二子山西岳中央稜

日程:2018/05/25

概要:二子山西岳の中央稜をナチュラルプロテクション縛りで登る。

山頂:二子山西岳 1166m

同行:セキネくん

山行寸描

▲核心部の凹角を登るセキネくん。三角形の頂点の上の3mが、スパイスが効いている。(2018/05/25撮影)
▲大テラスから上へロープを50m伸ばしたところでピッチを切る私。けっこうランナウトしているが、ホールドは豊富で危険を感じない。(2018/05/25撮影)
▲中央稜全景。久しぶりに登ったが、楽しいマルチピッチだった。(2018/05/25撮影)

先月のエベレスト街道トレッキングで完全に失われた「攀じる」感覚を取り戻すため、セキネくんにつき合ってもらって二子山西岳中央稜でリハビリクライミング。ただし、ここは2人ともそれぞれに登ったことがあるルートなので、今回は「ナチュラルプロテクション縛り」としました。

2018/05/25

△09:35 登山口 → △09:40 股峠 → △10:20-45 西岳中央稜取付点 → △12:45-50 終了点 → △13:00 西岳山頂 → △13:50 股峠 → △13:55-14:30 東岳弓状エリア → △14:35 股峠 → △14:40 登山口

8時15分に西武秩父駅でセキネくんと合流。セキネ号で一路二子山を目指します。股峠直下の登山口に着いたのは9時半頃で、この日は金曜日だからか、他には1台しか車が駐まっていませんでした。

装備の入ったリュックサックを担いで峠に上がり、鞍部の反対側に少し下ってから右へ。祠エリアにも人っ子一人おらず、思いがけず静かな山道歩きとなりました。

ところが、2人とも予習不足で中央稜の取付の位置がわかりません。お互いに初めてではないのですが、セキネくんが登ったのは数年前、私に至っては2005年以来です。それならちゃんとトポを見てくるべきなのですが、不心得な我々は山の中をてんでにうろうろ。ローソク岩の基部から中央稜を見て山道を歩き過ぎているいることに気付いて戻ったりしているうちに、暑さのために汗だくになってしまいました。

この赤いドラム缶が中央稜の取付の目印で、その向こうに見えている短い凹角が1ピッチ目です。よく覚えておこう!

さて、今回の我々は残置ピンを使わない「ナチュラルプロテクション縛り」というルールを自らに課しています。さらに60mシングルロープを用いてピッチの切り方にも自由度を持たせることとし、あらかじめのもくろみとしては、トポで全6ピッチとあるところを4ピッチで登るつもりです。

1ピッチ目(50m / IV+):私のリード。久々に履いたTC Proが岩の凹凸を的確に押さえてくれるのを頼もしく思いつつ、ロープを伸ばしました。ここは、出だしの凹角の中間にあるつるっとしたセクションの突破とピナクルテラスからカンテを登った後に右へ回り込む箇所のルートファインディングがポイントですが、今回、後者で思わぬ時間がかかりました。いつもなら(好ましいことではないものの)残置ピンを目で探しながら登るのでルートを見つけるのは容易ですが、この日はカムを決められる場所を探しながら登る意識になっているので、かえって方向性を見失いかけて時間がかかってしまいました。ともあれ、ルート全体の核心部である凹角を見上げる場所(通常の2ピッチ目終了点)まで到達し、フレンズ#4がぴったり決まる穴を使って支点を作り、セキネくんにコールしました。

2ピッチ目(25m / V):セキネくんのリード。右壁のクラックにカムを決め、途中の岩に空いた穴にもスリングを通しながら、あくまで残置ピンは無視して登っていき、核心部となる三角形の上の3mのクラックをレイバックで突破。後続の私はその核心部を、右壁のカチホールドと右足のスメアリング、左手のジャミングでずり上がってガバをとるムーブで解決しました。

後から4人組(女性ガイドが顧客3人を引率していた模様)が登ってきていたので、大テラスでは休憩をとらず、そのまま上半分のピッチも登り続けることにしました。

3ピッチ目(50m / IV):私のリード。正面の壁のバンドを左へ辿って小さい垂壁を乗り越すと大きなテラスに出て、その上の壁も立ってはいるもののホールド豊富。実に快適です。最後に小さいテラスに上がれば支点が用意されていますが、そこではカムが決められそうにないのであえてその少し手前右の凹角で岩の穴とクラックを使って支点を構築し、セキネくんを迎えました。

4ピッチ目(50m / III):最後はセキネくんのリード。傾斜も落ちて易しく、気持ち良く稜線に抜けられるピッチです。

最初から最後までランナーはカムや岩穴に通したスリングでとり、ピッチごとのビレイ点もカムで構築して登り続けることができた上に、4ピッチで上まで達することができて、実に気分爽快です。リハビリとしてはこれ以上ない楽しいクライミングができました。

終了点から山頂標識があるピークまでは、ほとんど標高差はないものの若干の岩稜歩きとなります。最初は山頂は割愛しようと思ったのですが、セキネくんが山屋の本能で山頂を踏みたいという意向を示したので、リュックサックを置いて山頂標識まで往復することにしました。西岳の上の道は、稜線の左右が切れ落ちており、ところどころ岩が浮いている箇所もあるだけに多少気を使いますが、開放感があって気持ちの良い縦走路です。

山頂標識にタッチしたらすぐリュックサックをデポした場所に戻るつもりでしたが、そのすぐ近くから中央稜の全景を見下ろすことができました。ちょうど我々の後から登っていたパーティーが大テラスでの休憩を終えて登高を再開したところで、その姿が点在しているおかげでルートのスケールの大きさがよくわかりました。

リュックサックを置いた場所に戻って軽く食事をとったら、股峠へ向かって下山です。途中の標識には「上級下山コース 転落事故多発」などと書かれていますが、しばらくはのどかな山道で、途中にはツツジも綺麗に咲いていました。

正面には東岳の姿も見えていて楽しい下り道でしたが、そこはやはり「上級下山コース」、途中からどんどん傾斜がきつくなっていって、中間部はほぼクライムダウンの連続となりました。さすがにアルパインクライマーが苦にするような道ではありませんが、一般のハイカーにはかなり厳しいだろうと思われます。

股峠に降りたち、そこから左に下ればすぐに車のあるところに戻れますが、まだ時間があるので、セキネくんがスポートルートに触ってみることになりました。

実は、この日の山行の計画をメッセンジャーですり合わせていたとき、セキネくんと私との間では次のような会話が交わされていました。

私「もし時間が余ったら、セキネくんは『フラットマウンテン』に挑戦してください!」
セ「メゴスが7トライだったみたいなので僕は7億トライくらいですね。」

「フラットマウンテン」(5.14d/15a)は、その名の通り平山ユージ氏が2003年に初登し、2010年に中嶋徹が第二登、2015年にアレックス・メゴスが第三登、2016年に安間佐千が第四登したルートで、昨年12月にその安間佐千が奥多摩の御前岩で「Maturity」(5.15a)を初登するまで日本最難とされていたものです。さすがに「日本最難」に手を出すのは早いと思ったらしいセキネくんがその代わりに選んだルートは、「日本一かぶった10a」と評される「悪魔のエチュード」(5.10a)でした。12クライマーであるセキネくんならこのグレードはOS必至と思われましたが、結果は……。

テン山の後、TO。この強烈な前傾壁は、ホールドやムーブを探りながら登るゆとりをなかなか与えてくれないようです。次回、がんばろう!