前ヶ岳南壁V字第二スラブ
日程:2021/10/10
概要:鞍掛沢出合のベースを出て霧来沢を遡行し、前ヶ岳南壁V字第二スラブをラバーソールで登ってトップアウト。稜線に出てから1時間の藪漕ぎで登山道に合流し、ベースに戻って撤収。
⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。
山頂:---
同行:ヅカ氏
山行寸描
◎「只見川霧来沢鞍掛沢」からの続き。
2021/10/10
△06:45 鞍掛沢出合 → △07:15 標高546m二俣 → △08:00 奥の二俣 → △09:10-25 V字の広場 → △12:30-40 稜線 → △13:45 登山道 → △15:30-55 鞍掛沢出合 → △16:45 御神楽岳登山口
一夜明けて、5時起床。今日は、この山行の主目的である前ヶ岳南壁V字第二スラブを登ります。テントを出て河原から見上げると、どうやらこの日も天気に恵まれそうな空の色です。
前日の下山の途中で収穫したナラタケたちがこの日の朝餉を豊かなものにし、まったり焚火で寛いでからおもむろに出発です。
霧来沢の遡行の最初はごろごろの河原、ついでスリップに気をつけたいスラブ状の滑床を経てきれいに丸い釜にぶつかりました。夏なら泳いで簡単に越えられるこの釜も、この季節は右岸から小さな高巻きで越えることになります。しばらく進んで標高546m二俣に達し、ここを右に進むと両岸が迫った沢筋の中に美しいグリーンタフ(緑色凝灰岩)が目立つようになりました。
行く手にV字スラブの全景が見えてきました。高い!しかし、見たところそれほどの威圧感は感じません。
奥の二俣を右に入ると、急に斜度が上がって大きなゴロゴロ石をかわしながらの登りが続きます。途中には顕著な崩壊地があり、歩いている最中もぱらぱらと小石を落としていたのでちらちらと見上げながらスピーディーに抜けました。
沢筋はいつの間にか滝場になっており、スラブ登りのよい予習になる小滝を左壁から越えるとスラブ直下の水量の少ない滝にぶつかります。直登は厳しいので右(左岸)のボサに覆われたルンゼに入りましたが、これが意外に奮闘系。途中でお互いの姿を見失いながらも声は通っているので各自自己責任でルートを選んでこの滝の上に出ましたが、私の方はけっこう右上に追い上げられてしまって本流に回帰するために大回りすることになり、一方のヅカ氏は早めに沢筋に戻ったものの悪場で肝を冷やすことになったようです。
何はともあれ、これで無事にV字スラブを見上げる位置に達することができました。フリクションは良好なので、なおしばらくの間はロープを結ばずに上を目指しましたが、見上げると顕著な凹角が並んでいて、このうち右から2番目の凹角に通じるラインが目指す第二スラブです。
気がつけばそこそこの高度感があるV字の広場の突き当たりに残置ピンを見つけて50mロープを結び、ここからまずは私のリード。右の方へとトラバースしていって適当なところで上方へと方向転換する方針ですが……。
なかなかいい場所がないなと思いながらトラバースを続けていくうちに、左岸に寄りすぎてしまいました。確かにこの大回りが安全と言えば安全なのですが、ちょっと「逃げた」感は否めません。
仕方なく適当な場所にハーケンを打ってヅカ氏を迎え、2ピッチ目は左上し薮を抜けて軌道修正することにしました。幸いたいした藪漕ぎにはならずに本流に戻ることができ、灌木で支点を作ってヅカに後続してもらいます。
3ピッチ目はヅカ氏のリードで傾斜が緩むところまで。真っ青な空の下を快適なフリクションでぐいぐい登るこの感覚は、沢登りというよりアルパインの醍醐味です。この3ピッチ目を終えたところで小休止して水と行動食をとってから、続く4ピッチ目は私のリード。草付と岩壁が交互に出てくるこの斜面も傾斜は寝ていますが、ランナーはまったくとれません。
5ピッチ目は階段状ですが、ヅカ氏にビレイしてもらってスラブを右から左へと横断しながら高さを上げていくと、やはりかなりの高度感です。ランナウトしていることもあり、緩やかな凹状のバンドに達したところで早めにピッチを切ることにしてハーケンを打ちました。
続く6ピッチ目も基本的には難しくないのですが、残置ピンは皆無なので自分の目でよくよく先を見通してホールドが繋がることを確認しながら登らないと、思わぬところで行き詰まることになりそうです。
7ピッチ目はビレイ点とした灌木のすぐ上の岩壁を右から回り込む手もありそうでしたが、左寄りの凹角から1段登ると目の前に最後の凹状になったスラブが広がりました。傾斜は寝ているように見えましたが、実際に登ってみると足元がザレ気味に不安定で緊張を強いられます。凹角の奥に支点を作れる場所があるか?と期待しながら登ったものの岩の脆さのためにそれは無理で、ロープいっぱいの声を聞きながら最後に崩れやすいザレ斜面を「脆い〜」と悲鳴を上げながら横断した先が、事実上の終了点となるテラスでした。そしてこのテラスのすぐ上には前ヶ岳の稜線があり、そこまでの最終ピッチをヅカ氏に先行してもらって稜線上に出たところで登攀終了です。ヅカ氏と握手を交わし、ロープを外してほっと一息。お疲れさま!楽しい登攀でした。
このルートは足の揃ったパーティーならロープなしでも登れますが、我々は安全第一でロープをつないでの尺取り虫にしたのに、それでも昼過ぎには稜線に抜けることができました。
しかし、実はここから登山道までの藪漕ぎがなかなかのアルバイトになりました。狭い稜線上に密生した灌木は我々をなかなか前に進ませない上に方向感覚を狂わせ、途中のアップダウンで先行していたヅカ氏が下る尾根を間違えかける一幕も。それでも最後は笹の中の歩きやすい踏み跡を辿るようになって、無事に登山道に合流できました。
下山の途中から振り返り見る前ヶ岳南壁の姿は前日と同じはずですが、登り終えた後に見る我々の目は昨日とは違う精度で壁の中にルートを見出していました。
鞍掛沢出合に戻ってデポしていたテントや寝具を回収し、我々の幕営地のやや下流で主の帰りを待っている某B会のものらしいテントを横目に見て、一般登山者と前後しながら霧来沢沿いの登山道を下ると、1時間もたたずに登山口に戻ることができました。
帰路に八乙女滝を高巻くところでヅカ氏が見つけた鎖の摩耗。ヅカ氏の目はキノコだけでなくこういうものも目敏く見つけるのか!
……などと感心している場合ではなく、これではいつ千切れてもおかしくありません。帰宅してからすぐに地元の自治体に報告しましたが、修理するには相当の時間がかかりそうなので、今後ここを通る人は要注意です。