大洞川荒沢谷〜桂谷下降

日程:2006/11/18-19

概要:焚火をメインに雲取山北西面の大洞川荒沢谷を遡行。途中テント泊を交えて稜線に抜けてから大ダワ先の斜面〜桂谷を下降し、入渓点に戻る。

山頂:---

同行:ひろた氏 / オグ

山行寸描

▲4m滝。私はここで落ちました……。(2006/11/18撮影)
▲ベンガラの滝。ひろた氏は右カンテを気合で突破。巻きは左から。(2006/11/18撮影)
▲「通らず」こと井戸淵。夏なら喜んで泳ぐが、この季節では……。(2006/11/18撮影)
▲穏やかな流れには串刺しになったように重なった落葉が横倒しになり、晩秋の雰囲気を醸し出している。(2006/11/18撮影)

無雪期の締めくくりはやはり焚火遡行。ひろた氏から声を掛けていただき、ちょっと時期は遅いものの11月中旬の土日に昨年同様奥秩父北面へ向かうこととしました。メンバーはひろた氏、オグ、そして私。当初は「大血川流域のどこか」というアバウトな設定でフツーに寒い西武秩父駅で合流しましたが、せっかく男3人なのでもう少し歩き甲斐のある沢にしようと荒沢谷の本流を遡行することにしました。

2006/11/18

△09:55 大洞林道途中 → △10:40-55 荒沢橋 → △11:30 桂谷出合 → △11:50 アシ沢出合 → △12:05 ベンガラの滝 → △12:50-13:20 菅の平 → △14:25 オオカミ谷出合 → △15:10 幕営地

ひろた氏(の奥様)の車で大洞林道をどんどん進んでいると、対向車とのすれ違いになって場所をよけたときに、何となく先方の運転手がこちらに伝えたそうな顔をしていたのが気になりました。「まさか行き止まりとか?」「え、そうかなぁ」などと言っていたら本当に鷹ノ巣沢の手前で土砂崩れで車では通行不能。しばらくバックして車道が広くなったところで切り返してから地図を見ると、どうやら荒沢橋まで歩いて1時間くらいの位置らしく、時間にゆとりもあるのでこのまま路上に車をデポして歩くことになりました。

土砂崩れは50mほどで、後は落葉に覆われてはいるものの歩きやすい車道が続きました。荒沢橋で装備をつけてここから入渓しましたが、アシ沢までの間はひろた氏も私も昨年歩いているので勝手はわかっています。大洞川は周囲の木々がすっかり葉を落とした晩秋の装いですが、この区間では途中の5m斜滝がなかなか楽しいところで、しかも昨年目障りだった落下ワイヤーも片付けられていました。

ごろんと大きな丸石が特徴的な桂谷出合を過ぎ、さらにわずかでアシ沢出合を過ぎると、ここからは未知の領域。しばらくは難しいところもなく順調に進み、大きな倒木が右手にかかった4m滝にさしかかりました。ひろた氏もオグも滝の右水線を上手に上がっていき、私もその後に続きましたが、3mほど登ったところで倒木が邪魔でよいスタンスが得られず、いきおい右壁のホールドに右手を掛けてバランスをとる格好になりました。ところが体重を不用意にホールドにかけて身体を左に傾けた途端ホールドがとれて支えを失ってしまい、リュックサックの重みで身体が左に回転を始めました。その刹那は動揺しましたが、くるりと4分の3回転して下を向いた状態で落下しているときには、意外にも冷静に事態を分析している自分がいました(人間の緊急対応能力って、凄い!)。

  • 「自分はうつぶせの態勢で落ちている」(状況認識)
  • 「このままでは滝の斜面に顔から激突する」(結果予測)
  • 「手を出して顔面を保護しなくては」(対策立案)

脳の指令に従って落ちながら両手が前に出て、次の瞬間に衝撃、釜への沈没。釜は浅くすぐに立ち上がることができましたが、墜落のGで増幅されたリュックサックの重みが腰にもろにかかったようで激痛が背中から腰に走り、真っすぐ立つことができません。心配そうに見下ろしているひろた氏にそれでも「大丈夫」という合図を送って釜からあがり、しばらくじっとして痛みが引くのを待ちました。点検してみると外傷は最初に岩にぶつかったらしい右前腕の少々派手な擦過傷(衣服の下なのに)と左掌底の傷とも言えないような傷くらいですが、腰のダメージは小さくはない模様です。しかしやがて遡行を継続できる程度には回復したので、ひろた氏たちに先に行ってもらって自分は左からおとなしく巻き上がりました。

すぐに、この沢で最大のベンガラの滝8mにぶつかりました。岩が朱色なのでベンガラの滝というのだそうですが、そう言われればそう見えるような見えないような……ともあれオグと私は左から巻くことにし、ひろた氏は巨大CSの右手のカンテに取り付きました。ひろた氏にしてはずいぶん慎重にホールドを探っていましたが最後は例によって気合で見事に越えていき、これを見届けて私もオグの後を追って滝の手前から左を巻き上がってみると、オグがそこで行き詰まっていました。簡単な巻きかと思っていたのですが、右岸の岩から沢筋に降りるところは切り立っていて少々危険。オグはひろた氏に下から指示してもらって微妙なへつりから泥のルンゼを下降し、私はさっきのトラウマで岩が信用できなくなっているのでリュックサックをスリングで下ろして(……のつもりが手が滑ってひろた氏の上に落としてしまいました)からチムニー状を直下降しました。

ベンガラの滝の先はゴルジュとなりますが、さしたる難場もなく、やがて両岸が開けた菅の平と呼ばれる場所に着きました。特に右岸側の平坦な広がりは100人くらいが宴会を開けそうです。そういえば先ほどからピンクのテープが主として右岸の木にところどころ巻き付けられているのが目についていましたが、もしかするとここは釣り人の良いテントサイトになっているのかもしれません。とりあえずリュックサックを下ろして小休止し、手早く小さな焚火を熾しながら行動食を口に入れました。一応ここが今日の泊まり場のはずだったのですが、しかしまだ13時と早いので協議の結果もう少し進むことにしました。

本流が枝沢を分けて右に曲がったところに、顕著なゴルジュの「通らず」井戸淵が現れました。出だしの小滝を登ってみるとグリーンのきれいな釜があって、そのすぐ先には2mほどの滝。夏なら喜んで泳ぐところですが、この季節の水垢離は敬遠です。右岸の斜面を登ってその先を覗き込んでみると、深い淵の奥にさらに5mくらいの小滝が見えていて、滝自体は難しくはなさそうですが、我々は潔く左岸の泥の急斜面から巻き上がることにしました。しかしこの斜面も一筋縄ではいかず、ひろた氏は途中の岩にカムをかませながら登りきりましたが、オグは滑る斜面にスタンスが決まらず苦戦しています。「落ちる前に足を出すんだ!」と後ろから私の無責任なアドバイスを受けながら奮戦しているうちに本格的に滑り落ちてしまい、かろうじて倒木にひっかかって沢までのダイブを免れました。

本人も相当あせったようですが、見ているこちらもびっくり。それでもなんとか登りきったオグに続いて私も上がってみましたが、確かにこれは微妙です。それでもどうにか斜面の上に達すると下流からの踏み跡に合流しましたから、本当はゴルジュのもっと手前から右岸の斜面に上がればよかったようです。

井戸淵に並行して右岸の高いところを水平に歩き、高度を下げたところはオオカミ谷との出合。先ほどの奮戦で足がつったというオグに少し休んでもらってから、この二俣を左に進んで浅く小さなゴルジュを二つ抜けると、幕営にもってこいの平坦地が現れました。時刻も15時なので、もう腰を落ち着けてもいいでしょう。ひろた氏持参の3人テントを張り、何はともあれ薪集め。各自持参した酒・つまみ・食料を分け合い、鹿の声と沢のせせらぎ、そして薪のはぜる音をBGMに穏やかな夜を過ごしました。

2006/11/19

△07:40 幕営地 → △10:05-10 登山道 → △10:30-40 雲取山荘 → △13:20 桂谷右俣20m滝 → △15:30 荒沢出合 → △16:00 荒沢橋 → △16:40 大洞林道途中

一つのテントに3人が寝て、シュラフも冬用だったのでぽかぽかと気持ち良い眠りを貪ることができました。それでもかすかに外が明るくなってきた5時半頃に起床して焚火の跡を確認すると熾火が残っていて、あたりの枯葉をかぶせたらすぐに火が立ち上がりました。

のんびり朝食と勤行を済ませて遡行再開。易しい小滝を快適に越えて、5mほどの滝はシャワーになりそうなので左から巻き。ここでも立った壁でホールドが剥がれセミになりかかったりしましたが、後は明るい沢筋をどんどん詰めていきました。ちょっと天気が悪そうなのが気がかりですが、ここまで来れば迷いようもありません。

二俣で北雲沢を右に分け、大雲沢に入ってからの緑の苔がきれいな8m滝をひろた氏は直登し、私は小さく、オグは大きく左から巻きました。さらにホールド豊富な5m滝を越えてどんづまりの8m滝を右から小さく巻き、トイ状、階段状と小滝を過ぎると伏流になりました。

遡行図にしたがって枝沢を右に上がり、適当なところから尾根筋へ移りましたが、獣道を辿ってどんどん右に追いやられてしまい、ちょっと時間をくいました。たぶん、なるべく本流を最後まで詰めた方がより早く登山道に出られたでしょうが、それでも着実に高度を上げていくと、バラバラと音を立てて空から落ちてくるもの……雹です。なんとか登山道に達したときには綿雪まで舞い始めて、灰色の雲に覆われた稜線方面は冬の様相でした。それでも一応これで遡行終了、お疲れさまでした、と握手を交わしました。

下降はオオカミ谷も考えましたが、降り口を見つけられないおそれもあり、また沢の下降をオグが経験したことがないので、ガイドブックに書かれている「アシ沢と桂谷の中間尾根」を下ることにしてまずは雲取山荘を目指しました。

三条ダルミと雲取山荘をつなぐよく整備された登山道をわずかの歩きで雲取山荘に到着し、一休みしてから大ダワに向かってさらに登山道を進みました。あいにくこの辺りの2万5千分1地形図が手元にありませんでしたが、4万分の1の縮尺の地図で見ても目指す尾根は大ダワからすぐに登山道を離れて稜線通しに上がったところにあるらしいことはわかります。しかし我々は歩きの勢いで登山道を進み過ぎてしまい、尾根を乗り越して下降に入ったときには桂谷側に寄り過ぎていたようです。

脆く滑りやすい土の急斜面を、ひろた氏を先頭に左へ左へと軌道修正しながら下降しましたが、何しろ足場が悪くてはかどりません。そのうちひろた氏が「沢に下りた方が速いよ〜」とネを上げ「うーん、そうしよう」と私も同意。そうして下り着いた沢はどこだかさっぱりわからず、とにかく先ほどまでよりは歩きやすくなったことを感じながら下降を続けました。心配したオグも問題なく沢を下っており、これなら最初から勝手のわかっているアシ沢を下ればよかったと後悔していると、やがてひろた氏の30mロープではとても下れない大滝に行き当たりました。右岸の崖にかすかな踏み跡がトラバースしており、「これはロープを出してもいいところだよなぁ」と思いながら貧弱な笹につかまって土のバンドをこわごわ渡りきり、そちらに現れた別の沢を下降して見上げたときに、ようやくここが桂谷の二俣であることに気が付きました。先ほどの大滝は右俣の20m滝で、去年ひろた氏と私はこの滝を見上げてから左俣を遡行したのです。

30m6段滝を左岸から2回に分けて懸垂下降し、もう一度小滝の懸垂の後、昨年ひろた氏が奮戦した15m斜滝の上に出ました。ここは右岸をいったん上がって巻き下るために斜面をひろた氏が登り、上からロープを垂らしてオグを確保。後に続いた私もひろた氏を見上げて「ロープください」と言うと、ひろた氏に「なーに甘ったれたこと言ってるんですか!」と呆れられました。右岸の巻きの先に見覚えのあるトラロープがあり、そこからまたも懸垂下降で安定した場所まで下って、最後に6m滝を左岸から懸垂下降するとわずかで荒沢谷と出合い、これでようやく「残業」はなさそうだと安堵しました。

荒沢橋に出たときには小雨模様で、あたりはずいぶん暗くなっていましたが気分は明るく、林道の歩きやすさに感動しながら車のデポ地点まで歩きました。その後、大滝温泉で待望の風呂につかり、ひろた氏とあれやこれやの話をしましたが、ふと見れば2日間大奮闘だったオグは、湯船の中でうつらうつらと舟を漕いでいました。