来た道筋を戻ります。トップロープの支点はセキネくんが回収してくれて、八ヶ岳山荘に戻ったのは河原を後にしてからわずか20分後で、このコンビニエントさにはあらためてびっくりしました。

八ヶ岳山荘でストーブの火を借りて濡れ物を乾かしつつコーヒーをいただきしばし寛ぎましたが、それにしてもセキネくんはこの冬はついてなかったなぁと言うと、セキネくん曰く「去年のモン・ブランで今年度分の運を使い果たしたのかもしれない」。

確かに……。