片品川中ノ岐沢小淵沢〜尾瀬

日程:2006/09/02-03

概要:大清水から林道歩きの後に小淵沢に入渓。小淵沢田代から大江湿原を経て尾瀬沼畔の長蔵小屋泊。翌日、尾瀬沼北岸〜尾瀬ヶ原を抜けて鳩待峠へ。

山頂:---

同行:かっしい / アイコ

山行寸描

▲最初にロープを出した7m滝。上の画像をクリックすると、小淵沢の遡行の概要が見られます。(2006/09/02撮影)
▲苔のきれいな15m滝。冷たい水流の左端を簡単に登れる。(2006/09/02撮影)
▲尾瀬ヶ原の風景。こんなに静かで穏やかな尾瀬に会えるとは思っていなかった。(2006/09/03撮影)

時折クライミングジムで一緒に登っている元同僚のかっしいと彼女の親友のアイコと一緒に、沢登りに行くことになりました。ただし、沢登りが初めてで山歩きもあまりしたことがないアイコを連れて先日の釜ノ沢みたいなところに突っ込んでは気の毒なので、ここは思い切り「癒し渓」にしようと選んだのが尾瀬の小淵沢です。

かっしいと私の共通の知人のお通夜が金曜日の夜にあり、それに参列してから私はいったん帰宅して装備を調え、22時に桜新町のロイヤルホストで5年前の小川山以来のアイコと合流。後から到着したかっしいの車で環八から関越自動車道に入り、一路尾瀬を目指す……はずだったのですが、環八では工事渋滞につかまって全然進まず、そこを抜けてトンネルに入って調子に乗って飛ばしていたらいつの間にか板橋区に入っていて、といった具合に都内で右往左往。午前0時を回っても関越に乗れない状況で「これは、都内で敗退か?」と最悪のシナリオが頭をよぎりましたが、なんとか正規のルートに入ることができて、沼田ICから鎌田経由、戸倉の並木駐車場に午前4時頃に到着しました。

2006/09/02

△07:35 大清水 → △08:25-30 小渕沢出合 → △09:05-35 入渓点 → △13:45 登山道 → △13:50-14:25 小淵沢田代 → △15:00 大江湿原 → △15:25 長蔵小屋

わずかの仮眠の後にタクシーで大清水へ移動(約4千円)し、中ノ岐沢沿いの林道に入りました。この道は昨年北岐沢を遡行したときに歩いているので勝手がわかっていますが、よく整備されていて歩きやすい林道です。50分の歩きで小淵沢出合に到着し、小休止の後に道を左に折れて小淵沢沿いの道を高度を上げました。ちょっと上がったところの堰堤の上から入渓している記録も散見しますが、何しろ今回のテーマは「癒し渓」ですし、昨夜の睡眠不足もあるので早めに尾瀬の長蔵小屋に到着したいもの。よって小淵沢の下半分は見捨てて、入渓は林道が沢を渡る橋からにするというのが私の計画です。

引き続き広く歩きやすい林道を進むこと30分余りで小さな橋にさしかかり、ここで沢装備を着けて入渓しました。まだ気温は低いものの樹林の中にところどころ日が差し込んで明るい沢は、5分ほどで茶色のナメが目立つようになります。小さな釜が出てきたところで「暑ければ泳ぐのにちょうどいい沢だなぁ」と何の気なしに口に出したところ、かっしいが「困ったなぁ」といった表情をしながら、しかし何気にうれしそうに釜に入っていきました。

小さいナメ滝、そして段差を伴うナメの廊下を楽しく進んだ先のちょっと立った2m滝では先行したアイコがずるっと滑落しましたが、すかさずその股間に後ろからかっしいが足を入れてアイコの身体を支えました。女同士だからってそんなことしていいのか?と驚きながらもここは私が先に上がり、上からお助けスリングを出して2人を引き上げましたが、確かにちょっとコツがいるところではありました。さらにその先、樹林が開けて明るい黄色のナメの向こうに7m滝が出てきました。傾斜はそこそこあり、中央突破は難しそう。先に私が左の笹をつかみながら1段上がり、ややもろい階段状を登って上に抜けてから2人にロープを投げて続いてもらってしばらく進んだところで先行の釣り師2人組に追いついてしまいましたが、幸い気のいい人たちで迷惑がることもなく、その先の4mほどの滝のところで我々を抜かさせてくれました。

しばらく行ったところに、緑の苔がとても綺麗な明るい15m滝が出てきました。左端のラインがホールドも豊富そうと見てとって、ここも2人に待機してもらって取り付きましたが、上から浴びるシャワーがえらく冷たい!これは水の冷たさに耐えられなくなるかもしれないと思い、中段のテラスでリュックサックからヤッケを取り出し、下の2人にもヤッケ着用を指示。登攀的には難しいところはなく、快適に上まで抜けて灌木でビレイし、順次2人を引き上げました。そしてここから先が、この沢の実に楽しいところです。明るい沢筋に2段の斜滝や樋状の滝が連続し、さらに3m・4mの多段滝の上に20mナメ滝が登場しました。傾斜はさほどなく、左端を行けば簡単なのでしょうが、あえてど真ん中に挑戦。最初の1歩を上がるのが若干コツがいますが、後は丁寧にホールドを拾って行けば無理なく上に抜けられます。この滝の上で、昼食休憩としました。

この先にもナメが続き、プールがあり、かっしいは嬉々として泳ぎます。この沢は確かにナメ歩きが楽しい沢ですが、沢の幅は狭く若干倒木や流石が目立ち荒れた雰囲気もあって、巷間言われるほどナメが売り物という感じがしません。それよりも、楽しい小滝がナメのプロムナードに導かれて「展覧会の絵」風に適度な間隔で連なる沢と言った方が適切という気がしました。

壁のように立ちはだかる10m滝は、右から3分の2くらいまで登ったところから左上するバンドで水流を横切るとうまい具合に落ち口に抜けられます。慣れていれば何ということもありませんが、初心者にはちょっと高さがあるので肝試しにちょうどいいところ。もちろん、落ちても滝の手前の釜が深いので安全です。そしてここから樹林が再び覆いかぶさるようになり、その先に出てきたのが最後の滝となる12m滝です。これは美しい……だけではなく、あらかじめ見ていた遡行記録の写真と比べると今日は水量が少ないので、うまくすれば水流をかぶりながら直登できるかもしれません。一所懸命ラインを読んで、これはおやぢれんじゃあ隊のメンバーと一緒なら間違いなく突っ込むところだなと思いましたが、あいにく今日は「癒し渓」企画なのでハーケンを持ってきていません。万一のときの退却手段もお助け紐も見込めない状況で突っ込むにはこの滝はさすがにリスキーなので、渋々右の踏み跡から巻き上がりました。ちなみに、私が未練たらたらで滝を見上げている間、かっしいとアイコは勝手に滝の下で修行を始めていました。君たち、おかしいんじゃないの(笑)?

12m滝の上に出ると水量が減り、笹がかぶさるようになり、また傾斜も緩んではっきりと源流の雰囲気になってきました。しばらくは沢筋を忠実に詰めていきましたが、どこまでも行くと小淵沢田代から東へ離れて行ってしまうので、地形図を見ながら適当なところで北に向かわなければなりません。1カ所「ここかな?」と思える二俣を何となくやり過ごしてしまい、その先しばらく進んだところでガレ状の左俣に入ると急登しばらくで沢形は消え、本格的な笹薮漕ぎとなりました。とは言っても上越の沢に特有の密笹に比べればすかすかで、平泳ぎのように笹を漕ぎながら歩くこと10分で登山道に飛び出しました。そこは小淵沢田代から東に5分の位置でした。

ヘルメットだけ外して西に向かい、樹林帯の道をわずかに下ると急に目の前が開けてきれいな高層湿原=小淵沢田代が広がりました。こうした湿原はかっしいもアイコも始めてらしく、しきりに歓声を上げています。木道を進んで休憩スペースで荷を下ろし、沢装備を解いて靴を履き替えてから改めて眺めると晩夏の日差しは柔らかく、静まりかえった草原のところどころが黄色いのは秋の彩りが始まっているのかもしれません。

我々だけの心穏やかなひとときを過ごした後は、今宵の宿となる長蔵小屋までの下りになります。樹林の中の道も木道が多用されていて歩きやすく、やがて大江湿原に出ましたがやはり人の姿はほとんど見えません。小屋までの途中で紫の花を指差し「これがトリカブトだよ」と教えるとなぜかアイコが異様に反応し、トリカブトが出てくるたびに大喜びして「これは私の花ね」なんて言っています。どうやら、トリカブトの毒を盛りたい相手のリストがある模様……。

楽しい木道歩きの末に、尾瀬沼畔の長蔵小屋に到着しました。受付を済ませて部屋に落ち着くとちょうど風呂が使えるようになった時刻だったのでひと風呂浴びてさっぱりし、ビールで乾杯してから外へ散歩に出ました。

燧ヶ岳の山頂付近には雲がかかっていましたが、尾瀬沼周辺の湿原の湿生植物の柔らかい緑や尾瀬沼の対岸に日が沈んでいく様子は、夢のように美しいものでした。

2006/09/03

△07:00 長蔵小屋 → △07:55-08:10 沼尻休憩所 → △09:35-10:05 下田代 → △11:45-12:15 山の鼻 → △13:05 鳩待峠

10時間近くもぐっすり眠って、気分爽快な目覚め。大粒の納豆でおいしく朝食をいただいて、ゆっくりと出発しました。尾瀬沼の北岸をぐるっと回って沼尻に達し、そこから下田代十字路に下って尾瀬ヶ原を縦断、山ノ鼻から鳩待峠に出るというのが今日の行程です。歩きやすい木道を辿ってのんびり歩いていくと、1時間もたたないうちにナデッ窪への道を右に分ける分岐に到達しました。

そこで2人にクイズ。標識に書いてある「ナデックボ」の「ナデ」は雪崩のこと、「クボ」は(ナデッ窪のルンゼを見上げて)あのように窪んだ地形のことです。ではその下「燧ヶ岳」の右の2文字はなんと読むでしょう?で、これに対するかっしいの回答は「ソシナ?」。それは「粗品」でしょう!正解は「マナイタグラ(俎嵓)」です。

沼尻の休憩所で草餅とコーヒーをいただいてしばしまったりの後、燧ヶ岳の南裾を回り込むようにつけられた下り道で明るいブナ林に癒されて、下田代十字路ではかき氷で再びまったり。こんなにのんびりした山行は本当に久しぶりです。

いよいよ尾瀬ヶ原の縦断にかかります。もちろん尾瀬ヶ原を歩いたことはあるのですが、それは残雪期のことなので、いわゆる高層湿原の尾瀬の本当の姿に出会うのは私も初めてです。

実はこれまで、無雪期の尾瀬=観光客で激コミという先入観があって足が向かなかったのですが、この日の尾瀬ヶ原は静かで、本当にすてきな場所でした。前方にはたおやかな斜面を見せる至仏山、後ろにはごつごつした起伏が特徴的な燧ヶ岳、その間に挟まれた尾瀬ヶ原はすっきりと木道に貫かれ、ところどころでは拠水林が清らかな水の流れと日陰を用意しています。木道を歩く人の姿も疎らで、時折聞こえる鳥の声と、爽やかに渡る風の音が耳に優しく届きました。

下田代の真ん中でふっと北の方を見ると、草原がはるかかなたで丸くを弧を描きながら空との間を区切っているように見えて(実際には赤田代あたりから標高を下げているためなのですが)、その向こうの雲の方が低いためにこちらが雲上を散歩しているように思えたりします。この景色にはかっしいもアイコも感動した様子で、次はぜひ親を連れてきたい、などと殊勝なことを言っていました。また、かっしいは「尾瀬の山小屋で働きたい!」とも言っていましたが、時折すれ違う山小屋の従業員さんたちは背丈の2倍くらいに積み上げた荷を背負子で運んでいて、それを見たかっしいはさすがにちょっと腰が引けた様子です。

山ノ鼻で最後の大休止とし、上品な甘さとざらっとした食感がおいしい花豆ジェラートを食べてから、鳩待峠までの登り道にかかりました。登りとは言っても標高差はわずかで大半が木道や歩きやすい木の階段になっており、樹林の中をゆっくり一定のペースで歩いているうちに、明るく開けた鳩待峠に着いてしまいました。

今回の山行のメインは小淵沢で、かっしいもアイコも沢登りを存分に楽しんでくれたのですが、自分にとっては2日目の尾瀬ヶ原が好ましく、尾瀬に対する評価を改めました。ここは自分の大切な人と一緒に、時間を忘れて歩くのにふさわしい場所です。長蔵小屋の受付で聞いた話では9月も第2週になると宿泊者の数はめっきり少なくなるとのことなので、水芭蕉やニッコウキスゲのシーズンを避けさえすれば、十分に静かな山歩きを楽しめる魅力的な山域なのかもしれません。