箒川鹿股川スッカン沢 / 桜沢

日程:2019/07/03

概要:「山の駅たかはら」から前山八方ヶ原線歩道を下り、スッカン沢 / 桜沢出合へ。ここからまずスッカン沢を遡行して県道56号の手前で遡行を打ち切り、沢に平行する雄飛の滝線歩道を下って出合に戻ってから、次に桜沢を遡行。「おしらじの滝」まで遡行し、そこから遊歩道を使い県道に上がって起点に戻る。

山頂:---

同行:サチコさん / アユミさん

山行寸描

▲スッカン沢「雄飛の滝」。上の画像をクリックすると、スッカン沢の遡行の概要が見られます。(2019/07/03撮影)
▲桜沢「霹靂の滝」。上の画像をクリックすると、桜沢の遡行の概要が見られます。(2019/07/03撮影)
▲桜沢「おしらじの滝」。神秘的な緑の釜が素晴らしい。(2019/07/03撮影)

クライミングジム仲間のサチコさん・アユミさんと、ジム練習終了後の飲み会で「癒し渓へ行こう」という話になったのは5月下旬。サチコさんとは先に笛吹川日川曲り沢でご一緒することになり、ついでこの日は満を持してアユミさんの登板です。行き先は、ネット情報で見て気になっていた那須塩原方面(正確には矢板市)のスッカン沢と桜沢としました。これらの沢は那珂川水系箒川の支流・鹿股川の上流にあたり、二俣で分岐して右俣がスッカン沢、左俣が桜沢という位置関係です。いずれの沢も短時間の遡行で上流を横断する県道にぶつかり、しかも県道から二俣まで遊歩道がつけられているという便利さ。

ネット上の多くの記録がこの遊歩道を利用して二つの沢をパチンコするプランとしており、我々もそれにならうことにしました。

2019/07/03

△08:00 山の駅たかはら → △08:55-09:20 スッカン沢 / 桜沢出合 → △10:00 雄飛の滝 → △10:20-40 仁三郎の滝 → △11:45 県道手前(遡行終了) → △12:25-35 スッカン沢 / 桜沢出合 → △12:40-13:15 「霹靂の滝」 → △13:50-14:10 「雷霆の滝」 → △15:10-35 「おしらじの滝」 → △15:45 県道56号 → △16:10 山の駅たかはら

県道56号が高原山の東斜面をくねくねと登り、やがて達する溶岩台地の末端の尾根上にぽつんと作られた「山の駅たかはら」が、今回の遡行の起点です。

広い駐車場の一角に車を駐め、トイレを使わせてもらってから、そのトイレの前を左奥に向かう前山八方ヶ原線歩道に入ります。

ここは観光客でも歩ける程度のよく整備された道で、明るい森の中をアプローチシューズでぐんぐん下ると、やがて道沿いに立派な「雷霆の滝」が見えてきました。真横から見るとかなり立っている感じがしますが、ラインどりに悩むのは後回しにして、とにかく二俣を目指しました。

滑りやすい「雷霆の吊り橋」でお約束のように滑り転びそうになりながら、残りわずかの歩きで着いたのがスッカン沢と桜沢の合流点。写真ではわかりにくいですが、右から入る桜沢と左から入るスッカン沢とでは水の色が違います。この合流点で沢装備を身につけ、入渓することにしました。まずはスッカン沢から。

水に入ってすぐの右壁(左岸)には、きわめて明瞭な地層が露出していました。見たところ、真ん中の黒い溶岩の上下を明るい色の粘土質の岩が挟んでいる感じ。ここからどうして「スッカンブルー」と呼ばれる青い水が生み出されるのか不思議です。

柱状節理の断面がギザギザに露出している先で沢を横断するスッカン橋の下をくぐると、その少し先で柱状節理の大岩壁が現れました。節理自体も見事ですが、この岩壁の上の方がハングしていてそこから豊富な水が降り注いでいるのも見ものです。これが本当のシャワークライミング……などと言いながら水を浴びつつ先に進みました。

その先、少し奥まった位置にあるのがスッカン沢の最大級の滝「雄飛の滝」です。高さは10mくらい?これは文字通りの豪爆で、とても近づける代物ではありません。しばらくその豪快な姿に見惚れてから、左岸の踏み跡を辿って遊歩道に上がりました。

遊歩道の途中に「雄飛の滝」を見下ろせる展望台が作られており、そこには柱状節理ができる仕組みとスッカン沢の名前の由来などが記されていました。引用すると、次の通りです。

この沢は場所によっては青白く見えることがあり、これは、スッカン沢が高原山のカルデラ跡を水源とし、鉱物や炭酸等の火山の成分が多く含まれる水が流れているためです。そのため、かつては、この沢の水が辛くて飲めないことから「酢辛い沢」等と呼ばれ、この呼び方がなまって今の「スッカン沢」になったと言われています。

なるほど。

沢筋に戻ってすぐに出てくるのが高さ5mほどの「仁三郎の滝」。水流の前を回り込んだ先の右壁にラインが見えますが、少々立っているのでロープ(8mm30m)を出しました。壁の足元がえぐれていますが、ガバホールドを探してハイステップでやや強引に乗り上がり、水流側に微妙なバランスで近づけば後は階段状です。落ち口の確保条件があまり良くなく肩絡みでのビレイとしましたが、アユミさん・サチコさんも問題なく登ってきました。

「仁三郎の滝」の上流は、二つの沢を分ける尾根筋の岩壁が右岸に立ち、豊富な水が注ぎ落とされています。その一部は「素簾の滝」と呼ばれて対岸の遊歩道から眺めることができるのですが、谷底を遡行している我々には認識することができません。しかし、このように左岸の足元がえぐれたところでは水のカーテンができており、楽しいアトラクションを提供してくれていました。

さらに上流には小さなゴルジュがあって、その側壁は侵食を受けてなだらかにカーブしています。まるで胎内くぐりのような感覚を味わいながらゴルジュ内を歩き続け、最後に2段5mほどの滝を左側から突破(経験値次第ではお助け紐が必要)すれば、沢が開けてきます。

ネット上の記録ではそのまま県道が沢の上を横切るところまで遡行しているケースが多いですが、そこまでの間にこれといったアクティビティもなさそうなので、左岸の遊歩道が沢沿いまで降りてきている場所でスッカン沢の遡行を打ち切ることにしました。

スッカン沢沿いの遊歩道はこれまた歩きやすく、そしてここを下る途中でようやく我々以外の人(男女2人連れと写真撮影が目的らしき単独行)とすれ違いました。

「仁三郎の滝」を見下ろし、スッカン橋を右岸に渡って巨大な桂の木をぐるりと回り、柱状節理のトゲトゲ岩壁の下のガレ場(ここは観光客には厳しそう)を横断し、一部壊れている木の階段を登ってから水平な山道に入ると、すぐに遡行を開始した二俣に到着しました。二つの沢の合流点で行動食をとりながら一休み。そこにある小広場には「咆哮霹靂の滝」と書かれた道標があり、確かにそこからすぐの場所に「霹靂の滝」の一部が見えています。

桜沢の遡行開始。「咆哮霹靂の滝」は滝の落ち口の真ん中にある島によって分けられた二つの滝の総称で、右側の「咆哮の滝」はほとんど水がない緩やかな傾斜のやや小ぶりの滝。こちらからも簡単に登れそうですが、沢登ラーとしては水量豊富な「霹靂の滝」に軍配を上げたくなります。こちらは幅広の岩壁に豊富な水量を落としており、高さは「雄飛の滝」と同程度でしょうか。向かって右端の水流のさらに右の壁が登れそうです。そこでロープを出して私から取り付きましたが、見た目通りにヌメりがあってタワシ大活躍。しかも岩が脆い!ホールドの利きをしっかり確かめながら慎重に登りましたが、振られ止めも兼ねて小さめのカムを持参するとよかったのかもしれません。

この滝も落ち口の上は確保条件が良好とは言えず、傾斜が緩んだところの灌木をスルーして登り続けたところ、30m目いっぱいロープを伸ばしてぎりぎり、二つの滝を分ける大岩のコーナーをわずかに回り込んだところのギザギザの壁に身体を密着させてセルフビレイの代わりとせざるを得ませんでした。

アユミさんとサチコさんが後続して、やっと安心して上流を見れば素晴らしい幅広のナメ。噂には聞いていましたが、さほど大きくない桜沢でこの壮観に出会えるとは不思議の極みです。

ナメ・段差・ナメ・段差・ナメ……。難しいところはまったくなく、ひたひたと歩き続けるだけ。

癒しが過ぎてもつまらないので、あえてへつりに取り組んでみたりしながら楽しく上流を目指します。

朝、遊歩道を下ってきたときに渡った「雷霆の吊り橋」の下をくぐると、その先に出てきたのが遊歩道からも見えていた「雷霆の滝」。誰のネーミングか知りませんが、よくこれだけ次々に大仰な(しかも画数が多い)名前をつけたものです。

「雷霆の滝」はアユミさんがリード。人生2度目の沢登りということでしたが、クライミング能力は普通以上にあるのでなんら危なげなく登り切りました。ここでは私がセカンドになり、タイブロックを引いて取り付きましたが、出だしは真ん中のカンテの左側の水流の中にフットホールドを求めると易しく、その上も意外にフリクションが良くて、朝方見掛けたときに感じた不安は杞憂に終わりました。

「雷霆の滝」の上にもしばらくナメっぽい渓相が続いていましたが、二俣のようなインゼルに達したところで様相が変わり、普通のガレ沢になってしまいました。この区間は意外に長く、岩を右に左にかわしながら歩くのがだんだん退屈になってきます。このつまらないガレ沢パートが終わると、緑の苔が美しい涸れ沢パートに変わりました(直前の天候次第では涸れていないかもしれません)。こうなると沢筋を辿ることに意味がなく、左岸の緩斜面をトラバースしながら最後の「おしらじの滝」が出てくるまでひたすら我慢を続けました。

やがて前方に観光客らしい軽装の若者2人が現れ、遊歩道の階段も見えてきたと思ったら、そこにあったのはすごい美瀑……ではなく、美釜でした。滝自体はほとんど水がなく、樋状の流路にかすかに水が流れているだけですが、その手前にある釜は「なぜ?」と思うほど見事に掘り下げられた円形の釜で、周囲の緑を映し込んだブルーグリーンの色をしているのにあり得ないほどの透明度で釜の底までがはっきりと見えています。矢板市の観光サイトの説明によれば「しらじ」とは壺のこと。その名の通り、釜の水面部分の広さよりも水中の方がえぐれて広がっていて、吸い込まれるような美しさをたたえています。先ほどの若者たちもいなくなり我々の他に誰もいないことをいいことにアユミさんが釜に入って泳ぎましたが、平泳ぎで波を立てても身体の下の水底が見通せるのには驚きました。ただし水温は非常に低く、不用意な遊泳は禁物です(後に死亡事故も起きています)。

これで遡行は終了。沢装備をしまってアプローチシューズに履き替えてから山道を登ると、ほんの少しの登りで県道に出ることができました。「おしらじの滝」への降り口には標識も駐車場もあり、これならどんな軽装でも簡単にアプローチできますが、観光客がわさわさと押し寄せたのでは、この滝の神秘的な雰囲気が台無しになりそうです。

柱状節理と水の滴りが楽しいスッカン沢と、ナメが見事な桜沢。どちらも個性があって楽しい沢でした。「おしらじの滝」の様子からするとこの日は全体に水量が少なめだったようですが、そうだとしても登攀ポイントになる滝は見た目の立派さに比べてさほど難しくなく、滝見の対象となる「雄飛の滝」と「おしらじの滝」はかたや豪快、かたや幽玄。これらが歩きやすい遊歩道でつながれていて効率的に滝巡りができるというのも最高でした。首都圏から車でワンデイで行ける気楽な沢はないか、というときに思い出してほしい1本です。

帰路立ち寄ったのは「城の湯温泉センター」です。見れば食堂で「おしらじ塩冷やし麺」と「和風おしらじブルーぱぁふぇ」(ぱぁふぇ?)を提供しているとのこと。食堂が閉まる時刻が18時であることを確認して風呂に入り、広い露天風呂の開放感も満喫してからおもむろに食堂に入ったのですが、残念なことにラストオーダーは17時半でした。不覚……。風呂上がりに注文しようと思っていたのはもちろんパフェの方です。もし先々この那須塩原方面へ足を運ぶ機会があれば、必ずここに立ち寄ろうと思います。