塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

天狗岳東壁

日程:2015/04/25-26

概要:ミドリ池入口から入山し、初日はしらびそ小屋泊。翌日、天狗岳東壁を登って東天狗岳に達し、黒百合ヒュッテを経て渋の湯へ下山。

山頂:東天狗岳 2640m

同行:チオちゃん

山行寸描

▲しらびそ小屋から見た天狗岳東壁(中央の岩塔がルネ・マグリットの《前兆》を連想させるが山頂は左端の穏やかなピーク)。上の画像をクリックすると、天狗岳東壁の登攀の概要が見られます。(2015/04/25撮影)
▲東壁の登り。登るほどに傾斜がきつくなってくる。(2015/04/26撮影)
▲登山道に出たところ。前方すぐそこに東天狗岳の山頂。(2015/04/26撮影)

この冬、八ヶ岳のアルパインに二度挑んで二度とも天候不良に泣いた(「赤岳」「南沢小滝」)チオちゃんをなんとか雪バリに連れて行きたいと思っていたらタイミング良くこの週末の都合が合い、検討の結果、ゴールデンウィーク山行の前哨戦として天狗岳東壁に行くことになりました。ここは北八ヶ岳と南八ヶ岳の境目にある天狗岳の東面で、あのセキネくんが3月にラッセル敗退した因縁の雪壁です。彼の情報によると適期は雪崩が落ちきる4月中旬とのことだったので「よし、セキネくんの敵討ちだ」(←本人には何も言っていません)と意気込んだのですが、このところの暖かさで雪が溶けてしまっているのではないかという不安も抱えながら、しらびそ小屋を目指しました。

2015/04/25

△14:00 ミドリ池入口 → △15:20 しらびそ小屋

新宿9時発のあずさに乗り、小淵沢から小海線で小海駅へ。チオちゃんとは小淵沢で合流しました。

賑やかなツバメの声に迎えられて小海駅に降り立ち、バスの時刻まで間があったので駅前広場の向こうにあった「桔梗家」さんの「元祖ソースかつ丼」をいただきました。甘辛く煮込んだようなカツの下にはあるかないかのキャベツ、付け合わせに野沢菜。うーん、この濃い甘辛さは客を選ぶかもしれません。

バスに乗ってミドリ池入口を目指す途上、遠くに天狗岳が見えました。ぱっと見、周囲の黒々とした壁とは対照的に東壁だけが雪をつけているようですが、仔細に見ると稜線直下で雪が切れている模様。やはり遅かったか?

ミドリ池入口から登山道を緩やかに登って、ミドリ池の畔に建つしらびそ小屋へ。この道は2009年に稲子岳南壁を登ったときにも歩いていますが、樹林の中の1時間余りの穏やかな歩きは本当に心が癒されます。途中からは残雪も出てきましたが、それにしても気温が高く、頼むから今夜は冷え込んでくれとも思いました。

懐かしのしらびそ小屋に到着したところでミドリ池の向こう側を見ると、目指す天狗岳東壁がはっきり見えています。このままこの眺めを前にしてビールを1杯……といきたいところですが、明日は道のないところを歩かなければならないので、荷物を部屋に置いてアプローチの下見に出掛けることにしました。

地元山岳会のGPSデータが載った地形図の写しをチオちゃんが持ってきてくれていて、それによると中山峠に向かう道を進んで標高2140mあたりで道が右に折れるところを左の樹林へ入ると良さそう。そこは稲子岳南壁の末端を右に見る位置でもあり、だいたいの当たりを付けたところで小屋へ引き返すことにしました。

にごり酒でミドリ池と東壁に乾杯。明日も天気に恵まれますように。

この日の客は、ジモティーらしい5人組、布袋寅泰似と上村愛子似のカップル、そして私たち。おちょこで屠蘇のような酒も振る舞われておいしく夕食をいただいた後は、談話室で翌朝の行動などを確認した後、早々と寝床に入りました。

2015/04/26

△04:30 しらびそ小屋 → △06:00-10 東壁取付 → △09:00-30 東天狗岳 → △10:40-11:00 黒百合ヒュッテ → △12:15 渋の湯

事前に電話で確認したところお弁当は作っていないとのことだったので、前夜テルモスに入れておいたお茶と持参したパン類で簡単な朝食を済ませ、4時半に出発しました。

この時刻でも空は明るくなってきていました。季節の移ろいの速さには驚くばかりです。

しばらくはヘッドランプを点けて歩きましたが、昨日確認した分岐点に着いたときにはすっかり明るくなっており、稲子岳を右手に見上げてから左の樹林の中に入ると、ところどころ踏み抜きはするもののおおむね雪は締まっていて歩きやすい状態でした。しばらくは密生した樹林の中を方向感覚だけを頼りに進みましたが、やがて沢筋らしきものが現れ、ついで頭上に枝越しに東壁を見上げることもできるようになって、樹木が疎らになってきたなと思ったら東壁の下に飛び出しました。

あらかじめ見ていた日本登山体系の概念図と目の前の光景がどうにも一致しませんが、遠くバスから見えていたラインは一目瞭然で、左寄りの最も広く浅いルンゼ状の雪面をひたすら登ることにしました。出だしは傾斜は緩く普通に二足歩行で登れる程度で、時折は背後の広闊な展望を楽しみながら登るゆとりもありました。

しかし、気温が上がると共に小さい落石がころころと転がってくるようになりました。どうやら稜線直下の脆い岩の部分がその出どころのようですが、小さいとは言っても風を切って飛んできた石が直撃したらただではすみません。落石の間隔が5分おきになったところでこのルートに見切りをつけ、先を行くチオちゃんに左手の尾根筋へエスケープするよう指示を出しました。そちらは疎らに灌木が生えた先に上部の岩場が待っており、ダガー・ポジションを使う急斜面の顕著なルンゼに入って、その奥の脆い草付からロープを出すことにしました

1ピッチ目は私のリード……と言ってもビレイなしで単にロープを引っ張っているだけですが、傾斜のきつい木登りピッチとなります。シャクナゲや灌木の枝を掴んでだましだまし身体を引き上げるこうした泥臭い登りは、けっこう好きかもしれません。

2ピッチ目はチオちゃんのリード。ほんの少しシャクナゲを漕げば明るい雪面になって歩きやすく、50m弱伸ばしたところからは稜線が指呼の間に見えるようになりました。

実質的な登攀はこれで終了です。一応ロープを伸ばした3ピッチ目はほとんど水平にハイマツの尾根を歩くだけで、最後はわずかにコンテにしたところで東天狗岳の南側の登山道に出ました。目の前には東天狗岳の山頂があって登山者の姿も見えており、フォローでやってきたチオちゃんとここで握手を交わしました。

最高の天気に恵まれた東天狗岳の山頂で、リュックサックを下ろしてほっこり。展望もすばらしく、北アルプスは乗鞍岳から穂高連峰を経て後立山までの全山が見えており、その右には頚城の山々、浅間山、ぐるっと回って奥秩父の甲武信ヶ岳や金峰山、そして南には黒々とした硫黄岳・赤岳・阿弥陀岳、その右に南アルプス、そして中央アルプス。隣の西天狗岳の山頂には数人の登山者の姿も見えています。

30分ほどものんびりしてから下山にかかりましたが、気になるのは、当初予定していたコースを登ったら最後はどうなっていたかということです。そこで、山頂直下でここと思われる場所を覗き込んでみたのですが……。

これは厳しい!浅いルンゼの中央を登ると門のような場所を経て最後は左右二手に雪が続いているのは見えていたのですが、左俣も右俣も稜線直下でぼろぼろの土壁に行く手を遮られていました。確保条件も絶悪で、突っ込んでいたらひどい目にあっていたに違いありません。ちょうど我々が山頂に着く直前にここから音を立てて大量の落石が発生していたことも考え合わせて、ルートを変更して本当に良かったと胸をなで下ろしました。

ともあれ、セキネくんのリベンジを果たし(←本人は何も知りません)、チオちゃんに待望の雪バリをプレゼントできて満足。後は、春うららの八ヶ岳の景観を楽しみながら下山するだけでした。