尾白川滑滝沢〔敗退〕

概要:日向山登山口を起点に尾白川に入り、本谷と鞍掛沢との間の尾根を経由して本谷上部に下って北坊主ノ沢の手前で幕営。翌朝、未明に行動を開始して滑滝沢の下まで達したものの、氷の状態が悪く登攀を断念。往路を戻ってその日のうちに下山。

日程:2020/01/11-12

分類:南アルプス / アルパイン

山頂:---

同行:セキネくん

見上げる滑滝沢。氷は薄くつながっているものの、スクリューを効かせられそうにない。(2020/01/12撮影)

尾白川の奥に位置する滑滝沢でのアルパインアイスクライミングを目指すのは昨年に続いてこれが二度目。前回は思わぬ事故により滑滝沢の姿を見ることもなく敗退となってしまい、今回は諸般の事情からアイスに復帰できていないかっきーに代えてセキネくんをパートナーとしての再挑戦です。

尾白川本谷のアルパインアイスルートへは、ヒロケンさんのアイス本では黒戸尾根五合目から黄蓮谷へ下るアプローチを推奨していますが、我々は前回のかっきーとの計画と同じく、日向山登山口から林道を詰めて尾白川に降り、鞍掛沢に入ってすぐに本谷との分水嶺となる尾根に乗り上がって尾白川の上流へ下るアプローチを採用しました。

2020/01/11

■06:15 日向山登山口 ■07:50-08:20 尾白川入渓点 ■09:20 鞍掛沢出合 ■10:00-10 右岸ルンゼ出合 ■11:55 尾根上 ■13:00 1,740mコル ■14:00 尾白川本谷に戻る ■15:45 幕営地点

日向山登山口手前のゲートの前に車を置いて暗いうちに歩き出すと、東の空が徐々に黄色く染まってきて、錦滝に着いたときにはすっかり明るくなっていました。

見れば錦滝はほとんど凍っておらず、ざーざーと水を落としています。例年でも氷の状態が良くなることはまれとされる錦滝ですが、いくらなんでもこれはひどい。今冬の暖かさは山梨県在住のセキネくんからも道々聞かされていましたが、ここまでとは思っていませんでした。

林道終点で装備を身に付け、毎度おなじみの少々怖い急斜面をフィックスロープ の力を借りて下り尾白川へ。昨年は薄いながらも氷の上を歩ける場所があったのですが、今回は水面が氷結している場所は皆無に等しく、明らかに条件が悪そうです。

鞍掛沢の出合から右に入って少しで、昨年の事故の舞台となった因縁の右岸ルンゼがすぐに見えてきましたが、こちらもやはり氷が貧相です。ここは安全を期してロープを出し、沢筋の左(右岸)の樹林の中を縫って登ることにしました。

この斜面、ところどころに段差があるもののそれほど危険を感じることなく登ることはできましたが、右岸ルンゼの入り口から見上げるとすぐそこに見えてしまう尾根の上までは実は高距が200m以上もあり、それなりに時間がかかります。最初の2ピッチをスタカットにした後はコンテで進んだものの、ルートファインディングに頭を使いながら登ったこともあって尾根上に出たときには2時間近くがたっていました。そして、その尾根上には明瞭な踏み跡がありました。どうやら尾根の末端から上がってくるラインがよく歩かれている模様で、これは予想外でした。

尾根の上ではロープを使う必要はないのですが、ロープ運搬担当の私を気遣ってくれたセキネくんはロープの片方をコイルに巻いて肩にかけたまま先を進んでくれます(←敬老の精神)。穏やかな尾根歩きの先、標高1,740mのコルに達したところで左手の沢筋に下ることになりますが、そこには先人が付けた赤布や赤テープの目印がありました。

やや荒れ気味の沢筋を下ることを嫌って左岸の急斜面を下り、適当なところから沢に下るとそこは尾白川本谷から見て枝沢の枝沢の枝沢という位置付けの沢筋でした。枝沢に出合うところには大きな段差があったために手っ取り早く懸垂下降しました(が、この落ち口の少し上流側から右岸側の尾根を乗り越せば比較的安全に枝沢に降りられることを帰路に確認できました)。そこから本谷まではほんのわずかの距離で、そこに立っている木にも赤布が巻き付けられていました。

本谷との合流点は黄蓮谷を左に分けて本谷に入ってから最初の10m滝の上(標高1,600m)で、すぐ目の前に坊主岩を遠景として緩やかなスラブ滝が落ちていますが、その左斜面が雪の壁になっており、踏み跡も続いていました。ここから踏み跡を辿ること1時間で、右岸にナメ氷、前方には釜を持つ滝が落ちている箇所が現れ、この滝は左斜面をトラバースして簡単に通過しました。

さらに30分遡行を続け、右岸から狭いルンゼが出合うところの対岸の平地を今宵の幕営地と定めました。テント運搬担当のセキネくんにはテント設営をお願いし、自分はさらに続く踏み跡を辿って行けるところまで足跡をつけておくことにしました。右に左にと沢を渡って巧みに高巻きながら上流を目指すその踏み跡の主のルートファインディング能力に舌を巻きながら遡行を続けると、やがてこの沢の特徴である花崗岩の段々壁が右岸に広がります。そしてその先に、思い出深い光景が出現しました。

2012年のmoto.p氏残置テント回収山行でのゴールとなった大岩です。心の中で合掌。ともあれ、ここは西坊主ノ沢出合の少し手前で、幕営地からここまで30分で到達できることがわかったので、下見としてはこれで十分です。

テントに戻って夕食タイム。軽量化のためにアルコールを持参しなかったセキネくんに私が持ってきたウイスキーを分けて、明日の成功を祈念して乾杯!しかし、先ほどの思い出の岩の先に右岸から落ちている氷の様子からすると、どうやら滑滝沢も望み薄のようではあります。ともあれ明日は3時起床・5時出発を申し合わせて、18時半には就寝しました。

2020/01/12

■05:00 幕営地点 ■06:30-55 滑滝沢出合

予定通りの時刻に起床し、予定通りの時刻に出発。目を覚ました頃にはほぼ満月の月明かりが谷の中にも届いて明るかったのですが、出発する頃には月が傾いてしまい、ヘッドランプがなくては歩けない状態です。

そのヘッドランプの明かりでも、昨日つけておいた足跡のおかげで順調に上流へと進むことができました。右岸からシャンデリアのようなつららが垂れ下がっている場所もあってとても綺麗なのですが、本来であればこのつららはさらに発達して地面に届く一枚板になっていてほしいところです。

背後の空に朝焼けのオレンジ色が見え始める頃、滑滝沢の下らしい場所に到着しました。手元のトポと照らし合わせ、上流にある大岩が決め手となってここが滑滝沢に間違いないと確定できましたが、まだ暗いために氷の状態がよくわかりません。それでも少し待つうちにどんどん明るさが増して氷の様子がつかめてきたのですが……うーん、これは厳しい。

まず目についたのは中段の黒々とした帯状のハング帯で、そこに弱点が見出せるかどうか判然としません。はるか上の方を見るとブルーアイスがそれなりの厚みを持って続いていて登攀意欲をそそるのですが、よく見ると出だしからのスラブの氷はつながっているように見えても薄く、これではアイススクリューを効かせられませんし、万一のときのアバラコフも作れません。

セキネくんはとても残念がっていましたが、協議の結果、潔く撤退することにしました。

肩を落としてテントへと戻る我々が振り返ると、西坊主ノ沢と滑滝沢が薄い氷をまとって「また来年おいで」と呼びかけてくれているような気がします。もちろんそのつもりですが、そのときは頼むからもっと厚着をしておいてほしい。

■07:40-55 幕営地点 ■08:50 枝沢出合 ■09:40 1,740mコル ■11:35 鞍掛沢出合 ■12:45 尾白川入渓点 ■14:20 日向山登山口

1時間もたたずにテントのあった場所に戻り、そこにデポしておいた装備を回収して下山開始。

昨日登ってきた道を下るだけなので下降は早く、これまた1時間ほどで枝沢の出合に到着しました。昨日懸垂下降した枝沢の枝沢の出合の氷はさらに溶けて弱っているように見えましたが、この出合の上流から右へ尾根を乗り越して枝沢の枝沢に入るラインが簡単に見つかりました。

乗り越した先に直ちに現れる枝沢の枝沢の枝沢に入ってゆくと、昨日見下ろして忌避した荒れ具合はさしたることもなく、段差も容易に左から巻き上がれて、やがて前方に岩壁が見えてきたところで右斜面に乗り上がれば、そこから1,740mコルまではほんのわずかでした。

そこから先はよく踏まれた尾根道なので目をつむってでも歩ける……と言いたいところですが、一カ所迷いやすい枝尾根があるので要注意。かつてかっきーもここで間違えて大雪の中1時間をロスしていますし、私より先を歩いていたセキネくんもそちらに引き込まれてしまいました。

行きに右岸ルンゼから登りついた地点に達し、下りはそのまま尾根通しに下ってみることにしました。どうやらこの道は最近歩かれているらしく、随所に新しいナタ目があり、踏み跡も明瞭です。そしてしばらく下って標高1,500mあたりに達したとき、異様な産業遺物に出くわして驚きました。最初は何かの乗り物か?と首をひねったのですが、どうやらエンジンの動力でケーブルを巻き取る機構らしいことがわかりました。そういえば鞍掛沢出合のすぐ上流で尾白川にケーブルが垂れていますが、あれと関係があるものなのかもしれません。そうだとすれば、この尾根の少なくともこの位置までは下から作業道が上がってきていたはずです。

そのまま尾根通しに下り続け、最後の急斜面を慎重にこなすと、そこはどんぴしゃで鞍掛沢出合でした。なるほど、こんな道があったとは。

鞍掛沢出合から先は、昨日歩いた道通りの下降です。川が凍っていればもっと楽なのにと恨めしく思いながら、クランポンの爪を岩ですり減らしつつ歩き続け、最後のガレ斜面をフィックスロープにすがりつくようにして登りました。

淡々とした林道歩きは、重いザックを背負った敗残の身にはこたえます。中間地点となる錦滝では相変わらず水がじゃーじゃーと落ちており、来年捲土重来を期すにしても、この滝が凍っていなかったらその時点で踵を返すことにしよう……と帰り道の車の中でセキネくんと話し合いました。