南沢小滝

日程:2015/03/07-08

概要:石尊稜をメインターゲットとして八ヶ岳へ入山。行きがけの駄賃に南沢小滝に立ち寄ってから行者小屋周辺に幕営。しかし登攀予定日の2日目は予想外の悪天で、このため下山の途中で再び南沢小滝に立ち寄ることに。

山頂:---

同行:よっこさん / チオちゃん / カンキさん

山行寸描

▲南沢小滝全景。かろうじて空いていた左端で登ることにした。(2015/03/07撮影)
▲やがて皆が引き上げていったので、右端の立ったルートをトップロープで。(2015/03/07撮影)

1月の岩根山荘でご一緒したカンキさんから「冬のバリエーションに連れて行ってほしい」とリクエストがあったので、成人の日の三連休に悪天候のために不本意な敗退をしていたチオちゃんと3人で八ヶ岳へ入ることにしました。さらに、飲み会のついで(?)によっこさんにも声を掛けてみたところ、これも二つ返事でOK。そんなわけで、レディー3人と連れ立って横岳西壁石尊稜を目指すことにしました。石尊稜は私がアルパインクライミングを始めた初期に登ったルートで、当時の技術では出だしのピッチで少々怖い思いをした記憶があります。その後の経験値の積重ねを経て現在の自分がこのルートにどういう印象を持つことになるか、というのが私自身にとってのこの山行での関心事でした。

2015/03/07

△10:35 美濃戸口 → △11:35-45 美濃戸 → △12:50-15:30 南沢小滝 → △16:55 行者小屋幕営地

新宿7時集合。天気予報は出発日である土曜日が悪く、登攀予定日の日曜日は曇りとなっています。これなら行ける!……と、このときは誰もが思っていました。

それにしても暑い。3月になればもはや春山だということを実感しました。それに今回はテント泊とあって各自が重荷を背負っており(私はアイスの用具もあり出発前の計量で乾燥重量23kgでした)、ついつい息が上がり気味。

南沢小滝に着いてみるとご覧の通り(左上の写真)の混み具合でしたが、それよりも驚いたのは昨年の同時期(右上の写真)と比べて氷のつき方がまったく異なること。氷瀑の形状は年によって違うとはもちろん知っていましたが、それにしてもこれほど違うものなのかと認識を新たにしました。

ともあれ滝の左端の短いラインが空いていたのでそこに私がトップロープを掛け、よっこさん、チオちゃん、カンキさんの順で登ってもらいました。

よっこさんはフリーが上手いだけにさすがの綺麗な登り方。チオちゃんは若干ヘタレ気味?カンキさんはガシガシとパワフルに登っていました。

途中で右端の高さのあるラインが空いたのでトップロープを掛け替えてこちらでも練習しましたが、高さも斜度もあるもののほとんど打込みなしの引っ掛けオンリーで登れる状態で、みな気分良くTOしました。

2時間半ほど遊んでから南沢小滝を後にして、この日の宿りである行者小屋の幕営地を目指しました。行者小屋が近づくにつれて前方に横岳から赤岳にかけての稜線と山肌が見えてきましたが、黒いガスに覆われていかにも不機嫌そう。本当にこれで明日は登れる天気になるのか?と一抹の不安を胸に抱きつつ行者小屋に着いて、リュックサックを雪の上に下ろしました。

テントの数はそれほど多くなく、我々は小屋から赤岳へ向かう道筋の山側の雪を掘り下げてテントを設営することにしました。ガテン系(?)のDNAを持つらしいカンキさんのパワーはここでも素晴らしく、いったんスコップを握ればみるみる除雪してくれて、あっという間にテント2張り分の地所が確保できました。

テントを設営し終えたら、後は宴会あるのみ。最初に皆が持ち寄ったつまみでビール、ワイン、ウイスキーと進み、さらに1月と同じくおいしいネギ鍋&豚しゃぶで満腹になりました。さあ、明日は頑張ろう!

2015/03/08

△07:25 行者小屋幕営地 → △08:15-11:20 南沢小滝 → △12:15-30 美濃戸 → △13:15 美濃戸口

……と気合を入れていても天気には勝てません。3時頃からさらさらと雪が降る音が聞こえ始め、起床時刻の4時半にテントの外に顔を出してみるとはっきりと雪模様になっていました。

明るくなる頃には降ったり止んだりの中途半端な天候となっていましたが、諦めきれない気持ちで山を見上げても、昨日の不機嫌さに輪をかけたような表情で見下ろしてくるだけ。チオちゃんにとってはまたしても冬バリデビューがお預けとなってしまいました。

仕方なくテントを撤収して下山開始。途中、阿弥陀岳北西稜への分岐ではジム仲間であるヒロセ氏のテントを訪ねました。実は彼にとってはこれが3度目の北西稜挑戦で、昨日もここで顔を合わせてお互いの健闘と幸運を祈りあっていたのですが、テントが空だったところからすると、この天候にもめげずに登りに行ったようでした(ヒロセ氏とそのパートナーが悪天にもかかわらず見事に北西稜から阿弥陀岳山頂に立ったことを、この日の夜にFacebookで知りました。おめでとう!)。

我々もこのまま無為に下山するわけにはいかないので、昨日に引き続いてこの日も南沢小滝に立ち寄ることにしました。小滝近くにはテントが数張りありましたが、いずれも大滝の方へ行っているようで小滝は貸切状態でした。

この日も短めのラインでトップロープを張り、スクリューの設置と回収の練習を行いました。スクリューの操作には慣れてきた感じがするものの、チオちゃんとカンキさんはパンプしてテンションをかけてしまいました。この斜度ならきちんと足に立てていればそうパンプすることはないはずですが、平爪2本歯のアイゼンではそれは難しい注文だったかもしれません。

それぞれ2本ずつ登って、最後に大賑わいの大滝を見物してから今度こそ下山の途につきました。このように南沢小滝でのアイスクライミングはそれなりに楽しかったものの、並々ならぬ気合をもってこの山行に臨んだよっこさんや冬期アルパインデビューを目指したチオちゃん・カンキさんにとっては、残念な結果となりました。私は今月はもう山に行けるタイミングがないのですが、せめてチオちゃんにはよっこさんの力を借りて冬バリデビューを果たしてほしいと願っています。カンキさんも、また機会を作ってご一緒しましょう!

先日の芦安上荒井沢の氷瀑(マシラ)に引き続いて、今回も防寒テムレスが活躍しました。

さすがに耐久性に不安があるので岩稜ルートをこれで登る気にはなれませんが、アイスクライミングなら十分OK。アプローチでも暖かく手を保護してくれて言うことなしです。2日目の南沢小滝で後からやってきたガイドパーティーの女性ガイドもこれを手にはめていて、ひとしきりテムレス談議に花を咲かせることになりました。

そういえば、映画『アナと雪の女王』の中で女王エルサが右手にはめていたのも防寒テムレスのように見えますが、気のせいでしょうか?また、劇中の名曲「ありのままで」の歌詞については以前、冬季バリエーションクライマーの琴線に触れる内容であるという分析をしましたが、今回の山行の初日に不機嫌そうな横岳の姿を眺めながら行者小屋へ向かう道すがら、自身の士気を鼓舞しようとこの曲を心の中で歌っているうちに「むしろ、こういうことではないか?」と気付くところがありました。

降り始めた雪は足跡消して 真っ白な世界に一人の私 風が心にささやくの このままじゃダメなんだと

これは、ホワイトアウトによるリングワンデリングの中で幻聴が聞こえてきていると見ることができそうです。

何も怖くない 風よ吹け 少しも寒くないわ

凍死寸前の錯乱の中では暑さを感じることもあると言います。訳詞者は八甲田山雪中行軍遭難を念頭に置いていたのかも……。