早出川今早出沢〔ガンガラシバナ〕〜割岩沢下降

日程:2019/09/14-16

概要:「秘境」ガンガラシバナを目指す2泊3日。初日は一ノ俣橋から一ノ俣乗越を越えて今早出沢に入り、ガンガラシバナの手前まで遡行して幕営。翌日、ガンガラシバナを登り矢筈岳の北東に伸びるヤシロ尾根の上に抜けて、反対側のドゾウ平沢を下降。ジッピの入り口を覗いてからその近くに幕営。3日目は割岩沢を今出まで下降して今早出沢に戻り、一ノ俣乗越を越えて一ノ俣橋に戻る。

⏿ PCやタブレットなど、より広角の画面で見ると、GPSログに基づく山行の軌跡がこの位置に表示されます。

山頂:---

同行:ノダ氏 / ヅカ氏

山行寸描

▲初日の最後に見上げたガンガラシバナ。上の画像をクリックすると、今早出沢の遡行の概要が見られます。(2019/09/14撮影)
▲2日目、ガンガラシバナを登る。上の画像をクリックすると、ガンガラシバナの登攀とドゾウ平沢の下降の概要が見られます。(2019/09/15撮影)
▲3日目、グリーンの淵を泳ぐ。上の画像をクリックすると、悪岩沢の下降の概要が見られます。(2019/09/16撮影)

◎本稿での地名の同定は、主に『関東周辺の沢』(白山書房 1996年)の記述を参照しています。

前々から「いつか行く」リストに入れてあったガンガラシバナ。越後・川内山塊の南端に位置する矢筈岳(1257m)から流れ下って越後平野で阿賀野川に合流する早出はいで川の源頭部に広がる巨大な岩壁です。5月に泙川小田倉沢を一緒に遡行したメンバーに声を掛けたところヅカ氏がこれに応じてくれ、さらに昨年も別メンバーでガンガラシバナを登っているノダ氏も同行してくれることになりました。

早出川はゴルジュを連ねる中流域(早出川ダムの上流側)もそれ自体が難易度の高い遡行対象になっていますが、一般に「ガンガラシバナを登る」というときはこれは割愛して、尾根一つ東側の室谷沢沿いにつけられた林道でアプローチして一ノ俣乗越越えで早出川上流左俣の今早出沢に入り、これを遡行してガンガラシバナを登ることが行われています。ゆとりがないときは登攀終了後に今早出沢に下って往路を戻りますし、多少ゆとりがあればガンガラシバナの上部の沢筋を詰めて矢筈岳から東北に伸びるヤシロ尾根を越えて反対側に下り、早出川上流右俣の悪岩わるわ沢を下降して二俣にあたる今出から再び今早出沢に入る周回コースとなります。意欲的なパーティーはこの周回の中で登山道のない矢筈岳のピークを踏むことを検討しますが、我々はピークハントはせず最短で悪岩沢を目指す多少お手軽なプランとしています。

まずは前夜のうちに御神楽温泉まで入っておいて、某所にテントを設えて1泊。十分に英気を養って翌日からの3日間に備えました。

2019/09/14

△06:50 一ノ俣橋 → △09:35-50 一ノ俣乗越 → △10:50 今早出沢入渓 → △13:15 横滝 → △14:20 幕営地(590m)

おおむねよく整備された林道を辿って、6時すぎに起点となる一ノ俣橋に到着。我々は橋の上流側に車を駐めましたが、そちらに数台分、橋の下流側にも数台分の駐車スペースがありました。先客は1台でこれは釣り師のもの、ついで我々が準備をしている間にやってきた2人組は「矢筈岳まで行く」と言って素早く出発し、さらに我々が歩き出すときには橋の下流側で3人パーティーが支度中でした。

まずは一ノ俣橋の上流側(右岸)から踏み跡を辿って一ノ俣沢に入り、流れに沿って遡行を続けます。ここは釣り師が早出川にアプローチするルートであるため、沢の左右をつないで巻道が続いているのですが、道を探すのも面倒なので水流通しにどんどん登ります。ほぼすべての滝がロープを出すこともなく越えられますが、最も見栄えのする直瀑は左(右岸)から巻き上がりました。その後、ツメの最後で左に入るところを右に入ったために若干の薮を漕ぐことになりましたが、尾根上に出てからわずかの軌道修正で一ノ俣乗越に到着しました。

一ノ俣乗越には釣り師4人組が休憩していましたが、幸いここは魚がいない尾根の上。釣り師(人柄の良い人たちでした)と沢屋(我々)の間にも友好的雰囲気のもとに会話が成立します。どうやらこの日は少し下流の今出へ向かうらしい彼らを「お気をつけて〜」と見送ってしばらくしてから、我々も今早出沢へと下降を開始しました。踏み跡は明瞭でところどころに赤テープもあり道に迷う心配はないのですが、途中から道は水平に下流方向へと向かっている様子です。あまり下流へ行くのも時間の無駄……と考えた我々はさっさと斜面を下って沢筋に入り、途中小さい懸垂下降も交えながらこれを下って今早出沢に降り立ちました。後でGPSログを見るとこの沢筋は一ノ俣乗越からダイレクトに下っている沢で、釣り師のための明瞭な道がついている赤ッパ沢の1本上流側の沢でした。

今早出沢は、ゴルジュで有名な早出川の上流とは思えないほど穏やかな渓相で、ところどころのエメラルドグリーンの淵がアクセントになっています。泳ぎが大好きなヅカ氏が積極的に水に飛び込んでゆくのに対し、あまり濡れたくない派のノダ氏と泳ぎが下手な私は無駄にへつっていこうとするのですが、やはりところどころ足が立たない場所が出てきます。そうしたところではノダ氏も私もため息をついて水に飛び込むのですが、水流の抵抗はほとんどなく、熨斗(横泳ぎ)だろうがラッコ泳ぎだろうが前進は容易でした。

右岸に顕著な支沢である魚止め沢を合わせ、不思議な造形の小滝を簡単に越えた先のグリーンの釜の向こうに、2段になって巨大なポットホールが口を開けている横滝が現れました。ここは左から巻くこともできるそうですが、直接取り付いて登るのも簡単そう。右から釜のふちを回り込んでみたところ泳ぐことなく滝の直下の壁に取り付くことができ、ちょっとバランシーな1、2手をこなせば1段目の上に立つことができました。ここで左壁から上がってきた2人と合流し、2段目は右岸側のカンテ状から簡単に落ち口に抜けられました。

横滝の先の小さな滝を左壁から越えると、谷が開けて前方に矢筈岳前衛の山体が見えてきます。しばし進んで標高590mの左岸から細い支沢が入るところの右岸台地がやや開けた草地になっており、我々もこの日の宿をここに求めることにしました。台地に上がってみると、横滝の上で休憩していたときに我々を抜かしていった男女ペアのものらしいリュックサックが置かれており、どうやらここをキープした上でさらに先によいテントサイトがないか偵察に行っている様子です。そこで私が留守番をしてノダ氏とヅカ氏がさらに上流に向かいましたが、やはりここ以上に良い場所は見つからなかったらしく、やがてそれぞれ戻ってきました。

男女ペアのツェルトと我々のピンチシートが設営されたところで、今度は私が上流へ。幕営地から徒歩10分もかからないところに右俣が入ってきており、その入り口から向こうを見上げるとガンガラシバナのスラブ群がいっぺんに目に入ってきました。これは壮観!目指す登路がこの右俣の奥から左上する水流に沿うものであることは一目瞭然ですが、思っていたより傾斜が立っている印象です。『関東周辺の沢』は奥壁全体をガンガラシバナと呼び、我々が向かう予定の右俣の水流を「右方ルンゼ」と呼んでいますが、ともあれこの手の壁は遠目には立っているように見え、これが近づくと寝ているように感じるものの、実際に取り付いてみればやはり立っていることに気付くものです。明日は頑張ろう!と自分で自分に気合いを入れて、薪を拾いながらテントサイトに戻りました。

男女ペアは焚火の趣味がないらしく、対岸の岩の上にマットを敷いて寛ぎモード。我々は乾杯を交わしてから焚火の育成に余念がありませんでしたが、既に涼しい季節になっているおかげか懸念していたブヨも蚊も現れず極めて快適です。そうこうしている間に下流から偵察にやってきた男性の口から、ここにいる2組の他に3人・3人・2人の3パーティーがガンガラシバナを目指していることが伝えられました。どうやら明日は、そこそこの賑わいになりそうです。

2019/09/15

△06:15 幕営地(590m) → △06:35 ガンガラシバナ登攀開始 → △09:45 ガンガラシバナ登攀終了 → △13:30 稜線 → △13:55 ドゾウ平沢下降開始 → △17:55 ジッピ入り口 → △18:00 幕営地(540m)

4時に起床するつもりが目覚ましが鳴らず、男女ペアのギアの金属音で4時半に目が覚めました。慌てて起床し、火を熾して朝食をとっている間に男女ペアが先行し、さらに2組が目の前を通り過ぎていきました。1組はガンガラシバナ登攀のあと矢筈岳のピークを目指し、もう1組はガンガラシバナの上へ出たらこちら側へ戻ってくる予定とのこと。我々もあまりのんびりしてはいられません。焚火の始末を万全にし、装備を身につけて出発です。

昨日偵察に来た二俣まで進んだところでガンガラシバナを見上げたヅカ氏は、初めて見るその威容に「想像していたよりも立っている!」と昨日の私と同じ感想を漏らしました。そしてよく見ると、先行パーティーの一部は既にロープを伸ばして壁に取り付いている状態です。我々も直ちに右俣に入り、沢筋を詰めてガンガラシバナの足元に進みました。近づいて改めて見上げてみると、出だしの斜面はロープを出すことなく簡単に登れそう。その先、1段上がったところから右上した先のテラス状の場所で3人パーティー2組がそれぞれロープを出しており、そこから壁に向かって右と左に分かれているようです。とりあえずそこまで我々も上がってみて、そこで先の作戦を考えることにしました。

テラス状に着いたときは、左右とも先行パーティーがまだ取り付いているところ。下からの観察では右ルートの方が出だしの小さい段差を越えれば傾斜が緩み岩も乾いていそうだったのですが、先に左ルートの方が空いてしまったので、仕方なくそちらに向かうことにしました。持参している30mロープ2本をつないで60mとし、リードは私、セカンドのノダ氏はタイブロックを二つ使い、ラストがヅカ氏。リードは登り出して30m以内にランナーをとれなかったときは目いっぱいロープを伸ばしますし、早めにランナーがとれた場合はそこから30m以内でピッチを切って、いずれの場合もロープをフィックスしてからセカンドが離陸。ランナーを回収しつつ登ってきたセカンドがリードの所に登り着いたら、フィックスを解除してラストを引き上げるという手順です(が、どうせランナーなんてとれないでしょう?という読みもあり)。

1ピッチ目:最も難しかったピッチ。まずは階段状の草混じりの斜面を左上に登り、小さい段差をハイステップで越えてスラブ壁に乗り右上へ切り返すというラインです。この段差の乗越しの部分によいホールドがなくて少々苦労し、さらにその先の濡れたスラブ壁もやや細かい凹凸を拾いながらスリップに注意しつつじわじわと登りました。やがて傾斜が緩んだ先に再び段差。そこでビレイしている先行の2組の間に入らせてもらって灌木にスリングを巻いて支点を構築しましたが、ここまでロープ長にしてたぶん40mくらいの間、ランナーをとれる場所は皆無でした。

先行していた2組の3人組パーティーは、右から登ったパーティーがここから水流の右側に移っていき、左から登ったパーティーはさらに左の灌木の生えたカンテを登っています。そして2組が全員離陸していった後にノダ氏とヅカ氏を迎え入れようとしているところに、「ビンボー」コールを連発する男性2人組がさっさと上がってきました。ここから先、水流の右側は比較的傾斜が緩くフリーでどんどん登れる(らしい)のに対し、左側のカンテ沿いは灌木が豊富で確保条件に恵まれています。2人組のリードと簡単なコース確認を行い、強力そうな2人組は右、我々は左を進むことにしました。

2ピッチ目:目の前の段差を左寄りから越え、そのまま濡れて黒光りした数mを左上して灌木にランナーをとり、灌木沿いに草付の急斜面を30m上がって再び段差の灌木にセルフビレイ。どうやら、この壁は数十mごとに段差があり、そこに生えた灌木がビレイ支点を提供してくれるという構造になっているようです。

3ピッチ目:水流に近いところを抜けられるかと思ったもののヌメりがひどくこちらは断念し、段差の下を左に移動して草を掴んで1段上がると、その先は易しいスラブ壁でした。このピッチはカンテ上の小突起の下、短く30mで切って後続を迎えます。一方この頃、水流の右側を行くビンボーパーティーは「ここから先はIII級もないから」とスタカットからコンテに切り替えていました。

4ピッチ目:カンテから右の水流側に出て水流横のスラブ壁を登り、上でカンテに戻るライン。青空の下、抜群のフリクションを楽しみながら60m目いっぱいロープを伸ばして、ちょうどそこに都合よくあるテラスの灌木にスリングを巻きつけました。ランナウトはしますが、すこぶる快適です。

5ピッチ目:灌木沿いにカンテを登ってどん詰まりの滝の下で短く終了。ガンガラシバナの登攀はこれで終わり、同時に私のリードも御役御免です。ここまで標高差200m、実に明るく楽しいスラブ登攀でした(下の画像をクリックすると、登攀ルートの概要が見られます)。

ここからしばらくはノダ氏のリード。目の前のつるりとした滝は登れそうにないので水流を横断して右から巻き上がり、そのまま藪の中に突入していきました。

振り返ればスラブ壁。岩壁登攀中は他のパーティーも見えていて寂しい思いをすることはなかったのですが、この辺りから各パーティーの動きがバラバラになり、我々3人は人の気配のない藪の中を黙々と漕いでゆくようになります。

ノダ氏のとったルートは巻いた滝の上にある小さなゴルジュをまとめて右からパスするというもので、早く沢に戻りたい……と思いつつもノダ氏の軌跡に従って灌木の中の我慢の登高を続け、1時間余りをかけてやっと沢筋に復帰しました。しかし、これで遡行はほぼ終了だと思うのは早計で、ガンガラシバナの登攀終了地点の標高850mに対し、目指す稜線の標高は1100m強。つまり、下から見上げたときには目の前の岩壁を登り終えれば遡行は終わったようなものだと見えていたのに、実際にはその高距(200m)以上の標高差がまだ残っているのでした。もっとも、ここからの源頭部への遡行にはさほどシビアな滝はなく、1カ所手掛かりの少ない小滝でお助け紐を出してもらったのと、短距離ながら悪いバンド〜草付の高巻きがあったほかは、ぐんぐん高度を上げることが可能です。それよりも、細くなった沢筋の途中に綺麗に整地された幕場と真新しい焚火跡があったことに驚きました。おそらくこれは昨日「矢筈岳まで登る」と言って我々に先行した2人組のものに違いありません。速い!

やがてヤシロ尾根に到達し、そこから右手に見えている二つのピークの間まで藪漕ぎとなります。この稜線上はそれなりに人が歩いているはずですが、踏み跡らしいものはなく、頑張って灌木をかき分けなければなりません。それでも上越国境の沢のツメにある険悪な笹薮漕ぎに比べれば楽なものですが、もし矢筈岳に登頂しようとした場合にはこれを1-2時間も続けなければならないことを思うと、少し気が遠くなってきます。

ドゾウ平沢の源頭部への下降点と思しき場所から木の幹や枝につかまりながら急斜面を滑り降り、やがて明瞭な沢形に降り立ちました。しばらくはさしたる困難もない小沢の下降でしたが、その途中でヅカ氏が不意に尻餅をついたとたん、周囲に芳しい香りが漂いました。どうやらリュックサックを岩に打ち付けた拍子に、ここまで彼が後生大事に運んできていたビールの缶に穴が空いて中身がすべて漏れ出してしまったようです。ヅカ氏の嘆きは察するに余りありますが、安全下降のために御神酒を捧げたと思ってもらうほかありません。

ここまでは笑い話ですむようなエピソードでしたが、沢を下りそのスケールが徐々に大きくなるにつれ、懸垂下降を要する場面が増え始め、そこまで行かなくてもクライムダウンがシビアになってきました。そんな中、数度目の懸垂下降はチョックストーンに狭められた細い落ち口を越えての空中懸垂だったのですが、ここで最後に降りようとした私がじわじわと足をずらしていったときに不意に右足を落ち口の下に落としてしまい、一方の左足が狭い落ち口に挟まったために逆さ吊りになってしまいました。しばらく頭を下にした状態で身動きがとれずに水をかぶり続け、非常に危険な状態となったのですが、片手でロープを引き付けもう片方の手を壁について態勢を変えることで左足を抜くことができ、どうにか無事に降り切ることができました。まさに九死に一生です。

その直後にロープが動かなくなり、まさか回収不能?と焦ることになったのですが、どうやらこれは水流の圧力のせいだったようで、力を合わせてロープの一端を引き、かろうじて回収することができました。

そんなことを繰り返しながら延々と続いたドゾウ平沢の下降もやっと終わり、悪岩沢に合流したまさにそのポイントに、逆V字型の狭いゴルジュであるジッピが口を開けていました。長さ50mのこのゴルジュは滝の後退現象によってできたもので、下流からでも上流からでも泳いで突破することが可能(矢筈岳のピークを踏んで悪岩沢側に下るときはここを通り抜けてくることになる)とされていますが、あいにく既に日没間近。中に入る時間的なゆとりはなく、入り口から覗き込むだけに終わりました。

日が暮れてしまう前によいテントサイトに巡り会えるかが不安でしたが、ジッピの前からほんの少し下った右岸に好適な河原(ただし増水には耐えられない)があり、その向こうの左岸の高台には昨夜同じテントサイトを分け合った男女ペアがツェルトを張っていました。話し掛けてみると、彼と彼女はガンガラシバナの右側からドゾウ平沢への下降点となる鞍部を直接目指そうとして厳しいスラブ登攀にはまり、ここに辿り着いたのは17時20分頃だったとのこと。ことに彼女の方は「ドゾウ平沢の下降の方が大変だった」と半ば辟易、半ば笑って話してくれました。ともあれ、我々も早々にピンチシートを張り、火を熾して身体を温めなければなりません。3人協力して手早くロープを張って河原にピンチシートを設営し、薪も集めて焚火を作りました。

2019/09/16

△05:45 幕営地(540m) → △09:20-35 今出 → △10:50-11:00 赤ッパ沢出合 → △11:55 一ノ俣乗越 → △15:05 一ノ俣橋

最終日は悪岩沢の下降、今早出沢の短い遡行、そして往路を逆に辿る一ノ俣乗越越えです。

昨日までの2日間は申し分のない天気に恵まれましたが、この日は朝4時に起きて河原に出てみると空は朧月、雲が広がっている様子です。先に下っていく男女ペアに手を振って別れを告げ、食事と勤行を済ませて焚火を始末してから、我々も沢の下降にかかりました。

途中に出てくる小滝の下降では、ヅカ氏のルートファインディング能力とクライムダウン能力が遺憾なく発揮されました。この小滝の下がひょうたん淵かと思いますが、それにしてもどうしてそういう下降ラインを一発で見つけられるのか……?

穏やかな淵ももちろん出てきます。しかし、人に見られたら恥ずかしいのであまりはしゃぎ過ぎないように。

悪岩沢と今早出沢との合流点にあたる今出は釣り師の格好のベースキャンプだそうですが、この日は誰もいませんでした。ここで小休止をとってから今早出沢の遡行にかかると、ちょっとしたゴルジュ状の壁の一部に柱状節理が見られ、この辺りにかつて火山活動があったことが窺えました。

……人に見られたら恥ずかしいので(以下略)。

やがて、ナメのスロープを落とした小さい沢の入り口近くに赤テープの印がつけられた場所に着きました。ビンボーパーティーやトマの3人組も相前後して集結したここが、おそらく赤ッパ沢。最後の行動食を口にしてからこの沢を遡ります。ルートは少し登ったところから左岸の明瞭な踏み跡(赤テープの目印あり)に移り、しばらく高度を上げた後に等高線に水平になって尾根を一つまたいでから、一ノ俣乗越に登り着きました。

一ノ俣乗越からいったん南西方向に尾根上の踏み跡を辿るとすぐに左下へ下る滑りやすい道(トラロープあり)となり、一ノ俣沢に降り着いたら後はこれを下降するだけ。ヌメった岩の滑りやすさには閉口しましたが、部分的に懸垂下降や巻道の活用を交え、はっきりと降り出した雨の中を黙々と下ります。そしてとうとう一ノ俣橋に戻り着いたときには他のパーティーの車は1台も残っていない上に、幸運なことに雨が上がっており、誰にはばかることもなく裸になって上から下まで乾いた衣類に着替え、しかる後に御神楽温泉を目指しました。

この3日間は、おおむね天候に恵まれて楽しい遡行と登攀でした。今早出沢のエメラルドグリーンの淵と釜、ちょっとしたバランスクライミングを楽しめる横滝、そして何より高度感が素晴らしいガンガラシバナの登攀。リードするにはランナウトを恐れない鈍感さが必要とはいえ技術的な困難はほぼなく、標高差200mのスラブ登りのほぼ全体を通して良好なフリクションを味わえるこの登攀は、沢登りに親しむすべての人にお勧めです。どのラインを登るかは現場での各自の判断でOKですが、カムやハーケンを使える場所はガンガラシバナの中では見つけられず、その必要性も感じませんでした。また私は普段の沢靴はフェルト派ですが、今回はモンベルのサワークライマー(ラバーソール)を使用し、これがほぼ全行程にフィットしました。

ただし山行全体を振り返ると、ガンガラシバナの登攀よりもその後のツメを経てからのドゾウ平沢の下降がむしろ核心部で、続く悪岩沢の下降も沢下りを苦手科目としている私には緊張する場面が少なくありませんでした。沢の遡行・下降に豊富な経験を持つノダ氏・ヅカ氏のお二人の引率を得たおかげで無事に目的を果たせたことに、心から感謝です。